第19話 クエストの準備⑥模擬戦終了

 ドギュウウウウウゥン!!

「わきゃあああああああああああっ―――――――!?」




 ラビー君とぬこにゃんの模擬戦は、間もなく終了した――。

 ぬこにゃんの『が○つ・猫式ねこしき』がラビー君に炸裂して……(某剣客マンガの斎藤さんの必殺技ぽかった)。

 もちろんラビー君に一切ダメージは発生していない。やはりパーティー内での『フレンドリーファイヤ』は起こらないようだ。……無事で良かった。

「いやぁ、ちっちぇのに大したもんだなぁ! 猫妖精がこんなに強いなんて知らなかったぜ!」

 クリムさんの鎧の最終的な微調整をしながら、ベアッグさんが感心したようにぬこにゃんを褒め称える。

 ラビー君も若干顔を引きつらせながらコクコクと頷く。

「す、すごかったです……。あ、あんなに強いとは思いませんでした。さ、最後に受けた突き攻撃は生きた心地がしませんでした!」

 ……そうだよね、ラビー君、数メートル吹き飛んでいたもんね。トラウマにならないといいな。

「派手に吹き飛んでったもんなぁ! それでもかすり傷一つないってんだから、すげえ技倆ぎりょうだ!」

 ふんすっ♪ と胸を張るぬこにゃん。

 ……容赦ようしゃ無いな、おまいはw


 とりあえず模擬戦を通してわかったことは……

 クリムさん――落ち着きさえすれば非常にクレバーで器用な戦い方ができる。俺の持っている閃光弾や麻痺トラップなどの使い方を教えて活用できれば、戦い方の幅を広げられるのではないだろうか。

 ラビー君――攻撃はへっぴり腰だけど、とにかく危機察知能力が高く、回避の能力はピカイチ。やっぱり近接戦闘よりも射撃武器による遠隔攻撃が天職だと思う。俺のボウガンを渡して訓練すれば、ウサ耳ヒットマン爆誕! 間違いなし。

 ぬこにゃん――可愛い我が相棒。動体視力に優れ、狩りに対する集中力が非常に高い。が、逆に防御となると、もう清々すがすがしいくらい全力で俺の後ろに隠れる……だって猫だものw

 当たり前だけど、まだちゃんとした連携などできるはずもない。お互いのことを少しづつ理解して、パーティとしての動きを見つけていくべきだろう。


 気がつけば結構いい時間になっていた。陽がだいぶ傾きはじめ、町並みを淡いオレンジ色に照らしている。

 クリムさんの鎧の仕立ても終わり、「冷やかしでもいいからまた来い」と言うべアッグさんに見送られ、俺達は武具店を後にする。

 夕餉ゆうげの支度をする人達の姿がそこかしこで見られた。

 クリムさんは自分用に調整された俺の鎧を着てご機嫌そうだ。しっぽが左右に揺れている。模擬戦で俺に攻撃を当てて青い顔をしていた時はどうしようかと思ったけど、元気になって良かった。

 道すがら、オレンジらしき果物の果汁を絞ったジュースを、半分に割ったヤシの実っぽいコップに入れて売っている露天を見つけた。一杯で銅貨二枚と安かったし、何より喉がすごい乾いていたのでみんなに買って配ることにした。

「いらっしゃい!」

 露天の犬亜人のおじさんが威勢よく声をかけてくる。

「すいません、ジュースを四人分ください」

「はいよ、毎度ありっ! 今日はそろそろ店じまいするところだったから丁度いいや。残り分全部サービスで入れちゃうよ!」

 そう言って、おじさんはコップに入るだけ目一杯にいでくれる。

「ありがとうございます!」

 お礼を言いつつお金を払う……何気にこれが異世界で初めての買い物だった!

 俺はコップになみなみと注がれた果肉たっぷりのジュースをみんなに渡していく。

 ラビー君は恐縮してたけど、ぬこにゃんが吹き飛ばしたお詫びも含めて、よろしくということで渡した。

 クリムさんもしっぽブンブンで、「ありがとうございます!」と満面の笑顔で受け取る。

 みんなに行き渡ったところで俺はこぼさないように注意しながらコップを軽く上げる。

「初めてのパーティーに乾杯っ!」

「乾杯っ!」

 みんなが唱和して一斉にゴクゴクと飲み始める。

 …………。

 よっぽど喉が渇いていたのか、みな思わず無言になるw

 爽やかな酸味と甘味が、運動した後の身体にみ渡って自然と笑顔がこぼれる。

「ぷはぁっ、美味しいねーっ!」

 ぬこにゃんがヒゲに果肉の粒をつけながら、俺を見上げて笑う。

「うん、美味しいねー」

 なんだろう、仕事帰りのお父さんがビールを飲むのってこんな感じだろうか? 俺は笑いをこらえながらぬこにゃんのヒゲについた果肉を取ってやる。

 クリムさんもラビー君も、美味しい、生き返りますぅ、と言いながら喜んで飲んでいる。

 …………。

 ……なんかいいな。

 みんなで買食いしながらワイワイと夕暮れ時の道を家に帰る、この風景。

 なんか部活の帰りみたいだ。

 ……懐かしくて、……あったかくて切ない気分。

 少し前までは何とも思わなかった、ありふれた風景。

 ……当たり前だと思っていた風景。


 それがこんなにも幸せなことだったなんて、ちっとも知らなかった…………。



 くーきゅるるるぅぅ。


 ……何やら可愛い音がした。

「にゃっ!? お腹がお魚食べたいって鳴いてるっ!」

 ぬこにゃんがお腹を両手で押さえながらそう言った。

 …………。

 俺のアンニュイでノスタルジックな思考は吹き飛んでいた……うん、もう木っ端微塵だったw

 確かにお腹は空いていた。むしろ腹ペコだった。

 みなで顔を見合わせると、クスリと笑う。

 思いは同じだったのだろう、夕暮れの道を新米パーティーは足早に帰り始めた。

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