第18話 クエストの準備⑤模擬戦後半
俺は改めてクリムさんへ体を向けて武器を構える。
しかし、クリムさんは剣を握る自分の手を見たまま動かない。
……? 何か様子が変だ。クリムさんの顔が青い気がする。
「クリムさん?」
びくりと肩を震わせると、クリムさんはどこか張り詰めたように声を上げる。
「――っ! ユーキさん! あ、あの! 斬りつけた所は大丈夫ですか!? 怪我してませんか!?」
「え? ええ、大丈夫ですよ!?」
「そう、ですか……。良かった」
なにやら大げさに心配されたけど、クリムさんのほうがよっぽど心配だ。
顔色が悪い……やっぱり少し様子がおかしい。
「クリムさんのほうこそ大丈夫ですか? 顔が青いですよ?」
「いえ、何でもありません。ちょっと昔の失敗を思い出しただけで……。ユーキさんに怪我が無くてよかったです」
そう言ってクリムさんはホッと息をつくと、力なく微笑んだ。
何だろう昔の失敗って? クリムさんの様子から考えると、思い出したくないことを思い出してしまったってことだろうか? ……何かトラウマ的なことかもしれない。
「本当に大丈夫ですか? ……もう模擬戦はやめにしましょうか? もともと鎧の具合を確かめるためでしたし……」
「だ、大丈夫です、続けて下さい! ここでちゃんと出来ないようならハンターなんて
クリムさんは必死に頭を下げる。
うーん、どうしようかなと
「……あー、そのな、クリムちゃんは以前、クエスト中に自分の剣で仲間に怪我を負わせてしまったんだよ。大事には至らなかったんだが、クエストは失敗になって……責任を感じてな」
「そうだったんですか……」
急にクリムさんの様子がおかしくなったのは、そういう訳だったのか。俺に攻撃を当てたのがキッカケで思い出してしまったのだろう。
クリムさんはなんとか微笑みを浮かべて何でもないという顔をしようとしていたが、うまくいってはいなかった。少し悲しそうな、困ったような泣き笑いの顔。
ラビー君もぬこにゃんも少し心配そうにこちらを見ている。
味方への攻撃――いわゆる『フレンドリーファイア』というやつだ。駆け出しのハンター同士のパーティーだと、お互いの腕が未熟なために上手く連携をとることができない。だから、こういった事故が起こることが多々ある。
本来ならこれは大問題だろう。下手をすれば味方の攻撃で命を落とすという最悪の事態を招くのだから……。
しかし……うちのパーティーに限って、それはない。
『ハンタークエスト』では味方の攻撃でダメージを受けないからだ。さっきクリムさんの攻撃を受けて実際に確認することができた。まあ、ダメージを受けないだけで、攻撃を受けたモーションは出るけど……。そのモーションさえ、スキルで無くす事ができる。
だから……クリムさんは大丈夫。仲間に怪我を負わせる心配はなにのだ。
俺は緊張をほぐすように、なるべく軽い調子で声をかけた。
「クリムさん、大丈夫です。いっぱい失敗しましょう」
クリムさんは意味がわからないみたいでキョトンという顔になる。
俺はクリムさん、ラビー君、ぬこにゃんを順に見回して微笑む。
「みんなリラックスしてやろう。これは練習だから、いっぱい失敗していいんだよ? ここでいっぱい失敗して、本番でなるべく失敗しないようにしましょう」
クリムさんとラビー君はまるで目からウロコが落ちたという表情になる。そして、「はいっ!」と元気よく返事をした。
それから気を取り直して、俺達は模擬戦を開始した。さすがにいきなりガチ戦闘は無理だと思ったので、ゲームのチュートリアル風に俺の攻撃を見せたりしながら、クリムさんと交互に攻撃する。
しばらく、攻撃と防御を交互に繰り返して様子を見る。最初からうまくいくわけないのでどんどん失敗してやりましょう、と声をかけるのを忘れない。
まず俺は
そして、同じように俺の攻撃が当たり、思いっきり吹き飛ばされたにもかかわらず傷一つつかなかったクリムさんは、自分の身体を見下ろして呆然としている。攻撃が当たった衝撃は確かにあったのに、ダメージは一切受けていないのだ。……不思議だよね。でも深くツッコまないでね、ゲームの仕様なので。
お互いの安全性を確認したお陰でクリムさんの表情もだんだん晴れてきた。とゆーか、クリムさんの俺への
隣ではぬこにゃんとラビー君も軽く打ち合っている……いや、ラビー君がぬこにゃんの攻撃にタジタジになっている。
でも、ぬこにゃんの攻撃を素早くかわしていくラビー君の身のこなしは大したものだ。ただ、避けることに集中していて攻撃が
「にゃ、にゃ、にゃっ!」
「わ、わ、わっ!?」
案の定ヒートアップしてくるぬこにゃんの連続攻撃を必死になって回避するラビー君。
「にゃ、にゃ、にゃっ、にゃーっっ!!」
「わ、わ、わっ、わーっっ!?」
まるで演舞のようw
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