第15話 クエストの準備②装備品
今、俺が装備した鎧は、ある有名な服飾メーカーとのコラボ企画で配信されたものだ。上はパーカー、下はジーパンという出で立ちの鎧……というか完全に洋服だ。このデザインの洋服が実際の店舗で販売されていたのだが、残念ながら俺は売り切れで買えなかった。アウトドア系のなかなか格好いいデザインなのですぐに完売してしまったのだ。図らずも、本物の鎧として着ることができるとは思いもしなかったけど……。
この鎧以外にもコラボ企画の面白い武器や鎧が配信されていて、例えばマンガのキャラが使っている武器や着ている服なんかもある。完全に色物のネタ装備から結構
それはさておき表情を改め、クリムさんとラビー君を静かに見つめる。二人が落ち着くのを待って、俺は口を開く。
「実は俺は特殊なスキルを持っているんです」
「……すきる?」
クリムさんが小首を傾げる。
「はい、スキルです。犬亜人さんなら『追跡』、兎亜人さんなら『聞き耳』といったスキルを持っていますよね。俺も少し特殊なスキルを持っているんです。一瞬で装備を装着できるのはそのスキルのおかげなんです」
クリムさんとラビー君は顔を見合わせている。どうもスキルという概念がピンとこないみたいだ。
……そうか、ゲームのうように○○スキルを持っているという感覚はないのか。
「えーと、まあ、特技みたいなものです。他の人には内緒にして下さいね?」
「特技ですか……、まるで魔法のようです!」
クリムさんが瞳をキラキラさせながら俺が渡した鎧を見ている。
「よかったら着てみて下さい。俺のお
「本当ですか!? ありがとうございます! 大切にしますっ!」
クリムさんは鎧を宝物のように抱きしめてしっぽをブンブン振っている。そんなに喜んでもらえるとは思わなかった。
早速、嬉しそうに装備し始めるクリムさん。
「お姉ちゃんだけズルい! メルもー!」
さっきまでぬこにゃんと一緒に物置を探検していたメルちゃんが声を上げる――明らかにサイズの合っていない女物の
てゆーか、何その胸鎧!? 超でかい! 特大カップサイズのブラジャーのような形の鉄鎧、と言えば分かりやすいだろうか。なんとゆーか、防御力よりもスゲー攻撃力が備わっている気がするよ! ミサイルを格納しているんですか!?
「メル! お姉ちゃんの鎧なんか引っ張り出してきて何してるの!?」
……お姉ちゃんの鎧でした!
マジか!? お姉ちゃんは爆乳さんですか!?
「メルも鎧着るー!」
「メルはまだ小さいから着られないでしょう。もう少し大きくなったらね」
あの胸鎧を着れる人はそうそういないと思うが……メルちゃんの未来の成長を切に願う。
クリムさんはなんとかメルちゃんを
だが、予想通り少しサイズが合わないみたいだ。ステータス表示を見ると、一部が未装備状態になっている。俺がその状態を見て微妙な顔をしていると、必死な様子でクリムさんが報告してくる。
「ちょっと大きいみたいですが……着れないことはないです! 大丈夫です!!」
いやいやいや、大丈夫じゃないでしょ。クリムさんはそのまま行くつもりらしい。
「ん~、その状態じゃダメですよ?」
「え、でも……」
「防具は命に関わることなので、しっかりしたものを装備しなければいけません」
俺の言葉にあからさまにしょんぼりするクリムさん。しっぽも一緒にうなだれている。
「クリムさん、この村に腕の良い武具職人はいませんか? その鎧を調整してクリムさんが着れるようにしてくれる人は?」
クリムさんはハッと顔を上げると、力強く頷く。
「います! ベアッグおじさんならきっと出来ます! すぐ近くで武具屋さんをしている村一番の職人さんなんです!」
「じゃあ、そのベアッグさんに相談してみましょう。……っとその前に、ラビー君にもこの鎧を渡した方がいいかな」
「え!? あ、あの、えと、ボクはだ、大丈夫ですっ!」
ラビー君は真っ赤になって両手を振りながら、慌てたように叫ぶ。
「そ、それにこの服は両親からの
「そっか、うん。使い慣れたものがいいもんね」
もちろん俺も無理強いするつもりはない。防御力に不安はあるけれど、狼退治クエストなら問題ないだろうし。
あと本当は、性能のいい武器も渡せるんだけど、やめておく。最初から強力な武器を持っていると腕前が上がらないからだ。武器の性能に頼ってゴリ押しするハンターは必ず中盤以降で
命の安全を確保しつつ、戦い方を学ぶというのがベストだろう。もちろん、いざという時は俺がフォローするつもりだけど。
「じゃあ、早速ベアッグさんのところに行きましょう!」
クリムさんが待ちきれなくて鎧を胸に抱えながら言う。
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