第14話 クエストの準備

 早速、換金したお金で備品を買おうとしたら、クリムさんに止められた。大概のものはクリムさんの家にあるので買う必要はないそうだ。異世界で初めての買い物をしてみたかったけど、クリムさんに、そのお金は大事にとっておいて下さいと言われて、ハッとした。そうだよな、浮かれて無駄遣いなんてしてはいけないよな。俺は住所不定無職・無一文からやっと住所不定無職(試用期間中)にレベルアップしただけなんだから。自分で言っていてなんか悲しくなってくるわw 倹約、ちょー大事!

「ありがとう、倹約は大事だよね。きっとクリムさんは倹約上手のいい奥さんになるだろうなあ」

「……っ! そ、そんなことはにゃいです!」

 俺の何気ない感謝の言葉に顔を真っ赤にして俯くクリムさん。滑舌かつぜつが明らかにおかしい。ぬこにゃんが不思議そうにのぞき込んでいる。


 クリムさんが落ち着くのを待って、俺達はラビー君をともなってクリムさんの家に戻ることにした。

 そして、お婆ちゃんにギルドでの経緯いきさつを報告する。

 クリムさんはお婆ちゃんの前に正座すると真剣な声音で切り出した。

「お婆ちゃん、私、ユーキさん達と一緒にもう一度ハンター試験を受けようと思うの」

 俺達が少し緊張して見守る中、クリムさんがそう言うと、お婆ちゃんは特に驚くこともなく静かに頷く。

「……そうかい、わかったよ」

 クリムさんがハンター試験に再チャレンジすることに、お婆ちゃんはあっけないくらい簡単に了承した。思わずホッとする。

「ただし、今度は途中で投げ出さないこと。後悔だけはしないようにちゃあんと頑張るんだよぉ?」

「うん! ありがとう、お婆ちゃん!」

「うんうん。……それで、後ろの可愛い子は誰だい?」

 お婆ちゃんは後ろで緊張した様子のラビー君を見て言う。

「あ、こちらはラビー君。ハンター試験を一緒に受けるの。彼の出身のウッサー村に出る狼を討伐するのが今回のクエストなの。それでラビー君も家に泊まってもらってもいい?」

「そういうことかい、もちろん構わないよ」

「あ、あの、ラビーといいます。よ、よろしくお願いします!」

「はい、こちらこそよろしくねぇ」

 お婆ちゃんはにっこり笑って挨拶する。俺に続いてラビー君も滞在を快諾された。お婆ちゃんの懐の深さに感謝するばかりだ。


 報告を済ませた俺達は、早速クエストの準備を始めた。代々ハンターの家系だというだけあって、クリムさんの家の物置には様々なハンター用品がしまってあった。

 ハンター用背負い袋バックパックやポーチ、ランタンに油、携帯用保存食に水、包帯や回復薬などの持ち物の用意。

 そして武器防具などの装備品を準備する。クリムさんの装備は、武器はショートソードと小型の盾バックラー。防具は軽装の革鎧らしい。物置から引っ張り出した革鎧を試着し始めるが、しばらくして……あれ? あれ? おかしいな? と言って着るのに四苦八苦しているみたいだ。

「あの、手伝いましょうか?」

「すいません、お願いできますか? 後ろの留め具が留められなくて」

 俺が声を掛けるとクリムさんは髪を前に流して無防備にうなじと背中をこちらに向ける。

 おおう! 女の子の首筋から肩にかけての後ろ姿とか! 凄い色っぽいんですけど!

 俺はドキドキしながらまぶしいうなじから視線をそらし、革鎧の留め具の方に意識を集中する。

「去年はすんなり着れたはずなのに。おかしいなあ、こんなにきつかったかなぁ?」

 確かに胴回り付近の留め具はすんなり留められるが、胸周り付近の留め具がきついみたいだ。

 多分、胸周りが成長してきつくなったんじゃないかな……生命の神秘だね!

「きついようだったら留め具の所だけ調整してもらったほうがいいかもしれませんね」

 鎧を着るのを手伝うのは俺的に大歓迎だけど、むしろご褒美だけど! クリムさんの胸に何かあってはいけないので、俺はそう助言する。

 ……ん? 待てよ? 留め具の調整か……ひょっとして俺の余ってる装備を俺以外でも使えるようにできるかもしれない。

『ハンタークエスト』の鎧はオーダーメイドみたいなもので、俺専用の鎧だ。ゲームステータス上では他人に渡すことはできない。でも、鎧を装備した状態でゲーム視点を解除すれば、持ち物として鎧を他人に渡すことができるはずだ。だってかぶとを脱いだりできたから。それを留め具の調整や鎧のリサイズでクリムさん達に装備できるようにすればいいんじゃないか? 腕の良い職人さんに頼めばきっと可能だろう。

 防御力はダイレクトに命に関わる問題だから、ダメ元でやってみるべきだ。

「クリムさん、ちょっと俺の鎧を着てみてもらえます?」

「え? あ、はい!」

 俺は今着ているレザーアーマーの頭、腕、胸、腰、足の五箇所から構成される鎧を順に外していく。

「あ、わ! わわ!? わわわ!?」

 クリムさんが素っ頓狂な声を上げる。ラビー君も隣で目を白黒させている。

「あ……!」

 俺は今、鎧の下に着る上下のインナーのみの姿だった。全く頓着とんちゃくしていなかったけど、よく考えたら女の子の前で下着姿になっているようなものなのかな? やだ、どんな羞恥しゅうちプレイ!?

「見苦しかったですよね、すいません!」

「い、いえ! そんなことないです!!」

 クリムさんは顔を真っ赤にしながら首をブンブン横に振る。何故かラビー君まで一緒になって首を振っている。

 俺はすぐさまステータス画面を開き、お気に入り登録の中からもう一式の鎧を選択して装着する。

 ガシャンという効果音とともに俺は『ハンタークエスト』の序盤のクエストで着ていた洋服型のデザインの鎧姿に換装される。

「「え? ええっ!?」」

 一瞬で新たな鎧姿になった俺を見てクリムさんとラビー君が驚きの声を上げる。

 ……あ、そっか、俺のスキルのこと知らないんだった! やっべ! ……でも、まあいいいか! どのみち、いつかは打ち明けようと思っていたんだ。命を預ける仲間に内緒にしておくのはいい事ではない。ただ、他の人には内緒にしてもらおう。

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