第12話 駆け出し

 俺達はラビー君と改めて挨拶を交わして握手をする。

 色白で小さくて可愛い手だった。

 これから臨時とはいえパーティーとして、お互い助け合う仲間になるのだ。少しでも早く打ち解けたほうがいいだろう。それで、仲良くなってウサミミを触らせてもらうんだ。てゆーか、モフリたい!

 うむ、なんか俄然やる気が出てきた!

 俺がウサミミに注目しているとラビー君が困ったように恥ずかしそうにモジモジする。

「あ、あの、ボクの耳……おかしいですか?」

「いや! 真っ白で綺麗な耳だなーと思って! ごめん、不躾ぶしつけだったね」

「……い、いえ、ありがとうございます」

 ラビー君が赤くなってうつむく。

 なんかすっげー保護欲をそそられるんだが! ……一応言っておくが、BLとかそういうんじゃないんだからねっ!

 チクリと突然、左ももに痛みが走る!

「痛てっ!」

 振り向くと、ぬこにゃんが俺の左ももに爪を立てている。ちょっと不機嫌そうだ。

「こりゃ~、ぬこにゃん」

 両手でぬこにゃんの顔を挟み込んで、目を覗きこむ。

「爪を立てたら痛いだろ~、何してるの~」

 掴んだ両手の親指でぬこにゃんのヒゲをピンピンとはじくと、ピクピクと目をすがめつつ、にゃ~と不満そうに鳴く。

 ネットで見たのだけど、猫のヒゲはセンサーのような役割を持っていて、猫にとって重要な器官らしい。ヒゲを切られたりすると、中にはストレスで死んでしまう猫もいるそうだ。だからヒゲに悪戯いたずらされると、とっても嫌がる。

 やがてぬこにゃんは耐えられなくなって、ウ~ザ~い~という感じで俺の手をけようする。

「今度やったら倍速ヒゲピンの刑だからな~」

 そう言ってぬこにゃんを開放してやる。

 気がつくと皆が微笑ほほえましそうに、俺とぬこにゃんのやり取りを見ていた。

 俺はちょっと恥ずかしくなって、誤魔化ごまかすように立ち上がった。

「あ、えーと……すいません。一階の受付でクエストの受注手続きをするんですよね。さあ、行きましょう!」

 俺達が部屋を出ると、ちょうど奥の扉から少し小柄の虎亜人とシェパード型の犬亜人が出てきた。ティーガとグスタフだ。

「どいつもこいつも腰抜けばかりめ! 上級ハンターが聞いてあきれるぜ!」

「飛竜が相手じゃあ仕方ねえって、ティーガ」

 憤懣ふんまんやるかたないといった感じのティーガをグスタフがなだめている。

「魔獣は放っておくとどんどん大きくなっていく! 悠長ゆうちょうなことは言っていられない! それをフォーネ達が帰ってくるまで様子を見ようなどと……!」

 ティーガは俺達に気づくとチッと舌打ちする。

 怒気をあらわにしながら俺達の真横までくると一瞥いちべつをくれる。

「引きこもりばかりの人間族に、臆病者で有名な兎亜人、おまけに人見知りの猫妖精まで……冗談みたいなパーティーだな」

 ――ラビー君の肩がかすかに震える。

「こんな連中がハンターなんてできるのか?」

「ティーガ君」

 ブルータさんが静かにたしなめるように声を掛けると、ティーガは苦虫を噛み潰したような表情になる。

「なあ、ブルータさん。飛竜討伐に手を貸してくれないか? 『猛犬』の異名を持つあなたがいれば百人力なんだが」

「私はもう現役を引退した身だ。以前のようには動けないよ。それに私には新人ハンターを育てるっていう大事な仕事があるからね」

「……そうか、残念だ」

 どうやらティーガもブルータさんには一目置いているみたいだ。一礼するとこちらには目もくれず去っていく。とゆーかブルータさん、『猛犬』て! 怖いよ!

「あんまりブルータさんの手をわずらわせるんじゃねーぞ! 駆け出しルーキー

 グスタフが捨て台詞を残していく。

 ラビー君は少しうつむき、クリムさんは若干強張こわばった表情、ブルータさんは困ったような顔をしている。

 うーん、冒険を始める前から暗い雰囲気だ。

 ……なんか違う。違うだろ~。

 俺にとって初めてのクエストはどんなゲームでもドキドキワクワクしながらやるものだ。説明書を読むのをもどかしく思いながら、どんなことができるのかを色々試しながらプレイする。まさに至福の時間だ。もちろん初めてだから沢山失敗する。でも今度はこうしようとかああしようとか、試行錯誤しこうさくごしてどんどん上手くなっていく。それがめちゃくちゃ楽しい。

『ハンタークエスト』だってそうだ。最初は初期の貧弱装備でザコ敵の狼とドキドキしながら戦うんだ。もちろん飛竜となんてまともに戦うことなんてできない。一撃で瀕死もののダメージを食らうだろう。でも、やり続けることで少しづつ少しづつ強くなる。武器や防具の強化、アイテムのやりくり、テクニックの向上、モンスターの行動パターンの研究等、あらゆる要素を通して強くなる。やり方次第では飛竜だって5分以内で狩れるようになるんだ。誰もが最初は駆け出しのへっぽこハンターだったのだ。

「へっぽこ上等」

 俺の意味不明の発言に、みんな『?』という顔だ。

「俺達は今日生まれたばかりの駆け出しハンターだよね。いや、まだハンターにすらなっていないのか。駆け出しの俺達がやるべきことは、今、目の前にあるクエストを全力でやり遂げることだよ。まだ飛竜なんて倒せないけれど、ウッサー村の人達を狼から助けることはできる」

 俺はみんなの顔を見回す。

「それにどんな腕利きハンターだって最初は駆け出しだったんだ。ブルータさんだってそうだったでしょう?」

 ブルータさんはあごに手を当て、少し考えて頷く。

「ああ、その通りだ。ここだけの話、初めて魔獣と会った時はちびりそうになったもんさ」

 そう言ってなつかしそうに笑う。

 クリムさんとラビー君も思わずつられて笑ってしまう。

 良かった、少し緊張が解けたみたいだ。

「さあ、俺達の記念すべき初クエストを始めよう!」

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