第11話 初心者講習

 初心者講習は二階の会議室の一つで行われるそうだ。

 俺は二階へ向かいながらクリムさんに小声で話しかける。

「あの、お婆ちゃんに相談しないでハンターになるなんて勝手に決めて大丈夫なんですか?」

「あ、はい。大丈夫です! うちは代々、ハンターなんです。自分達で材料を採ってきて、自分達で調合してお店で売る。だからうちの家系はみんなハンターなんですよ? お婆ちゃんも元ハンターなんですから」

「そうだったんですか! なるほど、安心しました」

「ただ、私……どんくさくって。前回は大失敗してハンターになることをあきらめてしまったんです。ミソッカスなんですよ」

 クリムさんは苦笑いしながらそう言うと、ぺろっと舌を出す。おどけたように言っているけど、俺はクリムさんの瞳が一瞬悲しそうにかげった気がした。

 俺達は階段を上り、図書室の先の第三会議室(講義室)というプレートがつけられた扉をくぐる。

 部屋は学校の教室の半分ぐらいの大きさで、教壇と、飾り気のない長机と椅子が数列並んでいる。すでにもう一人の受講者が部屋の端の方に座っていて、俺達が入ってくると少し緊張したように身動みじろぎした。くたびれた感じの旅人風の服にフードをかぶった小柄な人物で、頭のフードには穴が開けてあり白いウサ耳が出ている! うさぎ亜人さんだ! 是非お友達になりたい!

「失礼します」

 そう挨拶して俺とクリムさんは長机に並んで座る。ぬこにゃんはもちろん俺の膝の上だ。俺達が座ると同時に扉が開きもう一人入室してくる。昨日、村の入口で会ったブルドック系犬亜人のブルータさんだ。

「やあ、お待たせしたね。今日の講師役のブルータです。よろしく」

 ブルータさんの姿を見てぬこにゃんと兎亜人さんがビクリと反応する。膝の上のぬこにゃんが警戒態勢になっている。まあブルータさんの顔が怖いので仕方ない。安心させるように喉のあたりをコショコショと撫でると少し緊張が解ける。

「じゃあ、まずはそれぞれ自己紹介をしてもらおうかな。講習の後はパーティーを組んでもらって、初級クエストをこなしてもらうつもりなので、名前の他に特技や使用している武器等を教えて欲しい。パーティーにおいてお互いの得意、不得意を把握して連携をとることはとても重要だからね。ユーキ君だったかな、君からお願いします」

 なにー!? いきなり自己紹介だとー! ちょー苦手~(*_*) ……あ、でも初対面なのは兎亜人さんだけか。なんで自己紹介ってこんな緊張するんだろね、不思議。

 俺はぬこにゃんを抱っこしながら立ち上がる。

「坂本優希です。ユーキと呼んで下さい。特技は、えーと、……ゲーム? です。武器は色々使えますが、一応片手剣です。あと、この子は相棒のぬこにゃんです。小さくても実は強いんですよ?」

 ふんすっ♪ 抱っこされたままちょっと得意げなぬこにゃん。

「遠い国の出身なのでこちらの常識に疎いところがありますが、よろしくお願いします」

 俺とぬこにゃんは一緒にぺこりと頭を下げて座る。次はクリムさんが立ち上がる。

「クリムといいます。特技は薬草の採取と回復薬の作成です。使用武器はショートソードです。ハンター試験に挑戦するのは二度目ですが、よろしくお願いします」

 お辞儀をしてクリムさんが座ると、兎亜人さんがおどおどという感じで立ち上がる

 ふるふるとかすかにふるえているみたいだ。思わず、頑張ってぇ! と心の中で励ましたくなる。

 恐る恐るフードを外すと、その下からは綺麗な真っ白い髪とウサ耳が現れる。色白で短髪の可愛い男の子だが、緊張しているのか顔が真っ赤だ。

「あ、あ、あの、ボ、ボクはラビーといいます。ハンターに憧れて来ました! と、特技は……、ボクも薬草集めです。武器は短剣です。よ、よろしくお願いします!」

 なんとか自己紹介を終えて、ホッとしたように座る兎亜人のラビー君。

 まだ声変わりしてないから、多分中学生くらいの歳だろう。背はクリムさんより少し小さいくらいだ。なんというか、守ってあげたくなるような美少年という感じだ。世のお姉様方がほっとかないだろう。

「はい、ありがとうございます。では改めて、私はブルータです。今は引退してギルドの手伝いなどをしていますが、元はランク4の上級ハンターです。皆さんにはハンターの先輩としてできる限りのアドバイスをしたいと思っていますので、よろしく。それでは、講義を始めたいと思います」


 ブルータさんの説明は顔に似合わず、懇切丁寧こんせつていねいなものだった。

 さすが元ランク4の上級ハンター、その実体験からくるアドバイスはとてもためになるものばかりだ。野営のやり方とかゲームにない部分は特に有益なものだった。それにブルータさんからは駆け出しハンターへの親愛の情があふれていた。彼が真剣に俺たちの事を心配し、少しでも力になりたいと思っていることが、その細やかな説明から伝わってきた。顔に似合わずなんて失礼なことを考えて、ごめんなさいm(_ _)m

「何か質問や気になった事はありませんか?」

 ブルータさんがそう言って皆を見回したので、俺は気になっていた事を手を挙げて質問する。

「こちらでは閃光弾せんこうだん麻痺まひトラップみたいな道具は使わないのですか?」

「せんこう? ……トラップ?」

 ブルータさんは聞いたことがないというふうに首を傾げる。

「閃光弾というのは激しい光でモンスターの目をくらませる道具で、麻痺トラップは踏んづけたモンスターをしばらく痺れさせて動けなくする道具なんですが……こちらではないのですか?」

「聞いたことがないな……。なるほど、そういう道具があるならモンスターの討伐に有効だろう。興味深い」

 元上級ハンターのブルータさんが知らないのなら、こちらにはそういう道具はないのだろう。実物を出して見せるとすっごい食いついてきた。ブルータさんは手に取って興味津々で眺め回してる。短いしっぽがピコピコ振られていて……ちょっと可愛いw ブルータさんはこういう珍しいアイテムとか好きみたいだ。

「よかったら、閃光弾を二つ三つ差し上げましょうか?」

「え、いいのかい? 高価なものなんじゃないか?」

「いえ、まだ幾つかあるので大丈夫です。今日はとてもためになるお話を沢山教えて頂いたので、お礼に差し上げます。あとで使い方を教えますね」

「本当かい? ありがとう!」

 閃光弾を受け取り、ブルータさんはしっぽブンブンだ……だってワンコだもの!

「こほん、話が逸れてしまったね。他に質問はないかな? なければ初級クエストの話に移ろうと思う。このクエストはラビー君の出身村のウッサー村からの依頼クエストです。ラビー君が村長さんの代理としてギルドに依頼されたものです」

 ウッサー村ってw

 兎亜人の村が『ウッサー村』ってわかりやすいな! なんかこの世界のネーミングセンスが安直な感じがするのは気のせいだろうか? 覚えやすくて助かるけど。

「ウッサー村には薬草の群生地があって、それが村の特産品の一つです。ですが最近、そこに多数のグレイウルフが出没するようになって困っているそうです。ワンダル村もウッサー村の薬草から作った回復薬を仕入れていますので、他人事ひとごとではありません」

 ワンダルさんは一度皆を見回す。

「今回の依頼クエストは第一に薬草採取をする村人の護衛。第二に群生地に出没するグレイウルフの討伐です。村までは半日ほどの距離ですので、行きで一日、五日ほど滞在し、帰りで一日という日程になります。グレイウルフが必ず出没するとは限らないので滞在日数は前後するかもしれません。滞在中は村長さん宅でお世話になりますので、適宜相談して下さい。案内はラビー君がしてくれますから大丈夫でしょう。では、一階の受付でクエストの手続きを実際にやりましょう」

「あ、あの! ウッサー村のこと、よ、よろしくお願いします!」

 ラビー君が深々と頭を下げる。

 俺はラビー君のその真剣な姿を見て気持ちを改める。

 そうか、きっとラビー君がハンターになりたいのは、憧れもあるのだろうが、村を助けたいという思いからなのだろう。ゲームだとあまり感じることもなかったが、依頼クエストの向こうには助けを求める依頼人がいるのだ。

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