第10話 クリムの決意

 おかんか!

 心の中でひとりツッコミをする。

 おかんかっ!

 大事なことなのでもう一度ツッコミました。

 こっそり後ろからついて行って様子を見たほうがいいんじゃないかしら? ……なんてお母さん的思考になったが、そこまで面倒見きれるわけもない。なにせ俺は絶賛! 住所不定無職・無一文の身なのだ。人の心配する前に自分の心配をしろという話だ。そもそもティーガ達にとっても余計なお世話だろうし。

 ただ、ここのハンター達の装備のレベルは気になるところだ。ちょっと不安になってきたので、近くにいるハンターの簡易ステータスをさり気なく見てみる。


名前:ジョン

ハンターランク:2

攻撃力:98

防御力:86

スキル:追跡

武器:片手剣 ハンターソード


 ……貧弱! 貧弱ゥ!

 ぬこにゃんの装備より弱い(✽ ゚д゚ ✽)

 三人ほど見てみたが、みな似たりよったりだった。あくまでゲーム上の数値で言うと、初級レベルの数値だ。ティーガの装備がかろうじて中級にかかるかなという感じだ。飛竜を討伐するなら中級ハンターが四人いないと危ないだろう。

 ひょっとして、神ゲーマーのような見切り回避が皆できるのだろうか? ……いや、無理だろう。俺もある程度の見切り回避はできるけど、それはゲームのモンスターの動きを何十回、何百回もプレイすることによって把握して初めて可能なことなのだ。たった一つの命を賭けてモンスターと無謀な戦いをするなんて現実リアルでは無理だ。

 とにかく、俺自身がハンター登録して実際に実情を見てみないとわからない。簡単な依頼クエストをこなしながらこちらのハンターのやり方を学ぶべきだろう。

 気を取り直して、クリムさんと受付へ向かう。クリムさんは猫亜人の女性がいるカウンターで回復薬を出して声を掛ける。

「こんにちは、ミケーネさん。回復薬の納品に来ました。あと、ハンター登録について相談したいのですが」

「こんにちは。いつもの回復薬ね、ありがとう。……で、そちらの人が例の命の恩人さんね? ギルド内でも噂でもちきりだったわ。どうぞそこに座って」

 そう言ってミケーネさんという猫亜人の女性職員はカウンターの前の椅子を勧める。歳は二十歳ぐらいだろうか、ショートボブの明るいブラウンの髪の女性だ。その髪には白と黒のメッシュ、髪の間から出た白地のネコミミにも若干の黒と茶の模様が入っている。いわゆる三毛猫みけねこさんだ。……ちょっとモフりたい。

 クリムさんと並んで椅子に座る。

「はじめまして、坂本優希です。ユーキと呼んで下さい」

「はじめまして、ミケーネよ。よろしくね」

「ぬこにゃんだよ!」

 ちゃっかり俺の膝の上に座り、名乗りを上げるぬこにゃん。

「あら、猫妖精さんも! はじめまして、ぬこにゃんさん。猫妖精さんがギルドに来るなんて本当に珍しいわ! 大歓迎よ♪」

 そう言ってミケーネさんはニッコリ微笑む。そして、少しからかうような視線でクリムさんに問う。

「それで、クリムちゃんを助けてくれた王子様の紹介に来たのかな?」

「な!? 何言ってるんですか!? ミケーネさんは! もう!! そ、そういうんじゃないです!」

「え~、図星って顔に書いてあるよ~。それにいつもよりおめかししてるし~」

 顔を赤くして反論するクリムさんを楽しそうにイジるミケーネさん。二人は結構仲良しなのかな?

「確かにユーキさんは命の恩人ですけど、今日はユーキさんのハンター登録の手続きに来たんです!」

「ごめんごめん。じゃあ、やっぱりユーキさんが飛竜を撃退した人ってことだよね」

 ミケーネさんは俺に向き直ると真剣な顔になって頭を下げる。

「クリムちゃんを助けてくれて本当にありがとう」

 俺は面食らって慌ててしまう。病気になって人に面倒をかけるばっかりだったから、俺はお礼を言う方であって、お礼を言われる方ではなかった。だから面と向かってお礼を言われると、すっごい照れる。

「いえいえ、たまたま運が良かったんです!」

「いいえ、飛竜を撃退できるハンターなんてそうそういないんですよ? どんな屈強な人物かと思ってたら、こんな可愛い男の子だったなんて! しかも人間族の人。クリムちゃんの話でなければ絶対信じませんでしたよ」

「そうなんですか。人間族のハンターって珍しいみたいですもんね」

「はい、私はお会いしたことはないですね。もちろん、ギルドとしては優秀なハンターさんは大歓迎です。最近は魔獣の被害が増えてきているので、常に人手不足の状態ですから」

「なるほど。じゃあ改めて、ハンターの登録をしたいのですが……詳しい説明をお願いできますか? 遠い国の出身なのでこちらの常識にうといところがあるので、そこを踏まえて教えてくださると助かります」

「わかりました。ハンター登録にはまず初心者講習を受けて頂きます。これは依頼の受け方や報酬の受取りについての諸注意、ギルド施設の案内等、基本的な説明です。その後、ギルド指定の初級クエストをいくつか受けて頂いて基本的な力量を拝見させて頂きます。これは依頼を完遂することができない方や問題行動のある方を避けるためです。ギルドの信用にもかかわりますので。それにこれは新人ハンターさんの事故を防ぐためでもあるんです。ハンターの死亡率の多数を占めるのは、やはり駆け出しのハンターさんなんです」

 今まで何回も繰り返してきた説明なのだろう、ミケーネさんはよどみなくすらすらと説明を始めた。

「ギルド指定の初級クエストの完了をもって、ランク1ハンターとして登録させて頂きます。ハンターランクというのはハンターの実力の目安です。ランクは五段階に分かれていて、ハンターランク1で駆け出しハンター、ランク2で初級ハンター、ランク3で中級ハンター、ランク4で上級ハンター、そしてランク5で特級スペシャルハンターと呼ばれています。

 ギルドで貼り出される依頼はクエストと呼ばれ、目安となるハンターランクが記されています。基本的に自分のランクより上のクエストを受けることはおすすめしません。各ランクで実績を積んで着実にステップアップして下さい。ランクアップにはギルド指定のモンスターの討伐が条件となります。主な内容はこんなところですね」

 俺は神妙に頷く。

 ハンターランクって5までしかないのか。ゲームと全然違うんだなぁ……。

 ……え、俺?

 ハンターランク999。

 カンスト(カウンターストップ)ですが何か?

「ちょうど今日は他に一人、ハンター登録希望者がいるので初心者講習を一緒に受けられますが、どうしますか?」

「あ、お願いします」

「あ、あの! 私も一緒に受けてもいいですか!?」

 クリムさんが意を決したように言う。

「クリムちゃんも? それは構わないけど……」

 ミケーネさんは少し困惑顔だ。

「昨日、飛竜に襲われて思ったんです。最低限、自分の身を守れるぐらいでないといけないって。だから私、もう一回ハンターを目指してみようと思うんです!」

 ええーっ! クリムさん、突然の爆弾発言だ―――――っ!

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