百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.9-186 武闘大会、開幕! 暴風雨のバトルロイヤル。 scene.1
Act.9-186 武闘大会、開幕! 暴風雨のバトルロイヤル。 scene.1
<三人称全知視点>
武闘大会は冒険者ギルドと複数の商会が運営母体となっている。
傷薬などは無償で提供するが、優勝者は栄誉だけ。しかし、毎年強者が国中から集まるため、武闘大会での優勝を目指す者は多い。
運営の主導権は冒険者ギルドが握っており、ギルドマスターであるイルワもヴァーナムと共に武闘大会の運営の司令塔として武闘大会に参加したがるヴァーナムを抑え込みながら武闘大会開始に向けた最後の仕上げをしていた……のだが。
「イルワさん、アネモネ閣下がお越しになられました」
「嫌な予感がする……」
「他に隣国の総隊長様と次期剣聖殿、ヴァルドーナ王子もお越しです」
「ッ!? シューベルト様ですか!? それにアネモネ閣下も! 素晴らしい! 頑張っている私にご褒美を与えに来てくださったのでしょうか?」
「そんな訳ないでしょう! ああ、嫌な予感しかしない! しかし、アネモネ閣下をお通ししない訳には……あ、アトラマ君! ここに皆様をお通ししてくれ。くれぐれも、くれぐれも失礼のないように!!」
「はっ!」
イルワが報告に来たアトラマに指示を与えた数分後、イルワの胃痛の元凶――アネモネ達が
「明けましておめでとうございます、イルワさん」
「明けましておめでとう。……ところで、私に用事があるそうだね? 具体的にはどのような内容なのかな?」
「先程、アルベルトさんとローザの姿でデートをしていたところ、シューベルト様に突然斬り掛られまして」
「それは、羨ましい」
「ヴァーナム様、黙っていてください。……それはとんだ災難でしたね」
「この方は口で言っても納得してくださいません。では、直接剣を交えればいいかという話になりますが、王都で暴れれば高確率で怪我人が、最悪の場合は死傷者が出ます。目出度い年の瀬に死者を出すのは避けたいですから、場所を変えて……それなら、武闘大会で決着をつけるのが良いのではないかとエントリーをするために参ったのです」
「なるほどなるほど……今年の優勝者は完全に決まりましたね。……しかし、エントリーなら私に挨拶をせずとも受付でして頂ければ良いのではありませんか?」
「ただ、ここで問題が一つ。七時にディナーの予約をしておりまして、それまでに決着をつけねばならないのです」
「……それは困りましたね。武闘大会は午後八時頃に終了を予定していますが、例年午後九時ぐらいまで試合が長引きます。……武闘大会は諦めたらどうでしょうか?」
「ということで、武闘大会の時間を短縮してもらえないかと思って主催者の冒険者ギルドの重鎮のお二人に話を通しに来ました」
「……はっ?」
満面の笑みでいきなり無茶苦茶なことを言い出すアネモネに、「はっ?」という本音がポロリと溢れてしまうイルワ。
「つまり、シューベルトとギルデロイは、ボクとアルベルトと決着をつけなければ納得しない。そのために武闘大会は最適な場所だけど、そのまま大会に参加したらディナーの予約が台無しになる。だから、武闘大会の時間を短縮しろ、って話」
「いくらアネモネ閣下のお願いとはいえ、無茶苦茶ではありませんか! 無理ですよ、短縮なんて!!」
「ボクも無茶を言っていることは承知の上だよ。イルワさんにはとても申し訳ないと思っている。……だから、具体的な方針は全てここに来る間に決めてきた。どちらにしろ冒険者ギルドに迷惑は掛けない。汚名は全部アネモネが背負う……成り上がりの商人が我儘を言い出したということにして責任を転嫁すればいい」
「圓殿、何もそこまですることは――」
「アルベルトさん、少し黙っていてくれないかな? 時間がないからねぇ。一つ、トーナメント形式からバトルロイヤル形式に変更、同時多発的に複数の戦闘を行うことで、競技時間を短縮し、かつ遭遇戦の緊迫感を演出する。即興の同盟、勝利に向けた策謀……より実戦的な内容になるからこそ、一対一の武闘大会では味わえないスリルを味わうことができる筈だ。というか、実際の戦場じゃ、一対一の対等な勝負なんて基本的に演じられないからねぇ。二つ、ビオラが協賛し、試合で必要なものは全てこちらが用意する。内部で戦っても現実には一切影響がない『
「……た、確かに魅力的な提案ですね。……それに、その内容なら文句は出ないと思います。間違いなく、例年の武闘大会以上に盛り上がります」
「そして、三つ目。大会の前に通達を出してもらいたいんだけど、今回の大会でめぼしい成績を出した者に
「
「今回の武闘大会は例年強者が集まる大会だからねぇ。ボクはこの大会の参加者の中に
「分かりました。……開式まであまり時間はありませんが、関係各所に速やかに通達を出します。アトラマ君、お前は参加者にルールの変更が行われることを伝えてきてくれ。とりあえず、バトルロイヤルになること、詳しいルールは開式の際に述べること、この二つだな」
「承知致しました!」
「では、私は先に会場に赴いてルールの変更を観客にお伝えしてきましょう」
「ヴァーナム本部長、よろしくお願いします」
「それで、イルワさん。具体的なルールなんだけど、公平を期すために……」
◆
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
最終的に、傷薬の無償提供は無し。弁当などの販売は例年通り運営に加わっている商会にやってもらうという形で交渉は終わった。
急な変更でここまで準備してきた方々にはとても申し訳ないことをしたけど、ひとまず納得してもらえたから一安心だ。
「武闘大会実行委員のイルワです。改めて、今回の武闘大会のルールについて説明させて頂きます。先程、アネモネ閣下より急遽協賛の話がありまして、例年の武闘大会とは大きく異なる内容で開催する運びとなりました。武闘大会の開催時間は短くなることが想定されますが、バトルロイヤルルールの採用によって、より実戦に近い形となり、昨年までの武闘大会以上の熱戦になることが期待されます。では、アネモネ閣下から詳しいルールの説明をして頂きますので、司会を交代致します」
「ビオラ商会合同会社の会長を務めております、アネモネと申します。本日は私の勝手な都合により大会のルールを変更し、大会を楽しみにされている皆様にはご迷惑とご心配をお掛けしました。先程イルワ様からお話があったように大会の開催時間は短くなることが予想されますが、一対一の戦いでは存在しない駆け引きや三つ巴以上の戦いなど皆様を飽きさせない要素は沢山あると思いますので、前年までの大会とは比べ物にならないほど濃密で楽しい時間を皆様には過ごして頂けるのではないかと思っております。……では、私からルールを説明させて頂きます。バトルフィールドはバトル・アイランドの施設全域で活用されている仮想空間を現実化した特殊な空間となり、この空間では内部で死亡した場合や怪我を負った場合でもダメージが現実にフィードバックしない設定になっています。そのため、文字通り死力を尽くした戦いを参加者の皆様には演じて頂きたいと思っております。最終的に一人が生き残っている状態になった時点で試合終了、その人物が優勝となります。優勝者には大会運営に携わっている商会から優勝賞品が出ますので、皆様優勝目指して頑張ってください。なお、今回の協賛でビオラは優勝賞品を出しませんが、私の権限で大会で一定レベル以上の活躍をした方々を
急遽設置した巨大モニターにはヴァーナムの手元が映し出されている。
そこには、赤と青の二色のカードが二列になるように置かれている。
「裏が赤のカードは、バトルフィールドを、裏が青のカードは天候を、それぞれ表しています。今から大会実行委員長のヴァーナム様にそれぞれ一枚ずつカードを引いてもらい、その組み合わせがバトルロイヤルのフィールドとなります。バトルフィールドは市街地A、市街地B、市街地C、市街地D、市街地E、市街地F、河川敷A、河川敷B、工業地帯、森、諸島の十一エリアがあり、天候は快晴、曇天竜巻、暴風雨、豪雪、竜巻暴風雨の五エリアがあります。中には天候により状況が変わるエリアもありますので、ご注意ください」
「引きました。バトルフィールドは河川敷B、天候は竜巻暴風雨です」
「河川敷Bは大きな川を挟んで二つの高層ビルが立ち並ぶエリアと背丈の低い住宅が立ち並ぶエリアに分かれるエリアになります。右手にある住宅街エリアには公園や竹林、小高い丘となっている森もあり、場所を生かした戦闘を楽しむことができます。橋は北側に一本、南側に二本ありますが、川自体は膝丈くらいの深さなので橋を使わずとも渡ることは可能です。ただし、天候が雨の場合は水嵩が増し、川の流速も大幅に増すため、渡るのはほぼ不可能になります。ご安心ください、映像が雨で不鮮明になることはありませんので、快適に大会の一部始終をご覧頂けます。では、私もそろそろ準備をしないといけませんので、イルワ様、後はよろしくお願いします」
「分かりました。では、アネモネ閣下が準備を終えたところでバトルフィールドに移動して頂きます。……と、そう言っている間に準備が整ったようですね。それでは、第五十二回武闘大会、バトルロイヤル! 開戦ですッ!!」
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