Act.9-187 武闘大会、開幕! 暴風雨のバトルロイヤル。 scene.2

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


 転移した先は北の橋付近の住宅街エリア。そしてボクの目の前にヴァケラー、アトラマ、エドヴァルトの三人。……というか、エドヴァルトも何気に参加していたんだねぇ。

 そして、ここからかなり近いところにノイシュタイン、オスクロがいるらしい……見気で捕捉したんだけど、かなり恐ろしい状況だねぇ。幸いシューベルトはまだ遠くにいるようだから、一人強敵の参戦を気にせずに済むのは有り難いんだけど。


「うわぁ、いきなりアネモネ閣下とかそりゃないだろ! 参加した瞬間から敗北決定じゃねぇか?」


「先日ぶりですわね、エドヴァルトさん」


「アネモネ閣下、見逃しては……」


「ヴァケラーさん、見逃してもらえると本当に思っていますか? どちらにしろ大会中には戦わなければならない相手、生き残れるのはたった一人なのですよ」


「まあ、それはそうですけどね……アトラマさん、同盟を組みましょう。あの人は一人で挑んで勝てる相手じゃありません」


「アネモネ閣下の武勇伝は聞いております。ヴァケラーさん、同盟を組みましょう」


「おう、そういう話なら俺も混ぜてくれ。魔王軍幹部のエドヴァルト=オークァスだ」


「冒険者のヴァケラー=ヴォルゴトールです。こちらは冒険者パーティー『烈風の旅人』のリーダーのアトラマ=ゲインバードさんです」


「三対一か。一対一よりはマシだが、もう少し戦力は欲しいよなぁ……」


「アトラマさん、早速で申し訳ないけど近くにクレスセンシア=クロッカスさんの気配があった。少し行って同盟を結んできてもらえないかな?」


「『緋刀姫』ですか……あのSランク冒険者の? ……応じて頂けるでしょうか? いえ、そもそもアネモネ閣下が私の離脱を許してくれるか」


「待ちますよ? まだまだディナーまで時間はありますからねぇ。ああ、エドヴァルトさん。ノイシュタイン卿とオスクロさんが近くにいます。声を掛けてきてはいかがですか?」


「そりゃ、あのお二人がいれば勝てる可能性が増えるが……どれだけ待ってくれるんだ?」


「十五分までなら。それ以上掛かればまずヴァケラーさんを撃破し、その後各個撃破に動きます。まあ、それ以前にヴァケラーさん相手に負ける可能性も十分にありますけどねぇ」


「それはないでしょう。『世界最強の剣士』相手に俺程度じゃもって数分です。……まあ、これでも手加減されているというのが悲しいですけどね」


 ボクとヴァケラーを残してアトラマとエドヴァルトはそれぞれの目当ての人物を仲間に引き込むために動き出した。

 さて、このまま待っていてもいいんだけど……。


「アネモネさん、『背繋飛剣ナインチェーサー』を背負うのはまあ、分かりますが、何故鞘から『銀星ツインシルヴァー』を抜き払っているんですか? 十五分間は攻撃しないという約束じゃ……」


「攻撃をするつもりはありませんよ。ほら、ヴァケラーさんも『雷光鬼神の金砕棒ライトニング・オーガ』を構えて、霸気纏わせて。……雨に降られて髪がベトベトして最悪な気分なのですわ」


「これ、アネモネさんの狙い通りなんじゃ……」


「まさか。ちゃんとシャッフルをしてヴァーナムさんに選んでもらいましたよ。こんな最悪の組み合わせ、私だったら絶対に選びません。一番シンプルな市街地Aで天候は快晴を選びますよ。……霸気を衝突させて天を割ります。そうすれば局所的でも雨を回避できますからねぇ」


「分かりました。……手加減してくださいよ。本気の霸気なんて喰らったら俺なんて一溜りもありませんから」


 黒い稲妻が生じるほどの霸気を纏わせた右の剣で斬撃を放つ。

 同時にヴァケラーも霸気を纏わせた棍棒を振り抜き――剣と棍棒は触れ合うことなく衝突し、膨大な黒い稲妻を散らせた。更に霸気は天へと昇って天を割る。当然、雲が真っ二つに割れ、ボク達の頭上には快晴の空が現れた。


「これでしばらくは雨に悩まされることもありませんね。後はたまに生じる竜巻ですが、まあ、あれは天災みたいなものですし、諦めるしかありません。……しかし、暇ですねぇ。十五分も待つのは……おや、殺気ですか?」


「見つけたぞォ! アネモネッ!」


 現れたのは刺青の入ったスキンヘッドの大剣使い、バンダナを巻いて左目を隠した探索者シーフ風の男、片腕が義手になっている槍使いの男、右の眼を貫く傷を負って隻眼になっている斧使いの男、真っ赤なアフロヘアーの武闘家の男、灰色のローブを纏った魔法師の男……随分と風貌が変わっているねぇ。まあ、最後に会ったのが何年も前だから変わっていない方がおかしい……のかな?


「どちら様、でしたっけ?」


「……完全記憶を持っているアネモネ閣下が忘れる筈がないですよね?」


「勿論、覚えていますよ? 単なる挑発です。……いい思い出があまりない方々ですねぇ。『餓狼鬼士団』のアイゼン=ジーンナム、サッフォス=マトフォール、ファルジェス=デルドファ、ダイスン=スフェラ、ヴェンドル=ポートマス、ゼッケ=ノヤール……まさか貴方達も参加しているとは思いもよりましたわ。確か、冒険者の資格を剥奪された後に行方不明になっていた筈ですが」


「お前のせいで俺達は冒険者の資格を剥奪されたッ! それから俺はお前への恨みを募らせていた。お前さえ、お前さえいなければ俺達は――! 確かにアネモネ、お前は化け物だ! だが、俺達はあの頃の俺達とは違う! 四大闇ギルド同盟の柱が一つ、『六魔修羅道グラズヘイム』の傘下となり、新たな力を得た! 今の俺達ならお前を倒すことができる! お前を今度こそ這いつくばらせ、慰み者にしてやる!」


 何も言っていないのにペラペラと情報を話してくれるねぇ。……しかし、「六魔修羅道グラズヘイム」か。


「『六魔修羅道グラズヘイム』? はて、聞いたことがありませんが?」


「アネモネ閣下、ご存知ないのですか? 闇ギルドと呼ばれる犯罪組織、その柱になっている四つの闇ギルドがあります。『冥王の心臓デーモン・ハート』、『幻界魔狼マルコシアス』、『阿羅覇刃鬼ゾンダーリング・ネスト』、この三つと共に四大闇ギルド同盟の柱として君臨するのが『六魔修羅道グラズヘイム』です。冒険者ギルドも彼らには手を焼いていまして……冒険者の資格を剥奪された無法者や、盗賊などの犯罪者達が彼らの傘下に入ることが増えており、彼らの勢力は増すばかり。本当に厄介な者達なのですよ」


「……それ、恐らく補填された記憶ですね。私の知る限り、ここまで彼らの報告が上がったことはないと思います。どこかのタイミングで拡張パックが導入されたことに気づいていなかったのか、それとも『這い寄る混沌の蛇』に意識を割き過ぎて見落としていたのか……」


「後手に回るのは珍しいですね。アネモネ閣下はいつも相手の数手先を見ていると俺は思っていたんですが……」


「最近は後手に回りっぱなしですよ。まあ、いくらでも挽回の方法はあるので今のところ取り返しのつかないほどの大きな問題はそれほど生じてないのですけどねぇ。……別に私は『六魔修羅道グラズヘイム』のことも、『冥王の心臓デーモン・ハート』のことも、『幻界魔狼マルコシアス』のことも、『阿羅覇刃鬼ゾンダーリング・ネスト』のことも知らないとは言っていませんよ。……この三つの『阿羅覇刃鬼ゾンダーリング・ネスト』が同列に数えられていることと、『阿羅覇刃鬼』が『変人達の巣窟ゾンダーリング・ネスト』と呼ばれていることに関してはよく分かりませんが。……『六魔修羅道グラズヘイム』は『他化自在天』の異名を持つマーラ=ニヒリティがギルドマスターを務める闇ギルドで、六魔将という六人の最高幹部と、傘下の闇ギルドから成る組織だったと思います。『冥王の心臓デーモン・ハート』は『冥王』の異名を持つプルート=タルタロス率いる闇ギルドで、プルートは確か邪悪な心と魔力が合わさることで生まれた魔物の王だった筈です。最高幹部は九冥公と呼ばれる九人、いずれも人間の魔導師だったと思います。そして、『幻界魔狼マルコシアス』……ギルドマスターは『魔狼王』の異名を持つティンダロス=フローズヴィトニル。彼と彼が従える七人の最高幹部――呪華七皇セブンスター・ラグナロクはいずれもある人物が生み出した世界を破壊する生態兵器である『呪皇』であり、作中の中で唯一の人間以外の種族で組織の中枢が構成されていたギルドだった筈です。私の記憶違いでなければ正しい筈ですが……」


「なんでお前、ギルドマスターの正体を知っているんだよ!! 他の闇ギルドのマスター達については知らねぇよ! というか、人間じゃねぇのかよ! 他の二つの闇ギルドのマスターって!?」


「どうやら、私の記憶は正しかったようですね。アイゼンさん、わざわざご丁寧に説明ありがとうございます。……そして、『六魔修羅道グラズヘイム』のギルドの拠点があるのは…… ゼゲファ=トラス大森林ですか」


「――ッ! 俺は何も言ってねぇぞ! 一体何をしやがった!!」


「見気でアイゼル、貴方の記憶を読み取ったのでしょう。……アネモネ閣下、彼らの処遇はどうします?」


「冒険者ギルドに一任します……が、闇ギルドに与したという事実。単体でも以前資格を取り消しになった案件より重い罪ですし、以前の複数の冒険者ギルドで狼藉を繰り返した前科もありますから……極刑で済んだらいいですね」


「アネモネ閣下、怖過ぎですよ。……まあ、この人だったらただ殺すより恐ろしい方法を何種類か用意できそうなので、やろうと思えば極刑以上の裁きを下してしまわれそうで実際に恐ろしいんですが」


「さっきから勝った気でいるみたいだが、俺達は生まれ変わったんだ。冒険者ギルドで怯えていたそこの雑魚冒険者と二人掛かりでも返り討ちにしてやるぜ!」


「……人数差的には組んでもまだそちらの方が数的有利なんですけどねぇ。まあ、ヴァケラーさん一人でも勝てそうな戦いですが、特別に私が遊んであげましょう。十二刀流で。ということで、ヴァケラーさん。脱落したくなければ下がってください」

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