Act.9-185 恋色に染まる新年祭 scene.2

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


「さて、話を戻してドラマの話をしようか? ボクが前世で手掛けたドラマは二作品、どちらもボクが前世で融資していた東都放送株式会社で放送した。ボクが融資していた会社の一つ、東都放送株式会社の代表取締役社長兼放送局長の朝凪あさなぎ八千代やちよさんから強い要請があってねぇ」


「圓様は前世でも広い人脈をお持ちだったことはお話を伺うと分かりますが、一体どのようにして人脈を築かれたのでしょうか?」


「投資家としてアンテナを張っていたっていうのは勿論だけど、融資を通して知り合った人の紹介で、みたいに広がっていったということもあるねぇ。それと、意外かもしれないけど『Eternal Fairytale On-line』は交流を生むツールの一つとしての側面を持っていた。朝凪さんは戦闘系六位の大規模ギルド『ライムジュース』のギルドマスターを務めているギムレットさんの中の人だったし。こういうゲーム繋がりで別の業界の人と友好関係が……っていうの案外多いんだよ」


 ゲームの世界では、現実社会では一生関わりにならないような人との交流の可能性がある。身分の性別も人種も関係ない、ただそのゲームが好きという共通点だけで集まった人達が創り出すもう一つの社会だからねぇ。

 『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』も、輪島晋太郎に、モェビウスに出会わなければ別の作品を月見里達、映報アニメーション株式会社に提案していたと思う。……まあ、月見里達の出会いや、の日向梓さんとの出会い、どれかが欠けても成立はしなかったんだけどねぇ。まるでパズルを組み上げるように必要なパーツがボクの周りに集まってきた。真相はボクが組み上げていたっていうただそれだけなんだけどねぇ。


「アニメーション制作やライトノベル、漫画の執筆が専門だったから、ボクが前世で手掛けた脚本は月九枠の学園恋愛ドラマ『群青綺想曲カプリチオ』と水九枠の刑事ドラマ『ソード〜特殊捜査分隊〜』の二作品だけということになる。『群青綺想曲カプリチオ』は、割とオーソドックスな学園恋愛ものだから説明は割愛するよ。『ソード〜特殊捜査分隊〜』は実在する特殊捜査分隊「spade」をモチーフとした特殊捜査班が活躍する物語で、人一倍正義を愛する真面目な捜査一課の係長、切れ者だが風変わりな警視庁捜査一課の刑事、科学捜査に信念とプライドを持つ科学捜査研究所の女性法医研究員、遺留品に込められたメッセージを読み解き、事件の解決や被害者の最期の思いを解き明かす操作一課の科学捜査係の主任、文字フェチの性質がある文書解読のエキスパート、習慣や仕草、行動パターンから相手の嘘を見破る行動心理学を駆使して被疑者を追い詰める取調のプロからなるチームがそれぞれの手法で捜査を行い、その成果を持ち寄ることで事件を解き明かすパズル型の捜査で事件を解決するという内容になっている。流石に視点が広がり過ぎるから、他のドラマと違って一話完結という訳にはいかないけど、毎回ドラマスペシャル並みの濃厚な展開になるから視聴率は割と高めだったねぇ」


「こちらの二作品、見させてもらうことは可能でしょうか?」


「勿論、と言いたいところだけどアーカイブスはボクの手元に残しておきたいからねぇ……後日、後日会員制のサイトを作ってアップロードしておくよ。視聴用のタブレットは後日郵送でいいかな? アルベルトさんはどうする?」


「私も圓殿の携わったドラマ、是非拝見させて頂きたいと思っています」


「じゃあ、アルベルトさんにも後日タブレットを用意させてもらうよ。他にも見たい人いるかもしれないし、興味を持ちそうな人をピックアップして聞いてみようかな?」



 コト座テアトル・アラ・ベガを後にしたのは四時頃だった。ディナーの予約は七時頃なのでまだ少し時間がある。

 そこで、しばらく新年祭の王都を歩くことになった。


 国全体での一大イベントということもあって、民間ではサーカス、大道芸、移動販売、そういったものからそれぞれの商店でやる宝くじや福袋のようなものに至るまで幅広い商売が王都の至る所で行われている。商売人にとっては稼ぎ時だからねぇ、そりゃ力の入れ方が違うよ。


 それとは別に国が援助して人気の歌手を招いての演劇がコト座テアトル・アラ・ベガでは行われ、王都にいくつか点在する闘技場コロッセオでは闘牛や冒険者ギルドが主催する武闘大会などが開かれている。……まあ、ボク達が見たのは国が支援していない方の演劇だったんだけどねぇ。


 特にこの武闘大会の人気は凄まじいらしい。国中の名だたる剣士や冒険者が名誉を競って戦うため、男性だけでなく女性もみんなこぞって応援する相手がいるらしく、毎年熱狂の渦に包まれるとか。

 メイナも幼い頃は良く実家の宿屋を利用してくれる冒険者を応援していたそうだ。


 まあ、でもラインヴェルドみたいな本当の強者は参加しないし、時空騎士クロノス・マスターの化け物じみた戦いを知っている者達には陳腐に見えるかもしれないけど。


「ふはははは、見つけたぞ! アルベルト=ヴァルムト!!」


 アルベルトと共に屋台でカスタードの鯛焼きを購入して食べ歩きをしながら、さて、次はどこに行こうかと歩いていると、ボク達の前に立ちはだかるように現れたのは、ギルデロイ……もう嫌な予感しかしない。


「ギルデロイ……お前が何故ここに。従者はどうした?」


「あんな薄鈍連中を連れたまま賑わう祭りの中で貴様を探せると思うのか? 少しは考えたらどうだ!」


「いや、少し考えたら従者を置いて王子が国外を一人ほっつき歩いている方が面目というものが……いや、うん、聞いた私がこれはダメだったか」


「というか、ヴァルドーナ=ルテルヴェ市国の王子として新年祭の方で招待状がいっている筈だけど……」


「ヴァルドーナ=ルテルヴェ市国の代表は父上と母上と妻に任せた。あんなつまらぬものに参加するよりも俺にはやらなければならないことがあるからな!」


「君さぁ、立場本当に分かっている? 属国の王族風情が随分と言ってくれるじゃないか。それで、そこまでして優先しなければならないことっていったいなんなのかな?」


「無論、武闘大会への参加だ! むっ、アルベルトッ! 貴様……帯剣はしているのに武闘大会に出る準備ができておらんではないか。惰弱な!!」


「いや出ないから必要ないだろう」


「何ィ!?」


「私とローザ殿は買い物の最中でね、悪いが帰ってくれ」


「なんだと! 貴様、武闘大会とデート、騎士ならば武闘大会を優先すべきだろう!」


「五月蠅いねぇ。……そもそも、アルベルトさんはブライトネスの騎士の規則を守り、私闘はしないって宣言したでしょう? 唯一、公式の場で戦える機会はちゃんと用意してあげたじゃないか」


「しかし、俺とアルベルトは全然戦えないではないか!」


「それは君が雑魚だからだよ。君は新体制では同盟準男爵バロネットの地位にある。一方、アルベルトさんは同盟子爵ヴァイカウント、階級が違い過ぎるからねぇ。嫌なら上に上がってこればいいだけ。研鑽を積んで上の爵位を目指すだけの簡単なお仕事……というか、君の地位ってかなりグラグラだよ。誰が一番時空騎士クロノス・マスターの地位を奪われる可能性が高いかって話になる時、真っ先に君の名前が上がるからねぇ。確かに、剣はそこそこの腕前かもしれないけど、それだけで上に上がれるほど多種族同盟は甘くはないんだ」


「ぐぬぬ……だ、だが、あれは魔法や闘気などというまやかしの力に頼った結果ではないか! 剣だけなら、剣だけならアルベルト! 貴様には負けん! それを今から証明に行くのだ!」


「いや、そもそも剣聖技は聖属性ありきだし、剣の腕に関しては仮に私に勝てたとしても藍晶殿や圓殿には勝てない。私に剣技だけで勝ったとしても意味がないと思うんだが」


「とにかく、武闘大会に行くぞ! 今ならばまだ受付も間に合うはずだ!!」


「人の話を聞いてくれないか。行かないと言っている」


「む、何故だ! 臆したか!!」


「じゃあもうそれでいい。次期剣聖も名乗りたければ勝手に名乗るといい」


 本当にこの脳筋王子、話を聞かないよねぇ。……全く、どうしたものか。


「ぼ、坊ちゃま! ようやく、ようやく見つけましたぞおおおぉぉぉ……!!」


「む、爺や。遅い!」


「いやそこはお年寄りを労わろうよ!!」


「それで! どうだった!!」


「はい! 武闘大会、申し込み完了してございます」


「そうか、よくやった!」


「そうか、じゃあ私達はこれで――」


「そちらのアルベルト=ヴァルムトの分も含めてきちんと手続き完了でございます!」


 本当になんてことをしてくれるんだよ、この脳筋王子! どんだけ身勝手な!


「……まあ、新年祭の武闘大会に強制力はないんだけどねぇ。勝手にエントリーされても知らぬ存ぜぬは貫ける。……アルベルトさん、行こうか? この阿呆に付き合っていても時間を無駄にするだけ――」


 ――ッ!? 殺気! いや、霸気!? ッ! 背後からか!?


「見つけたぞ、圓。……さっきはよくもボコボコにしてくれたな。だが、俺は諦めん。アクアは絶対に俺の嫁にもらう!」


「その声、シューベルトか。全く、フォルトナ王国総隊長様ともあろうお方がこんな人混みで剣を抜き払って……国際問題になったらどうするつもりなのさッ!!」


 お関わりになりたくないと悲鳴が上がり、ぱっかりと道が開かれる。その道を堂々と剣を抜き払い、膨大な霸気を乗せて迫ってくるのはシューベルト。……ってか、さっきってなんだよ! 全然記憶にないんだけど!!


 地面を蹴って、空中に飛び上がる。そのままスカートが捲れるのも気にせず武装闘気と覇王の霸気を纏わせた右足で回し蹴りを放った。

 霸気を纏った脚と剣は決して触れ合うことがなく、膨大な黒い稲妻を散らし、天へと昇った霸気が天を真っ二つに引き裂く。


「……シューベルト、一旦剣を納めてもらえないかな? いくらなんでもここで暴れるのは周りへの被害が大き過ぎる。君も騎士ならここで暴れる意味が分かるでしょう!」


「……だが、俺の怒りは収まらん。俺はアクアを愛しているんだ! お前の邪魔さえなければ――!!」


「どっちにしろアクアに振られると思うけどねぇ。……アクアのことを全然考えていないでしょう? 君。気持ちの押し付けじゃないか、それじゃあ幸せにはなれない」


「……くっ」


「……まあ、でも気持ちは分からないでもないよ。シューベルト、思う存分暴れたいならここではないところで暴れよう」


「ま、まさか……圓殿」


「そのまさかだよ、アルベルトさん。作戦変更、ボクも武闘大会に出る。悪いけどシューベルトと決着をつけないといけなくなった。……分かるでしょう? コイツは言って納得してくれるような奴じゃないんだ。クソめんどくさいことにねぇ。……それに、まだディナーの時間までは余裕がある。アルベルトさん的にはもう少しデートを満喫したいところだと思うけど、予約している店も他にないしねぇ」


「こういうことになるのなら、ヴァルムト家御用達の服屋に事前連絡を入れておくべきだった……」


「まあ、別にデートの機会はまた作ればいいじゃないか」


「……そうですね。また、デートして頂けるのでしたら」


「ところで、そこの五月蠅いのもシューベルト並みにしつこそうだけどどうする?」


「……仕方がありません。私も武闘大会に参加します。……しかし、武闘大会に参加していなら予約の時間に間に合わないのでは?」


「その点はボクに考えがある。……大丈夫、ちゃんとディナーの時間までには終わらせるよ」

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