百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.9-184 恋色に染まる新年祭 scene.1
Act.9-184 恋色に染まる新年祭 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
内容は、ブライトネス演劇では王道と言っても過言ではない勇者と魔王の物語……なんだけど、そこに伝統的な恋愛喜劇や恋愛悲劇的なエッセンスがふんだんに盛り込まれている。
まあ、要するに禁断の恋という伝統的な話型を、そのまま勇者と魔王に落とし込んだ感じかな? 敵対する関係にありながらも恋をしてしまった勇者と魔王が、葛藤し、悩み、苦しみながら一つの決断を下す。結果的にはハッピーエンドなんだけど、そこに至る道は壮絶……まあ、敵対する家同士のレベルじゃないからねぇ。
二人の愛が敵対する人間と魔族の考えを変えていく展開は涙せずには見られない。安易に「来世で幸せになろう」という逃げの展開に持って行かなかったところも脚本家の足掻きが見えて好印象だった。
やっぱり、心理描写の名手と言われるだけのことはあるよねぇ。
そして、それに応える名優達の迫真の演技……まあ、そりゃ人気になるよねぇ。
ちなみに、従来の王道的な演劇だと勇者が悪の魔王から攫われたお姫さまを助け出すハッピーエンドの作品が多い。話型みたいなものがあって、勇者が呪いにかけられて異形になるのをお姫さまが愛の力で救うという展開は基本的にどの演劇にも採用されてきた。
評判が良かった作品とかだと、お姫様の背中に羽が生えたり、悪の魔王が変身するシーンで花火が出たりと、かなり手の込んだ仕掛けを採用していたらしい。
「素晴らしい演劇だったねぇ。この演劇を選んだセンス、好感が持てるよ」
「ありがとうございます。……ただ、この演劇は義母に薦められたので、実際に見たのは初めてでした」
「アルベルトさんの趣味じゃないんじゃないかと思ったけど、サフラン様の提案だったんだねぇ。後でとても素晴らしい演劇でしたってお礼の手紙を書かないとねぇ。……そして、初見の感動は恋人と分かち合いたいとしつつも、事前に情報収集をしていたという点も素晴らしい。イケメンな上に気配り、心配りができるし、近衛のホープ……こんな面倒な性格の公爵令嬢に的を絞らなければゴールインまで簡単に漕ぎ着けられたんじゃないかな?」
「私はローザ様でなければならないと思ったから、こうしてアプローチを掛けさせて頂いています。他の令嬢に目移りするなどあり得ませんし、諦めるつもりは毛頭ありません」
「まあ、冗談はここまでにして、好感度は着実に上がっていっているよ。安易に自分だけで考えず家族を頼ったのも好印象。それでも先はまだまだ長いからねぇ。それだけ、ボクが男性を好きになる可能性って低いんだ。その割には親目線や教師目線で見ていた筈のフォルトナの三王子には押し切られたし、義弟のネストもありだと思っちゃったんだけどねぇ」
この辺りは年月が解決したところもあると思う。アプローチに掛けた時間、愛の
本当に凄いと思うよ、ボクの月紫さんを一途に思う気持ちを変えてしまった訳だし。いや、寧ろ月紫さんに対する愛は燃え上がっているんだけどねぇ。会えないからこそ燃え上がる……前世で百合薗圓として月紫さんを愛する気持ちは強かった。だけど、多分、今のボクの気持ちはその時よりも燃えていると思う。
「ところで、先程脚本家の名前を見て笑顔になっていましたよね?」
「良くボクのことを見ているねぇ。ボク達は渡り鳥さんって呼んでいるこの脚本家のエリア=イドワーリス先生、演劇の界隈ではとても有名な売れっ子脚本家さんなんだ。特定の劇団に所属せず、様々な場所を渡り歩くから渡り鳥。まあ、つまりフリーの脚本家ってことだねぇ。でも、どこかに専属で所属せずとも暮らしていけるってことはそれだけ腕が評価されているということ。劇団フェガロフォトでも脚本家として参加してもらって上演した演劇はいくつかあるよ」
「ローザ先生、本日はお越しくださりありがとうございます。あまり演劇はご覧にならないと伺っていましたので、舞台袖からお姿を見た時には見間違いかと思いましたが、本当にお越しになってくださったのですね! 先生にご覧になって頂けたこと、とても光栄です」
「……この方がそのエリア=イドワーリス先生です。しかし、良く見つけたねぇ。この特徴的な赤毛は目立つとはいえ、そもそもローザの姿で来ることなんて予想もつかないんじゃないかな? それに、今回は完全にヴァルムト宮中伯令息の提案でボクも今日来るつもりは無かったから見つけられてちょっとびっくりしているんだけど。まあ、どこかで見に来るつもりではあったんだけどねぇ」
「ヴァルムト宮中伯子息のアルベルトです。……圓様、この方はローザ様とアネモネ閣下が同一人物であることをご存知なのですか?」
「まあねぇ。随分と長い付き合いになるから正体くらいは明かしているよ。まあ、それはヴィンゼント=ワーグナーさん達にも言えることだし、彼女だけが特別って訳ではないのだけど」
「……そうなのですか」
「ご挨拶が遅くなりましたわ、ヴァルムト殿。私はフリーの脚本家をしているエリアと申します」
「初めまして、アルベルトです。とても素晴らしい演劇でした」
「ありがとうございます。この舞台も良いメンバーに恵まれることができました。脚本家は本を書くだけ、それを形にする俳優の皆様、裏方の皆様がいらっしゃらなければ演劇にはなりません。後ほど出演者の皆様に、報告させて頂きます」
エリアは平民出身だけど、貴族の基本的な礼儀作法に理解がある。相手に名乗られて初めて話をすることができるという点とかねぇ。こういうところをマリエッタと比べてしまうのは間違っているのかな?
「ローザ先生、遅くなりましたが『
「全編舞台化は流石に厳しいんじゃないかな? 何冊本が出ているのか知らない訳じゃないよねぇ。まあ、やるとしたら連続ドラマ化してちまちま映像化が無難じゃないかと思うけど、テレビ放送を導入するのはまだ早過ぎると思うし……気持ちは嬉しいけど、やるにしてもまだまだ先になるんじゃないかな? いずれは『象牙の塔の零落』をドラマ化したいと思っているけどねぇ。あれは、ドラマの脚本のつもりで書いているところがあったから」
「……ドラマですか?」
「ああ、アルベルトさんには馴染みがないか。そうだねぇ……デートの予定を変えるようで申し訳ないんだけど、少し時間をもらえないかな?」
「圓様がそれで宜しければ構いませんが」
「エリアさん、控室でいいから一ヶ所押さえてもらえないかな?」
「承知致しました。……先生、私も一点お聞きしたいことがあるのですが、後程ご質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん? まあ、ボクで答えられることならねぇ」
◆
エリアに案内された控室の一室で、ボクは『統合アイテムストレージ』からタブレットを取り出して、アーカイブスを開いた。
「これは一体……」
「ボクが持っているタブレットの一つで、主にこれまで制作にボクが関わった映像作品がオフラインのアーカイブス化されて保存されている。アニメ作品が多数だけど、中にはボクが脚本を担当したドラマもあってねぇ。ドラマそのものの説明と共に、ちょっとだけどんなものかを見せようと思って。まず、アニメの説明からだけど、アニメ、つまりアニメーションは複数の静止画像により動きを作る技術を利用した動画に声優と呼ばれる職業の人達が声を吹き込んだものを指す。みんなも知っているものだと、『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』。あれは、元々アニメ向けに脚本を書いていた物で、それを漫画に描き直したもの、所謂コミカライズに区分されるものをこの世界では販売している。まあ、一種のメディアミックスだけど、前世の頃はアニメから漫画にする作業はしていなかったからアニメ単体のものだったんだけどねぇ。ちなみに、小説や挿絵の多いライトノベル、漫画などを原作にアニメーションを作るパターンもあれば、漫画から小説が派生するパターンもあって、メディアミックスはかなり多彩なんだ。そして、そのメディアミックスの手法の一つには先ほども挙げたドラマがある。じゃあ、ドラマって何かというと演劇にかなり近いものではある。というか、元々は演劇を指す言葉だったんだけど、テレビという実景などをそのまま電波で遠くに送って、映写する装置が開発されたことで、ボク達がイメージするのはテレビで放送されるものがほとんどになっているんじゃないかな? 後は、ラジオを使った音声のみのものもあるけどねぇ。演劇と違うのはテレビドラマは映像を撮り終えてから流すことができ、映像さえ残っていれば繰り返し同じ内容を放送できるということかな。往年の俳優の代表作が死後も放送される、なんてことはよくある話だった」
「お話には聞いていましたが、改めて凄い技術だと思います。……『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』の話は初耳でした。元々はアニメだったのですね。……実は、ヴィンゼントさんから圓様が劇団フェガロフォトの舞台俳優達を集めてアニメーション作品を試作しているという話を聞きまして、お話をお伺いしたいと思っていたのですが」
「ああ、『エーデルワイスは斯く咲きけり』のアニメ化の話ねぇ。テレビ放送はまだ無理だけど、映画館くらいなら作れないかな? と考えているんだ。そこで第一作として『エーデルワイスは斯く咲きけり』を劇場アニメ化しようかと思って」
「……『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』のアニメ化はなされないのですか?」
「それに関しては現時点では無理だよ。後で見てもらえばいいけど、ボクの中で声優は決まってしまっているんだ。……この世界でそれを再現するのはできないだろうし、何よりボクがしたくない。ボクの中で、『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』のアニメーションは映報アニメーション株式会社の『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』しか認められないんだ。……もし、妥協して作ればきっと後悔する。まあ、気持ちは嬉しいけどねぇ」
「全ては圓様が前世の仲間達と再会してからですか……」
「それまで待ってもらえないかな? 多分後数年のことだからねぇ」
「分かりました」
また、月見里達と、みんなとアニメーションを作りたい。この希望が叶うまで、後数年か……ボクはここまで来たんだ。
まあ、それまでに越えるべき困難がいくつも待ち受けているんだけどねぇ。
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