Act.9-182 激震走る王宮の客室、衝突する霸気、包む霸気。 scene.3

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


「真月、影から出てください。事態は深刻です、何があっても姫さまを守り抜いてください」


『ワォン!! 防戦に徹すればいいんだね?』


「ど、どういうことなの! ローザ!!」


「……間も無くこの客室に災厄がやってきます。王弟殿下、半分以上は貴方が蒔いた種です。責任を持って刈り取るように」


「おいおい、俺はお前がいるからゴーサイン出したのに! じゃなかったら、俺は絶対にプリムラを止めたぜ!!」


「ノクト先輩、霸気は制御できますか?」


「霸気……私には、そのような力は使えません」


「無自覚ですか。……仕方ありません、防御には私が回ります」


「聞いてねぇし! ってか、俺だけじゃ抑え切れる訳ねぇだろ!」


「――私も加勢します!」


「身の程を弁えなさい。アルベルト、貴方にはこのステージは早過ぎる。大丈夫です、既に対策は組み上がりました。……アルベルトさんはノクト様と、ついでにそこのスターチス親子の防衛をお願いします。気休めにはなるでしょう」


 ボク、バルトロメオ、ノクト、アルベルト――たった四人だけが正しく状況を理解している中、ボクの嫌な予感は的中――応接室の壁を斬撃で破壊し、膨大な霸気を剣に纏わせたラインヴェルドが外から突入してきた。


「そいつはどういう意味だッ! 返答次第じゃただじゃおかねぇぞッ!!!」


「兄上! 返答次第どころか、返答を聞く前に殺そうとしていますよね!!」


 膨大な求道神クラスの性質を纏わせた覇道の霸気最終領域・覇王神の力を客室に満たした瞬間、マリエッタに斬り掛かったラインヴェルドとマリエッタを守るようにラインヴェルドの前に躍り出たバルトロメオの剣が衝突――膨大な漆黒の稲妻を撒き散らした。


「天が割れねぇ!? まさか、押し留めているのか!? 俺達の霸気を!?」


「部屋が吹き飛ばないのはありがたい……が、兄上、霸気が強過ぎます! このままだと吹き飛ばされるッ!!」


「――契約応用式召喚魔法・琉璃! 休暇中に申し訳ございません」


『状況は理解しました。僕に全てお任せください。――バルトロメオ殿下、もう下がっていいですよ』


 人間体の琉璃が裏武装闘気で扇子を創り出し、閉じた状態で膨大な霸気を纏わせてラインヴェルドの剣を受け止める。


「なんつー霸気だ! 押し流されるッ!!」


『剣を納めなさい。……これ以上の戦闘はどちらかの死を覚悟する必要が出てきますよ』


「お前と死力を尽くして戦うのはそれはそれで面白そうだが、プリムラの前で残虐なものは見せたくねぇからな。剣は納めてやる」


 ラインヴェルドが剣を納め、琉璃が扇子を構成する裏武装闘気を四散させた。

 とりあえず、最悪の状況は過ぎ去ったかな?


「よぉ、英雄気取りのクソガキ。今回は温情措置でさっきの言葉は聞かなかったことにしてやる。……だが、これ以上プリムラの優しさを蔑ろにするような言葉を吐いてみろ。二度と転生できねぇように、魂諸共消し飛ばしてやるよ」


「……気持ちは大変よく分かりますが、当の王女殿下は怯えていらっしゃいます。親莫迦も大概にしてもう少し霸気を弱めては頂けませんか?」


「……お前さぁ、今の自分の顔見えないから分からねぇと思うが、凄い怖い顔しているぜ。……人のことをとやかく言える立場じゃねぇと俺は思うんだけどなぁ。……お前こそ、親莫迦が過ぎると思うぜ」


 ……そんな怖い顔をしていたかな? とりあえず、プリムラを怖がらせたくないからできるだけ笑顔を作る。……でも、きっとぎこちない笑顔になっているんじゃないかな?


「マリエッタ! なんてことを……相手は王女様だぞ!? わざわざ来てくださって、お礼を言ってくださったのに……!!」


 ようやく復活したオートリアスが青褪めて悲鳴に近い叱咤をしたことでマリエッタもようやく自分が何を仕出かしたのか気付いたんだろう。今までだったら他愛ない、物を知らないお嬢さんが貴族の人にやらかしちゃった、しょうがないなぁ、で済む話ですけど、相手は王族だからねぇ。


 普通に考えたら話しかける所か平伏していないといけない、そのくらいの身分差、それなのに、非公式だからと許されていたにしたって越えちゃいけない部分を何段階飛び越えての失態なのか。きっと、それそのものは理解できてないんだろうなぁ、だけど「やっちゃいけないことをやっちゃったんだ!」ってことくらいは分かったたみたいだ。

 今更顔を青褪めさせても遅いけどねぇ。


 今回はそれに加えて危うく戦争が発生して王城の一角が消し飛ぶところだった。……霸気を極めた者達が剣を交えた時、その被害は一国同士の戦争に匹敵する。ラインヴェルドはそれに気づいているんだろうか?


「あっ、あのっ、あたし! 疑うとか、そういうんじゃなくって……! だって、だって……!!」


「ここで言い訳をして何になる、グダグダ言うなよ。君はあろうことか姫さまの言葉を疑い、そして一つの戦争の引き金を引いた。その罪は重い。まあ、君に理解はできないだろうけどねぇ」


「……ローザ?」


「ラインヴェルド陛下、大いなる力には責任が伴います。貴方の剣には国を滅ぼす力に匹敵するものがある。その力を戯れに奮えば巨獣どころか、王宮の一角が吹き飛び、天が割れるのです。もう少し力を持つ自覚をなさってください。もし、被害が出たらどうなさるのですか?」


「俺がプリムラを傷つける訳ねぇだろ?」


「億が一でも可能性はありました。それに、例え怒りで我を忘れていても、ここでそこの男爵令嬢一人を殺したとして何が解決できますか? それによって姫さまの心に与える傷がどれほどのものになるか想像できますか? もう少し考えてから行動しなさいよ、どいつもこいつも……」


「悪かったって……確かに、少し考え無しだった。今後は最大限プリムラのことを気遣って繊細に慎重に行動に移す」


「よろしい」


「いや、よろしくねぇだろ!? 兄上、絶対にまた暴れる気満々ですよね!」


「リディア、破壊された壁と窓……その他諸々の修復、お疲れ様でした。お手間をとらせましたねぇ」


「いえいえ、お役に立てることができて良かったです。それでは、私は仕事に戻らせて頂きます」


 戦闘中に呼び寄せたリディアに時空魔法で壁を修復してもらい、これでラインヴェルドがもたらした被害はとりあえず消えた。……全く、困ったものだよ。


「しかし、手際が良過ぎるなぁ……もしかして、俺の乱入、読まれていた?」


「王女殿下が非公式で訪問するという辺りから雲行きが怪しくなってきたので、「E.DEVISE」を使って連絡を入れていつでも動けるように待機しておいてもらいました。……彼女も時空騎士クロノス・マスターですから、時間を巻き戻して破壊された王宮を修復することも可能ですし……じゃあ、壊していいかって言うとまた別問題だと思いますけどねぇ」


「悪かったって……だから、睨むなよ。……さて、プリムラ。コイツらに対するお前の下した処分を聞かせてはもらえないか? 今回は別に俺が侮辱された訳じゃねぇから、お前が決めるべきだと思うんだが」


「……その姫さまの気持ちを斟酌せずにオーバーキルもいいところの斬撃を浴びせようとした陛下が今更何を言いますやら」


「本当に悪かったって。まあ、反省も後悔もしてねぇがな!」


「姫さま、今後はこのダメな国王陛下を反面教師としてより素晴らしい淑女に成長してくだざることを臣下の一人として願わせて頂きますわ」


「おい、そりゃねぇだろ!」


「本当にお父様とローザは仲が良いわね。……お父様、この度のことは不問としたいと思います。発端は、わたしがどうしてもお礼申し上げたいと叔父上様に無理をお願いした事。唐突な事に、彼女が動揺してしまうかもしれないという言葉に配慮できなかったのは王族としてのわたしの落ち度がありました」


「なるほどなぁ、それがプリムラの判断か」


「しかし、そのような事をお許しになれば……!」


 ここで声を上げたのはノクト。プリムラの意向に臣下であるノクトが声を上げるのは許されないことだけど、使用人としての判断は正しいと思う。安易に前例を作ればどうなるか、長く王宮に仕えてきたノクトにはきっと見えているだろうからねぇ。


「この度の事は非公式の場。それを言い出したのもわたしなのに、言い出したわたしがその言葉を反古にすれば横暴なものにしかなりません。そして、王族は頭を下げない……確かにそれは一つあるかなと思ったのです。王族は国の代表――誰にでも彼にでも頭を下げて良いものではない、そうわたしは学んできました。ですからこの場でわたしは、わたし――プリメラという個人でお礼を申し上げたかった。だけれど……それはわたしだけが満足できた話で、きっと貴女や英雄様にはご負担だったのでしょう。それを思い遣れなかったわたしにも落ち度があると思うのです。だから、今回の事は不問で良いと思うのです……次に同じことがあれば、わたしも気をつけます。貴女も、気をつけてくださるでしょう?」


「は! はい!! 勿論です……」


 もしかしたら、プリムラはボク達が想像していた以上に成長していたのかもしれないねぇ。


 確かに、誰にでも頭を下げる王族では威厳も何もない。そして今回の不敬、非公式の場で起こったこととはいえ、処断されてもおかしくない状況だった所を反省点とした上で相手にも諭した。

 それをしたのが、十一歳の女の子だった……凄い判断をしたとボクは思う。


 正直、この判断が正しかったかは分からない。それを決定付けるのは今後のマリエッタがどのような行動を取るかという一点であることは間違いない。


「娘の不敬をお許し頂き、感謝の念に堪えません! この命に賭けて、終生王家に忠誠を改めて誓わせて頂きます、王家の為に!!」


 うわぁ、ラインヴェルドが露骨に嫌そうな顔をしている。ブライトネス王家を憎んでいるラインヴェルドにとってはこの言葉はある意味地雷なんだよねぇ。

 よしよし、渋面なのは残念だけどよく耐えた。偉い偉い。


「だったらせめて使える人材くらいにはなれよ。世界の情勢は刻一刻と変わっている。巨獣程度倒せるくらいじゃ、正直力不足なんだ。さっきのリディアに、そこのバルトロメオやアルベルト、真月に琉璃、俺達の求めているのは世界レベルの猛者だ。……カルロスに、ジョナサン、ヴァーナム――フォルトナ勢やその転生者の助力を得た上で巨獣を倒した程度じゃ話にはならねぇんだ。国王の立場としては表彰に値するからこの基準が面倒なんたけどなぁ。……まあ、国にとって有益な人材になるって言うなら少なくとも俺よりは強くなれよ?」


「無茶言うぜ、兄上。騎士団長よりも強い兄上に勝てる奴って言ったら多種族同盟の中を探しても両手で数えられるほどしかいないんじゃねぇか? ……とにかく、今の言葉、言質は取ったからな? オレも聞いてたからもう反古はできないぞ、英雄!」


「勿論です!!」


「まあ、宮廷に不慣れなんだから作法って奴も後からついてくるだろう。統括侍女もこうしてプリムラが許したんだからこの場で収めろ。将来的に考えて国のためになる英雄が、王家に忠誠を誓ってくれたんだからな」


「畏まりました。しかし、マリエッタ嬢をこの調子では本日のパーティに参加させることは……」


「決して喋らず微笑んで、父親の側に立つだけにさせとけ。兄上、それでいいだろ?」


「まあ、いいんじゃねぇか? 仮に何かやらかしたって外交問題になるような奴は少ない。温かい心で許してくれるのか、外交問題になる前に元凶がぶっ叩かれるかは知らねぇが、まあ、大丈夫だろ?」


 まあ、紳士淑女ばかりだからねぇ、多種族同盟加盟国の君主の皆様は。……危険なのはオルパタータダと、前例があるメアレイズくらいかな? メアレイズは常識人だけど日々のストレスでキレやすくなっているし……最近は落ち着いてきているけどねぇ。

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