Act.9-133 ジャイアントホール防衛戦 一日目 scene.2

<三人称全知視点>


 欅達ともミリアム達とも大きく離れた場所でイリーナ、プルウィア、ネーラ、ヴァルナー、リヴァス、ホーリィ――ルヴェリオス共和国組は魔物達と戦闘を繰り広げていた。


「【血冥九頭龍】!」「【水神顕現-龗-】」


 イリーナは血液の九頭竜を、プルウィアは激流の九頭竜をそれぞれ得物の剣先から放って魔物の群れに解き放つ。

 膨大な神光闘気が込められた血液と激流の九頭竜は魔物に噛み付くと同時に膨大な神光闘気を流し込んで黒焦げの死体に変えてしまう。流石に武装闘気を纏わせていない攻撃では魔剛の巨亀オリハルトータスの甲羅を貫くほどの力を持ってはいないが、甲羅で守られているといっても隙間はある。血液や水はその隙間目掛けて流れ込み、確実に死へと追いやった。


 無論、血液と激流の九頭竜も威力の低い攻撃ではない。神光闘気を流し込まずとも魔物のほとんどは撃破できただろう。


「《黄泉之風》」


 ネーラはつい最近獲得することに成功した魂魄の霸気を発動し、触れた相手を凍結させる黄泉の冷気を剣に纏わせる。

 この冷気に生じた氷は普通の炎や温度変化では解けず、強力な生命エネルギーや光系統の魔力で溶かすことができるという厄介な代物だ。霊力、神光闘気、光属性魔法、溶かす方法は様々あるが、この地に出現する魔物達はそのいずれも使用できない。


 黄泉の風で完全に身動きを封じられたところにネーラの斬撃が容赦なく放たれ、一体一体確実に撃破されていく。


「《海震撃》!!」


 そんなネーラの恋人であるヴァルナーはというと、『海鬼の聖槍オーシャン・ロンゴミアント』も『海魔と暴君の鎧タイダリア・タイラント』も装備せず、武装闘気を纏わせた拳一つで魔物達と戦いを繰り広げていた。

 ただし、その拳に宿る力は驚異的で魔剛の巨亀オリハルトータスですらも為す術なく一撃で倒されていく。


 ネーラと同時期にヴァルナーが獲得した魂魄の霸気海震撃は驚異的な振動を発生させる力を霸気獲得者に与えるというものである。

 帝器『振動剣クエイクブレイド』と酷似した効果を持つが、海震の名の通り水に干渉する力であり、例えば水分を一切含まない大気に対しては効果を発揮しない。


 水分を媒介に地震を発生させるほどの震動を発生させることができる。水分を含んでいれば、大気など実体のないものも掴むことが可能で、大気を殴ってヒビを入れるということも可能である。

 また、《海震撃》により生じた震動は純粋な水の中では増幅し、加速される性質を持っている。《海震撃》の名の通り、海中の敵により効果を発揮する攻撃だ。


 直撃すればどんな武装も意味を成さずに破砕され、攻撃を耐え切ることは困難を極める。流石に求道神レベルで守られてしまえば攻撃を無効化されてしまうが、武装闘気程度なら貫通できることは既に確認済みである。


 ちなみに、ネーラ、ヴァルナーと同時期にプルウィアは魂魄の霸気の【再解釈】に成功している。

 新たに《秋水村雨》となり、追加で獲得した魂魄の霸気呪化村雨は帝器『妖刀・叢雨』による呪毒を無効化し、強力な呪いの力で身体能力を底上げするというものだ。

 発動中のみ身体に呪いの模様が浮かび上がる。

 毒全般に耐性ができる訳ではないので弱点も多いが、このブーストは剣を使った近距離戦闘を得意とするプルウィアと相性が良いため、プルウィアはかなり重宝しているようだ。


「【炎帝】! 蒼焔大鎌フレイム・サイズ連撃ラッシュ


 ホーリィは武装闘気を『蒼焔大鎌-焔獄-』に纏わせて【炎帝】に蒼焔を混入させることで生み出した巨大な蒼焔の火球を放って魔物達を焼き尽くしていく。


「サングリッター・エンチャート!」


 光属性の魔力を武器に宿して破壊力を上げる光属性付与魔法を槍に纏わせたリヴァスはそのまま次々と魔物達を槍で貫いて撃破していく。


 体の細胞を光属性の魔力で活性化させる回復能力のない純粋な身体強化魔法「サングリッター・アタック・スペシャライゼーション」は使用しない。長期戦となる防衛戦でダウンする危険のある魔法を使えば戦力が一人減ってしまうことになる。

 「サングリッター・アタック・スペシャライゼーション」の使用時に比べれば攻撃力は劣るが、それでも魔物の討伐は可能である。わざわざ危険を冒してまで教科を施す必要はない。



「ああ、素晴らしい! 素晴らしい痛みです!」


 心無しか魔物達にもドン引きしていそうな、集団の魔物の一斉攻撃を受けて痛みを堪能しているヴァーナムを放置して冒険者達は第二砦周辺を拠点に魔物討伐に勤しんでいた。


 相手に見られる力をゼロにすることで、誰からも見つけられない暗殺者となる固有の無属性魔法「不可視インビジブル」を駆使して一方的にヴァーナムを襲う魔物以外を倒していくイルワ、ヴァーナムに虫ケラに向けるような冷たい視線を向けながら「雷閃浮刃フローター・サンダガー」で生み出した無数の小さな雷製のナイフに武装闘気を纏わせ、縦横無尽に戦場を駆け巡らせながら魔物達の隙を突き、突き刺して猛烈な電流を流して仕留めているセリーナ、背丈の二倍ほどある薙刀に武装闘気を纏わせて魔物の群れを両断するダヴィッド――冒険者ギルドのマスター達に負けじとヴァケラー達も魔物の群れと戦闘を繰り広がる。


 『闇に染まりし勝利の剣ダーク・カリヴァーン』を構えたディルグレンと『永久凍土の薔薇剣ブリザード・ローズブリンガー』を構えたジャンローが共に武器に武装闘気を纏わせ、神速闘気をその身に纏うと競うように俊身と空歩を駆使して戦場を駆け抜け、次々と魔物を切り裂いていく。


灼熱の連撃弾ファイアバレット・マシンガン


 ティルフィは【多重詠唱】が付与された『賢者の石と接骨木の杖フィロソファーズ・エルダーワンド』で火魔法「火球」を収束させた「ファイアバレット」を無数に放って攻撃する書肆『ビオラ堂』から発売されたエルフの大魔術師マリーゴールド作の『新汎用魔法全書』に掲載された魔法――「灼熱の連撃弾ファイアバレット・マシンガン」を放ち、魔物や群れを貫いていく。

 ブライトネス王国戦争で襲撃を仕掛けてきた天使の群れにも通用した攻撃がジャイアントホールに出現する魔物に通用しないなどということがある筈もなく次々に撃破されていく。


 唯一、鉄壁の防御力を持つ魔剛の巨亀オリハルトータスの甲羅を貫くことはできなかったが、武装闘気を纏わせることで今度は容易く貫通することに成功。


 「灼熱の連撃弾ファイアバレット・マシンガン」だけで十分に勝てると判断したティルフィはその後、消耗を抑えるために魔力のコストカットに労力を割いた。魔力を込めれば込めるだけ威力は上がる。逆もまた然り。

 最小限の消耗で魔物を倒すならば、魔物を倒せるギリギリラインの魔力量を模索するしかない。

 

「雷炎焦熱地獄」


 ダールムントが杖を掲げると赤い稲妻が戦場を駆け巡り、天使達に襲い掛かる。

 赤い稲妻を浴びた瞬間、魔物の群れは地獄の業火に燃やし尽くされ、黒焦げの焼死体と化した。


 同じ魔法使いでもダールムントは消耗を度外視にしてより多くの魔物を討ち取る方向性で戦術を組んでいるらしい。魔物を多く倒せばそれだけ余裕が生まれる。自然回復で魔力が回復するため、消耗を減らすよりも自然回復できる時間を増やした方が効果的だと判断したらしい。


 ハルトは次々と【創矢工房】で『神水晶の破魔矢クリスタルアロー』を生み出すと、武装闘気を纏わせて『天を穿つ櫟の弓オレルス・ボウ』に番え、狙いを定めた魔物に放って心の臓を撃ち抜いていく。


「【氷竜之王】――絶対零度の咆哮グラキエース・ルギートゥス


 ジェシカの『永久凍土の竜杖スタッフ・オブ・エターナルアイス』から猛烈な吹雪が放たれ、魔物達の身体が凍り始めた。

 動きが鈍ったタイミングで風魔法「烈空刃風エアリアル・リッパー」を発動し、武装闘気を纏わせた風の刃で次々と魔物達の首を落としていく。


 天使戦の時点ではトドメをジャンローとディルグレンに頼っていたが、天使戦後に二人に頼り切りではいけないと判断し、試行錯誤の末にこのコンボに至った。

 ジャンローとディルグレンが戦闘中にジェシカの方に気を配る必要が無くなった分、二人に掛かる負担は大きく減り、ジャンローとディルグレンがより自由に動けるようになったことで効率は大幅に上昇している。


「漆黒を裂く光明よ! 夜を塗り潰す純白に我が裡の真紅との混淆を望み給う。頽廃の世は終わらぬ。煉獄は頽廃した世に慈悲をもたらさぬ。積み上げられし屍人の山。地を埋め尽くす物言わぬ骸。我が命が果てるのは今日か、明日か。地上の炎は慈悲なく命を焼き尽くす。末法の世に救いはあるや有りや無しや。ならば我が全てを救おう。その慈悲なる炎を以って全ての生きとし生ける命を救済しよう。今、審判の喇叭は吹き鳴らされた! 灰は灰に、塵は塵に、万象等しく灰塵に帰し、地上は救済の白き炎に包まれる! 破壊の魔の奔流を我が手に宿せ! 聖爆灰燼裂罪セイクリッド・ノヴァ・エクスプロージョン!!」


 『大地を砕く勝利の剣アース・カリバーン』を構え、立ち塞がったターニャが詠唱を終えると、無数の聖なる輝きを放って深紅の魔法陣が形成され、巨大な聖なる輝きを放つ灼熱の火球が放たれる。

 火球は魔物の群れに向かって飛んでいき、命中と同時に大爆発を引き起こした。


 この聖属性爆裂魔法「聖爆灰燼裂罪セイクリッド・ノヴァ・エクスプロージョン」は聖人に至ったターニャが開発したオリジナル魔法である。

 消費魔力は「灰燼爆裂エクスプロージョン」の比ではないが、その分威力も高い。


 今回は実戦で使用した場合の効果を測る実験を兼ねた発動だった。流石に連発はできないため、「聖爆灰燼裂罪セイクリッド・ノヴァ・エクスプロージョン・斬」の威力を確認した後は「灰燼爆裂エクスプロージョン・斬」やそれ以外の比較的魔力消費の少ない魔法で魔物達を討伐していく。

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