Act.9-4 バトル・アイランドのお披露目 scene.3 上

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


「お疲れ様……まあ、初戦にしてはよく戦えていた方じゃないかな?」


「……少し前に来たラインヴェルド陛下達一行はゲームマスターブックス全滅させて、私も敗北しましたけどね」


 うん、落ち込まないようにフォローしようと思ったのに、まさか小筆がトドメを刺すとは。というか、やっぱりラインヴェルド達も挑戦したのか。


「……聞いていないわ、こんなに強くなっているなんて。あの戦争が終わってからまだそんなに経っていないわよ!?」


「黒華さん、私には数ヶ月の時間が過ぎているような気がします」


「……まあ、実際は数週間程度だけどねぇ。まあ、それだけ強化プログラムが濃密だったってことかな? でも、『小筆さん強くなっていて凄いわ!』じゃダメだからねぇ? あの戦争で分かったと思うけど、相手によってはそれこそこの国の中枢が一瞬で吹っ飛ぶような強敵なんだよ」


「……今更だけど、私達って一体何に戦争吹っかけようとしていたのかしら?」


 黒華達が揃ってブルブル震えている。……ってか、強気な篝火まで震えるってどういうこと!?


「この様子だと、魔法の国との戦争前に一回全員鍛え直した方がいいかもしれないねぇ。……とりあえず、各自闘気と八技を習得するように。魔法少女の力と天恵の実の力ばかり頼っていると勝てない敵っていうものが出てくるからねぇ。とりあえず、第二第三の刃を研いでおくのが重要なんだよ。手札は多い方がいいからねぇ」


 まあ、黒華達も戦う意志があるのだから指針を示せばそれぞれのペースで闘気や八技の習得、それ以外の戦闘技術についても手を出していくと思う。

 あの戦争が終わってから時間があまり経っていなくて、新たな技能習得のために時間を掛けられていないだけなんじゃないかな?


 ただ、そんなに時間を掛けていられないのも事実。黒華達と手を組んだことは知られているし、那由多彼方やオルタ=ティブロンは魔法の国への襲撃の可能性を危惧して動く筈……これまで落とされたいないことを考えると簡単に魔法の国を落とせないとは思うけど、あんまりゆっくりしてはいられない。


 臨時班の選定もそろそろしないといけないけど、今回は戦争後に仲間になった面々を多く採用して実戦力を見定めようと思っている。

 主となって動くことが決まっている黒華達は勿論のこと、天恵の巫女達にもある程度の強さになってもらわないといけないねぇ。

 まあ、参加予定者達は皆戦闘経験者で下地はあるから、恐らく闘気と八技の習得による補強がメインにはなるんだけど。


 みんなが短期間でどれくらい強くなるのか、ボクも実は楽しみなんだよねぇ。



 次に向かったのはバトル・サブウェイだ。こっそりと拡張した(藍晶には事後報告。教えたら『私にも手伝わせて欲しかったです』って恨めしそうに言われてしまった。まあ、急ぎだったからボクがやった方が早いと仕事を進めたことは理解してくれていたから最終的には納得してくれたけどねぇ)地下鉄のバトル・アイランド駅も兼ねているこの施設は、その名の通り、地下鉄の中で戦闘を繰り広げることができる。


 電車の中は当然ながら揺れる。その中で戦うというのは、通常の戦闘よりも遥かに過酷……この施設ではどんな状況にも適応できる適応力が身につく……のではないかと思って作った。

 この施設は、バトル・アイランドの施設の中では最高難易度を誇る。それは、揺れる電車の中だから……ではなく。


「紹介するよ。バトル・サブウェイの施設長アイランド・ブレイン――地下鉄車掌サブウェイ・コンダクターの宙乃さんと時乃さんだ。二人は創世級ジェネシスの双剣――『統時空の双神剣アブソリュート・ツインソトホート』から生まれた琉璃達と同じような存在で、生まれて間もないけど強さは保証するよ」


『『初めまして、皆様』』『宙乃ソラノと――』『時乃トキノですわ』『『――以後、お見知り置きくださいませ』』


「お初にお目に掛かります、宙乃様、時乃様。ソフィス=アクアマリンと申しますわ」


「ルーネス=フォルトナと申します。こちらは弟のサレム=フォルトナとアインス=フォルトナです。お見知り置きください」


 ソフィスとルーネス達が誰よりも先に宙乃と時乃に挨拶をした。四人には今後を見据えて宙乃達と良好な関係を築いておこうという思惑があるのだろう。

 純粋に仲良くしたいという気持ちはあるのだろうけど、従魔達と良好な関係を気づいておくことで外堀を埋めたいという思惑もあるんじゃないかな?


 最近、スティーリアとソフィスも情報交換をしているようだし、ネストもフォルトナの三王子と情報を交換しているらしい。……まあ、仮に月紫さんに告白を受け入れてもらって、その上でソフィスさん達の好意を受け取ることが許されるのなら、好きな人達に歪みあって欲しくはないからねぇ。


「今回は折角なのでダブルトレイン、宙乃さんと時乃さんと同時に戦って頂きましょう。メンバーは……立候補して頂きましょうか?」


「私、お二人に挑んでみたいですわ」


 真っ先に立候補したのはソフィス。今回の相手が時空属性の使い手であると知って躊躇いを覚える中、何の躊躇いもなく手を上げた。

 流石にソフィスが挙げて自分達が挙げないのはまずいと判断したのだろう、別の施設で立候補する気だったルーネス達も追随しようとしたけど、その前に手を挙げたのは黒華だった。


「私も時間属性使いの端くれよ。時空属性の使い手が相手と聞いたら戦わない訳にはいかないわ」


「決まりだねぇ。それじゃあ、早速地下鉄に乗り込もうか」


 ボク達は地下へと降りて行き、戦闘用の地下鉄に乗り込む。

 ボク達は控室車両に乗り込んでモニターで観戦、ソフィスと黒華は案内役(ちなみに、バトル・サブウェイの職員はみんな駅員の格好をしている)に案内され、戦闘用の車両に乗り込んだ。



<三人称全知視点>


 揺れる車内。戦闘には極めて不向きの環境だ。

 そもそも、ソフィスは電車に乗った経験はない。黒華は魔法少女となってからも電車を利用した経験はあるが、電車の中を丸々戦闘施設として利用しようと考えたことはなく、また、電車の内部での戦闘も想定したことは無かった。


『『ご乗車頂きまして、誠にありがとうございます。車掌の』』『宙乃と』『時乃です』『『さて、次の目的地ですがお二人の実力で決めたいと思います。自分の力をどこまで知っているのか、どんな相手にも自分を貫けるか。勝利、もしくは、敗北――どちらの終点に到着するのか! それでは、出発進行です!!』』


 開始早々、誰よりも早く動いたのはソフィスだった。


「陰陽陣」


 ソフィスを金色に輝く光の炎と、漆黒に燃える闇の炎が包みこむ。

 半円状に燃え上がり、ソフィスを囲む聖属性と闇属性の炎は鎮火し、聖属性と闇属性を象徴する半円の魔法陣が一体となった陰陽の魔法陣を形成した。


「『スターチス・レコード』における私の全力――まずは挨拶代わりに食らってください! ハイドロデリュージ・カレントバースト」


 ソフィスの手から激流が放たれる。「激流が襲い掛かる」というスキルカードを設置する効果のあるソフィス=アクアマリンがレベル99で習得する固有最上級水魔法だ。

 そう、最上級というだけあって威力は高い。『スターチス・レコード』という世界が崩壊したことでそれ以上の魔法を生み出すこともできるようになったが、そういった魔法に比べても圧倒的に使用魔力が少数で済む。まさに、選ばれし者のための魔法である。


 だが、それはソフィスにとっては軽いジャブでしかないようで――。


『時空斬り』『異空飛ばし』


 時乃が時間の魔力を凝縮して作り出した剣で激流を切り裂き、宙乃が切り裂いた激流を丸ごと異空間に飛ばしてもソフィスは顔色一つ変えなかった。


「時間停止!」


 直後、黒華の持つ砂時計付きの盾がひっくり返り、時間が停止した。

 刻曜黒華は時空操作の力を持つ。その魔法は大きく二つの媒介によって発動できる。一つは二丁拳銃型のデバイス「時撃の左銃クロノス・ウルズ」と「|時撃の右銃クロノス・スクルド」、そしてこの砂時計付きの盾である「時停の盾クロノス・ヴェルザンディ」だ。


 盾を傾けることで魔法を発動し、時間を停止させることができる。

 時間を停止されてしまえば動くことはできない。「自分に対する攻撃を全て無力化し、一方的な干渉を可能とする」という無敵の力を持つQueen of Heartには効果がないが、それ以外の魔法少女に対しては一方的な蹂躙が可能な魔法であり、黒華が人間離れした魔法少女達を束ねる黒の使徒のリーダーを務めることができた理由でもある。


『そんな魔法が通用すると思っていたのですか?』


『私達は時空そのもの』


『『私達に時空操作は通用しません』』


 時を止めた世界を宙乃と時乃は平然と歩いていた。

 更に時を止められている筈のソフィスも手をゆっくりと動かして宙乃に狙いを定めて魔法を放とうとしている。


「相手が時空属性の使い手だと分かっていたら、普通対策しますよね? 時間解脱魔法-クロック・エスケープ-、圓様の魔法です。今の私に時間魔法は効きませんよ?」


 この瞬間、黒華は悟った。この場に、黒華の魔法が通用する相手は誰もいないことを。

 数多の魔法少女を葬ってきた無敵の時空魔法。しかし、それは時空騎士クロノス・マスター達ならば誰でも無効化できる魔法だった。

 こんなことを知っていれば、ブライトネス王国に戦争など仕掛けなかった。圓が慈悲ある人間だったから今も命を繋いでいるが……もし、そうでなければ。


「第二の刃、磨くべきね」


「時空魔法だけで猛者になれるほど世の中甘くありませんからね。……もしくは、霸気に賭けてみるのはどうでしょうか?」


「……霸気に、ですか?」


「えぇ、その時空魔法が黒華さんの唯一の刃ならば、魂の形そのものならば、もしかしたらその刃を時空魔法の通用しない相手に通用させることができるかもしれません。……正直、確信はありませんが」


 ソフィスのアドバイスは黒華に希望を見せた。もしかしたら、自分の魔法が通じるようになるかもしれない。

 第二の刃という話を聞いてもイマイチビジョンが浮かばなかった黒華はその時、自分の目指すべきものが見えた気がした。

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