百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.9-5 バトル・アイランドのお披露目 scene.3 下
Act.9-5 バトル・アイランドのお披露目 scene.3 下
<三人称全知視点>
「ダークマター・エピゴーネン! ホーリーマター・エピゴーネン!」
だが、宙乃と時乃も見え透いた狙いの攻撃でやられるような鍛え方はしていない。
ソフィスの攻撃を躱すと宙乃と時乃は同時に武装闘気で武器を作り上げた。
武器に覇王の霸気を纏って攻撃を仕掛ける二人に、ソフィスも武装闘気を纏わせた剣で応戦する……が、その剣技はやはり拙い。
武の心得がない、伯爵家の令嬢として育てられてきたソフィスが剣を扱えているだけでも凄いことだ。しかし、それは戦闘経験の少ない、本来ならば戦いに身を投じないまま貴族と結婚し、子を成す貴族令嬢としては……という話である。
しかし、ソフィスはそれで問題ないと考えた。覇王の霸気のおかげで両者の剣は拮抗し、漆黒の稲妻を迸らせている。
「ブラックホールフラグメント・エピゴーネン」
『――ッ!? まさか、圓様の!?』
素早く時空魔法で転移し、間一髪で小さなブラックホールを回避した宙乃と時乃。
二人の額を汗が伝う。まさか、ダークマター以外にもローザの魔法を習得しているとは思わなかったのである。
……まあ、実際はフェイクのフェイク魔法だが。
「まだ攻撃は終わりではありません! イービルストーム・エピゴーネン!!」
ソフィスの人差し指から闇の魔力の奔流が解き放たれる。
宙乃と時乃は攻撃を躱し切れずに浴びたが、ソフィスの予想した通り宙乃と時乃を倒し切れる威力は無かった。
一方、時空魔法が一切通用しないと分かった黒華は盾の中に保存していた銃火器コレクションから「アキュラシーインターナショナル AW50」を取り出して構える。
『見え透いた攻撃です!
しかし、攻撃を仕掛ける前に黒華の身体は一瞬にして吹き飛ばされ、ポリゴン化する間も無く消滅する。
黒華が対物ライフルを構えていることに気づいた時乃がアイオーン系の魔物、アザトホート系の魔物、ヨグ=ソトホート系統が習得可能な敵対象を巻き込んで時空連続体を爆破する「
「
ソフィスは聖属性獲得者に圓が贈った奥義級の聖属性魔法を発動し、猛烈な聖なる光を凝縮して一つの
これで宙乃と時乃を倒せるのではないかと甘い考えを持っていたソフィスは、光条を浴びても撃破には至らず、ボロボロになりながらも決して光を失わない宙乃と時乃を見て覚悟を決めた。
「このままでは勝ち目がありませんわね。……使わせて頂きますわ、私の魂魄の霸気――《黒百合》の力を」
◆
「魂魄の
宙乃と時乃の額を汗が伝った。ソフィスの色素の薄い白い髪が黒く染まっていき、真紅の瞳は益々濃くなって行く。
犬歯が成長していき、まるで吸血鬼の牙を思わせるものへと変化した。
かつて、ソフィスはその容姿から「呪われた子」と呼ばれていた。それは、有能な宰相アーネストを妬んでという理由もあったが、それ以上に「老人のように白い髪に血のように赤い瞳」と自嘲するその髪と瞳の色が珍しい形質であったことも影響している。
特に赤い瞳は大陸共通で気味が悪いと忌み嫌われている節があり、オニキス=コールサックが怯えられる要因ともなっている(まあ、実際に会ってみると噂のような人間ではないと思われることが多いようだが)。
そんなソフィスに、ローザはリーリエの姿を見せ、ソフィスが呪われた存在ではないと、もっと恐ろしい存在は他にいるのだと、自ら吸血姫の姿を見せてソフィス達に教えた。
ソフィス達に嫌われることを、恐れられることを承知の上で、それでもソフィスを勇気付けるために。
それが、正しい選択だったとソフィスは思わない。もっと他にやり方はあったのではないか? もっと自分が傷付かずに済む方法があったのではないかと。
圓は器用そうに見えて実は不器用な人間なのだと、一緒に過ごしている中で少しずつソフィスは分かってきた。
ソフィスにとって、その吸血姫は恐ろしい化け物ではない。自分が恐れられる可能性を理解しながらも、それでもソフィスを勇気付けようとした一人の不器用な人間の姿であり、ソフィスにとって掛け替えのない思い出だ。
あの日、ソフィスは生まれ変わった。臆病だった自分から、勇気を持って外界に一歩を踏み出せる存在へと。
この力は、そのソフィスの魂。ソフィス=アクアマリンという人間の根幹にある、最も大切な思い出の結晶だ。
「私の魂魄の霸気の効果は二つ。一つは、自らを吸血姫へと変える《黒百合の眷属》、そして、もう一つは
吸血鬼には血液を操る能力がある。その力を利用して体内の血管を走る血液を加速させ、爆発的な瞬発力を得るのである。
勿論、その対価は大きい。使用中は常人ならば心臓が張り裂けてしまう程の高血圧になるが、ソフィスは吸血鬼の身体の頑丈さに加えて体内に武装闘気を纏うことでそのデメリットを無くしている。
ソフィスの速度が加速し、次の瞬間には武装闘気と覇王の霸気を纏った拳で時乃を吹き飛ばしていた。
殴られた時乃は違和感を感じ、次の瞬間に咳き込んだ。血液の代わりに真っ赤な極小のポリゴンを吐き出す。
「ダークマター・フェルシュングですわ」
粒子のように細かい暗黒物質を殴った瞬間にソフィスは時乃に流し込んだのだ。
ソフィスが構築したフェイク魔法の一種で、本来は細かいダークマター粒子を相手に吸い込ませることで細かいダークマター粒子を体内に留まらせてダメージを与え続ける、『スターチス・レコード』風に言えば「ダークマター・パーティクル」のスキルカードを設置する魔法だ。
……基本的には呼吸器付近の座標を指定して発動する魔法なので、この使用方法はやや応用寄りではあるのだが。
ちなみに、体内を指定して魔法の発動はできないため、このような回りくどい方法を取る必要がある。
「ダークマター・エピゴーネン! ホーリーマター・エピゴーネン!」
更にダメ押しをするかのように暗黒物質と、暗黒物質を反転させた明煌物質を同時に時乃に浴びせる。
流石の時乃も相次ぐ猛攻を浴びて肉体が耐えきれず無数のポリゴンとなって消滅する……が。
『魂魄の
宙乃が魂魄の霸気(宙乃と時乃は双剣から生まれた存在で二人で一つのため、魂魄の霸気も共有しており、宙乃と時乃の魂魄の霸気と言った方が正確である)の派生で時空魔法の影響を受けない相手にも時空属性攻撃のダメージを与える《時空耐性貫通》を付与した「
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア>
「お疲れ様……うーん、黒華さんはこの戦いで課題が見えただろうし、特にボクから追加で言うことはないかな? そして、ソフィスさんはなかなかの戦いっぷりだったと思うよ。まさか、時乃に勝っちゃうとは思わなかったからねぇ。いくつか新しい魔法を思いつけたし、ボクとしてもなかなか実りがある戦いだった」
「お役に立てて光栄ですわ」
「宙乃さんと時乃さんもお疲れ様」
『……今回の戦い、少し油断がありました』
『もっと精進しなくてはなりませんね』
「真面目だねぇ。……しかし、猛者同士の戦いは見応えがあっていいねぇ。ラインヴェルド陛下達じゃないけど少し身体を動かしたくなってきたよ」
まあ、今日はボクが誰かと手合わせするつもりはないと思うけどねぇ。
バトル・サブウェイを後にし、次に向かったのはバトル・ルーレットだ。
カジノをイメージした施設で、丁度中央にあるバトルフィールドの目の前には巨大なルーレットが設置されている。
そのルーレットの結果によってバトルの状況が変わるというギャンブル性を含んだ施設……なんだけど、実はカジノとしても運用可能でこの施設で手に入れたポイントを使って遊べたりするんだよねぇ。
バトル・アイランドでは手に入れたポイントを消費して買い物をすることができる。
というか、バトル・アイランドでは基本的に外の世界の通貨はほとんど使えない。……まあ、島にあるほとんどの飲食店では使用可能になっているけど、その店もポイントが併用可能になっている。まあ、ポイントはこの島だけで通じる通貨みたいなものだということだねぇ。
各施設には挑戦料がかかるけど、これも多種族の共通通貨とポイントが併用可能。つまり、勝ち続ければこの島だけで暮らして行くことも理論上はできる。……流石に二十四時間営業じゃないし、ホテルもないから暮らしていけるというのは言い過ぎかもしれないけど。
勿論、この島だけでしか取り扱っていないものとか、バトル以外の特別な施設なんてものもあるけど、その紹介は施設を回り切った後のお楽しみということで。
「お疲れ様です……お疲れ様です? 大して疲れてないようですねぇ、フィーロさん。というか、日の高いうちから酒とかなめているんですか?」
「別に、そんな訳じゃ……ひっく、無いのよ?」
「説得力ありませんねぇ。……ということで、お分かりだと思いますが、今から
「ひっく……えっ、もしかして、ひっく……へっぐ、五人連戦です……ひっく……か?」
「勿論ですよ? ほら、余裕なフィーロさんなら五人くらい楽勝で倒せますよね?」
「――む!? 無理に決まっているでしょ!?」
あっ、衝撃で酔いが覚めたみたいだねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます