百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.9-3 バトル・アイランドのお披露目 scene.2 下
Act.9-3 バトル・アイランドのお披露目 scene.2 下
<三人称全知視点>
「
素早く筆を走らせ、小筆が魔法のキャンバスに書き上げたのは一つの砲台だった。
「小筆さんの魔法は魔法の絵画でどんなものでも具現化してしまうというものです。その力で具現化したのは、【リボンの魔術師】と呼ばれるその力で絹紐美結さんのリボン魔法で作り出した魔法の銃火器……その中でも特に威力の高い砲台です! あの砲台からは極太のビームが放たれます!!」
「では、咲良坂さんのお望み通り……
雪菜、桃花、美姫、天音、アルベルトは素早く回避行動に移り、一射目の攻撃を躱すことに成功する。
魔法一発の威力に耐えられなかったのか、将又一発分の力しか込められていなかったのか、「
「とりあえず、一射目は躱せましたね。今のうちに攻撃を仕掛けましょう」
そう言いながらアルベルトはゲームマスターブックスに迫る。他のメンバーも全員、狙う個体は違うがゲームマスターブックス達に狙いを定めた。
しかし、アルベルト達が攻撃する前にゲームマスターブックス達が攻撃を仕掛けてくる。
『『『『あなた方の運を示してください』』』』
アルベルト達に向かって緑色のエネルギー弾が次々と放たれる。その数はそれぞれに四つ――アルベルトは習得していた見気を使って回避したが、雪菜、桃花、美姫、天音の四人は直撃で浴びた。
どうやら、一撃でやられるほどの威力は無かったらしい……が。
「……サイコロですね?」
「サイコロ……いつの間に!?」
「これ、サイコロよね?」
「サイコロですわ」
「サイコロ……のようですね」
攻撃を浴びなかったアルベルトも、それ以外の面々も一様にいつの間にか手にサイコロを四つ握っていた。
「ゲームマスターブックスはその通りゲームマスター……TRPGでしたっけ? ゲームを取り仕切るゲームマスターをモデルにしているそうです。今のは『あなた方の運を示してください』という技でサイコロを振って出た目に応じて技名が変わります。基本的にサイコロが出たら振ってください。まあ、振らなければ勝手に転がって出た目になりますが」
サイコロを振った結果、雪菜が三・六・二・五、桃花が四・五・三・一、美姫が四・五・二・四、天音が一・六・二・五、アルベルトが一・五、一、六を出した。
『運を示すことに失敗! 力が上昇する』
『運を示すことに大成功!』
『運を示すことに失敗! 魔力が上昇する』
『運を示すことに成功!』
雪菜、桃花、美姫、天音、アルベルトの攻撃力と魔法攻撃力が上昇すると同時に、小筆とゲームマスターブックス達の攻撃力と魔法攻撃力と防御力と魔法防御力が上昇した。
「大成功一回、成功一回、失敗二回……この人数でなかなか運がいいですね」
「……小筆さん、この成功と失敗を分ける条件は何なのかしら?」
「申し訳ございません。桃花さんの質問でもこの施設のギミックに関する情報はお答えしてはならないことになっています。……ギミックに関する情報交換は禁止されていませんので、挑戦者同士で情報交換をするといいと思います」
「……これは、圓さんに聞いても教えてくれなさそうですね」
「それに、これは私の考えですが、ギミックが分かっていて勝ち筋も見えているならば、それはもう作業ではないでしょうか? 一つ一つ自分の足で探して、物語に触れて、そうしてこの施設で沢山の新しい景色に出会って頂けたらと思います」
重要なのは結果……だけではなく、過程もである。寧ろ、その過程の方が重要な場合が多い。
過程での苦労が、その先で辿り着くものをより尊いものにしてくれる。
確かに、バトル・アイランドにおいて、このバトル・ライブラリーの効率は最悪である。だが、この施設でしか味わえないものがあると感じて、信じて小筆はこの施設のトップを引き受けたのだ。
◆
「
十六夜天音の食べた「音響の天恵」は音響操作の効果を持つ。
横笛によって発生させた音を自在に操るというものであるが、その使い方は千の音が奏でられるという特殊な横笛を使用して、奏でた音から連想できる物理現象を引き起こすというものである。
その攻撃範囲は音の聞こえる範囲で、相手に音が聞こえているかどうかは関係ない。
その攻撃が音が聞こえる範囲の狙った位置に音速で届くというなかなか厄介な能力である。
天音は小筆とゲームマスターブックス四体を同時に狙った。その全てが命中したが、小筆は全身に武装闘気を纏って攻撃を無効化しており、ゲームマスターブックス四体もあまりダメージを受けている印象はない。
「……やっぱり威力が低いのがネックですわね」
だが、天音の攻撃にも弱点がある。それは、威力自体が低いこと。
攻撃の範囲が広く当て易い代わりに一撃で致命傷を与えるのも難しいというローリスク・ローリターンな能力である。
圓は闘気を組み合わせることで攻撃自体の強化ができるんじゃないかと提案したので、闘気習得に励んでいるが、まだ習得には至っていない。
「
美姫は「極寒の天恵」の力を使って靴に氷のブレイドを作り出すと同時に触れている床を凍り付かせ、アイスダンスを踊るように滑り出す。
冷気を使って氷の銃を造形すると、床を滑りながら的確に狙いを定め、小筆達に氷の弾丸を放った。
美姫にとって、アイススケートリンクはまさに自身のホームグラウンドである。
世界で唯一四回転アクセルを飛ぶことができるフィギュアスケーターである美姫にとって、氷上を滑りながら敵に狙いを定めて銃を撃つなど造作もない。それに、氷の銃による氷の弾丸の射出は通常の銃のように反動もほとんどないため、滑りに支障が出ることもない。
だが、こちらも闘気を纏った攻撃ではないため攻撃の威力は薄い。「極寒の天恵」の力をフルで使えば生命が生存できないほどの極寒を作り出すことができるが(その場合、美姫自身もかなり消耗する)、それをすれば雪菜、桃花、天音、アルベルトにも被害が及ぶ。チーム戦で取るべき戦法ではない。
一方、雪菜、桃花、アルベルトもそれぞれゲームマスターブックス達に狙いを定めていた。
五対五、この均衡を崩すことができなければ雪菜達に勝利はない。
雪菜は先輩魔法少女の相棒だった白い薙刀を構え、ゲームマスターブックスに斬撃を放つ。
アルベルトも武装闘気を纏わせた剣で雪菜とは別のゲームマスターブックスに斬撃を浴びせた。
「
桃花も桜の花弁状の桃色のエネルギーを収束して極太レーザーを放つがゲームマスターブックスの打倒には至らない。
『GMの単体物理攻撃』
『マジックブラスト』
『GMの全体魔法攻撃』
ゲームマスターブックス達もただ雪菜達の攻撃を黙って見ていた訳ではない。
一体目のゲームマスターブックスが桃花に接近して物理攻撃を浴びせ、二体目のゲームマスターブックスが緑のエネルギー弾を雪菜、桃花、美姫、天音、アルベルト――全員に向けてて放つと共に自身の魔法攻撃力を上昇させた。
更に、三体目のゲームマスターブックスが緑のエネルギー弾を放ってくる。二体目が放った追加効果ありのエネルギー弾は桃花、美姫、天音が直撃を浴び、追加効果無しの二発目のエネルギー弾は雪菜、桃花、美姫、天音の四人に命中した。
そして、四体目のゲームマスターブックスは……。
『運命のダイスロール(一回目)』
桃花の「
嫌な予感がしていたアルベルト達――そして、その予感は見事に的中する。
『少々本気を出させて頂きます』
橙色のエネルギー弾がアルベルト達に放たれた。これまでの攻撃とは明らかに速度の違い過ぎる強攻撃を浴び、美姫と天音がポリゴンと化して戦場から消え去る。
アルベルトは武装闘気を一点集中させることで耐えたが雪菜と桃花は満身創痍だ。
そして、次の瞬間、桃花が戦場から姿を消す。
「……スキルカードですか」
スキルカード……アルベルトが想いを寄せる圓が使用する魔法の中にその効果を発揮するものがいくつかある。
何らかの追加効果を発揮するもので、一定時間ごとに回復や回避不能の攻撃が飛んでくるなど、魔法ごとにその効果は違う。
圓の使用する魔法であれば、「ミアズマ」系統の魔法と「ダークマター・パーマネント」が挙げられる。どちらも、アルベルトからしてみれば恐ろしい効果の魔法だ。
「このまま放っておいてもスキルカードの効果でゲームオーバーになるでしょうが、このままただ敗北するので面白くありません。
アルベルトは刮目する。目の前に現れた圧倒的な覇気を纏ったその存在を目撃して。
纏う気配もその姿もそっくりだった。勝てる筈がないとアルベルトは直感し、後退り……それでも、ここで引いてはならないと気を引き締め直して正対する。
小筆の仲間である桃花達も見たことがない新魔法――そして、新たに習得した今までの小筆の魔法とは一線を画す力。
世界最強の剣士――アネモネ。
アルベルトの願いを叶えるためにはいずれは越えなければならない壁だ。アルベルトの最愛の人を守りたいと思うのならば、当然最愛の人よりも――圓よりも強くならなければならないからだ。
アルベルトの感覚が悲鳴を上げる。何度も警鐘を鳴らす。――このままでは、お前、死ぬぞ、と。
時期尚早、それは分かっている。だが、ここで引く訳にはいかない。
「――世界最強の頂き、届かせて見せます」
「いい顔ですね。そう来なくて。さあ、私の最高傑作――どうぞ超えてください」
無表情のアネモネは一瞬にしてアルベルトと距離を詰め、翼のように広げた双剣から不可視の斬撃を放ってきた。
剣の鋒など捉えられる訳がない。残像も見えない……辛うじて擦過した大気の煌めきを捉えられるのがせいぜい。ならば、見る必要はない。
我武者羅に、感覚だけでアルベルトはアネモネの一太刀を受け止めた。
アネモネを描いた小筆と本の外で観戦していた圓が同時に刮目する。
『……へぇ、中身の伴っていないアルベルトを倒すアネモネの構図とはいえ、あれを受け止めるとはねぇ。成長しているってことかな? どこかの誰かさんと違って』
『それはどういうことだ! ローザ!!』
『ローザ様、ですわよ? 学習能力のない脳筋騎士様』
ギルデロイが地雷を踏んでソフィス、ルーネス、サレム、アインスにボコボコにされるという一幕もあった。その光景を圓は「やっぱり学習能力がないよねぇ。というか、本当に次期剣聖(笑)だよねぇ。それでよくボクに告白できたよ」と冷笑を浮かべながら見ていた。
この戦いでソフィス達はアルベルトそことを僅かばかり見直し、放置しておいては危険な存在だと警戒を強めることになる。
しかし、アルベルトの攻撃はアネモネには届かない。防げたのは一度目だけ――二度目の斬撃がアルベルトに袈裟懸けの傷を残し、傷口からポリゴンが溢れ出し、耐えきれなくなったアルベルトの身体は砕け散って、アルベルトの身体を構成していたポリゴンが四散した。
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