Act.9-2 バトル・アイランドのお披露目 scene.2 上

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


「ここがバトル・アリーナですか……これは、また壮観ですね」


 大倭秋津洲の競技場スタジアムをモデルにしたバトル・アリーナを見てアルベルトが感嘆の声を漏らしている。

 鋼鉄製の柱が印象的なドーム状の施設が九つと、そのドーム同士を繋ぐ廊下と観戦用の部屋、受付などが中継区間によって構成されているのがこのバトル・アリーナ。


 競技場スタジアムは一つ一つにしっかりと観客席も用意されていて、急拵えで作ったとは思えないほど快適に観戦できるように設計されているけど、正直、ボクは競技場スタジアムでの観戦はお勧めしていない。

 バトル・アリーナは勿論、多目的に利用できる施設だけど、その主たる利用目的は八大タイトル戦を行うためだ。

 そして、この八大タイトル戦はとにかく参加者が多くなることが予想される。……これから各タイトルごとに条件が付け足されて差別化されていく予定だけど、現時点ではどれも条件さえ満たせば全員参加できるようになっている。称号がトーナメントで勝ち抜き、その後のタイトル防衛戦でタイトル保有者に勝利できれば手に入るとなれば各地から挑戦者が現れる可能性も高い。……予選とかについてはまた別途方法を検討した方がいいかもしれないねぇ。現時点ではどれくらい挑戦者が現れるかも確固たる数字が分かっていない状況だし。


「バトル・アリーナを訪れたら、折角だからスタジアムで観戦したいと思うかもしれませんが、ボクは正直お勧めしません。この会場では同時に最大で九つの試合が行われるからです。そこで、全ての試合の観戦ができるようにこの中継エリアには九つの試合全てを同時に観戦できるようにモニターを九台設置した観戦スペースを大小合わせて全部で三百室設置しています。うち、二十室は選手の控室も兼ねています。とりあえず、各タイトルの条件を確認してみましょうか?」


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・剣帝戦……九番勝負。あらゆる特殊能力の使用禁止。純粋剣技のみ。毎年一月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は連続五期または通算十期。


・剣聖戦……五番勝負。聖属性、神聖属性魔法を必ず使用しなければならない。毎年三月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は連続五期または通算七期。


・剣座戦……五番勝負。剣を得物として使いさえすれば良い。毎年四月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は通算五期。


・剣鬼戦……七番勝負。剣を得物として使いさえすれば良い。毎年六月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は連続五期。


・勇剣戦……五番勝負。剣を得物として使いさえすれば良い。 毎年七月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は連続五期または通算十期。


・剣将戦……七番勝負。剣を得物として使いさえすれば良い。毎年九月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は連続五期または通算十期。


・叡剣戦……五番勝負。剣を得物として使いさえすれば良い。毎年十月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は連続五期または通算十期。


・黎剣戦……七番勝負。必ず武装闘気を使用して戦わなければならない。毎年十一月からトーナメントを行い、その後タイトル保有者との試合を行う。永世称号は通算十期。

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「なっ!? 剣聖戦の条件が聖属性と神聖属性の魔法を使わなければならぬとはどういうことだ!?」


「ギルデロイさん、何言ってんですか? 阿呆なんですか? 元々剣聖技は聖属性魔法と剣技を融合したものです。アルベルトさんの剣技もギルデロイさんの剣技も聖属性の要素を外したただの剣技です。『剣聖』の称号が欲しければとっとと聖属性習得してください」


「……はい」


 ギルデロイに言ったんだけど、アルベルトが大ダメージ食らっているねぇ。ギルデロイの方は「ルールを変えろ!!」って抗議の声がうるさい。……ミンチにしてやろうか?


「というか、そんなに称号欲しいなら別の称号狙えばどうですか? 剣帝戦、剣聖戦、黎剣戦以外は条件ないですし」


「……剣帝戦は難しそうですが、それ以外はやりようによっては勝てそうですね」


 サレム達が何やら作戦会議をしているようだ……まあ、ルーネス、サレム、アインスは剣の研鑽を積んできているみたいだけど、まだまだ歴戦の強者共相手じゃ厳しいだろうからねぇ。


 ……ソフィスは少し不満そうな顔をしている。ボクにいいところを見せたいと思うけど、剣については素人で参加できる資格がないのが悔しいのかな? まあ、剣だけが戦う術じゃないし、人によって戦い方は千差万別でいいと思うんだけどねぇ。


「今回のメンバーには剣の使い手がほとんど居ませんし、またタイトル戦が始まれば改めて説明することになりますから今回はここまでにして次の施設に参りましょうか?」



 続いてやってきたのはバトル・ライブラリー。

 その名の通り受付も含めて本棚が溢れ、まるで図書館のような場所だ。


 受付にいるのは、ビオラ中央図書館の司書達の制服の色違い(ビオラ中央図書館の司書達の制服は濃紺、バトル・ライブラリーの受付の制服は深緑色)の制服を纏った者達。

 他の施設同様ビオラ商会合同会社の社員で、今回、バトル・アイランドの新設に伴い各所から異動してもらった。

 その中でもバトル・ライブラリーの受付では、ビオラ中央図書館で働いていた人達をメインで採用している。


 この施設では、挑戦者の希望を聞き、その希望にあった本を選ぶ必要がある。

 各本について熟知している必要はあるし、司書の仕事と似ていることがあるから司書の経験がある人の方が向いているんだよねぇ。

 ……他の施設は受付が施設の説明だけすればいいから、別に前の業種が何であっても問題はないんだけど。


「ようこそお越しくださいました、皆様」


「まさか、小筆……アンタが黒華さんに内緒でローザの仕事を引き受けるなんて思っても見なかったわ」


「ローザ様、ですよ?」


 ボクを呼び捨てにした結果、ソフィス達から睨まれる篝火……気持ちは嬉しいけど、正直、篝火達から様付けで呼ばれるのはなんだか違うと思うんだよねぇ。いいんじゃない、別に呼び方なんて……って思うけど、ソフィス達的には許せないのかな?

 しかし、気の強い篝火が涙目になるなんてびっくりだねぇ……ソフィス、強くなり過ぎじゃない? ヤンデレ化進行中だねぇ。まあ、どんなに重い愛でもボクは受け止められる自信あるけど。


「黒華様と圓さんが同盟を組んでいるので、仕事を引き受けてもいいかと思いました。それに、正直そういうのが無くても引き受けたいなと思う仕事だったので……最終決定をする前に実際に遊んでみましたが、本の世界での冒険はドキドキの連続で面白かったんです。……まあ、他の施設に比べて効率はかなり悪いですが」


「その分一周は三部屋と他より少なく設定したけどねぇ。……そうだ、折角だしちょっと体験してみたらいいんじゃないかな?」


「圓さん、いくら内部と外部の時間が違うと言っても流石に丸々一冊やるのはやめておいた方がいいと思います。この後、他の施設も見て回るのですよね?」


「勿論、通常の方じゃなくて、どういう施設なのかを手っ取り早く把握してもらいたいからねぇ。……そこで、一冊本を用意させてもらった。本来、バトル・ライブラリーは一人プレイの施設なんだけど、今回は……そうだねぇ、五人が良いかな?」


「五人……ですか? 流石に私一人で五人は……」


「ゲームマスターブックスを四体ボスキャラに設定しておいた。これで五対五だよ」


「ありがとうございます。……足を引っ張らないように頑張ります」


 施設長アイランド・ブレインの方がゲームマスターブックスより強いんだけど、足を引っ張らないようにって……みっちり鍛えた筈だけどもしかしてあんまり強くなった実感ないのかな? 小筆は謙遜するタイプじゃないし。


 挑戦者は雪菜、桃花、美姫、天音、アルベルトの五人に決まった。


「それでは、これより挑戦者五人と【幻想司書長ファンタジック・ライブラリアン】菱川小筆のバトルを開始します! 物語の世界の扉が開く時――『典界逆召喚ストーリーワールド・サモン』」


 「典幻召喚コール・ヴィジョン」を応用したオリジナルの魔法を発動し、小筆達を物語の世界へと転移させる。

 さて、どんな試合模様になるか……気になるからカメラの代わりに「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」を送り込んでおこうかな?



<三人称全知視点>


 目の前には小筆の他に浮遊する巨大な本が四体――雪菜達はすぐにそれが圓がゲームマスターブックスと呼んでいた存在だと理解した。


「皆さん、作戦はどうしますか?」


「本来なら誰かが指揮を執るべきだと思いますが、正直、私は皆様に指示を出せるほど皆様のことを知りませんし、相手の情報も小筆さん以外について未知数です」


「私もよ。……寧ろ、桃花さん以上に敵軍についても味方戦力についても分かっていないわ」


「私も美姫さんと同じ状況ですわ」


「そうですね、私も皆さんがどういう戦い方をするのか知りませんし、戦いの中で掴んでいくしかないと思います。敵の情報と味方の情報も。……とりあえず、全員自分なりの戦い方でまずは戦ってみるしかありませんね」


「作戦会議は終了しましたか? そろそろ、こちらから仕掛けさせてもらいますよ」

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