百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.8-145 ド=ワンド大洞窟王国のテーマパークの視察 scene.2
Act.8-145 ド=ワンド大洞窟王国のテーマパークの視察 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「まさか、アスカリッドさんが私を招待してくれるなんて、嬉しいわ〜ぁ」
「は……離してくれ……苦しい」
豊満な双丘を押し付けられ、息ができなくなるアスカリッド。……百合好き的には眼福だけど、アスカリッドからしたら「イヤミか!」と思うような状況かもしれないねぇ。
「ディグラン陛下、お招き頂きありがとうございますわ」
ディグランに洗練された動作でカーテシーを行うのはエリーザベト――天上の薔薇騎士修道会副騎士団長でアスカリッドと共にフォトロズ大山脈で暮らしていたことがある。
アスカリッドは魔族の仇敵とも言える彼女のことを嫌っているんじゃないかと思ったんだけど、どうやらそういうこともなく……いや、少し苦手だと思っているところもあるみたいだけど、こうして招待したいと言い出すくらいには彼女のことを好いているらしい。
「い、一緒にこのテーマパークを楽しみたいと思うくらいには、我はお主のことを……き、気に入っているのじゃ!」
「嬉しいわ〜ぁ。ありがとう、アスカリッドさん! ――リーリエ様も、本日はお招きくださりありがとうございました」
「いや、大したことじゃないし、そもそもこのテーマパークはディグラン陛下達ド=ワンド大洞窟王国のものだからあまり大きな顔はできないんだけど。……それに、個人的には、大満足です」
『確かに、ローザ様好みの素晴らしい『百合』ですわね』
「我にそんな気はないのじゃ!」と全力で否定しにいくアスカリッドと「あら、私はアスカリッドさんのことが好きなのですのよ?」と満更でもなさそうに頬を赤らめ「なぬ!?」と驚いて訂正させようとあわあわするアスカリッドを微笑ましいものを見るような目で眺める演技派のエリーザベト……なかなか楽しい二人だねぇ。
「ごほん、では完成したアトラクションをそろそろ見せて頂きたいのだが」
「ああ、そうだねぇ。それじゃあ、早速行こうか?」
ボク達は早速スタート地点となるエリアの最北にある『氷炎の大山脈〜Photoros Dragon Legend〜』と書かれた看板の掛かった山へと連なる遺跡風建築物へと向かう。
パルテノン神殿のような作りの遺跡風建築物には、カリエンテとスティーリアを象った巨大な石像も置かれ、奥へ奥へと歩いていくゲスト達の目を楽しませる。
「随分と長いな」
「万が一ゲストが多かった場合に備えてねぇ。ほら、そこにポールを立てるための穴があるでしょう? そのポールとベルトを使って実際はもっと距離を作ることができる。そして――」
『ここは、フォトロズに聳え立つ氷の最高峰。この山には氷の大いなる竜が住んでいるという伝説がある。我々、調査隊はこの伝説のある最高峰の地下に存在するという巨大な地下迷宮の調査に赴いた。ドワーフ族によって開拓された坑道により形作られた迷宮の中には、神秘の輝きを放つ大いなるルビー、ピジョン・ブラッドが眠っているという。我々の目的は、このピジョン・ブラッドを発見し、本国に持ち帰ることである。しかし、巨大な地下迷宮には未だ調査が進んでいないところも多く、危険も多い。調査隊諸君には、気を引き締めて調査をしてもらいたい』
『あっ、ご主人様の声だ!』
『本当ですわね。リーリエ様の声ですわ』
最初に真月が気付き、その後紅羽が足りない部分を補足するように言い当てた。
「こうやって、事前に取っておいた音声で世界観を説明するというのも一つの手だよ。場所によって、スピーカーから流れる内容も変わってくる。今回のコースターはトロッコ型なんだけど、その乗車地点ではシートベルトとか、荷物の置き方とか、そういった具体的な説明をするようになっている。今回は、調査隊のリリア隊長の声をボクが、乗る直前の声を琉璃にお願いした」
『ワォン! 凄いよ、琉璃!』
真月に褒められて満更でもなさそうな琉璃。
今回の録音も一発OKだったし、声優に向いているかもしれないねぇ。才能はあるよ。
『我とスティーリアの声はもう少し先じゃな』
「先というか……まあ、その辺りは楽しみにしておけばいいんじゃないかな?」
「しかし、リーリエ様の声がこちらで聞けるとなれば、かなりの客が押し寄せそうですね」
「エルレシア様、流石にそんなことはないんじゃないかな?」
「私もローザ様の目算は甘いと思いますわ。リーリエ様が関わっているというだけで、聖地となって連日大勢の方が詰めかけている場所があることをご存知ですよね?」
エリッサが「こちらにキャストを集中させた方がいいのでしょうか?」とディグランに奏上しようとしているみたいだけど、ディグランは黙考しながら歩いていてなかなか声を掛け辛いみたい。
「よし、エリッサ。テーマパークの開園を延期しよう。各アトラクションをブラッシュアップし、このアトラクションには見劣りするとしても、隔絶したレベルにはならないようにしなければならん」
「はっ、承知致しました。アトラクションの試乗が終わり次第、責任者を集め、陛下の意向をお伝えします」
……テーマパークの開園がどうやら延期されてしまうらしい……確実にやらかしたねぇ、ボク。
「なんだか申し訳ないねぇ」
「いや、一番はゲストに楽しんでもらうことだ。そのために取り入れられるものがあれば何でも取り入れるべきである。そうだろう? 確かに開園を心待ちにしている者達には申し訳ないが、中途半端なものを見せるよりも、そちらの方が断然いいと我は思うのだ」
凄いプロ意識だ。まあ、ボクと同感だけど。
やるからには完璧を目指したいし、公開する以上は楽しんでもらえるコンテンツにしたい。そのためには努力を惜しまないという姿勢は素晴らしいと思うよ。
遺跡エリアを抜けると、いよいよ山の洞窟の中へ。屑石が煌き、鍾乳洞が淡く輝く幻想的な空間を進むこと数分、いよいよ出発地点へ。
そこでトロッコに乗り、荷物を前の袋に入れてシートベルトを嵌めると、トロッコはいよいよ洞窟の中を進み始める。
「ガサガサと飛び立つ蝙蝠の音、まるで星空のような洞窟……とても、作り物だとは思えないな」
『流石はご主人様ですわ』
「……しかし、拍子抜けじゃな。……ゆっくりと下に進んでいるようじゃが、急降下も急上昇も急旋回もなく、正直、『ホワイト・ローラーコースター』の方がスリルはあったぞ?」
後ろでケロッと平気な顔をしているであろうアスカリッドの姿を想像すると顔がニヤけてくる。
トロッコはゆっくりと下降し、それに合わせて洞窟も屑石が煌めく星空の下のような幻想的な世界から菌類や胞子植物、食虫植物のような独自の植物のような生物が支配する別世界へと変化していく。そして――。
『見たことのない生物じゃな。あれは一体何なのじゃ?』
「設定としては、架空の魔物――
……まあ、あくまで設定だけどねぇ。
あからさまな緊迫感の中をトロッコは下へ下へと進んでいく。そして、いよいよトロッコは最下層へ。そこで待ち受けていたのは――。
「異形の魔物!?」
待ち受けていた岩石のような殻に覆われた魔物が唸り声を上げた瞬間、爆音が鳴り響き、フラッシュと共に炎が吹き出し、そこから一気にトロッコは急上昇アンド急旋回、そして急降下の連続――。
「いやっほーー!!!」
「きゃぁぁぁ!!!」
『風が気持ちいいのじゃ!!』
『ワォン! 楽しい!!』
『ご主人様、楽しいですね!』
『本当に爽快だわ!』
『これは叫びたくなりますわね! では、ご主人様に倣って……いやっほーー!!! ですわ!!』
「……確かに、これは楽しい……って、ローザ嬢! 岩が上から降ってくるぞ!! 大丈夫なのか!?」
あれだけ自信満々だったアスカリッドは既に魂を飛ばしているみたいで放心状態。そして、ディグラン、エリッサ、エルレシアは降ってくる巨石に怯えているみたいだねぇ。……えっ、何で分かるかって? ……見気だよ。
最も危険に愛される考古学者の映画では定番中の定番の転がる巨石を急降下で躱すと同時に急降下、急旋回と共に急上昇――そのまま一気に山を駆け上り――外が見えた瞬間にフワッという感覚と共に一気に山を駆け降りる。
山は雪に覆われ、最初に降り立った地点は粉雪が降っていた。無論、これも魔法を使った演出だよ。
無数のアイス・プリン……を模した氷像の中をトロッコは駆け抜けていく。トロッコはそのまま小山に空いたトンネルに突っ込んで行き、次に辿り着いたのはマグマ・プリンを模した像が溢れる熔岩の流れる火山を模したエリアだ。
『――ガルルルルゥ!』
火山を模したエリアを中心にいるカリエンテを模した赤き竜が咆哮を発した瞬間、レール付近から無数の炎が噴き出した。
『我を模した竜か……流石はローザ、素晴らしい出来じゃ!』
「そ、そんなことより炎が!? きゃー!!」
赤き竜が噴き出した火球がトロッコを掠めるかと思われた瞬間――トロッコが縦一回転して火球を躱した。
赤き竜の方に視線が向いていたから、一回転への心算ができなかったようで、何人か悲鳴をあげているみたい……あっ、ようやく意識を取り戻したアスカリッドがもう一回意識を失った。
トロッコは再び急降下して山の中へ。採掘場の洞窟をくるくると旋回しながら降りて行き、再び急上昇――そのままフワッとした感覚と共にさっき以上の急降下でいよいよ最終エリアへ。
スティーリアを模した白き竜とカリエンテを模した赤き竜が対峙するマグマと氷の山が融合した最終エリアに到達し、トロッコは今まで以上に縦横無尽な軌道で駆け抜けていく。
赤き竜の力で炎が噴き出し、白き竜の力で生まれたダイアモンドダストが燦く。
『……いよいよ、ですわね』
スティーリアがそう呟いたのは、赤き竜と白き竜の少し手前の位置だった。
赤き竜が猛烈な灼熱のブレスを、白き竜が猛烈な白いブレスをそれぞれ解き放つ。
『我がブレスの前で滅びよ!!
『私のブレスで消し去って差し上げますわ!
『はははっ! 我ながら素晴らしい名演だ!』
「そ、そんなことより! あのブレスが直撃したら!」
『……エルレシアさん、まさか、ご主人様の設計を疑っているのですか?』
スティーリアが猛烈な冷気と化した殺気を迸らせる中、二つのブレスは丁度目の前で直撃し――白い水蒸気を発生させた。
トロッコはその中に突っ込み――そのまま最後の急降下。
そう、この水蒸気には最後の急降下を隠すという意味もあったってこと。
そのままトロッコは高速で降りて行き……傾斜が緩まると、そのままゆっくりと進んで最初の発車地点に戻ってきた。
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