百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.8-144 ド=ワンド大洞窟王国のテーマパークの視察 scene.1
Act.8-144 ド=ワンド大洞窟王国のテーマパークの視察 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
姫さまと宮中伯令息のルークディーン=ヴァルムトの婚約に向けたお茶会の前日――ボクはアスカリッド、スティーリア、カリエンテ、真月、琉璃、紅羽というメンバーでド=ワンド大洞窟王国を訪れていた。
迎えてくれたのは、ディグラン陛下とつい先日ディグラン陛下と婚約したエルレシア=ヴォン=リゼローズ=ダ=ド=ワンド様。
彼女はド=ワンド大洞窟王国の幹部の一人で暗部の長と侍女長を務めているエリッサの妹で、彼女自身も長年侍女として仕えてきたそう。
元々芽はあったらしく、互いに片想いであったものの、エルレシアの方が市井の生まれで使用人だからと恋心を仕舞い込んでいたのでなかなか進展しなかったそう。ディグランがじわじわと外堀を埋めていき、ボクの誕生パーティの四日後、ようやく婚約に漕ぎ着けたとか。
既に式の日取りも決まっているそうで、ボクもエルレシアのウェディングドレスを作ってくれないかとディグランにお願いされている。勿論、それ以外も含めてウェディングパーティは全てボクがバックアップすると伝えておいたよ。
事の発端は、アスカリッドがあまりブライトネス王国の観光を楽しめなかったことにある。……別に彼女に差別の視線を向けられた、という訳ではないよ? まあ、少し色眼鏡の視線はあったようだけどねぇ。
今回の件で改めて浮き彫りになったのはブライトネス王国の観光地の少なさ。一応、王都の様々な場所を巡ってはみたものの、すぐにカリエンテのネタが尽きてしまい、後は食い道楽になってしまったそう。
しかも、味がカリエンテ好みとなると辛いものが結構多い。最近できたエルフの女性が店長をやっている激辛料理専門店で激辛麻婆豆腐を食べて、あまりの辛さにアスカリッドが魂を飛ばしちゃったみたいで、「ローザ! 頼む、カリエンテさんの代わりに我を楽しいところに案内してほしいのじゃ!」と泣きつかれ……で、そこに元々頼まれていたカリエンテの顔を立てるために一緒、元々ディグランから頼まれていた例の遊園地視察に行こうとしたら、スティーリアもボクとデートをしたいということで……そこに真月達も加わって、で、こうなったっていう訳。
ラングリス王国の件でスティーリアには随分とお世話になったし、気持ちも嬉しかったからねぇ。デートなんかで良ければ、是非ってことで、今日はいっぱいスティーリアに楽しんでもらえたらと思っている。
ド=ワンド大洞窟王国も洞窟を利用したテーマパークの建設事業は、ボクがディグランに話した「大倭秋津洲の夢の国」が発端となった。その際、ある程度のアイデアはそのテーマパークの説明をした際に得ているとは思うけど、この件についてビオラはノータッチでいる。
……まあ、こっちはこっちでビオラ=マラキア商主国の商会ギルドの本社ビルの解体と、新本社への引越しと並行して、商人ギルドそのもののテーマパーク化を目論んでいたんだけど。
中心にはブライトネス王国の王城にも引けを取らない、ノイシュバンシュタイン城とヴェルサイユ宮殿を融合させたような絢爛豪華な城があり、その下層部分や地下には博物館や図書館などが設置されて一般客も入ることができるようになっている。中層には一般客が宿泊できる格安からそこそこの部屋から上流階級、王族クラスであっても宿泊可能なスイートルーム、ロイヤルスイートルームに至るまで用意されたホテル、上層にはビオラ幹部の私室と最上級応接室、一応、謁見の間のような王城としての機能も備わっている。
新首都の中心街はその雰囲気を壊さないために人工の森を作り、池を作り、できるだけ自然を感じさせる作りにしている。一方、ビルを解体した後の旧首都には、新たにビオラ商会合同会社マラキア支部及び商人ギルド本部として超高層ビルを立て、こちらの最上階とビオラ=マラキア城を空間魔法で繋いでいる。
ボクが手がけた(もう既に引っ越しは完了済み。【万物創造】で楽々築城and築ビル)ビオラ=マラギアモデルは、遊園地というよりは貴族文化や芸術を一般に解放するといった部分が強い。……一応、王子様・お姫様体験みたいなものもあるんだけどねぇ。
ターゲットが違うから競合はしないし、ボク達に意見を聞くというのもあまり問題はないと思うんだけど……。
……ド=ワンド大洞窟王国だけで頑張るんじゃ無かったの?
「……しかし、随分とできて来ましたねぇ。もう、完成といっても過言ではないんじゃないかな?」
天然洞窟の迷宮と元採掘場からなるド=ワンド大洞窟王国の最奥の区画を一つを潰し(その区画に住んでいた人については新区画に引っ越してもらったそう)、山一つを潰してポッカリとそこだけ穴が空いたように作り出したテーマパーク区画には短距離のジェットコースターとフリーフォール系が一つずつ、コーヒーカップ、メリーゴーラウンドといったファミリー・カップル向けのアトラクションがいくつか、お化け屋敷、ビッグバンドの演奏やダンスショーが可能なステージが一つ……異世界初のテーマパークとしてはなかなかのものだと思うけどねぇ。
「ローザ殿達が我が国を訪れ、『他国の人間にとっては面白味の欠片もない国だ』と明らかにされてから幾星霜。遂に、我々は一大事業であるド=ワンド大洞窟王国のテーマパークを九割程度完成させるに至った」
「……あの時のこと、地味に根に持っていたみたいだねぇ。……いきなりテーマパークを作りたいって何!? って思っていたらそういう話だったのか。しかし、九割ってことは画竜点睛……つまり、テーマパークを完成させるための決定打が欲しいということね」
『……ワォン。真月は早く遊びたいよー!』
『真月、我儘を言ってはダメですわ。ローザ様が困ってしまいます』
『真月、もう少しだけ我慢しようね』
『……ワォン』
真月は待ちきれないみたいだねぇ……ボクの都合で待たせているのも可哀想だし。
「ディグラン陛下、先にみんなを遊ばせてあげたいのですが」
「そうであるな。エリッサ、皆のものを案内してやってくれ」
「はっ、承知いたしました」
真月、琉璃、紅羽の三人は最近習得した人化でそれぞれ黒髪短髪で犬耳のやんちゃそうな少年、漆黒の髪と瑠璃色の双眸を持つ青い着物ベースの戦衣を纏った美しい女性、燃える羽のようなドレスを纏った翼を持つ少女へと姿を変えると、アスカリッド、カリエンテと共にエリッサについていった。
この場にはスティーリアが残り、残ったメンバーでカフェスペースへと向かう。
カフェスペースを含め、テーマパークのキャストは既に雇い済みで今すぐ開園しても充分対応できるまで育っているらしい。
種族はドワーフ以外だとエルフが多く、次いで獣人と人間という感じみたいだねぇ。海棲族が見られないのは差別ではなく世界観の構築のためと思われる。海のテーマパークとかだったら大活躍だろうけど、ここは山を切り出した『ランド』って感じだし、人工的な海のようなエリアを作るつもりも無かったみたいだから。
「で、決定打が欲しいってことだったねぇ。試作品のパンフレット読ませてもらったけど、個人的には既にテーマパークの要素は網羅していると思うんだけど」
「……もう少し目玉にするものが欲しいのだ。……何か良いものがあればいいのだが」
「……そのためにボクを視察に誘ったんだねぇ、まあ大凡察しはついていたけど。でも、いいの? 今回のテーマパーク建築はド=ワンド大洞窟王国の力だけでやり遂げるつもりだと思っていたんだけど」
「別に、我はそのことに拘りは持っていないぞ? まあ、ビオラの力抜きでどこまでできるか試したかったというところもあるが……ここにローザ嬢達を呼んだ時点でビオラの支援も検討のうちに入っていると思って欲しい。無論、それ相応の報酬を支払うつもりだ」
『――勿論ですわ』
「いや、スティーリアさん。今回の件で報酬を得るつもりはないよ。仮に何かを作ったとしてもメンテナンスは暇を見つけてボクがやるし、なんなら他のアトラクションと一緒にド=ワンド大洞窟王国側でやってもらってもいい。ここまでド=ワンド大洞窟王国の力だけでよく作り上げた。その激励と、お祝いということでアトラクション一つくらい贈らせてもらえないかな?」
「アトラクション一つって、ローザ嬢にとってはその程度かもしれんが……」となんとも言えない表情になるディグラン。
一方、スティーリアは『それは素晴らしいですわ。私も微力ながらお手伝いさせて頂きたいと思いますわ』と乗り気だ。……彼女は、きっとボクの気持ちを尊重してくれているんだと思う。……たまに暴走してしまうところはあるけど、本当に優しくていい子だよねぇ、スティーリアは。
「それは良かった。スティーリアさんにも是非協力してもらいたいと思っていたからねぇ。ついでに、カリエンテさんにも」
『? カリエンテですか? あの子はあまりこういったことが得意ではないと思いますが』
「簡単に言ってしまうと、このテーマパークと背後に聳えるヴィスリティオ山脈に、フォトロズ最高峰を再現しようと思っている」
「『ヴィスリティオ山脈に、フォトロズ最高峰を……
二人とも聡明だけど、流石にこれだけじゃ分からないか。
「スティーリアさんは勿論自分達のことだからよく覚えていると思うけど、かつてフォトロズ最高峰ではスティーリアさんとカリエンテさんが大喧嘩を繰り広げた。……結果として、カリエンテさんの方が逃げ帰ったんだけど、まあそれはそれとして……これは一種のテーマになると思うんだ。ストーリーといってもいいかな? ジェットコースターなどのアトラクションにストーリーを織り交ぜて世界観を作るという方法には前例がある。つまり――」
『私とカリエンテの戦いをテーマとした何かしらのアトラクションを作る……ということですわね』
「確かに、それなら目玉にぴったりだ」
「背後にあるヴィスリティオ山脈を中心に最大級のジェットコースターを作り上げる。それ自体はボク一人でも全然できるんだけど、丁度モデルとなるスティーリアさんとカリエンテさんがいるからねぇ。二人にも手伝ってもらいたいなって思って」
そうと決まれば話は早い。アトラクションの設計と建築は全てボクに委ねてくれるということで、早速カリエンテを呼びに行ったんだけど――。
「ローザ、丁度良かった。お主に頼みたいことがある」
アスカリッドの百合好きの心を刺激する素晴らしい提案を聞いたボクは、満面の笑みでアスカリッドの提案を受け入れた。
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