百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.8-143 再び・ペドレリーア大陸へ scene.3
Act.8-143 再び・ペドレリーア大陸へ scene.3
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「仰りたいことはよく分かりましたわ。確かに、私達には無かった視点ですわね。そして、ラングドン先生は、真理に近いことにあの時点で到達なされていたのですね」
「まあ、彼の場合は『なんで、どれだけ祈っても神は手を差し伸べてくれないのか?』というところから始まって、そこから神を再定義していった上でのあの結論だからねぇ。聖典第二章第一節、『神は常に世を見下ろし、努力する者に微笑む』との矛盾への気づきに繋がり、神格機関説に繋がった……本当にどん底にまで落ちた人間にしか、信仰というか細い糸に頼らざるを得ないところまで落ちた者にしかきっと分からないことだったんじゃないかな? 彼は盲目に神を信仰するなと言った。ありのままを受け入れるのではなく、常に疑い、裏側にあるものにも目を向けろとトーマス先生は仰りたかったんじゃないかな? だから、あの時『聖女』として自分の感情を抜きにかつての師を断頭台にかけようとしたリズフィーナさんを心底幻滅した。それは今も変わっていないと思うよ? そうだよねぇ?」
「今回、ここに来たのもお前に別れの挨拶をしておくためだ。まあ、あの処刑台にかけられた瞬間にお前は私の弟子ではなくなったが。……ローザ嬢によれば、未来のこの大陸は二人の愚物に支配されることになると言う。一人は『断罪王』と呼ばれたリオンナハト、そしてもう一人は『司教帝』と称され、恐れられるお前だ。蛇に踊らされた貴様は邪教結社『這い寄る混沌の蛇』との戦いを訴え、近隣国に義勇兵を募り、そうして集まった兵で聖司教軍を作り上げたそうだ。そしてこの国を神聖オルレアン帝国へと移行し、周囲の国々に恭順を求め、徹底した管理体制による破壊活動の防止を行い、司教帝の手足となって動く聖司教軍を用いて、潜んだ邪教徒の掃滅を行おうとしたが、結果としてこの大陸の秩序は崩壊し、蛇の手の中で踊らされ暗黒時代に突入する。せいぜい心に刻んでおくがいい。まあ、もはや私はこの国に僅かも愛着はないからな。好きに滅んでくれて構わないが」
「……素直じゃないねぇ」
まあ、ミレーユもいるし、そうそうバッドエンドルートには入らないと思うけどねぇ。
「さて、トーマス先生からの恐らく師として最後の言葉も終わったし、そろそろ本題に入らせてもらう。こちらにおられるティアミリス殿下の発案で、フィートランド王国はフォルトナ王国の傘下に収まり、フォルトナ=フィートランド連合王国になることになった。それに伴い、宗教の自由化とオルレアン秩序からの独立が行われることになっている。これに伴い、各国との関係は一旦白紙に戻されるものの、改めて国交を結ぶかどうかを各国への書面で再度確認させて貰った後、フォルトナ王国の承認を得て採用という形にしていくつもりらしい。ここで問題になってくるのは、フィートランドからこちらに入学している学生達。……今回の件は突然で、学生達にも連絡がいっていないからねぇ」
「つまり、学生達に事情を説明してもらった後、学園に残るか帰国するかを選択して頂きたいと、そういうことですか?」
「まあ、そういうことになるねぇ。ちなみに、一度白紙に戻るそうだけど、オルレアン教国と再度国交を結ぶことも選択肢の一つとして存在しているそうだよ。ただ、その場合は完全に対等なお付き合いということになるけどねぇ」
「……学生達へは私から責任を持って説明致します。国交については、私の一存では決められませんので、お父様にお伝えした上で国として決めさせて頂きます」
「そうしてくれると助かるよ。で、三つ目――」
「初めまして、かな? 僕はジョナサン、オルレアン神教会に所属していたのだけど、本日限りで神父を辞めさせてもらおうと思ってね。元々『這い寄る混沌の蛇』の情報を集めるために入ったんだけど、その仕事をする必要が無くなった今、雑務しか残っていないからさ。もう、所属する意味も無くなっちゃったんだよね。残っているのも暇潰しだけだし」
「……貴方も、『這い寄る混沌の蛇』と敵対しているのですね」
「まあ、ねぇ……連中は、あの世界でオニキスさん達を、大切な人達を奪ったんだから。二度と連中の好きにはさせないよ」
いつになく真面目な表情で、復讐の炎が灯る鋭い瞳を鋭くしていたジョナサンは、ふいに表情を和らげ――。
「ということで、ここをやめて天上の薔薇聖女神教団の神父になってラングドンさんと言論を戦わせようかな? って思っているよ。少なくとも、クソつまらない
……ようやく、雑務という言葉の意味が分かったらしいリズフィーナがジョナサンを睨みつけたものの、全く痛痒に感じた様子はなく、神父然とした笑みを湛えている。
「……分かりました。本日付けで神父を辞める旨、承りました」
「さて、これでトーマス先生とジョナサン神父の用事も終わったようだし、そろそろ『這い寄る混沌の蛇』に関する話をしていこうか?」
◆
「『這い寄る混沌の蛇』の首魁は『管理者権限』を持つ『唯一神』であり、本の化身『
「……ミレーユさん達が対峙したという、レナードという男が該当する『這い寄る混沌の蛇』の幹部ですわね」
「そっ。……そして、メンバーとして分かっているのは裏切ったレナードに加え、魔法工学者のフランシスコ・アル・ラーズィー・プレラーティ、オーレ=ルゲイエの二人が判明している。いずれも、恐らく『這い寄る混沌の蛇』とは利用し合う関係にあり、宗教書にも反応はしないと思われる。その力は個々人が一騎当千の力を持ち、旧来の『這い寄る混沌の蛇』には無かった直接攻撃性を有すると言っても過言ではない。まあ、これについては君達には荷が重いだろうし、こっちでやるよ。リズフィーナさん達にやってもらいたいものは、この大陸にいる『這い寄る混沌の蛇』の信徒の討伐。『這い寄る混沌の蛇』には聖女に対応する蛇の巫女姫、蛇巫女がいるのだけど、彼女の無害化と本来、トーマス先生が担当する筈だった、イェンドル王国クーデターとグルーウォンス王国革命……『這い寄る混沌の蛇』が糸を引いている事件の解決。まあ、ボクに言われるまでもなく『這い寄る混沌の蛇』が関係しているとなれば、君達で動くもりだろうけど」
「……それは、ローザ様達に助力を頂けないということでしょうか?」
「いくら余計なものが増えたからと言ってもこれは君達の物語だ。ボクもその体裁を崩すつもりはないし、それは君達のためにもならないと思っている。あくまでボクは部外者だからねぇ……勿論、冥黎域の十三使徒は君達の手に余るからこちらで対処させてもらうけど、それ以外はボク達の手を借りず君達で考えて頑張ってもらいたいんだよ。まあ、どうしても困ったらフォルトナ=フィートランド連合王国に連絡を入れてくれれば手伝いに行くけどねぇ。後、ミレーユ姫に伝言をお願いできるかな? 『偽の蛇巫女はまだ可能性が残っている。もし、君の手を尽くしても取り戻せそうにないのなら、遠慮なくボクを頼って欲しい』ってねぇ」
「……本当に蛇巫女の正体を教えて頂けないのですね?」
「本当の蛇巫女の方はレナス=ケイオスカーン、『這い寄る混沌の蛇』の真の首魁アポピス=ケイオスカーンの実妹だよ。彼女は恐らくボク達の領分だと思うから気にしなくていいと思うけどねぇ。まあ、時期に少しずつ分かってくると思うよ。――二人の最悪の未来は伝えた。そうならないためには、君が初めて友人――ミレーユ姫を頼るべきだと思うよ。彼女ならきっといい方向に君達を使わせてくれるだろうからねぇ」
飲み干したティーカップを机に置き、「ご馳走さま」も言い終えてから、ボク達は『管理者権限・全移動』でラピスラズリ公爵邸へと向かった。
◆
ラインヴェルドをブライトネス王国の王宮に、オルパタータダ、オニキス、ファント、ティアミリスをフォルトナ王国の王宮へ、ジョナサンを天上の薔薇聖女神教団の旧総本山(表向きはフォトロズ大山脈地帯の最高峰にある新総本山ではなく、王都にあるこちらが総本山ということになっている)にそれぞれ送り届けるつもりだったんだけど、ティアミリスから一対一でボクに話があると告げられ、一人屋敷に残して他のメンツを送り届けることになった……しかし、コイツと一緒とか最悪だねぇ。見た目はともかく中身があんまり好きじゃないんだけど。
「で、ボクに何の用?」
「単刀直入に言う。オニキスとの仲を取り持て。お前に拒否権は与えん」
……あっ、やっぱりその話か。
「いいよ?」
あっさりとボクが協力する意思を示したことに拍子抜けしているねぇ、ティアミリス。
「……お前は俺の前世がシューベルトだと知っているのだろ? ……その、気持ち悪いとは思わないのか?」
「これがもし、シューベルトがアクアを嫁に欲しいと言ったら、今ここで剣を抜き払って全力で阻止させてもらうところだよ?」
ますます、意味が分からないという表情になるティアミリス。美人だと黙考している姿も絵になるなぁ……中身はシューベルトなんだけど。
「……やはり、考えてみたが理屈がさっぱり分からん」
「まあ、アクアは嫁には出したくないって思ってくれればいいよ。――ボクはアクアとディランのコンビを気に入っているんだ。あの二人を引き離すようなことは断じてしたくない。でも、ティアミリスがオニキスさんに嫁入るならオニキスとファントは良き親友のままでしょう? ……これ、ディランは真意に気づいていなかったみたいだけどねぇ。……気持ち悪いとは思わないよ。まあ、そりゃ、男色と取られかねないものだったかもしれないけど……そして、何より自分が『彼を取られたくない』と嫉妬心を持ったことに愕然としたんじゃないかな?」
最初は訳も分からずだった。ある騎士団の先輩達が「あいつが昇進したら、うちで引き取ってやってもいいよな」と下劣に話しているのを聞き、腸が煮えくり返って、彼らを半殺しにしていたという事件や、男所帯の問題から、戦場下であれば、あの白い肌に触れてみたいとほざいた新米騎士達を理由も分からず怒りのまま過剰に叩きのめした事件……そういった話も聞いている。
……どこでその感情に気づいたかは分からないけど、もう既に今のシューベルトはその感情に気づいているんじゃないかな?
「ティアミリス殿下に宣言しても仕方ないのだけど……アクアは絶対に渡さないよ」
「……俺はオニキスと結ばれることができるならそれで充分だ」
「まあ、といってもボクにできることは限られていることだし、まずはオニキスさんに手紙を出してみればいいんじゃないかな? 何事も外堀から埋めていくことが肝心。デートを重ねて、徐々に距離を詰めていくべきだと思うよ」
「約束通りバックアップはするし、何かあったら遠慮なくボクを頼ってねぇ」と伝えてからティアミリスをフォルトナ王国の王宮に送り届けた。
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