Act.8-137 子爵令嬢の社交界準備 scene.1

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 革命軍所属者達からの意見陳述を終えた後、クラウディア女王陛下から正式に多種族同盟への加盟が宣言された。

 実はそれ以前に、クラウディア女王陛下はラインヴェルド達――多種族同盟の君主達と(遠隔通信技術を使ってだけど)顔合わせをしている。


『おっ、早かったな? 冥黎域の十三使徒は出張ってきたか?』


「司令役の信者一名と、協力せざるを得なくなっていた元騎士団長が一名……まあ、末端も末端だし、ラインヴェルド陛下達が期待するようなレベルじゃ無かったよ? 強いて言うなら、ヴィオと何ら変わらないレベルかな?」


『あっ、それじゃあ別にわざわざ行かなくても良かったな』


 「大したことじゃ無かったんだな」と、軽く流してしまうラインヴェルドとオルパタータダにクラウディアはエルフやドワーフ、獣人族や海棲族を見た時以上の衝撃を受けたようだった。


「一応、国の危機だったんだからもうちょっと言葉を選んであげてくれないかな?」


『ローザさんが行かなければ、今頃地図上から消えていてもおかしくは無かった……とはいえ、お話を聞く限り、緑霊の森の危機の時と対して変わらない、レイドでも何でもない小規模なボヤ騒ぎだったのですよぉ〜』


 ……エイミーン、もっと言葉を選んだ方がいいよ? そのボヤ騒ぎ扱いされているミスルトウが地味に凹んでいるから。


「正直、ミスルトウさんは強敵だったんだけどねぇ……『神殺しの焔レーヴァテイン』は厄介極まりなかった」


『……ローザ様、十分反省していますから、あのことはもう掘り返さないでいただきたいのですが』


 ミスルトウは恥ずかしそうに俯いている。……まあ、彼からすれば葬り去りたい過去かもしれないけど、緑霊の森とブライトネス王国がこうして国交を持つことができたのは、やっぱりあの騒動も大きく影響していると思うんだけどねぇ。

 族長の意向で押さえつけたところでどこかで不満は爆発していた。その不満が解消された……という訳ではないし、なんなら未だに反対勢力の中心核となった【新生・エルフ至上主義ネオ・グローリー・オブ・ザ・フォレスト】と敵対関係になっているんだけど、あの戦いを経て改めて多種族同盟への加盟可否について注目が集まることになったし、偏見を取り去った上で自分達がどうしたいかを考え、自らの責任で選択する切っ掛けとなった。


 まあ、つまり結果的には良かったとは思う。……そりゃ、ミスルトウにとっては消し去りたい過去だろうけどねぇ。


『最近の戦いで言えば『怠惰』戦が国を脅かすレベルの戦争であったな』


『儂もディグラン殿の意見に賛同する。多種族同盟加盟国のほぼ総力と言っても過言ではない挑んだ戦争は、あの戦いしかないからのぉ』


『規模といえば、『深淵の洞窟の大海の主』と『サファギンエンペラーの戴冠』の組み合わせもなかなかのものだが……。実際、この二つが同時期に重なったことでエナリオス海洋王国も壊滅の危機に陥っていた。ローザ嬢が来なければ今頃国の形が跡形も無くなっていただろう』


「まあ、大したことがない戦力を何人も揃えたところで一人に蹴散らされてしまったら意味がないからねぇ。重要なのは質の高い戦力だけど、数の暴力で解決することも戦況によっては可能だし、質と量のバランスがしっかりとしたそこそこの規模の戦力が……って、なんでボク達は強敵の構想をしているんだろうねぇ? そんなにみんな攻め込まれたいの?」


『……好戦的なのはラインヴェルド陛下とエイミーン殿だけだと思うが。私は戦いを望んでいないぞ? まあ、『管理者権限』を賭けた戦争がこの世界で行われている以上、いつかは巻き込まれることになるだろうがな』


「というか、ピトフューイさんは既に巻き込まれている組だよねぇ。……さて、長話していても仕方ないし、本題に入ろうか。ラングリス王国を多種族同盟に加盟させる承認をもらいたいんだけど、異議がある人はいるのかな?」


『別にそんな奴いやしねぇだろ? ってことで、ブライトネス王国のラインヴェルド=ブライトネス。ラングリス王国の多種族同盟入りを承認する。これから楽しくやろうぜ?』


『同じく、フォルトナ王国国王オルパタータダ=フォルトナもだ。クソ面白いことがあったら隠し立てするなよ!』


『緑霊の森、エルフ族族長のエイミーン=メグメル。ラングリス王国の多種族同盟加盟を心から歓迎するのですよぉ〜』


『ユミル自由同盟獣皇のヴェルディエ=拳清チュェン・チン=ラシェッド=ティグロンじゃ。ラングリス王国の多種族同盟への加盟を心より歓迎する』


『ド=ワンド大洞窟王国国王のディグラン=ヴォン=ファデル=ダ=ド=ワンドである。ラングリス王国の多種族同盟への加盟を心より歓迎しよう』


『海上都市エナリオスの国王のバダヴァロート=アムピトリーテーだ。これから大変だろうが、ともに手を携えて頑張って行こう』


『あたしゃ、ニウェウス自治領のレジーナ=Rリーガル=ニウェウスだよ。ラングリス王国の多種族同盟への加盟、あたしも認めさせてもらう』


『ルヴェリオス共和国の首相を務めているピトフューイ=スクロペトゥムだ。もし、困ったことがあれば……遠慮なくローザ嬢に協力を求めるといい』


「……そこは、『遠慮なく私を頼って欲しい』というべきところじゃないかな?」


『ピトフューイ様の仰る通り、ローザ様をお頼りになられるのが一番だと思いますわ。勿論、私達も協力を惜しむことはありませんが。風の国ウェントゥスの緑の使徒ヴェルデの代表を務めるアリシータ=エメラインですわ。ラングリス王国の多種族同盟への加盟、心より歓迎致します』


 ……まあ、異議が申し立てられる可能性も無かったから、こんな感じで本当にただの顔合わせと各国首脳による宣言がなされただけなんだけどねぇ。

 ただ、多種族同盟加盟国の雰囲気は伝わったみたいでクラウディアは「ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下、エイミーン殿にはあまり近づかないように致しましょう」と早速三人を危険人物認定していたみたいだけど。


 こうして終戦を告げる一連の式典が終了したところで、ボクとスティーリアはブライトネス王国に戻ることにした。


「クラウディア女王陛下。ボク達はそろそろ帰国させてもらうよ」


「ローザ様、スティーリア様。この度はこの国をお救いくださり、本当にありがとうございました」


「まあ、ボクもそれなりに収穫があったし、今回は互いの利害が一致したってことで、あんまり今回の件のことを引き摺らない方がいいと思うよ。……革命軍に所属して国を変えようと思っていた人達もこれからは文官を志望して、武力に頼らずに国を変えていくつもりみたいだし、これからはもっといい国になっていくだろうねぇ。国王一人いたところで、国を良くできるって訳じゃない。勿論、トップに立つ人間の良し悪しも関係するけど、国王を支え、共に国を良くしようと励む臣下の方が重要だ。王太后殿下もきっとこれからは力を貸してくれるだろうし、頼りになる臣下もこれからきっと増えていく。クラウディア女王陛下が王女の頃から持っていた民を想い、国を良くしようという気持ちを失わない限り、きっとこの国は良い方向に進んでいくと思う。さっきも言ったけど、ボク達も内政干渉を疑われない程度には力を貸すつもりだし、ラインヴェルド陛下達も先輩としてきっと……うん、あの人達に期待してはダメだな。レジーナさん達もきっと良いアドバイスをしてくれると思うよ。それじゃあ、また連絡することがあったら渡した携帯で連絡をするからねぇ」


 スティーリアと手を繋ぎ、クラウディアに見送られる中、『管理者権限・全移動』でボク達は王女宮の執務室に戻った。



<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


 約半日掛けて王宮に戻った私を待っていたのは、王太后様からの手紙でした。

 王太后様は、私如きでは到底お会いできる筈のない雲上人です……何が罷り間違ったらこのような手紙が私の元に届くのでしょうか?


 手紙の内容を一言で表せば、王太后様が私の社交界デビューをバックアップする……というものでした。ますます意味が分かりません。


 面識も何もある筈のない私の社交界デビューを何故、王太后様がバックアップするという話になるのでしょうか?

 社交界デビューに必要なドレスやアクセサリーは王太后様が用意してくださるということ。……どうしてそういう話になったのでしょうか? ドッキリでしょうか? ……何かの悪戯であるという方がまだ信じられます。


 ……ただ、手紙を読み進めるとやっぱりドッキリにしては手が混み過ぎているようですし……やっぱり、本当に王太后様が?


 ……後で目が飛び出そうな金額を請求されたりしませんよね?


 そして、この社交界デビューで私のエスコートは先にデビューしている弟のメレクに頼めとのこと。

 そうすることで、一連の騒動を美談に塗り替えてファンデッド子爵家の評判を上げ、父の引退と弟の当主襲名をスムーズに行うのだそう……。


 その美談ってなんのことかというと。


 血の半分しか繋がらない弟が無事に跡継ぎとして周囲に認めてもらうために、先に社交界デビューをさせたかった姉はその身をそっと隠して彼が結婚するまで大人しくしていようと考えた。


 父親も義理の母子関係や周囲の眼差しからそれが娘のためになればと借金などをして慣れない一人暮らしができるようにと援助をした。


 ところがその事実を知った義母と弟はそれを良しとせず、次期当主として姉の華々しい社交界デビューをすることを後押ししたところ、父親は家族の愛情に胸打たれると同時に己の不甲斐なさを痛感し、信頼できると思っていた方に大公妃殿下を紹介されて相談をした。


 ところがそれにより余計な噂を招き寄せ、父親はここで引退を決意、弟が子爵の座を継ぐ……という無茶にしか思えないシナリオだけど、大丈夫なのかしら?


 手紙には、明日にでもドレス採寸のために離宮に来てもらいたい……ということだったので、その日はゆっくりと休ませてもらった。

 翌朝、改めて「王太后様と面会ってどうすればいいんだろう? 統括侍女様にお願いすれば……その前に上司である王子宮筆頭侍女に?」と考えていたところに王女宮筆頭侍女様が私の部屋にやってきた。


「王太后様からの手紙はどうやら受け取ってもらえたようだねぇ? 早速で悪いんだけど、一緒に離宮に行ってくれるかな?」


 どうやら、ローザ様もご一緒してくださるらしい。頼りになる……というよりも逆に緊張するわ。

 ローザ様は既に統括侍女様経由で離宮に連絡を入れてくださっていたようで、そのまま離宮に行くことはできたのだけど……。


「……緊張するわ」


「別に取って食われることはないんだし、気楽に行けばいいと思うんだけどねぇ。アルマさんは侍女としてしっかりと認められているんだし。女は度胸、男は愛嬌! さあ、うだうだ言っていても仕方ないしとっとと覚悟決めて行くよ!」


 ローザ様に強引に引っ張られ、私は王太后様の自室に入った。

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