百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ？〜

Act.8-98 革命の前の静けさと、シナリオを狂わせる蛇の悪意 scene.1

<一人称視点・リーリエ>

「ローザ、無事だったか？」

「……うん、無事？　四十回ちょっと死んだけど」

　今にも泣き出してしまいそうなプリムヴェールとマグノーリエを優しく抱擁しながら、このなんとも言えない雰囲気をどうしようかと頭を捻る。

「あれは死ぬことが前提の相手だからねぇ。本来なら『Eternal Fairytale On-line』のプレイヤー全員で戦うような相手なんだから。寧ろ、四十回程度で済んで良かったよ……下手したら永眠だったし。まあ、悪役令嬢の死因としては野生の神に殺されるって珍しいよねぇ？　……冗談はさておき、エンノイアの討伐自体は成功したけど、データ収集用に彼女の身体は残してある。人格は破壊したから意識がない植物状態になっているけど」

「転んでもタダでは起きないというか、相変わらず凄いなぁ。……今回ばかりは絶対に足手纏いにしかならなかっただろうし、参加しなくて良かったぜ」

「あのリーリエ殿すらゾンビアタック前提の相手ですか……今思うとあの時の多種族同盟への加入は正しい選択だったのですね。……そんな相手、ローザ殿がいなければ絶対に勝てません」

「ってか、実際問題あいつらに支配されていつ殺されるのかと怯えない生活をするかもしれないって状況なら、連中を打破できるローザの協力が必要不可欠だろ？　そんな状況で悪役令嬢だから追放するとか絶対にないからな！　俺は絶対ローザの味方になるぜ！！　まあ、そんなことより俺の大切な親友がどっかにいっちまう方が辛いんだけどな」

「だからバルトロメオ、ローザを追放することは絶対にないって言ってんだろ！　マリエッタ＝スターチスだったか？　その主人公に籠絡された奴と一緒に国外追放してやるから安心しろ。国だろうと世界だろうと……あっ、さっきの神は流石に無理だけどなぁ、それ以外だったらなんだって敵に回したってお前の敵を倒すために暴れてやる。それが、親友ってもんだろ？」

「ブライトネス王国から追放されてくれればウチの国に来てもらえるんだけどなぁ。……俺もだ、いや、俺だけじゃねぇ、お前と出会って救われた奴がお前が不幸になったのを黙って見ている訳がねぇだろ！」

「ラピスラズリ公爵家も、仮にそのような事態になればマリエッタの排除のために動くでしょう。ネスト様はお嬢様第一主義でございます。それに、旦那様もお嬢様の事を愛しておられますから、例え【ブライトネス王家の裏の剣】の為すべきこと矛盾するとしても、お嬢様を優先すると思いますよ」

「……全く、こんな捻くれ者の小娘如きのためにみんな本気になり過ぎだと思うけどねぇ」

「……ローザさん、貴女が一番貴女の行ってきた行動の価値を理解していないと思います。どれだけ沢山の人が救われてきたか、どれほど慕われているのか……もっと自分を大切にしてください！　貴女がいなくなったら悲しむ人が沢山いるのですよ！！」

「……自分さえ消えれば、なんて恐ろしく身勝手なことを考えないで欲しい。これだけ沢山の人を救ってきたんだ……少しだけでも我儘を言えばいいじゃないか。いつも自分のためと言いながらあらゆる行いは結局遠回りでも誰かのためだ。対価も求めず、ただ与えてばかりのあなたに私は何も差し出すことはできないけど、もし許してもらえるなら友として貴女の支えになりたい。……百合薗圓、貴女がいなくなれば悲しむ人は沢山いるんだ。だから、これ以上無茶なことはしないで欲しい。……その戦場に立つことができない足手纏いの私が言えるようなことは重々承知しているが、それでも、私もマグノーリエさんも大切な人を失いたくは無いんだ」

　ラインヴェルド、オルパタータダ、バルトロメオ、ミスルトウ、プリムヴェール、マグノーリエ、ダラス……みんなの瞳には確固たる覚悟の光が灯っている。

　……蒔いた種から芽吹いたものは必ず刈り取らなければならない、それがいいものであっても、悪いものであっても……か。

　どうやら、ボクが蒔いた種から芽吹いたものは、ボクを離してくれないみたいだねぇ。

◆

<三人称全知視点>

　ローザ達から僅かに離れたところにカルコス、ラングドン、ミレニアムの三人はいた。

　伝聞として知っているだけで大した関わりのないカルコスや昨日出会ったばかりのラングドンにはあの場に混ざる権利はないと感じ、二人は遠巻きに眺めていたのだ。ちなみに、ミレニアムに関しては完全に蚊帳の外である。

「確かにローザ殿は途轍もない力もあるし、実際にたった一人で何でもできてしまうのだろう。だが、完璧な人間という訳ではやはり無いようだな。……彼女は自分に対する評価が他の人間よりも明らかに低い水準だ。それこそ、必要となれば自分よりも他者を優先してしまえる。広い視野も裏目に出ているのだろう。そして、頑固で一度決めたら誰が何と言おうと成し遂げてしまう決断力と行動力も災いしている。――彼女は一人で生きている人間だが、誰よりも仲間を必要とする人だ。人が支え合うことでのみ生きているとすれば、彼女にとって必要な人間とは自らを犠牲にして最短距離で進もうとする彼女が傷つかないように声を掛け続けることができる者達なのだろう。本当に彼女はいい仲間に恵まれたようだな」

「……私の祖国のフォルトナ王国という国には、かつて漆黒騎士団という騎士団がありました。その騎士団長は戦う姿が戦場を駆ける悪魔のようだと例えられ、彼だけの持つ濁った赤い瞳は不吉の象徴だと忌み嫌われていました。……彼の下に正義の騎士である青騎士閣下ではできぬこと請け負い、すべきことをして、罵られ、嫌われ、それでも祖国のために戦ってきた漆黒騎士団。……ローザ様はオニキス殿によく似ておられます。仲間が、正義の騎士が手を汚さないようにと汚名を被ってきたフォルトナ王国の影の英雄の姿にそっくりです。だからこそ、青騎士閣下も関わらずにはいられないのでしょう。……ラングドン殿の仰るように多くの仲間に巡り合った。そして、圓様には漆黒騎士様の転生者や漆黒騎士団の頭脳にして勇敢なる副団長殿転生者をはじめとして多くの仲間がついていて、彼女の頑張りを知っている。――心配する必要はないと思いますよ。彼女が幸せにしないと思う人以上に、彼女を幸せにしないと思う人が沢山いますから」

「……その言葉、表情が伴っていれば完璧だったのにな」

「そうでしょうか？　私はしっかり感情を込めたつもりだったのですが」

「…………カルコス殿、真面目過ぎってつまんないって言われたことはないのか？」

「他に話をする者も少ないため、よく分かりません」

　「あー、業務外ではほとんど人と交流もない……つまりぼっちなんだな」となんとも言えなくなるラングドンとミレニアムであった。

◆

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>

　今回の戦いでは思わぬ成果もあった。

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・漆黒魔剣ブラッドリリー

→『Eternal Fairytale On-line』で最初に実装されたオーバーハンドレッドレイド『天原山脈』のレイドボス・百合の女王が超低確率でドロップする黒百合をイメージした幻想級の黒剣。剣士系特技と闇属性の特技の威力を僅かに上昇させ、攻撃系物理特技と魔法特技の再使用規制時間を僅かに短縮することができる。

【管理者鑑定】

分類:『Eternal Fairytale On-line』アイテム

レアリティ:創世級（ジェネシス）

付喪神度:99,999,999,999/99,999,999,999【該当者: リーリエ】

武装固有特技：魔皇魔剣

　とある吸血姫と共に歩み続けた剣の記憶が形を成したリーリエの『漆黒魔剣ブラッドリリー』のみが有する特技。戦闘によって吸収した血液を魔力に変換する。また、黒百合の茎を伸ばして相手を雁字搦めにすることもできる。武装の力を完全に解放することで斬った相手を過去にまで遡って存在ごと抹消することができる。

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・白光聖剣ベラドンナリリー

→『Eternal Fairytale On-line』で最初に実装されたオーバーハンドレッドレイド『天原山脈』のレイドボス・百合の女王が超低確率でドロップする白百合をイメージした幻想級の白剣。剣士系特技と聖属性の特技の威力を僅かに上昇させ、攻撃系物理特技と魔法特技の再使用規制時間を僅かに短縮することができる。

【管理者鑑定】

分類:『Eternal Fairytale On-line』アイテム

レアリティ:創世級（ジェネシス）

付喪神度:99,999,999,999/99,999,999,999【該当者: リーリエ】

武装固有特技：聖女神聖剣

　とある吸血姫と共に歩み続けた剣の記憶が形を成したリーリエの『白光聖剣ベラドンナリリー』のみが有する特技。あらゆるものを回復魔法で治癒することができる。また、白百合の茎を伸ばして相手を雁字搦めにすることもできる。武装の力を完全に解放することで蘇生魔法を重ね掛けしてその数だけ自動復活を可能にする。

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・黒百合之姫礼装（リリー・プリンセスライン）

→『Eternal Fairytale On-line』で最初に実装されたオーバーハンドレッドレイド『天原山脈』のレイドボス・百合の女王が超低確率でドロップする黒百合をイメージした幻想級のドレス。あらゆる状態異常を軽減し、回復魔法の範囲を広げる効果がある。

【管理者鑑定】

分類:『Eternal Fairytale On-line』アイテム

レアリティ:創世級（ジェネシス）

付喪神度:99,999,999,999/99,999,999,999【該当者: リーリエ】

武装固有特技：姫百合礼装

　とある吸血姫と共に歩み続けたドレスの記憶が形を成したリーリエの『黒百合之姫礼装（リリー・プリンセスライン）』のみが有する特技。光属性系統魔法を使った時、その魔法の威力を上昇させる。また、吸血姫の翼と一体化して飛行能力を上昇させることができる。武装の力を完全に解放することで保有者に対する応援を戦う力に変えることでステータスを上昇させ、HPとMPを回復させることができる。

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・銀光の百合指輪（シルバー・リリー）

→『Eternal Fairytale On-line』で最初に実装されたオーバーハンドレッドレイド『天原山脈』のレイドボス・百合の女王が超低確率でドロップする百合をイメージした幻想級の銀指輪。支援系特技の効果を僅かに上昇させ、支援系特技の再使用規制時間を短縮することができる。

【管理者鑑定】

分類:『Eternal Fairytale On-line』アイテム

レアリティ:創世級（ジェネシス）

付喪神度:99,999,999,999/99,999,999,999【該当者: リーリエ】

武装固有特技：銀光之百合

　とある吸血姫と共に歩み続けた指輪の記憶が形を成したリーリエの『銀光の百合指輪（シルバー・リリー）』のみが有する特技。周囲の生命力を吸収することで瞬時に周囲を凍らせることができる。また、致死レベルの攻撃を消滅レベルの攻撃を含めて一度だけなかったことにすることができる。武装の力を完全に解放することで使用する武器に少し先の未来や過去を斬ることができるという力を与える。

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　ずっと神話級（ゴッズ）化しなかったリーリエの装備が神話級（ゴッズ）化……を、飛び越えて創世級（ジェネシス）になった。

　……鑑定してもさっぱり分からなかったから理由は不明なまま。

　どうやら、創世級（ジェネシス）になると武装固有特技という凄まじい能力を獲得するみたいだねぇ……うん、チート過ぎて使い所が限られそう。決戦装備仕様の特技は基本封印でいいかなぁ？

「創世級（ジェネシス）化か！？　羨ましいぜ。俺もようやく神話級（ゴッズ）化した感じだからな。……どうやったら創世級（ジェネシス）化するんだ？」

「さぁねぇ。……やっぱり武器ごとに条件が違っているんじゃないかと思うよ？　ボクの場合は……そうだねぇ、アイオーン系の神を殺すことか、死ぬほどの相手との戦いに勝利するか、付喪神度を限界を超えた一定値まで上昇させるか、正直その辺りだと思うけど」

　……まあ、ラインヴェルド達も続々と神話級（ゴッズ）の領域に踏み出しているし、そう遠くないうちに到達できると思うよ？　創世級（ジェネシス）。

◆

　ボク達はその後、辺境の街セニアに降り立って探索を開始した。

　……しかし、こんなスタートだし、嫌な予感がするんだよなぁ。最悪な事態になっていないといいんだけど。