Act.8-67 多種族同盟情報交換会議 scene.1

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>


 ルイに依頼して出国の手続きを済ませてから、ボクはブライトネス王国に戻ってきた。

 既にラインヴェルド達に可能な限り集まってもらえるように連絡はしてある。情報交換が重要だって痛いほど分かったからねぇ。


 今回はリモートも含め、多種族同盟の代表者が全員集まった。主要文官達は当然揃っている……ブライトネス王国で日夜降ってくる仕事と戦っているからねぇ。


「夜遅くにわざわざ集まってくれて悪いねぇ。ここ数日色々と情勢が変わったから情報を交換しておきたくて」


「別にいいせ? 基本暇だしな」


「ラインヴェルド陛下は仕事をせずに逃走しているだけでしょう!? 謁見放り出して何度もバルトロメオ殿下と一緒に外出していますよね!?」


「エイミーン様も似たようなものです……本当にこの人達に政治を任せていて大丈夫なのかと不安で仕方ありません」


「ミスルトウが酷いことを言うのですよぉ〜」


 エイミーンが自分は関係ないって顔をしているけどミスルトウと、ミスルトウと共に緑霊の森組で同席しているマグノーリエとプリムヴェールの方をちゃんと見られる? ジト目向けているよ?

 ヴェルディエ、ディグラン、バダヴァロート、レジーナ、ピトフューイは画面上で溜息を吐き、天上の薔薇聖女神教団教皇のアレッサンドロス、金色の魔導神姫教代表のマルグリットゥ=グリシーヌ、兎人姫ネメシア教三教主の一人カムノッツ、緑の使徒ヴェルデの代表兼竜皇神教の最高位――竜皇巫女アリシータはどうでもいいという顔をしていた。

 アレッサンドロスとかは「くだらない話でリーリエ様の話を止めるな」みたいなことを思ってそうだねぇ。マルグリットも似たような感じかな?


 マルグリットはブランシュ=アルブルの上司に当たる【生命の巨大樹ガオケレナの大集落】の治安維持を司る神樹衛士の隊長でもある。その彼が金色の魔導神姫教の代表になったのかはよく分からないけど、アレッサンドロスに似た匂いがするから多分狂信者タイプ。

 本当はボクの誕生日会の二次会に参加したいみたいだったけど、その日は神樹衛士の仕事があってどうしても参加できず、後で物凄い勢いで謝られたからなぁ……別に気にしなくっていいのに。祝われていたかよく分からない誕生日会だったし。


「じゃあ、早速報告をさせてもらうよ。まずは、ライヘンの森に関して。既にラインヴェルド陛下には報告済みだけど、ライヘンの森に魔物の共同体が生まれていた。どうやら、欅がアルラウネに百合を教えたのが始まりだったけど、その後流入した魔物を含め、多数の魔物が共同体を築き、今日の午前中にボクの従魔に加わった。詳しい内容は送った資料の一つ目を見てねぇ」


「なかなか強い魔物が揃っているようじゃな。欅殿達と互角ということでいいのか?」


「魔物のランクとしては同等だけど、経験値は欅達の方が上だからねぇ。まあ、戦力としてはかなりのプラスになると思うよ? このライヘンの森は今後ボクの領地になるみたいだから、領地経営の方法はドゥンケルヴァルトと同じくビオラ商会の直轄という形になると思う。勿論、コンセプトは変えるけどねぇ」


「ビオラ商会直轄か、移民などは受け入れるのか?」


「まあ、大した広さではないけど移住したいなら要相談かな? 基本的にブライトネス王国とフォルトナ王国に支払う税収に関してはビオラ商会の儲けでどうにかなっているから住民税を取る必要はないし、基本住むだけなら税金は掛からない形になると思うけど。でも、その辺りはボクじゃなくてビオラ商会の担当者が決める話だし、どうなるかは分からないからねぇ」


『ビオラ商会は高額納税法人だからな。貴族より段違い支払っているし、これ以上要求するつもりはねぇよ』


「実はビオラ商会を疎ましく思っている貴族からもっと増税すべきだって進言も出ているんだけどなぁ? そいつらの何倍も払っていて、ついでに本当の爵位はそいつらよりも断然上なのに商人風情と甘く見て随分と舐められているみたいだぜ? まあ、その牽制の意味も込めて正式に爵位を与えようって考えなんだけどな?」


「大丈夫大丈夫、疎まれるのも舐められるのも慣れているからねぇ。そんな連中に構っている暇はないし。……まあ、この件に関しては欅もボクに伺いを立てるまでもないって思っていたみたいだけど、個人的には報連相はしっかりやって欲しいと思うよね? 続いて二つ目、エヴァンジェリンさんのトーナメント優勝祝いで迷宮の増築を行った件は伝えたけど、その後冒険者ギルドの出張店を設置してもらえるように冒険者ギルドの本部に行ってきた。まず、ヴァーナム本部長が転生者で、前世が総隊長補佐のモネさんだったっていうのがびっくりなんだけど、そこでいくつか初耳だったことがあるから共有しておくよ。一つ、冒険者ギルドの初代総長が『False heaven〜偽りの神と銀河鉄道の旅〜』のブルカニロ博士の転生体だった。二つ、ラングリス王国で革命が起きていて、それをマラキア共和国の裏切り者が支援していた。三つ、『阿羅覇刃鬼』や『阿頼耶死鬼』と呼ばれる犯罪シンジゲートがマラキア共和国を根城にしていた。それぞれの詳しい内容は資料二、資料三、資料四を読んでねぇ」


「まずいいか? この『阿羅覇刃鬼』や『阿頼耶死鬼』っていう組織は資料の示す通りウンブラが動かしているってことで間違い無いのか?」


「まあ、大方デッドコピーだと思うけどねぇ。定吉っていうのはウンブラさんが使っていた仮名の一つだからまず間違いないと思うよ。『阿羅覇刃鬼』や『阿頼耶死鬼』もウンブラさんが初期の頃に使っていた一人用のギルドの名前だしねぇ」


 ウンブラは初期の頃はソロプレイをしていたんだけど、ギルドシステムを使うために一人用のギルドを作っていた。随分懐かしい名前を使ったのは分かりにくくするためかな? まあ、ログに残っていたものを流用しただけだろうけど。


「ところで、マラキア共和国とラングリス王国についてはどうするつもりなのかな? 永世中立国の承認をしている二国の陛下に聞きたいんだけど」


「お前の言わんとしていることは分かるぜ? こっちも利用価値があるから残してきたが、ここまで悪事の温床になっていてそれを見て見ぬふりをしてきたことが明らかになったとなれば、マラキア共和国を流石に見逃すことはできねぇなぁ?」


『革命に関しちゃ、どっちも味方するのは難しいんじゃねぇか? 他国のことだから介入は難しいだろうし、そもそも、俺興味ないし』


「まあ、ボクも王女宮の仕事があるし、それとは別件でやらないといけないことが出てきたからねぇ。そっちは王女宮筆頭侍女の仕事と並行で進めさせてもらうけど」


「ん? 大丈夫なのか、それ?」


「プリムラ様への対応がおざなりになるか不安だってこと? 勿論、ちゃんとしっかりやるって。他の仕事も平行でしっかり進めるよ。でも、こればっかりは一人じゃ厳しいからブライトネス王国以外から協力者が欲しいけど。――それじゃあ最後の話題だけど、フォティゾ大教会の枢機卿とマラキア共和国の裏切り者から情報を引き出したんだけど、どちらも『這い寄る混沌の蛇』の信者だった。資料五には『這い寄る混沌の蛇』も関わる『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』に関して纏めてあるからそっちを読んでねぇ」


『なるほど……あの海溝の先には新たな大陸が広がっているということか。アネモネ殿はその大陸の調査をするつもりということだな』


「バダヴァロート陛下の仰る通りだよ。『這い寄る混沌の蛇』と戦うっていうことなら協力者が欲しい……というより、『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』の国々がこのままだとまずいことになるっていうのが正しいかな? 本来は魔法が使えない世界観なのに、『這い寄る混沌の蛇』は魔法を扱う術を得ている。これはかなりまずいからねぇ。早急に、ペドレリーア大陸の諸国とは繋がりを作っておきたい」


 ダイアモンド帝国、ライズムーン王国、オルレアン教国……主要なのはこの三国だけど、他にもいくつか国がある。

 『這い寄る混沌の蛇』の活動によって壊滅した可能性は低いと思う……ヴィオの動きを考えれば。まだ時間はある筈。


「ローザ殿、この中に特に欲しい人材はいるのか?」


 『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』には主人公が四人いる。


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・ミレーユ・ブラン・ダイアモンド

 ダイアモンド帝国の皇女。『這い寄る混沌の蛇』が帝国の秩序破壊を狙ったため、必然的に対峙していくことに。

 革命によって命を落とした記憶を持ち、処刑を恐れる心が原動力。基本は我が儘で自分本位だが、その行動が巡り巡って幸福をもたらす奇跡的な存在。

 このルートではメイドのライネ、文官のルードヴァッハ、最凶の騎士ディオンがパーティメンバー。


・トーマス・ラングドン

 ダイアモンド帝国の帝都で私立探偵事務所を営む探偵。無神論者。元はオルレアン教国にある学院都市で教鞭を取っていた宗教学者だが、「神とは未熟な世界が成長するまでの間に必要な要素の一つであるが、神という概念と現象の具現化であって世界を安定へと導く要素に過ぎない」という大胆過ぎる仮説の提唱をオルレアン神教会から非難され、学会を追放される。

 その間、神殿騎士団所属の騎士二十人を返り討ちにしている。

 元リズフィーナの師。

 リズフィーナと同じく『這い寄る混沌の蛇』と長年に渡って敵対している。作中ではトーマスはどの選択肢を選んでも他の登場人物とクロスすることが終盤までほとんどなく、特異な位置にいる。

 このルートでは助手のミレニアムがパーティメンバー。


・リズフィーナ・ジャンヌ・オルレアン

 オルレアン神教会の聖女。オルレアン教国、或いはオルレアン公国という国の実質統治者であるオルレアン公爵の一人娘。

 平民にも貴族にも平等に扱い慈悲を注ぐ一方、潔癖な性格で正義を重んじており、容赦なく他者を裁くことができる本物の聖女。

 オルレアン公爵家は秩序を破壊する『這い寄る混沌の蛇』と長年敵対している。


・リオンナハト・ブライト・ライズムーン

 ライズムーン王国の第一王子。

 あらゆることに優れた才能を発揮する万能の天才であり、「公正」と「正義」を心がける好青年。

 前の時間軸では、ミレーユを「無能な統治者」と断罪し革命軍の主導者に助力し、ミレーユの処刑にも立ち会った。

 このルートでは腹心の従者のカラック、革命を主導した貴族としては格下とみなされているレイドール辺土伯爵家の努力家の少女マリアがパーティメンバー。

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「好奇心を優先するならミレーユ皇女殿下だけど、最優先に繋がりを作っておきたいのはトーマス・ラングドン殿かな?」


 実際、この狂信傾向の強くなりつつあるこの国に無神論者な宗教象徴学専門の学者は欲しいからねぇ……ってそういう理由で欲しいのかって?

 まあ、実際彼はこの中では一番頼りになるし、それに考え方が似ているんだよ……彼はボクの思想の体現者の一人だからねぇ。

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