百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.8-62 冒険者ギルド本部長ヴァーナム=モントレー scene.1 上
Act.8-62 冒険者ギルド本部長ヴァーナム=モントレー scene.1 上
<一人称視点・アネモネ>
モレッティ、アンクワール、ジェーオに「ライヘンの森の現状についての説明と、魔物達との相談が可能な日取りの連絡依頼」のメールを送ってから、ボクは神速闘気を纏った状態で神境智證通をフルで使い、瞬く間にマラキア共和国の国境付近に到着した。
マラキア共和国有する軍隊――共和国軍の国境警備隊が行う砦での入国審査を身分証を使って通過し、ボクはマラキア共和国の辺境、シルファスに辿り着いた。そこからは「千羽鬼殺流・廉貞」と神境智證通を駆使して三十分で共和国の首都マキアラに辿り着いた。
マラキア共和国はブライトネス王国の隣国の一つで、別名商人国とも呼ばれる。
大手の商会同士の協力によって設立された商人ギルドが軍事力を得て武装中立を行えるほどにまで戦力を集め、そこにブライトネス王国を含む多くの国が賛同したことで永世中立国を名乗れるようになった。
商人ギルドに加入し、上納金を支払えば誰でも商売ができる自由商売の国を謳い、良いものも悪いものも集まる巨大マーケットを形成するこの国は永世中立国として保証した各国家にとっても当初は都合の良いものだったんだろう。
国民皆兵を国是としていて、徴兵制度により多数の予備兵を集め、更に職業軍人も四千名ほどいるという。
絶対の安全を保証する代わりに、その地に根差すと決めた者達は国を守るために尽くすべきであるという、まあ、そりゃそうだよねぇ、と言いたくなるような方針を取っている国だねぇ……といいつつ、金を積めば徴兵を取り消せるのだから流石は商人の国って言いたくなるけど。
まあ、ここまで説明したけど、
ちなみに、商人ギルドほどの力はないけど、冒険者ギルドもそこそこの影響力を持つ。実際、冒険者証で砦を通過できたしねぇ。
この永世中立国であるという強みや世界最高の秘密保持能力を有する最高信用のプライベートバンクに惹かれ、この地に本部を置く組織も多い。
冒険者ギルドもその一つだけど、そういった表の組織ではなく、先代ラピスラズリ公爵家の拠点が置かれたり、風の噂では巨大な犯罪シンジケートも存在すると言われたり、さっきも言ったように良いものも悪いものも全てが集まる巨大な国というイメージだねぇ。
まあ、今回の目的は犯罪シンジケートの撲滅じゃなくて、冒険者ギルド本部長への面会だからサクッと冒険者ギルドの本部に向かい、冒険者証を提示する。
「ようこそ、アネモネ様。本部長の面会ですね、ご案内致します」
煉瓦造りの摩天楼のような建物の入り口で受付嬢に冒険者証を提示すると、すぐに上の階に案内された。
案内された部屋には小さな円形の部屋に魔法陣が描かれ、壁にはボタンのようなものがいくつも設置されている。受付嬢がボタンを押すと、魔法陣が光を放って同じ作りの別の部屋に転送された……あっ、空間魔法ねぇ。
「二十階、本部長室は廊下の突き当たりにあります」
エレベーターを再現したような転送装置から降り、そのまま真っ直ぐ進む。
こういった建物はブライトネス王国を含め、どの国でも見つけられなかったし、空間転移魔法もこれほど一般化していなかった。これがマラキア共和国全土に普及しているものなのか、冒険者ギルドの本部にしかないものかは分からないけど……うーん、これはもしかするとかなり厄介なことかもしれないねぇ。万が一敵対する場合は。
「失礼致します」
扉をノックしてから「どうぞ」という声を聞き、扉を開ける。
中には端正な顔立ちをした無駄に美麗な冷ややかな雰囲気を感じさせる冷たい眼の細い銀縁眼鏡をかけた男が机を真ん中に二つ置かれた黒皮のソファーの右側に座っていた。
「初めまして、ヴァーナム=モントレー本部長様。本日はお招きありがとうございま――」
嫌な予感がして裏武装闘気の刀を咄嗟に作り上げるのと、ヴァーナムがソファーに立てかけられていた剣を鞘から抜いたのは同時だった。
剣を交えた瞬間――黒い稲妻が迸る。ちっ、覇王の霸気の使い手か。
「何してくれてんだ、この野郎!?」
「……本当に似ていますね、貴女はあの方に。切れ方がそっくりです。まあ、いいでしょう。……予想通り貴女が身に纏う闘気が、私のセンサーの規定ラインをクリアしたのを感じました」
「だから斬り掛かったと? そんなよく分からない理由でこんな非力な女の子にいきなり斬り掛かるってアウトだからねぇ。……まあ、いいや。君、モネの転生者でしょう?」
「はい、その通りです。正解したので私を打ってもいいですよ?」
「打てと言われて打つ奴があるか、このド戯けがッ!」
霊力を収束させた弾丸でヴァーナムの肩を撃ち抜いた。……たく、頑丈な奴。全然効いてないじゃないか。
「初めまして、アネモネ――いや、百合薗圓。貴女の話は聞いていました。フォルトナ王国を救ってくださり、ありがとうございます」
「……そこまで知っているんだ。で、誰が裏切り者なの?」
「私に情報をリークしてくれていたのはディランです。ちなみに、ラインヴェルド陛下、バルトロメオ殿下、ヴェモンハルト殿下、スザンナ殿は私のことを知っています」
「……つまり、あいつら揃いも揃って隠していたってことねぇ。で、なんでお前が冒険者ギルドの本部長やっているの?」
「前世のような強敵を求めて戦っていたら気づいたら一番上に上り詰めていました。あの頃に比べ、歯応えのある敵がいなかったので、本当につまらなかったですね。ディランと知り合ったのは十年以上昔ですね。すぐに分かりましたよ、まんまですから」
……でも、そうなると気になることがある。
「それじゃあ、なんで君はフォルトナ王国の一件で力を貸してくれなかったのかな?」
「ディランと再会した当初はフォルトナ王国の崩壊をどうこうできるとは思っていませんでした。貴女の存在について聞かされてからは光明が見えてきましたが、そうなれば別に私が動かなくても事件が解決しそうなのでわざわざ動く必要がないと判断したまでです。それに、私には私で色々と調べ物がありましたから」
「その話の前に、まずは貴女の依頼についての返答をさせて頂きたいと思います」と話を一旦打ち切り、ヴァーナムは紅茶を二つ用意し、茶菓子と一緒に出した。
「迷宮への冒険者ギルドの出張施設の設置ですが、快く引き受けさせて頂きたいと思います。人員調整などはこちらでさせて頂いてから報告ということでよろしいですか?」
「迷宮のギルド施設の内部についてはノータッチだからねぇ。別にボクに伺いを立てる必要はないよ。ただ、強いて言うなら冒険者にとって過不足なく必要なものを補える施設を作ってもらいたいねぇ」
「承知しました」
なんとなく、先にこっちの話を進めたくなった気持ちも分かるよ。一発で決まったからねぇ……迷宮内部に冒険者施設を置くって前代未聞の提案なんだけどねぇ。
「さて、話を戻しましょう。まず、私の調べ物の一つはこの国の犯罪シンジケートに関する調査です。『阿羅覇刃鬼』や『阿頼耶死鬼』などと呼ばれる世界的犯罪組織がこの地を拠点にしているという噂があります。他国の間者や無法者が隠れ蓑として使用している国ですが、彼らに比べて『阿羅覇刃鬼』や『阿頼耶死鬼』と呼ばれるシンジケートは厄介です。こちらは単に私の個人的な興味で調べていました」
「『阿羅覇刃鬼』や『阿頼耶死鬼』……ねぇ。『変人達の巣窟』や『暴走半島』じゃなくて?」
「そんなふざけた名前の組織は私も聞いたことがありませんが?」
「ふぅん、じゃあ首領は差し詰め
……これは本格的にこの国に探りを入れた方がいいかもしれないねぇ。
「ご存知なのですか?」
「まあ、そうだねぇ? どうだろう?」
「何故お答えにならないのですか?」
「えっ? 君達がボクにだけ隠し事をしていたからじゃないかな?」
「
「……君達、
「ヒユ科アカザ亜科ホウレンソウ属の野菜ですね」
「……うん、そうだねぇ。よく分かったよ」
まあ、あの人のことだから尻尾は掴ませてもらえないと思うけど。
「他には初代冒険者ギルドの総長が残した紙資料の調査です。……と言ってもこちらはあまり信頼できるものではありませんが。不確かな空想を書き連ねたもので、とても常人が書き起こしたものとは思えないのですが、その根底に何があるのか興味が湧きましたので調査していました」
冒険者ギルドはいくつかの地域で派生した似たような組織が協定を結び、完成した組織なんだけど、この冒険者ギルドの起こりは初代総長が今は滅んだとある小国の付近で設立された組織だと言われている。
その組織は総長がトップだったけど、協定が結ばれて以降は支部長と総長の格差が埋まり、本部長と支部長という関係になった。本部長は冒険者ギルドの会議の纏め役――議長の立ち位置にあって実際の最高責任者でもあるのだけど、発言権は支部長よりやや上という程度。
総長だった時はある程度自分の裁量で決められたのだけど、今は冒険者ギルド会議によってほぼ全ての物事を決めるため、昔ほどの力はない。
冒険者の初代総長については、ボクも興味がなかったから調べていなかった。
ただ、よくよく考えると不思議なことも多いよねぇ。まだ通信機器がない時代から冒険者ギルドには水晶玉を利用した連絡ツールが存在していたし。……まあ、そんなに台数がないみたいで基本的には手紙でのやり取りで済ませていたみたいだけど。
「記録によれば、総長の名前はコルヴォ=ロンディネという人物だったようですが、対外的にはDr.ブルカニロ、あるいはブルカニロ博士と名乗っていたようです。類稀な空間魔法の技術を持ち、この建物も彼の遺産の一つだと言われています。あまりにも勿体無くて相当なお金を掛けてこの施設を丸々移転させたようです。彼は連絡用の水晶、魔法陣式転送装置などを開発したそうですが、もう一つ夢幻魔法なる特殊能力を有していたと彼自身の記録にはあります。彼は生前、「『銀河ステーション』を探さなければ」、「この世界には銀河を走る死者を乗せる軽便鉄道がある」などとくだらない妄想を語っていたようですが、恐らく精神疾患だったのでしょうね。しかし、その幻想がどこから湧き出たものか興味がありましたので調べてみましたが、どこにもその痕跡はありませんでした」
「だろうねぇ……ブルカニロ博士か。生前にお会いしたかったねぇ、その転生者には。まあ、夢幻魔法は時がくれば回収できるかもしれないし、特に問題はないか。しかし、あの人が冒険者ギルドの初代総長か。全く『スターチス・レコード』に冒険者ギルドの設定はなかったからてっきり自然発生的なものだと思っていたんだけど、違ったみたいだねぇ」
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