Act.8-63 冒険者ギルド本部長ヴァーナム=モントレー scene.1 下

<一人称視点・アネモネ>


 スマートフォン専用ノベルRPG『False heaven〜偽りの神と銀河鉄道の旅〜』は、ボクと高欅さんが組んだ第十二作。

 当初はスマートフォン向けのゲームとして販売されたが、後に家庭用ゲームとして再構成された形で再販売される。


 宮沢賢治作『銀河鉄道の夜』を再解釈した物語であり、ノーブル・フェニックスの開発したゲームの中で最も思想的なゲームと言われている。実際に、ボクの思想が最も表れているのはこのゲームだと言えるねぇ。


 本作は求道者ジョバンニ案内者カンパネルラが何人も存在し、不完全な幻想第四次元空間の伝承を地上に広めた世界を舞台としていて、 銀河ステーションから始まり、月や太陽系の惑星がある太陽系といった実存する宇宙空間を経由して、北十字星ノーザンクロスから南十字星サザンクロス、そして終着駅本当の天上へと続く旅を描く。


 主人公は恋人にして立場から対立することとなった魔女ベアトリンクスと恋仲にあった聖騎士のクリストファー。

 最終的にベアトリンクスを自らの手で殺めることとなったクリストファーは死後、この異世界(実際はクリストファーとベアトリンクスの生きた世界の未来である)を旅することになる。


 旅をする中で、この世界が誤った思想によって成り立っていること、本当の天上にいる神と南十字星サザンクロスにいる眷属神がその黒幕であることを知ったクリストファーは銀河鉄道を旅する死者達を自らの糧にしようとしていた偽りの神を滅ぼし、天上世界に真なる救いをもたらす。


 当初、本当の天上は悟りを開いたものに永遠の幸福を与える浄土、南十字星サザンクロスは天界道として機能していたが、不完全な幻想第四次元空間に神が現れ、システムが大きく改変されることとなった。


 本作は本当の天上=浄土と南十字星サザンクロス=天界道、或いは天上世界のあり方に疑問を持つクリストファーによって本当の天上が破壊され、輪廻転生のみが存在する世界を作り上げたところで幕を閉じる。

 これは、ボクが当時出現した新興宗教天人五衰の思想の影響を受けたもので――ボク自身は天人五衰の振る舞いを嫌っていたんだけど、その思想自体には寧ろ共感を持っていた――それに加え、この時期にボクが神との接触で真の輪廻転生のシステムを知ったことも大きく影響している。

 その根幹には人生は原則的に一回きりのものであるからこそ、それを有意義に使わなければならないという思想があることは疑いないねぇ。


 Dr.ブルカニロ、或いはブルカニロ博士はアフロヘアにモノクルをかけたマッドサイエンティスト風の白衣の男で、夢幻魔法という特殊な能力を持ち、銀河鉄道に乗り込んだ。自身も求道者ジョバンニとして乗り込んだ経験がある。

 かつて南十字星サザンクロスで醜悪な神アルコーンの姿を目撃しながら逃げ切った唯一の人物で、天上世界を支配する神々を討伐するためにジョバンニやカンパネルラに働き掛けるようになる。彼は幻想四次元の物理法則について知り尽くしていて、黒い大きな帽子を被った青白い顔の痩せた大人として度々車内に登場して、イレギュラーなクリストファーや同乗する求道者ジョバンニ案内者カンパネルラに少しずつ幻想第四次元空間について説明していく。


 モデルは第一次稿から第三次稿まで存在したブルカニロ博士というキャラクターで、彼は一種神のような立ち位置で登場し、ジョバンニに催眠導入を行って銀河鉄道に乗せる実験をするんだけど、その設定が一部変更された上で取り入れられたのが本作のDr.ブルカニロということになるねぇ。


 まあ、三十のゲームの一つである以上、どこかで関係してくるとは思っていたんだけど、一つだけ確かなのはこの大陸に銀河ステーションは無さそうということかな? あったら見つけていそうだし、Dr.ブルカニロかヴァーナムが見つけているだろうし。


「……ということは、その荒唐無稽なものは確かに存在するんですね」


「まあ、三十のゲームの中に確かにあるからねぇ。というか、月が舞台のゲームもあるし、いつかは宇宙に行く必要が出てくると思うよ? 地底とどっちが早いか分からないけど。……まあ、現時点ではないかもしれないけど。アップデートによって追加されることもあるみたいだし」


 とりあえず、Dr.ブルカニロはゲームには無かった敗北し、殺された世界線か、あるいは悲願を叶えられずに死んだ世界線か、そのどちらかの転生体だった可能性が高い。


「最後に、マラキア共和国の商業ギルドの中で妙なことが起こりました。私がこの国を動けなかった主な理由はそのことに関する調査ですね。……マラキア共和国の商人ギルドの組合総長――つまり、国家元首ですが、彼から依頼を受けた私は商業ギルド内の奇妙な金の動きを調査していました。丁度、貴女方がフォルトナ王国に赴いた頃ですね。総長も当初は単なる業務上横領であると考えていましたが、調べているうちに商人ギルドも把握し切れていない闇のマーケットから多くの武器が購入され、それが隣国ラングリス王国に送られていることが分かりました。そのラングリス王国でも革命の動きがあり、その革命軍は永世中立国の承認を取り消し、滅ぼして支配することを企てていたようです。このラングリス王国の革命軍にマラキア共和国から武器が流された痕跡が残っています。奇妙な話だと思いながら、私は総長と共に犯人を割り出して商業ギルド役員の一人だったヴィオ=ロッテルを捕らえました。丁度これがつい先日のことです。恥ずかしい話ですが、なかなか尻尾を見せなかったので捕らえることが困難を極めました」


 しかし、奇妙な話だねぇ。ラングリス王国て何らかの理由で革命が起こって王政打倒に動くってのはまだ分かる。仏蘭西とか露西亜とかでも過去に革命が起こって王政や帝政が打倒されたことはあるし、別段ありえない話はないけど……でも、それならなんでマラキア共和国に攻撃を仕掛ける方向になるのかって話だし。しかも、その革命にマラキア共和国の中心にいる人間が関わっていたんでしょう? まあ、怪しい話だよねぇ。


「その後、総長のルイ=マギウスの許可を得て拷問官に拷問させました。個人的には私も拷問してもらいたかったです」


「ウン、ソウナンダ」


「しかし、その拷問でもヴィオは口を割りませんでした。個人的にはこの不自然な事件に興味がありますが、これ以上は引き出せないようです。流石にこれ以上拷問を進めれば死んでしまうようなので、ヴィオは現在マラキア共和国の牢に放り込んであります。……ただ、彼の部屋に残されていた取引に関する書類などから彼が犯人であることは疑いありません」


「で、その取引の情報の中に『阿羅覇刃鬼』か『阿頼耶死鬼』の名前があったってところ? 噂っていう割には存在を確信しているような顔をしていたからねぇ。それに、君は自分で確かめるまでは口に出さないタイプだってことは知っているし」


「察しがいいですね。……ところで、ヴィオの件について心当たりはありませんか? この世界の創造主である貴女には」


「そうだねぇ……今のところは候補が一つ。でも、それを裏付ける証拠がないからねぇ。……ヴィオの所持品を提出して貰えば何か分かるかもしれないけど、特に『本』があれば確実なんだけどねぇ」


「本、ですか?」


「そっ、で、もしボクの予想が当たっていたなら暴力よりも簡単に口を割らせる方法があるよ?」


「……それは一体なんでしょうか?」


「例えば、天上の薔薇聖女神教団教皇アレッサンドロス=テオドールの説教、とか?」



<三人称全知視点>


 ルネリスの街に朝日が昇った。


 ルネリスの街はフォルトナ王国のフォティゾ大教会の敬虔な信徒が集まる大聖堂がある街だ。

 人々が活動を始め、シスターや神父達が朝の祈りを終えて腰を落ち着けて祈り後の日課仕事を再開させる頃、この普段は静かな街がにわかに騒がしくなった。


 大聖堂の一角が改良され、枢機卿アンブラル邸となっていた。アンブラル邸を含めた聖堂区画は巨大な塀によって守られ、唯一ある二つの門付近の詰所にも聖堂を守る聖堂騎士達が常駐している。

 大聖堂がある土地は、実質的に聖職機関が統治している。その規模はやはり枢機卿自らが統治しているだけあって、街が広いだけでなく大司教邸まで立派だ。


 この地を守る聖堂騎士達も選りすぐりである。総本山であるフォティゾ神聖堂に常駐している騎士達に比べれば僅かに劣るが、それでも王国騎士に勝るとも劣らない力を持っていると本人達は見積もっている。


 その優秀な聖堂騎士達が門に到達する前に大扉が強引に開け放たれた。

 そこから騎馬に跨った騎士達が次々と雪崩れ込んでくる。


「王国騎士団である! 以下の罪名により、国王陛下の命によって当大司教と続く各者共の身柄も確保させてもらう! これより、枢機卿邸、並びに大聖堂は王国軍が制圧する! 降伏せよ! 逆らえば斬り捨てる!」


 一番に乗り込み、建物内にいた者達に、一枚の書面を掲げて見せた中央軍銀氷騎士団第六師団長ポラリス=ナヴィガトリア騎士団長に続くように、中央軍銀氷騎士団第二師団長フレデリカ=エーデヴァイズ、中央軍銀氷騎士団第十一師団長ドロォウィン=シュヴァルツーテが騎馬に跨って乗り込み、剣を抜き払った。


 と同時に壁を飛び越え、シルフスの街の領主バチスト=シルフス伯爵、王立図書館図書館長のジャスティーナ=サンティエ、大臣のファント=アトランタ、大臣の手駒ファイス=シュテルツキン、近衛騎士団の騎士団長ウォスカー=アルヴァレス、無所属の【漆黒騎士】オニキス=コールサック、戦闘メイドのアクア=テネーブルからなる臨時班が突入した。

 ちなみに、ディランはブライトネス王国に待機だ。親友が一人で臨時班に参加したと知った時は本気で逃亡を目論んだが、時既に遅し――ディランが到着する前に既に制圧が始まってしまった。


 ヨナタンによって証拠がもたらされたのは昨日――丁度アネモネが優勝祝いのデートをしていた日のことだ。

 そこから一気に軍を編成し、次の日に攻撃の準備が整ったという訳だ。留守番の中央軍銀氷騎士団総隊長、【白の魔王】シューベルト=ダークネスは自身が参戦できないことに苛立ちを感じてその頃、総隊長の備品を破壊していた。


「銀氷騎士団総隊長の直命だッ! これより我らも王国軍に加勢する! 警備隊、国王騎士団に続け!」


 同時にルネリスの街の警備隊隊長のカルコスの怒号が響き、気圧された警備隊の部下達がそのまま本物の制圧現場へ次々に参戦していく。

 カルコス=バーキンス警備隊長は国外軍の警備隊の庶民籍でありながら、漆黒騎士団をはじめとする伝説を築いた騎士達を英雄として敬う堅物の騎士だ。


 無表情で淡々と臨時班(オニキス、ファント、ウォスカー、ファイス、ポラリス、ジャスティーナ、フレデリカ、ファンマン、レオネイド、ドロォウィン)の素性を言い当て、驚いているように見えないのに、「まさか黄金世代の英雄様方が直接やって来られるとは思ってもおらず、貴方様方を見た時はらしくなく驚いてもしまいました」と言った時には全員が心の中でツッコミを入れたほどだ。


 当然のようにアクアとディランの素性も知っている彼は空歩を使い、次々と枢機卿邸に突撃していくアクア達に最敬礼をした。

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