Act.8-21 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.5 丁

<三人称全知視点>


 ところで、一人お忘れではないだろうか?


 アルティナとサーレと共に行動していた筈のメアレイズ――しかし、彼女はアルティナとサーレとヴェルディエの戦いが始まっても加勢することなく一向に姿を見せなかった。


 それもその筈、メアレイズは二人が戦闘を開始した時点でヴェルディエを素通りしてそのまま敵パーティの本拠地を目指して淡々と進んでいたのだ。

 これはメアレイズの独断ではなく、ミスルトウ、メアレイズ、サーレの三人で立てた作戦を忠実に実行しただけである。


 「兎の狩場インビジブル・ラビットフォレスト」を駆使して姿と気配を消したメアレイズは驚くほどあっさりとエイミーンの居る森の最奥に辿りついた。


「はぁ、なんとか辿り着いたでございます!」


 幸い、エイミーンはメアレイズに気づいていなかった。

 二振りの『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』を構えると武装闘気と覇王の霸気・・・・・を纏わせるメアレイズ。


 そう、メアレイズもまたこの五年の間に『王の資質』に目覚めていた。

 といっても、先天的に未覚醒の『王の資質』を保有していたという訳ではない。魂が聖人に至るほどの修行を経て強化され、覚醒に至ったのだ。

 それも、ほんのつい最近の出来事。獣皇ヴェルディエもメアレイズが聖人に至ったということを知らないくらいだ。


 メアレイズは二振りの『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』に聖なる魔力を纏わせ、念には念を入れて魂魄の霸気も全て発動した。


 メアレイズの魂魄の霸気は《戦兎》と呼ばれ、身体強化によって筋力を上昇させる《暴兎》、耐久力を上昇させる《防兎》、体を軽くして身軽な動きを可能にする《軽兎》、敏捷を上昇させる《俊兎》、聴力を上昇させる《兎耳》、危機的状況の時に幸運が発生する《兎足》、奥の手の狂化して全身のリミッターを解除することで戦闘力を飛躍させ、血を浴びる度に戦闘力と生命力を底上げし、瞬時に負った傷を癒す《狂兎》の効果がある。

 メアレイズは本来自我を失いかねない《狂兎》も完璧にコントロールできるようになっており、ノーリスクで使いこなすことができるよつになっていた。


 完璧に準備を整え、メアレイズは満を辞して無防備を晒すエイミーンに『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』を振り下ろす……だが。


「び、びっくりしたのですよぉ〜!!」


「な、なんで効かないのでございますッ!?」


 メアレイズの攻撃がエイミーンに届くことはなかった。

 理由は無論、魔力そのもので複雑な術式を編むことで大規模な事象改変を可能とするエルフ固有の魔法――五大術式の一つで時間的、空間的に断絶を一時的に発生させることで一切の攻撃を遮断する究極の物理防御、「第四防衛術式プリティヴィー・ムドラー」が発動されていたからである。


 エイミーンの物理防御がメアレイズの攻撃を防いだと同時に、エイミーンはメアレイズが攻撃を仕掛けてきていることに気づいた。


「防御張っていて正解だったのですよぉ〜。……これ、解除すると絶対にボコボコにされるのですよぉ。負けて試合終了になったら、絶対にラインヴェルドさんとかオルパタータダさんが文句言ってくるのですよぉ。ということで、このまま引き篭もるのですよぉ〜」


 メアレイズの攻撃を見て絶対に負けないと確信したエイミーンはそのまま防戦を続けることにした。


 ところで、エルフは同時に発動できる魔法の数が限定されている。

 普通の魔法であれば、発動した瞬間に間髪入れずに次の魔法を発動することで、それ以前に使用した魔法を維持しながら新たな魔法を発動するという裏技を使うことができたが、エルフ独自の魔法は発動後も魔法の維持のために術式の発動容量を圧迫し続けるため、エイミーンは八重術者オクテットから「第四防衛術式プリティヴィー・ムドラー」の維持に必要な「六重術式セクステット」を引いた二重術式デュエット」分の魔法の行使しかできなくなっている。


 この五年の間にローザによって試作品が作られ、ドワーフによって量産されるようになった『補助結晶ブースター』によって生まれた時点で決まっている同時に魔法を発動できる才能を最大で一段階上昇させることが可能になったようだが、エイミーンはその『補助結晶ブースター』をついうっかり・・・・・・自宅に忘れてきてしまったので、追加で一つ魔法を行使することはできない。


 魔法容量を一切消費せず、最大八個まで魔法をストックすることができるエイミーンの魂魄の霸気保管者には「第四防衛術式プリティヴィー・ムドラー」を発動する前に八つの魔法をストックしてあるが、それを一度使ってしまえば最大二つまでしか魔法をストックできなくなり、火力が尻窄まりになってしまう。


 エイミーンはそれを承知の上で最初の攻撃でメアレイズを撃破するべく、今放てる全ての魔法を同時に解放した。


八重魔法オクタ・キャスト全開放なのですよぉ!! 渦巻く風斬ハリケーンリッパー岩石の鉄槌ストーンハンマーなのですよぉ!!」


 しかし、その攻撃でメアレイズを撃破することはできず、その後もエイミーンは『新汎用魔法全書』の魔法を駆使して物理防御の中からメアレイズを攻撃し続けたもののどの攻撃も決定打とならず、逆にメアレイズの攻撃も「第四防衛術式プリティヴィー・ムドラー」を破れず、互いに互いを倒せないまま戦闘は試合終了のその瞬間まで続くことになる。



 エイミーンとメアレイズが戦闘を開始した頃、第一回戦第四試合の最後の戦いも幕を開けた。

 エイミーンとは丁度反対側に本陣を構えたミスルトウの前に現れたのは、エナリオス海洋王国の国王バダヴァロートだった。


「さて、ここからが腕の見せ所ですね。メアレイズさん達がエイミーン様を撃破してくれるまでここで一人でも敵を倒し、生存しなくては皆さんの頑張りに報いることはできません」


 ミスルトウの不幸は既にメアレイズ以外のメンバーは悉く全滅し、メアレイズもエイミーンを倒す術を見出せていないということだろう。

 既にミスルトウ一人で各国のトップと二人のラピスラズリ公爵という化け物を全員撃破しなければ勝利争いのスタートラインにすら立てないという絶望的な状況になっていることをミスルトウは知らないのだ。


「エイミーン殿の懐刀――エルフの知将殿か。一度戦ってみたいと思っていたのだ。……見せてもらえるのだろう? 妖精王オベロン翠妖精エルフとしての本領――」


「お望みなら、かつて〈精霊の仮面エレメント・マスク〉としてエイミーン様に弓を引いた男の全力をお見せ致しますよ?」


 古傷かつての過ちを抉るバダヴァロートの皮肉に、ミスルトウは皮肉を込めて返した。

 しかし、その言葉には決して嘘はない。


「――我が手に宿れ『神殺しの焔レーヴァテイン』」


 禍々しいほどの深紅の焔がミスルトウの手に宿る。

 かつてローザに敗北し、神々に狙われる危険を回避するためにローザに返却した筈の神殺しの力――その力を何故、ミスルトウが手にしているのか? その答えは彼の右手の指に嵌められた真紅の指輪にある。


 『神殺しの焔レーヴァテイン』の一部をルビーに込め、加工して作られた『神焔の指輪レーヴァテイン』――この五年の間にローザによって試作され、ミスルトウの戦力強化のために与えられたものだ。

 ローザはミスルトウが手にしたばかりの『神殺しの焔レーヴァテイン』を完璧に使いこなしていたあの緑霊の森での戦いを鮮明に覚えていた。その力を低リスクでミスルトウが扱えるようにするにするにはどうするべきかという問いは、あの戦いからローザの中で渦巻いていたのだ。


「『神殺しの焔レーヴァテイン』か……水の中ですら消えることなく燃え続ける焔、厄介極まりないな。それに得意属性が風ってなると我との相性は最悪極まりないが、だからこそ勝利した時の喜びも大きい。――さあ、行くぞ! 魂魄の霸気海皇!」


 ミスルトウを中心に大量の水が出現し、あっという間に巨大な水の球を形作ってしまう。

 バダヴァロートが魂魄の霸気を発動した直後に、嫌な予感がしたミスルトウは内部の空気が循環する空気のボールを生成するローザが即興で組み上げたオリジナル風魔法を『新汎用魔法全書』発売に伴い若干の手直しを加えた「循環する風球サーキュレーション・エアー・ボール」を発動して水中でも息ができる体勢を整えたが、これでようやく戦いの土俵に立ったというだけで、バダヴァロートの断然有利な状況に変わりはない。


海王の三叉突ポセイドン・スピアリング凍碎ギャチャーレ


 ミスルトウの身体が少しずつ凍りつき始める。

 ミスルトウは咄嗟に武装闘気を纏わせ、治癒闘気を凍りついた部分に流して徐々に溶かしながら、「『神殺しの焔レーヴァテイン無敵の全球ブレイズ・スフィア』」を瞬時に展開してバダヴァロートの攻撃から身を守った。


 『神殺しの焔レーヴァテイン』の焔に攻撃を仕掛ければ逆にトライデントを焼き尽くされて得物を失いかねないと判断したバダヴァロートは攻撃をキャンセルして、ミスルトウと距離を取る。


(……先程の凍結は恐らく魂魄の霸気の効果だな。差し詰め、魂魄の霸気によって生じた水を凍らせた部分を斬撃や刺突によって砕くことで狙った部位を粉微塵にするといったところだな。……種が分かれば打つ手はある)


 水分を蒸発される汎用風属性魔法「蒸発ドライアップ」で魂魄の霸気で生じた水分を全て蒸発させ、風の鎧を発生させる汎用風魔法を基にローザが改良を加えた汎用強撃風魔法「暴風の鎧ストームメイル」と風の加護を得て高速移動を可能にする汎用風魔法を基にローザが改良を加えた汎用強撃風魔法「暴風の加護ストームフォース」を発動すると、『神殺しの焔レーヴァテイン』を剣の形へと変化させ、左手で風の剣を生み出す汎用風魔法を基にローザが改良を加えた汎用強撃風魔法「暴風の剣ストームブリンガー」で生み出した風の剣を構えた。


 水に覆われ、大気が存在しない《海皇》の領域の中では出現する風の刃十二本を一本ずつ消費することで、目視している場所ならばどこでも斬ることができる「風刃空断」を行使することはできないが、武器としては十分な性能を有している。


 満を辞してミスルトウは再びバダヴァロートと相対した。


「おっ、出てきたようだな。準備は終わったか? それじゃあ、こっちも本気で仕掛けさせてもらうぜ」


 それが、ミスルトウがバダヴァロートを姿を捉えた最後の瞬間だった。

 ミスルトウの見気ですら捉えられないほどの圧倒的な速度――亜音速でバダヴァロートは《海皇》の領域の中を泳いでいたのだ。


 この亜音速という規格外の速度の種は液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象――キャビテーションにより物体をほぼ完全に覆うほどの気泡を発生されることで先端部を除き水との直接の接触が避け、抵抗から自由になることで水中において亜音速にも到達するほどの高速の泳ぎを可能にする超空洞現象スーパーキャビテーションである。


 バダヴァロートの魂魄の霸気海皇は、対象した地点を中心に大量の水を発生させ、目標が動いたとしても、その目標と同時に移動する水のフィールドを形成する《海域》と魂魄の霸気の水を瞬時に凍らせる《凍碎》、そして超空洞現象スーパーキャビテーションを利用して亜音速で移動することが可能になる《海泳》の三つの効果を有しているのだ。


海王の三叉突ポセイドン・スピアリング


 激流を纏った三叉槍を構え、武装闘気と覇王の霸気を纏わせると超空洞現象スーパーキャビテーションの速度を威力に変えてそのままミスルトウへと一直線に迫る。


「『神殺しの焔レーヴァテイン断罪の焔剣ブレイズブレイド煉獄の裁断クリムゾン・ジャッジメント』」


 『神殺しの焔レーヴァテイン』を水域の上部を覆う巨大な円形に変形させ、そこから焔の剣を降らせる。

 しかし、超空洞現象スーパーキャビテーションで亜音速に到達したバダヴァロートを捉えることはできず、そのまま一気に接近され、そのまま突きがミスルトウの纏っていた風の鎧と武装闘気を突き破って心臓を貫――。


五重魔法陣|空疾烈刃《エアリアル・ライン》」


 ――直前に、ミスルトウの手から重なった五つの風属性の魔法陣が放たれ、空を切り裂くように伸びる真空の線のような風の断層がバダヴァロートへと放たれた。

 ゼロ距離からの回避が不可能な攻撃を前にし、バダヴァロートの口が僅かに歪む。


「そう来なくっちゃな。海王の三叉薙ポセイドン・ホリゾンタリー大波撃ハイパーウェイブ


 武装闘気と覇王の霸気が魂魄の霸気により生じた水に注ぎ込まれ、バダヴァロートが薙ぎ払いを放つと同時に猛烈な波の斬撃と化してミスルトウへと襲い掛かった。

 三つの闘気により生じた波の斬撃は真空の線を破壊し、そのままミスルトウを両断する。


「『神殺しの焔レーヴァテイン無敵の全球ブレイズ・スフィア』!!」


 ミスルトウはその一撃によって撃破された……が、それよりも僅かに早くミスルトウが『無敵の全球ブレイズ・スフィア』を展開し、その球の焔の範囲に入ってしまったバダヴァロートが焼き尽くされて消滅した。

 万一、接近戦になった場合の奥の手として取ってあったできれば使いたくない保険のような一手だったが、結果としてそれが最終的にバダヴァロートを相打ちに追い込むことになったのだ。


 しかし、バダヴァロートとミスルトウでは敗北の重みが違う。

 結果として、バダヴァロートは敗北したものの大将であるミスルトウを撃破し、ミスルトウのパーティは敗北に喫した。


 とはいえ、これは第一回戦第四試合――優勝候補筆頭の国家のトップパーティと文官と兎人族の混戦パーティという実力差のあり過ぎる戦力同士のぶつかり合いの結果である。


 ミスルトウのパーティは決して他のパーティに比べて弱かったという訳ではない。

 ただ、籤運が絶望的に悪過ぎた。

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