百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
ラピスラズリ公爵家のクリスマス・イブ〜ミニスカサンタ達の暗躍(?)〜
【季節短編 2020年クリスマスSS】
ラピスラズリ公爵家のクリスマス・イブ〜ミニスカサンタ達の暗躍(?)〜
<三人称全知視点>
『スターチス・レコード』は中世ヨーロッパをモチーフとした乙女ゲームだが、あくまでモチーフにしただけであり、必ずしも現実の中世ヨーロッパと一致するという訳ではない。
これをご都合主義という者もいるかもしれないが、「架空の世界に中世ヨーロッパを追求する必要はないでしょう?」というのが百合薗圓に限らず、ノーブル・フェニックス社全体の見解である。
天上光聖女教を国教とするブライトネス王国には、バレンタインに相当するヴァレンティア聖祭やクリスマスに該当するが、元の世界で言うところの大晦日の日に行われる聖夜祭が大きな祭りとしてあった。
しかし、天上の薔薇聖女神教団への改名に伴い、新たに一つ重要な祭りが増やされることになった。
それが、ニコラオス聖祭――元の世界におけるクリスマスに相当する祭りである。
文化が極めて特殊な――節操の欠片もない文化の摂取の仕方をしている大倭秋津洲帝国連邦では、お正月とクリスマスは別物として扱われるが、クリスマスとは三位聖霊教の預言者の生誕を祝う祭りで、日本におけるお正月のイメージのものである。
他国のお正月の行事をやりながら、同時に大倭式のお正月もするのだから、節操の無さは流石は無宗教国家を自称するだけのことはある。
三位聖霊教の教皇は商業主義による「汚染」を嘆いていたが、やはり大倭に伝わるクリスマスのイメージは商業主義によるものと切っても切れない関係にある。いや、クリスマス限らず海外のイベントごとが輸入される際には商業との関係が大いに含まれる。バレンタインのチョコレート文化などはその典型だと言えるだろう。
ローザが主導したこのニコラオス聖祭についても(ニコラオスなどという聖人はブライトネス王国には存在しない)、商業主義の影響を受けたクリスマスが元になっている。
ニコラオス聖祭は家族一緒に過ごし、家族でプレゼントを交換し合うという祭りだ。別に家族だけに関わらず、恋人同士でも構わない。共に同じ時間を誰かと共有し、仲を深めるための一日にしなさい、と天上の薔薇聖女神教団の聖典『女神のお言葉』の一節にある。
こう言った祭りと非リアは極めて相性が悪いが、こういったところにも気を配るのが我らが麗しきリーリエ様である。天上の薔薇聖女神教団の各教会ではその日、ビンゴ大会などの素敵なイベントが催され、女神様グッズや素敵な賞品がもらえるのだ! ……教会は変な路線に加速して迷走しまくっているのである。
寧ろ、このビンゴの素敵な景品(毎年リーリエ様の手製、プレミアすぎるアイテムの数々)のために家族や友人達、恋人との大切な時間を削って教会の祭りに参加するリーリエガチ勢と多いこと多いこと、参加者達が血眼になって荒んだ祭りの過ごし方をしているので、みんなに楽しい時間を過ごして欲しいと思ったリーリエさんは涙目だ。
◆
ニコラオス聖祭には知られざる別バージョンがある。
それは赤色の服を着た誰かがプレゼントを届けてくれるという内容だ。言うまでもなく、大倭秋津洲ではお馴染み真っ赤なお服のサンタクロースである。
このバージョンが存在するのは、ブライトネス王国でもラピスラズリ公爵家のみ。
ローザとネストの溺愛する妹――カルミアにとっては一年をいい子に過ごすご褒美になっており、カルミアはこのご褒美を目標にして健気に頑張っている。
この年のクリスマスもラピスラズリ公爵家の全員でローザが焼いた美味しいケーキを食べ(何故かラインヴェルド達も加わっていたが、彼らはラピスラズリ公爵家の人間なのだろうか?)、楽しく過ごしていた……が、本番はこれから――皆が寝静まった深夜である。
「アクア、準備できた?」
「お嬢様、昨年も思いましたがスカート丈短過ぎません?」
「何を言っているの? クリスマスといえばミニスカサンタじゃない! やっぱり、アクアは可愛いなぁ、お持ち帰りしたいくらい♡」
「お嬢様もとてもお似合いで可愛らしいですわ。……あっ、すみません、興奮し過ぎて鼻血が」
「アクアは相変わらずだねぇ。それじゃあ、二人で今年も頑張ろう!」
毎年恒例、ミニスカサンタコンビのプレゼントお届けである。
これが普通の家ならプレゼントを枕元に置けば試合終了……なのだが、ラピスラズリ公爵家はそのメンバーのほとんどが【ブライトネス王家の裏の剣】という暗殺者一族のため、気配には敏感である。特に今年は先代のラピスラズリ公爵家のメンバーという更なる難敵もいるので、簡単には攻略させてもらえないだろう。
ちなみに、気づかれないことが目標ではあるが、この時間に眠っていないメンバーについては直接手渡しでプレゼントするのがお約束である。
毎年この時間に、何故かメイド達は毎年女子会をしているのだ。別にローザとアクアの知られざる活動の邪魔をしたいから……という訳ではなく、アクアとローザのミニスカサンタ姿と戯れたいという欲望によるものだ。メイドのお姉様方は肉食系なのである。
ローザはアクアと共に『管理者権限・全移動』を使ってカノープスの部屋に転移する。忍び込んだら確実にバレるからとミニスカサンタ達は転移を使って速攻で仕事を終わらせにいくのだ!
……といいつつ、実はカノープスは毎年寝たふりしているだけで可愛いミニスカサンタがやってきているのはバレているのだが。
そう、可愛い娘とアクアを抱きしめて甘やかしたいという気持ちを我慢しているカノープスは偉い……って、そろそろ子離れしようよ。ローザがお嫁に行ったら大丈夫なのか? そもそも、お嫁に行く条件が月紫さんが迎えに来るなので制限時間までまだまだあるのだが。
えっ? 他のローザの恋人候補者達は? って? 現在脈無しなので、
子離れできるか怪しい血塗れ公爵に貴重なお酒や手製刺繍のハンカチなどのプレゼントを置いた二人は即座に転移し、続いてやってきたのはカトレヤとカルミアの部屋だ。二人ともすやすや眠っている。
「メリークリスマス。一年いい子にしていたカルミアちゃんにはお姉さんからプレゼントをあげよう」
「楽しそうですね、お嬢様。……ところで、折角のチャンスなのでカルミア様をもふもふしても――」
「起きちゃうからやめようねぇ、アクア?」
今にも突撃しそうなアクアを引き止め、カトレヤには新しいドレスや手製刺繍のハンカチなどのプレゼントを、カルミアには新しいドレスや手製のぬいぐるみなどのプレゼント置くと、二人は次の部屋へと転移する。
普通、サンタさんはプレゼントを一つ用意してくれればいい方で、中には頼んでもいない参考書などを置いて行ってしまう
◆
ネストの部屋に転移したローザとアクア。早速、手製刺繍のハンカチを含むプレゼントを置いて任務を終えようとする二人だが――。
「……姉さんとアクアさんだよね?」
空気を読まずに布団の中からジト目を向けるネスト。
「うふふ、違うわよ? ローザさんじゃなくて、ミニスカサンタさんよ?」
「お嬢様、名乗った時点でバレてしまいます」
「……ネスト、念のために聞くけどいつから気づいたの?」
「それが悲しいことにここ数年なんだよ。まあ、なんとなくそんなことだろうとは思っていたけどね。……勿論、内緒にしておくよ。毎年楽しみにしているカルミアを悲しませたくないからね」
「ネスト、いいお兄ちゃんになったねぇ。うんうん」
「お嬢様、ネスト様も私達の正体に気づいたみたいですし、いっそお仲間になって頂きませんか?」
「アクア、たまにはいいこと言うねぇ。……ところで、それってこの後カレンさんにもふもふされる標的を減らそうって魂胆?」
「それもありますが、ネスト様の女装姿を見たいなぁと思って。きっと中性的ですし、女装似合うと思いますわ」
「というか、絶対に似合う!」と鼻息を荒くするアクアを微笑ましそうに見ながら「うんうん」と頷くローザ。対するネストは青くなっていく一方だ。虫も殺せない義弟から平気な顔で手を血に染める義姉思いの優しい? 義弟になったのだが、それでも嫌なものは嫌らしい。
「姉さん、絶対にしないよ! しないったらしないよ!!」
「実はお姉ちゃん、前々からネストは女装も似合うんじゃないかって思っていたんだよねぇ?」
「似合わないよ、うん、絶対に似合わない」
「イケメンは女装も似合うっていうのは鉄板だからねぇ、しかもネストは中性的美貌を持つ攻略対象。うんうん、ボクより絶対可愛くなれるよ! 前世男の娘だったボクが保証するよ! ということで、お姉ちゃんネストの女装見たいから強制女装いっちゃうよ」
「ぜ、絶対に逃げる!」
「騒がしくしないの♡ みんな寝ているんだからねぇ」
呆気なくネストを捕獲し、手際良く服を脱がせてミニスカサンタの衣装を着せるローザ。下着まで女性ものという徹底ぶりだ。
これだけでネストも羞恥で顔を染めているのだが、ローザは「よし、ここまで来たら完全女装!」とメイクをしていく。血塗れ公爵の後継者が全く手も足も出ないままメイクされ、数十分後には三人目の可愛い女の子が鏡の前で赤くなっていた。
「大丈夫大丈夫、古代より女装……というか性の越境は幾度となく行われてきたから。物語の中であったり、芸術の分野であったり、まあ、色々だけど。割と並ではない人間が性の越境をすることはよくあることだし、まあ、これも攻略対象という選ばれし者の宿命だと思って」
「いや、どんな宿命だよ、姉さん。……そもそもボクは攻略対象としてヒロインとくっつくつもりはないし、それよりも姉さんと――」
「ネスト、変なこと考えないの。お姉ちゃんと結ばれようとか、まあ、血が繋がっていないからセーフと言っちゃセーフだけど、お姉ちゃんの恋愛の第一条件は女の子であることだし、そもそも月紫さん以外と結ばれるつもりはないからねぇ? それに、月紫さんと結ばれた後で他の人と付き合うのは不誠実だし、ハーレムとかアウトだと思うからねぇ」
「……全否定だね、乙女ゲームではハーレムルートあったのに」
「それはそれ、これはこれ。別に側妃制度を認めてない訳じゃないんだよ。ただ、その中心をボクに置き換えたらないな、と思うだけで。百合も一緒だよ、ボクみたいな不純物は入っちゃいけない」
「お嬢様ってなんか色々と面倒ですよね。お嬢様は可愛いですし、転生して女の子になっている訳ですし、百合に挟まるのも、百合の片割れになるのもありだと思いますよ!」
「転生前が男の女性転生者は性別女性ってことになるかはグレーラインだと思うんだけどねぇ」
「まあ、アクアは女の子だし、好きな男の人がいれば結婚を前提にしてお付き合いしてもいいよ?」と笑顔で言うローザに対し、「好きな人いませんし、男って恋愛対象に見れないんですよね」と答えるアクア。
「どこぞの魔王の息子な総隊長とくっつくんじゃないかと思っていたんだけど、お互いその素振りはないし、あれー」と思っているローザ。どうやら、予想は外れたらしい。
「それじゃあ、ミニスカサンタ三姉妹でプレゼント配りの続き、やりますか」
その後、夜の見張りだったヘクトアールに温かい紅茶をプレゼントしたり、カレン達に襲われたりしながらも無事に全てのプレゼントを届け終え、こうしてミニスカサンタさん達の大切な大仕事は無事に終了した。
なお、こっそり撮影されたアクアとネストのミニスカサンタ姿の写真はローザの机の中に大切に保管されているようです。
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