Act.7-45 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.6

<三人称全知視点>


『……妙に静かですね』


 風と化して帝都の門を通過し、人間の姿に戻ってルヴェリオス帝国に潜入したラファールは、革命の只中にも拘らず全く騒ぎ一つ起きていない帝都の現状に疑問を持った。


『……うん? この魔力は』


 帝国の革命はもう数日後に起こるのかもしれないと引き返そうとしたラファールだったが、懐かしい魔力を感じ取って足を止めた。

 その大規模な魔力の放出は、すぐに消えてしまい、見事に消滅してしまった。恐らく、勝敗は既に決したのだろう。

 人間も魔物も僅かだが魔力を放出している。完全に消えてしまうとなれば、魔力を完全に掌握しているということになるだろう。ラファールの知る限り、スティーリアは魔力操作を得意としていたが、完璧に自分の魔力の放出を隠してしまうほどの力量は無かった筈だ。


 ようやく見つけた手掛かりを見失ってしまわないように、急いで魔力の発信源へと向かう。


 一陣の風となって移動したことで、ラファールはスティーリアに追いつくことができた。

 ラファールが魔力の反応を辿ってアルバの屋敷に辿り着いたのは、スティーリアは冷気を固めて人間体に戻る丁度その時だった。


『あら? お久しぶりね、ラファールさん。ところで、どうしてこんなところにいるのかしら?』


『私もナトゥーフさんに頼まれたのですよ、ローザさんの力になって欲しいと。しかし、私達は古代竜エンシェント・ドラゴン――大きな力を持つ存在、本来はたった一人の人間に肩入れするべきではありません。……力を貸すとなれば、その相手にそれ相応の精神を、濫りに力を使わない心があることを確かめなければならないと、私は思っています。私はローザ様が力を貸すに値する人間かを確かめに参りました』


『相変わらずの平和主義ですわね。流石は調停者と呼ばれるだけのことはあるわ。武力による解決や支配を嫌い、争いの火種に自らがなることを恐れ、人同士の問題の解決に竜が口を出すべきではないと距離を置いてきた、貴女のその考え方は高潔だと思うわ。でも、随分と傲慢な考え方ですわね。今の貴女と私にどれくらいの実力の差があると思っているのかしら? 私も貴女では見ている範囲が違う。古代竜エンシェント・ドラゴン如きの力でなんとかできる時代はとうの昔に過ぎ去ったわ。この世界には私達の想像を遥かに超える強さを持つ猛者がいる。その一人が、私の今のご主人様――ローザ様と言えるわね。古代竜エンシェント・ドラゴンの力はあくまで保険の一つなのよ? 私の同僚には、私に匹敵する猛者もいる。そんな猛者でも文字通り格の違う相手を、ローザ様や多種族同盟は仮想敵に定めている。まあ、こんな話をしていても実感はできないでしょうね。――会わせてあげるわ、私のご主人様に』


『変わりましたね、スティーリア。貴女は誰かの下につくような方では無かったのに』


『下についた……そうですわね。私はローザ様の侍女のつもりですが、彼女にとってはそう思われていないかもしれませんわね。私のことを対等な相手として見てくださった……そんな方は今までたった一人もいませんでした。だからこそ、私もあの方の力になりたいのです。お会いすればきっと分かると思いますわ。あの方の高潔さを、その優しさを』


『……もしかして、恋、ですか?』


『確かに、私は主従以上の関係を望んでいるかもしれないわね。でも、ローザ様と恋人関係になろうだなんて烏滸がましい考えだわ。あの方は平等に愛してくださる。従魔となった私に、友人のように、家族のように接してくださる。でも、最も強い愛が向けられるのはたった一人。ローザ様も本当の家族・・・・・の一人で、最古参の使用人。……私はローザ様の幸せを願っている。それが、最愛の人との相思相愛の関係なら、それを邪魔するべきではないわ。……幸せになって欲しいものね』


 スティーリアの最後の言葉はぎこちなく、その笑顔はどことなく悲しげだった。



<一人称視点・ラナンキュラス/ビクトリア・ Sストレイン・ペンドラゴン>


 さて、そろそろ各グループが戦闘を開始した頃かな?


 ボク、アクア、ディラン、マグノーリエ、スピネル、チャールズ、カルメナ、メネラオス、イリーナ、リヴァス、クラリスの十一人――帝城潜入組はというと、何も小細工することなく正面から堂々と城へ入っていった。

 まあ、そんなことをすれば――。


「こんな夜更に、何者だ。て、敵襲! 敵襲!」


 ってな感じで騒ぎが起こるものだけど。


「誘眠のララバイ」


 吟遊詩人系二次元職の吟遊詩聖が覚える行動阻害系特技で強烈な睡眠を誘発させ、片っ端から眠らせたので特に騒ぎは起こらなかった。


 流石に再使用規制時間リキャストタイムの問題もあって連続使用できなかったから、課金アイテムの再使用規制無効化時計リキャストブレイクロックを何度も割る必要があったけどねぇ。まあ、【万物創造】で容易に生み出せるから、結局損失は無かったんだけど。

 ……この戦法を、しかも雑魚敵相手に乱用したって言ったら、ゲーム時代なら正気を疑われただろうねぇ。高額課金者のWizard――羽瀬川はせがわ蒼々花すずはですら、こんな戦い方はしないよ。【万物創造】って本当に偉大だよねぇ。


「お嬢様、これなら簡単に城を制圧できそうですね」


「この程度の相手なら全員で制圧にかかってもそう大した手間にならないと思うけどねぇ。必要以上に殺したら帝国崩壊後の建て直しが難しくなるし、覇王の霸気で気絶させてもいつ復活されるか分かったものじゃないから、『誘眠のララバイ』を使っているだけだよ」


 ボク、アクア、ディラン、マグノーリエ、メネラオス、イリーナ――今回のメンバーには覇王の霸気を使えるメンバーが六人も揃っている。

 これだけ戦力が揃っていれば、帝国の兵士達を軒並み気絶させることも可能だけど、覇王の霸気はいつ気絶から目覚めるか分からない不安定さがあるからねぇ。圧倒的な実力差があれば効果を及ぼすまでに掛かる時間を短く、影響時間も長期間になる「誘眠のララバイ」の方が都合がいいって訳。


「おや? おかしいですね。本日帝国に襲撃を掛けるという指令は出していない筈ですが」


 帝城を真っ直ぐ謁見の間に向かって進むボク達の前に現れたのは薄いグレイブラウンの髪をセットした、モノクルをかけた三白眼の男。

 穏便に動いたつもりだったけど、どうやら騒ぎの音が聞こえてしまっていたみたいだねぇ。まあ、これはこれで嬉しい誤算だけど。


「なんでこんなところにいるんだ。答えろ、革命軍リーダー、アクルックス=サザンクロス!」


「そういう君はリヴァス=ライトレッド君だったね、元帝国軍人の。それに、イリーナ=シャルラッハ君に、クラリス=チェルシー君まで。全く困ったものだね。君達シャドウウォーカーは革命軍でも重要な立場にあり、それ相応の権限を持つ。しかし、それにしたって革命軍に内緒でブライトネス王国やフォルトナ王国と同盟を結ぶとは、勝手が過ぎるんじゃないか? この国が革命を為し得た後に諸外国の属国になってしまった、などということでは笑い話にもならないぞ」


「いい加減茶番はやめにしたらどうでしょうか? 皇帝に革命軍の情報を流していたのは貴方なのでしょう?」


「…………ふふふ、あははは! 流石は創造主、百合薗圓様。やはりお見通しでしたか。そうです、私が皇帝陛下に、革命を成そうなどと神に歯向かう愚かな考えを持つ者達の情報を伝えていたのですよ。シナリオから解き放たれた、この世界を支配するのは我々帝国なのです! 皇帝陛下の名の下に全てが支配され、素晴らしい世界がやってくることでしょう。私はその国で重要なポストにつくことになっています」


「いつから……いつから裏切っていたの」


「クラリス君、不思議なことを言うものだね。私は最初から帝国側の人間だよ。シナリオではどうだったか分からない。だが、私は皇帝陛下にその力を認められ、裏の最強戦力「皇帝の魔剣エンペラーズ・レイヴンテイン」の一人に選ばれたのだよ。皇帝陛下が作る理想郷――このルヴェリオス帝国をどこまでも、どこまでも広げていくのだよ。イリーナ君、いや、ヴェガス=ジーグルード君。君もそうは思わないかい? この帝国をどこまでもどこまでも広げていくんだよ」


「仕えていた皇帝陛下をその手で殺し、帝位を簒奪したトレディチ=イシュケリヨトは俺が仕える皇帝じゃねぇよ。皇帝陛下だって、無闇に領土を広げることに賛成じゃなかった。初代皇帝が築いたこの帝国を守ろうとしていたんだ。……圧政によって民を苦しめ、腐敗の一途を辿る帝国が俺達の夢みた理想? 笑わせるな! 俺達は、こんなことのために戦ってきたんじゃねぇよ! 民の笑顔がいられる国造りを、皇帝陛下は目指していたじゃねぇか!」


「そもそも杜撰もいいところだよねぇ。国を支配したはいいけど、政治には無関心。好き勝手やっている貴族をのさばらせ、腐敗を放置する。そもそも、トレディチは治世になんて興味はなかった。ただ、全ての者達が傅く皇帝という地位に、絢爛豪華な暮らしに憧れを抱き、その美酒を得たいがために皇帝位を簒奪したというのがシナリオでのトレディチ像だよ。そして、それはこの世界でも変わっていない。いや、悪い方向に進んですらいるみたいだねぇ。支配力を持つ者は、その力が喪われることを恐れる。力を喪わないためには、同じ力を持つ存在を全て倒さなければならない。『真の唯一神』を目指すのは、その美酒を喪わないがため。彼が世界をとっても、この世界が腐敗していくだけだと思うよ?」


「黙れ黙れ黙れ! 貴様に何が分かるッ! 私は皇帝陛下の神々しさを知っている! あの方こそ真の神なのだ!!」


「まあ、こんな話続けていたって仕方ないか。一つだけ確かなのは、アクルックスは倒さなければならない敵ってこと」


「これは俺達革命軍の責任もある。こんな奴をリーダーにしていた俺達の目が曇っていたってことだからな。……こいつは俺とクラリスで」


「……敵にどんな相手がいるか分からない状況で二人も戦力を出すのは得策じゃないからねぇ。二人とも強化プログラムで大分戦い方が変わったからどうにかなるだろうけど、温存しておきたいし。ここは、ディランさん。頼める?」


「おう! 任せとけ、親友ローザ。その代わり終わったら相棒成分を摂取させてくれよ!」


「相棒成分ってのはよく分からないけど、好きなだけアクアとイチャイチャすればいいんじゃないかな?」


「いや、俺とディランはそういう関係じゃないからな!」


「知っているよ。恋人なんて生温い、もっと深い絆で繋がれた相棒、でしょう? ……そいつの帝器は使用者の精神エネルギーを衝撃破として撃ち出す「精神銃砲マインドカノン」だ。ピンチになるほど強くなる――できる限り無傷で回収してねぇ」


「おう、任せとけ!」


「信用できないねぇ」


 ディランに任せてボク達はアクルックスの横をすり抜けて行く。


「行かせると思ったか! ここがお前達の死に場所――」


「おう、悪いなぁ。しばらくおっちゃんと遊んでくれや」


 神経質に苛々としたアクルックスとは対照的な、楽しさしか滲んでいない表情でディランは『闇を斬り裂く真魔剣フェイタル・エリュシデータ』を斬撃が見えない速度で振るっていた。……まあ、これだけ余裕なら大丈夫だろうねぇ。問題は「精神銃砲マインドカノン」だけか……トホホ。

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