Act.7-46 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.7

<一人称視点・ラナンキュラス/ビクトリア・ Sストレイン・ペンドラゴン>


 ディランを残し、ボク達は謁見の間を目指して進む。

 ディランの方で突然、「ドォーン」という激しい音が響いた。城が揺れるほどの攻撃……警報代わりに「精神銃砲マインドカノン」を使ったか。


「ローザ、ここまで計算通りか?」


「いや、計画通りという訳では全くないけど、寧ろ好都合な状況だねぇ。これで、敵の主力も出ざるを得なくなるだろうし」


「敵の主力と言うと、先程話題に出た「皇帝の魔剣エンペラーズ・レイヴンテイン」か。ゲーム時代には存在しなかった精鋭……果たして、どれほどの強さか」


「さあ? ただ、あくまで『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』の延長線上にあるもの――可能性としては大きく二つ、一つはオリジナルの帝器の開発と、もう一つは――」


 ボクの会話は新手の登場によって遮られる。

 一人は、暗黒騎士ガーナット。そして、もう一人は――。


「おい、どういうことだよ。なんで、暗黒騎士ガーナットが二人いやがるんだ!」


 もう一人も、暗黒騎士ガーナット。つまり、暗黒騎士ガーナットが二人、全く同じ鎧を纏い現れた。

 ……うーん、ボクも二人いるっていう噂は聞いていなかったんだけどねぇ。まあ、暗黒騎士ガーナットの正体説は丁度二つあったし、そのどちらも正しかったのなら、この謎は一発で解けるんだけど。


「そういえば、お嬢様の予想では暗黒騎士ガーナットの正体って何者だったんですか?」


「ああ、そういえば話していなかったっけ? 一応、設定では帝器は適合できる人にしか使えない。「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」を使える人がいないって訳ではないと思うけど、中途半端な実力の人材を調達したところで英雄級の戦力にはならないよねぇ。猛者になる保証もない訳だし。それなら、適合していることが確定している人間を戦力に加えた方がいい。……ボクは転生に使われなかった男主人公のデータ――イリーナさんのもう一つの可能性か、ヴェガス=ジーグルードの死体から抽出したデータの具現化か、そのどちらかと思っていたんだけど。実際、どっちも同一時間軸に全く同一の存在が居てはならないというルールに反していないからねぇ」


「つまり、あの二人は俺の前世と、もう一つの転生先候補だったってことか」


「まあ、どっちがどっちか分からないし、ボクの予想が外れているかもしれないけどねぇ。とりあえず、その「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」はイリーナさんの愛刀だし、ここで取り返すといいよ。流石に一人じゃきついだろうし、アクア、頼めるかな?」


「了解です、お嬢様」


 アクアとイリーナは強化プログラムで互いに互いを知り尽くすぐらい戦っている。

 この相性ぴったりの二人なら、二人の暗黒騎士ガーナット相手でもどうにかできるんじゃないかな? そのために、この二人のペアを残しておいたんだしねぇ。


「あっ、できればその黒い鎧の回収もお願いできるかな? 見たことのない装備だし、多分新種の帝器だからねぇ。……うん、最悪一つでいいから」


「お嬢様、なんですかその諦めた顔。俺だってやる時はやりますよ!」


「……うーん、アクアは実績が、ねぇ。イリーナさん、よろしく頼むよ」


「心得た」


 ここはアクアとイリーナに任せ、ボク達は先へと向かう。

 アクアとイリーナに相対する暗黒騎士ガーナット達は無言で、「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」と、漆黒の鎧型の武装の副武装だと思われる剣をそれぞれ構えた。……どうやら、「海魔化身タイダリア」と同じタイプの帝器みたいだねぇ。


 暗黒騎士ガーナット達がボク達を追ってくることは無かった。

 どうやら侵入者全員を相手取るのは不可能だと判断したみたいだねぇ。残りの侵入者は他の仲間に任せたってことか。……いや、魂無きデータなら自分で判断することはできないだろうし、「イリーナが現れた時に優先的に倒す」ことがプログラミングされていたというのが妥当か。本能がイリーナの中のヴェガスの存在を感じ取った……ってのは、流石に出来過ぎだよねえ。



 ボク達はようやく帝城インペリアルの謁見の間に辿り着いた。

 絢爛豪華な帝座が数段高いところに設置された円形のホールに、待ち受けていたのは二人の男。


「まさか、このタイミングで出てくるなんてねぇ。ハーメルン=オーガスト、ヴェーパチッティ=オーガスト」


 壺に入った生肉を頬張る巨漢と、ヤンチャそうな見た目の褐色肌の男。

 宰相ハーメルンと、宰相の息子ヴェーパチッティか。


「へぇ、嬢ちゃん。俺のこと知ってんだ。随分可愛いじゃねぇか。特にその澄ましたような顔……歪ませたくなるなぁ」


「ヴェーパチッティ、おやめなさい。貴方では到底勝てる相手ではありませんよ。遠路遥々ようこそお越しくださいました、ローザ=ラピスラズリ様」


「今のボクはローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルトだし、ビクトリア・ Sストレイン・ペンドラゴンって名乗っているけどねぇ。……やっぱり、お前も「皇帝の魔剣エンペラーズ・レイヴンテイン」の一人ってことなんだねぇ。帝位に執着し、治世には興味を示さない皇帝が何も言わないことを言いように好き勝手していた原作とは随分と違うようだ」


「ええ、私と息子のヴェーパチッティは六人いる「皇帝の魔剣エンペラーズ・レイヴンテイン」のメンバーです。貴方の知る私と、今の私は随分と違うでしょう。今の私は皇帝陛下の指示の通りに政治をしているに過ぎません。皇帝陛下の望みはシナリオ通りなのでございますから、私は陛下の御心のままに政治を行って参りました」


「おい、どういうことだよ、親父!!」


「へぇ、トレディチ=イシュケリヨトは、政治に興味を無くしているのではなく、シナリオをなぞることを望んでいる……それは、初耳だねぇ」


「現人神であられる皇帝陛下の御心など矮小に人間に過ぎない私などには到底測りかねますので、これは私の勝手な想像になります。この帝国こそが貴方をおびき寄せる罠だったのではないのでしょうか?」


「なるほどねぇ。これでようやく合点がいったよ。『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』の世界を壊さないこと、少なくとも表向きはルヴェリオス帝国を元のままに見せかけること。そうして、ボクがシャドウウォーカーに肩入れし、帝国を倒そうとするように誘導した、差し詰めそんなところかな? まあ、そうだとしても評価は大して変わらないよ。皇帝なら民のことを一番に考えるべきだ。それを、ボクなんかを倒すための道具にするために蔑ろにするなんて、反吐が出る」


「見解の相違は致し方ないことですね。……この先で皇帝陛下とその刺客がお三方お待ち致しております」


「へぇ、それはどうもご丁寧に。それじゃあ、ボク以外にも通してくれるかな?」


「えぇ、構いません。お好きな人数でお通り頂いて構いませんが、私は自分で言うのもなんですが、手練れですよ? ところで、私、どうしても気に食わない同僚がいるのです。昔、ニウェウス王国で【錬成の魔術師】と呼ばれていた方、なのですけどねぇ」


「これはタイムリーな話題だねぇ。……なるほど、そういう因縁が繋がってくるのかぁ。……お爺様、カルメナさん、スピネルさん、チャールズさん、リヴァスさん、この二人をお願いできるかな?」


「おや? 三人でございますか? それでは、一人だけノーマークな方が出てきますが?」


「二人に担当してもらうのは【錬成の魔術師】以外のどちらかだよ。【錬成の魔術師】の相手はもっと適任がいるからねぇ。で、残る一人はボクが直接相手をするよ。安心しなよ、皇帝陛下・・・・をお待たせするつもりはないからねぇ」


「おい、どういうことだよ親父!! 何を言ってんだよ!!」


「それじゃあ、頼んだよ」


 メネラオス、スピネル、チャールズ、カルメナ、リヴァスの五人にこの場を任せ、ボク達は先に進む。


「ふざけんなよ! 待ちやがれ、女ァ!」


「随分と甘く見られたようだね。君達の相手は私達だ。――私の陛下の一族に憂いを与えたその罪、君達の命で贖ってもらうとするよ」


 何故か執着したボクに血走った目を向けて跡を追おうとしたヴェーパチッティをその恐怖で引き戻してしまうほどの猛烈な殺気を湛えて、黒い手袋を嵌めたメネラオスが、全ての感情の根源である全て殺す愉悦を剥き出しにしていた。……怖や怖や。



 残るメンバーは、ボク、マグノーリエ、クラリスの三人になった。

 かなり人数が少なくなったねぇ……ちょっとハーメルンとヴェーパチッティに人員を割き過ぎた気がしなくもないけど。まあ、でもハーメルンの思考を見気で読み取って判明した残る二人のうち一人はマグノーリエとクラリスでも対処ができそうだったし、残る一人は皇帝攻略のためにもボク自身の手で倒さなければならない相手だった。この人選で問題ない……筈。


 謁見の間の玉座の裏にあった通路の先は、異空間へと繋がっていた。無限に感じるような宇宙空間のような世界が広がり、足が乗っている床だけが白く輝いている。


 その果てしない道程にも、遂に変化が現れた。小さな星々が瞬く空間に浮かぶ白い円形の闘技場――そこに、次の刺客の姿があった。


「ジェスター=ヴェクトゥルか」


 『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』には登場せず、異世界化後に皇帝によって見出された太った道化師メイクの男。

 ハーメルンから引き出した情報によれば、三代皇帝時代の新たな帝器として開発された皇牙の一つ、選択したスートによって効果が変わる鎧「骨牌装甲トランプ・メイル」を持つらしい。


「オヤァ、オヤオヤァ? ここまで辿り着いてしまいましたかァ? 初めましてェ、ワタクシは宮廷奇術師のジェスター=ヴェクトゥルと申しまァ〜す。イヒャヒャヒャ、お嬢さん方、ワタクシのショーを愉しんで、逝きなさいィ! イヒャヒャヒャ」


「こいつの皇牙は選択したスートによって効果が変わる鎧「骨牌装甲トランプ・メイル」、攻撃、隠密、耐久、回復、どれにも秀でている。厄介な相手だけど、お願いできるかな?」


「……あまり自信はないですが、プリムヴェールさんだって「ヴァナルガンド」と戦っている……私だって負けていられません」


「本当は皇帝に一泡吹かせたかったけど、その役目は貴女に譲るわ。ここは私達に任せて」


「オヤァ? オヤオヤオヤァ? ワタクシが行かせると本気でお思いですかァ? ――はっ、舐めんなよ! オレ様を馬鹿にしやがってッ! そのまま生かせると思ったかァ! アヒャアヒャ。ぼくちゃんが三人とも遊んであげるよォ〜。死ぬまで踊り狂え、道化どもォ!!」


 うわぁ、精神に異常をきたしているよ。どこかの帝国の人造魔導士かよ! と心の中で突っ込みながら、ヴェクトゥルの顕現したスペードの槍の一突きを足場に宙に飛び上がり、着地と同時に「千羽鬼殺流・貪狼」を使って一気に加速――ヴェクトゥルを猛スピードで引き離し、そのまま次の部屋に向かって駆け抜けた。

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