百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.7-43 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.5 上
Act.7-43 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.5 上
<三人称全知視点>
ローウィ=デュマガリエフには二つの顔がある。
一つは心優しく敬虔な神父という顔だ。しかしこの顔は仮面のようなもので、その裏には人体実験を好む狂人という本性が隠れている。
帝国軍に所属する以前は鼠の持つ良質な蛋白質に注目し、筋肉成長酵素を含む生物を急速に成長させる水薬を含む多数の薬品からなる帝器「
その資金を使い、人攫いで手に入れた素材を使って非合法な研究を進めていたが、現在は帝国のチャップレンの神父という表向きの肩書の他に、帝国所属の科学者という立場を手に入れ、膨大な研究費と人体実験をしても全く法に触れることのない罪人という格好の実験材料を手に入れている。
そんな彼は元罪人を改造した凶禍兵を普段から数多く引き連れていた。彼の使用する「
しかし今回、シャドウウォーカーが仕掛けてきた奇襲によって、ローウィは凶禍兵無しに敵を討伐しなければならなくなった。
しかも相手はグランディネに匹敵する強者の風格を持ち合わせる手術用手袋と外科の手術着のような衣装の男と、庭師の作業着姿の少年だった。
「僕達の相手はローウィか。……正直つまんなそうだね。凶禍兵っていう強い仲間をいっぱい連れているって聞いてたから串刺し甲斐があると思っていたんだけど」
「今回ばかりは私もあなたに賛同致しますよ。中肉中背、実に捌き甲斐のない相手だ」
そんな軽口を叩き合いながらも、アンタレスはコンツェシュを、シュトルメルトは手術メスを油断なく構えた。
その立ち居振る舞いは長きに渡り暗殺という道に携わってきたことをありありと感じさせるような一切の隙のないものだ。
「今回は流石に相手が悪そうですね。
ローウィが「
ローウィが最初から奥の手を切ってくることを二人は読んでいた。彼が危険種化によって異形と化し、手にした人ならざる怪力と巨体によって二人を蹂躙せんとすることを最初から計算のうちに入れ、実に捌き甲斐が、串刺しのし甲斐があると感じ、二人してサポートタイプのローウィを狙ったのだ。
肉体が膨れ上がり、下半身を巨大な筋肉の塊が飲み込んだ。筋骨隆々な巨人の頭のあるべき部分に、人間の上半身を埋め込んだようなアンバランスな巨人は更にグロテスクな姿へと変化していく。
最終的なそれは、歪な片翼、無数の腕、奇妙なところから生えた脚、飢えた獣の顔、男女の裸体の一部、様々なものが脈略もなく組み合わさったその姿は、極めてデペイズマン的だ。
『アヒャヒャヒャヒャッ!』
奥の手の副作用によって理性を失ったローウィ――デペイズマンの危険種は拳を振り下ろした。たったそれだけで部屋が揺れ、部屋に掛けられた結界が軋むほどの衝撃が走る。
「なかなか厄介そうだね。しかし、なんとも串刺し甲斐のありそうな相手だ」
「これはある種の芸術なのでしょうか? さっぱり分かりませんが。この身体を分解し、要素を取り出せば芸術的価値を失うのかもしれませんが、私は美しく捌いてこの芸術に新たな意味を授けましょう。題名は、無秩序の解剖、とでも致しましょうか?」
顔色一つ変えずにアンタレスは武装闘気を纏わせたコンツェシュを次々と
そんなアンタレスと競うように、シュトルメルトもメスを入れた。裸体を綺麗に切り取り、片翼を切り離し、脚を切り落とし……その断面はツルツルとしていて、ささくれ一つない。
そんな二人の攻撃を
暗殺者として培った回避の技に、見気の派生の一つ――未来視が加わった、その圧倒的回避能力に、本能のままに攻撃している
最後の最後に「
体の至る所を切り刻まれ、無数の切り口の粗い刺し傷が残された巨大な死体から「
ちなみに、暗殺までに掛かった時間は全メンバーの中でも最速。いくらローウィが主戦力である凶禍兵を連れていなかったとはいえ、奇襲要素のない暗殺で、しかもあれほどの巨体を相手にして勝利を収めるというのは難しいだろう。
「流石は先代公爵家でも上位の暗殺力を誇るコンビだ」と実感する非の打ち所がない暗殺劇だった。
◆
グランディネはピトフューイの将軍としての実力を認めていた。
南の異民族討伐を機にピトフューイが帝国を裏切り、革命軍側についた時には失望したものだ。
裏切り者を自らの手で殺そうとピトフューイを追ったグランディネだが、右腕と右目を負傷させたところで革命軍の増援が現れ、逃げられてしまった。その事件以来、ピトフューイはグランディネを恐れてか、或いはシャドウウォーカーが復讐代行をメインにしていたからなのか、直接対決の機会は訪れなかった。
その機会は唐突にグランディネの前に転がり込んだ。
ピトフューイの他に薄い灰色の長い髪と空色の瞳を持つ十六歳の少女という不要な存在もいるが、数年越しにグランディネとピトフューイの戦いが実現したことになる。
一方で、グランディネもこの不要な少女がピトフューイや自身に迫る強さを誇る存在であるということは感じ取っていた。
微笑を浮かべ、見た目上は礼節を弁えた可愛らしい少女のように振る舞っているが、その眼は飢えた獣の如くギラギラと輝いている。それに、手にこびりついた血の臭い――それは、何人もの人間を殺してきた者特有のものだ。
殺した数はピトフューイをも超えるのではないか? いずれにしても、ピトフューイとの戦いにのめり込んで、この少女の存在を度外視しておけば痛い目を見ることになることは容易に想像がついた。
グランディネはピトフューイだけでなく、このシェルロッタと名乗った少女にも最大級の警戒を向ける。
「ピトフューイ様はグランディネ様と因縁があるのでございますよね? 私は援護に回りますので、どうぞ存分に全力をお出しください」
シェルロッタはピトフューイの背に触れると、そのまま後方に移動した。
どうやら、シェルロッタにピトフューイと共に前線に出て戦う気は更々無いらしい。
「随分と甘く見られたものだな。二対一でもいいのだぞ?」
「ご心配には及びません。ピトフューイ様お一人でも十分な筈です。一応、保険は用意しておきましたが、きっと無意味なものになるでしょうね」
「ピトフューイ一人で十分か? この将軍は私を前にして敵前逃亡を図ったのだぞ? そんな弱気なピトフューイに果たして私が倒せると思うのか?」
「えぇ、それは昔の話ですからね。……まあ、こうやって話していても分からないでしょう。一度実際に戦ってみれば色々と分かるのではありませんか?」
「それもそうだな。そこまで言うのなら見せてもらおう! ハーゲルインゼル!」
グランディネが冷気を纏い、手を振り下ろした瞬間――人間の数十倍はある巨大な氷塊がピトフューイの頭上に出現した。
「【波動砲】!」
まずはお手並み拝見とグランディネが追撃を掛けることなくピトフューイの動向を見守る中、ピトフューイは義手の掌を頭上へと掲げ、収束した青いビームを放った。
青いビームを受けた部分は消し飛ばされ、それ以外の部分は無数の氷片となり、ピトフューイを避けるように落下していく。
「私もローザ嬢から新たな武装をもらっている。それに、シェルロッタ殿との修行で新たな力を得た。グランディネ殿の「
「いい覚悟だ。私も本気を見せてやる……簡単にやられてくれるなよ? それでは私もつまらないからな?」
グランディネの心臓付近に埋め込まれた「
「世界よ、我が支配力の前に跪き、凍てつけ!
青い輝きが時間をも停止させていく。グランディネの誰にも縛られず、全てを支配したいという究極のドS精神が生み出した時間凍結の力が部屋全体に拡散していく……が。
「時間干渉無効化魔法-ザ・ワールド・アンチ・タイム・ドミネーション-」
これまで全く動きを見せなかったシェルロッタがそう小さく呟いた瞬間――グランディネの支配の力に綻びが生じた。
「【波動砲】!」
絶対に動けない筈の空間で、ピトフューイの義手がグランディネに向けられ、青い光条が放たれる。
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