Act.7-4 ルヴェリオス帝国潜入準備 scene.1

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>


 翌朝、家族全員と朝食を済ませた後、ボクは帝国崩しに向けた第一歩を踏み出すためにバダヴァロートの通信端末に連絡を入れた。

 えっ、なんで今回の件に全く関係のないエナリオス海洋王国の国王に連絡を入れたんだって? まあまあ、ちゃんと意味があるから。


「おはようございます、バダヴァロート陛下」


『……むにゃ? ……おっほん、久しぶりだな。ローザ殿が我に連絡を入れてくるなど今までほとんどなかったから、寝ぼけているかと思って二度見してしまったぞ』


 ……ってか、今も寝ぼけている感じの声だけどねぇ。……もう、朝八時だよ?


「早速だけど、エナリオス海洋王国に『人魚姫』に類似した『海王の娘と海の魔女の伝説』って説話があったよねぇ? フォルトナ王国で家庭教師している時に、無理を言って多種族同盟加盟国の民間伝承や伝説を集めてもらって研究していたんだけど、その時に『海王の娘と海の魔女の伝説』の話も調べさせてもらっねぇ。……もしかして、これって脚色されているけど、実は事実なんじゃないかって思ったんだよ。……で、単刀直入で悪いんだけどエナリオス海洋王国にその伝説に登場する薬、あるなら調べさせてもらえないかな? ボクの予想が正しければ、面倒な手順をいくらか省略できるんだけど」


『――ッ!? 眠気も覚めたわ。な、なな、何を言っておる! 『玉手箱』の秘宝、人魚の涙シーレーン・ティアは王家に伝わる特別な宝だぞ!! そもそも、一体何に使うつもりなのじゃ!?』


「何って、ちょっとブライトネス王国とフォルトナ王国にちょっかいかけてきたルヴェリオス帝国を滅ぼしに行くのに必要でねぇ。具体的に言うと、マグノーリエさんとプリムヴェールさんのエルフの特徴を消すのに使いたいなぁって。『外観再決定の魔法薬アピアランス・レデターメント・ポーション』では種族の壁を越えられないし、『分身再生成の水薬リ・キャラメイク・ポーション』を使ってもいいんだけど、データを貼り付けるだけとはいえ、行程も増えるし、何より勿体ない気がするからねぇ。丁度、中間の薬があれば丁度いいなあって」


『さりがなく、エナリオス海洋王国の秘宝を便利グッズ扱いしておるよな!? ……まあ、ローザ殿には借りがある……その借りを返すという意味で今回必要な分を渡してもいいが。言っておくが、薬の効力が他の亜人種族にも効果を及ぼすかは分からないぞ?』


「あっ、それは大丈夫。そもそも、そのまま使うつもり更々ないからねぇ。こっちでもらってから改良を加えて、可能な限りそれぞれの種族の得意分野を使える状態で姿を人間に変えられる方法を模索するつもりだから」


『ほう、それは興味深いが……。そういえば、ローザ殿は薬学にも精通しておると聞いたことがあるな』


「あっ、本物の薬学に精通しているのは化野さんだよ? ボクはファンタジー薬学、なんちゃって錬金術ならなんとかできるって感じかなぁ? 解析して、合成して、なんとか目標にしているものを作り出しているだけだし」


 ボクなんか、本当に大したことはしてないからねぇ。まあ、そもそも比べる相手が新型のウィルスが広がったのとほぼ同時に抗原の情報を洗い出して、三日も掛けずに特効薬作る化野じゃあ、勝ち目はないけどさ。ちなみに、利権がどうのこうの言っている使えない行政を尻目に治験を強行、結果としてそれ以前に猛威を振るった前新型ウィルスの時よりも遥かに死亡数を減らせたけど、そのせいで国との関係は更に悪化、ボク達への特別税率が更に引き上げられたっけ。あの時、「大倭秋津洲、終わってんなぁ」って改めて思ったなぁ。連中は化野の成果を自分達が行ったこととして発表して、その薬の製造方法の無償提供を無理矢理約束させ、支持率を急上昇させていたしねぇ。……まあ、流石に腹に据えかねた化野が動いたのか……些事だから報告しなくてもいいと思ったのかしれないけど、当時の医療福祉大臣が変死を遂げたみたいだけどねぇ。まあ、連中にとっては大臣の変死も痛痒を感じない自体だったみたいだけど……直ぐに違う首に挿げ替えてたし。メディアもそれに関しては大して触れなかったっけ? あれで更にメディア離れが加速したんだっけ? それでもバラエティとか、ドラマとか、ドキュメンタリーとか、アニメとか、その辺りはまだ視聴率が高かったけどねぇ。


『なるほど……その薬が完成すれば、こちらにとっても利益があるな』


「まあ、人間以外の種族が市民権を得ている今は大した価値のない薬だけどねぇ。でも実際、今回の潜入するルヴェリオス帝国みたいに亜人種族が全く存在しない国も確かに存在する。そう言った国への潜入・暗躍の分野では価値があるだろうねぇ」


『専ら、薬の需要があるのは各国の暗部だろうな。……しかし、暗部か。我の国は海に守られてこれまで他国と国交を結んだことがなかったから、そう言った組織を持たなかった。しかし、これからのことを考えてもやはり暗部を新設すべきか……ローザ殿はどう思う?』


「それ、ボクに相談することじゃないよねぇ? 一応参考までに言っておくと、知名度の高い暗部を持っているのはブライトネス王国とド=ワンド大洞窟王国の二国。フォルトナ王国も一応保有しているけど、そこまで洗練されたものじゃないみたいだし、緑霊の森とユミル自由同盟はそもそも保有すらしていない。必要・不必要で言ったら、まあ多種族同盟間であれば……やっぱり完璧に信用できないっていうなら設立しておくのもいいだろうけど、密偵を使って監視していることがバレれば自国の信用を揺るがすことに繋がりかねないからねぇ。結局はバダヴァロート陛下がどうしたいか、かな? 国政……それも他国のものとかボクの守備範囲外だし」


『いや……ローザ殿はちょいちょい国政に関与している気がするのだが』


「それはボクがしたくないのに勝手に関与させてくる連中が悪い」


 あくまで趣味優先、本質は芸術第一生活第二主義者だから、やりたいことを減らす国政なんて、それこそクソつまらなくて時間の空費にしかならないことはお断りなんだけど、多種族同盟樹立だったり、フォルトナ王国への潜入だったりとそういったものに関与せざるを得ない状況が外堀を埋めるかのように構築されているんだよねぇ……本当に悪意しか感じないよ。ラインヴェルドとかが玉座の上からボクがあたふたしているのを見てクソ笑っているのが目に浮かぶ。

 ……まあ、一度やると決めた以上は完璧を目指さないと気が済まないボクの性格も災いしているんだろうけどさ。


「それじゃあ、もう少ししたら取りに行くからよろしくねぇ」


 「E.DEVISE」を操作して通話を切り、続いてオルパタータダの通信端末に連絡を入れる。


『おっ、お前から連絡なんて初めてじゃねぇか? で、どうした? クソ面白いことでも起こったか? 特にラインヴェルド関連でなんかあったら教えろよ? それ使って強請るから!』


「受話そうそう直球過ぎない? 今回が初めてなのは、フォルトナ王国に通っていて毎日顔を合わせていて必要なかったからだし、クソ面白いことなんてそうそう起こる訳ないでしょう? ってか、ラインヴェルドを強請れる情報とか、それ国のスキャンダルだから例えあっても絶対に教えないよ!!」


『ちなみにこっちはお前が帰ってからクソ面白いことがあったぜ? 特別地下訓練場でオニキス、ファント、ウォスカー、ファイスとポラリス達蒼月騎士団の木刀戦に乱入したんだけどさ、その時のポラリスの慌てふためき様はクソ笑えたぞ!!』


「相変わらず行っていることもやっていることもクソ過ぎる、このクソ陛下!」


 まあ、相手がポラリスだからまだいいけどさぁ。……あの人の本質は真面目な騎士だから、陛下に万一のことがあったらと気が気じゃなかったんじゃない? 声がうるさいところと、融通が効かないところと、説教がうるさいところと、ヅラが似合わないところと、特定の相手に露骨に反応するところさえ除けば、他の模範になる立派な騎士だからねぇ……五反田に関しても、空気を読まずに自分の規範を曲げないところと、特定の相手に露骨に反応するところと、声がうるさいところと、融通が効かないところさえ除けば今時珍しい熱心な教師だと思うんだけど……残念ながらマイナスポイントが強過ぎてプラスポイントを相殺して余りあり過ぎるんだよねぇ。

 ってか、オルパタータダに関しては声がうるさいところと、融通が効かないところくらいしか被害を被っていないんだから、ボク達よりも断然被害は少ない筈だよねぇ。……まあ、この人の場合、意趣返ししているってよりも、真面目なポラリスをおちょくって楽しいから遊んでいるんだろうから、質が悪いことこの上ないんだけど。本当に悪餓鬼がそのまま大人になったような性格しているよねぇ……こいつも、ラインヴェルドも。


『それで、こんな朝早くからどんな用事だ? ルヴェリオス帝国滅ぼしに行くんなら俺も連れて行けよ?』


「ルヴェリオス帝国は滅ぼしに行くけど、それは無理な相談だねぇ。そもそも、国王が職務放棄して他国侵攻は流石にダメでしょ。……まあ、フォルトナ王国にも思うところがあるだろうから、今回のルヴェリオス帝国への潜入にそっちからも何人か人員を出してもらおうかと思ったんだけど……ダメだよ、オルパタータダ陛下は」


『ちぇ、ケチくさいこと言うな。じゃあ、漆黒騎士団の団長オニキス副団長ファント団長補佐ウォスカー副団長補佐ファイスのチームは?』


「却下。面倒ごとを起こしそうなアクアとディランの動向が確定しちゃっているのに、これ以上は無理」


『ってか、ディランもいくのか!? ズルくねぇ!! 大臣アリなら国王もアリだろ!!』


「大臣も本来ならアウトだからねぇ」


 ……今回もペルちゃんが代打を任されることになったけど、本来アウトだからなぁ。まあ、ディランの場合は偽者の方が評価が高いし、「真面目な方のディラン様でずっといてください!」っていう声もあるから別にいいんだけどねぇ……いや、本来は良くないか。


『じゃあ、魔王とドMマゾ――』


「却下! シューベルトとモネと一緒に行動するなんて嫌な予感しかしないし」


『なんでも却下じゃねぇか……じゃあ、仕方ねぇな。ヨナサンとジョゼフ――ドS司書の双子はどうだ?』


「却下されるの分かってて推すとか実はドMなの?」


『分かっているよ! ファンマンとレオネイドとポラリスだろ?』


「かなり安定してきたけど、まだ却下だねぇ。ファンマンの惚気を延々と聞かされるのはストレスでしかないし、ポラリスとは絶対に組みたくない。……ってか、分かっていてやっているよねぇ?」


『フレデリカとジャスティーナだろ? あの二人が一番面倒ごとを起こさずに任務を遂行してくれるだろうしなぁ。……ってか、そもそも最初から名指しすれば手間が掛からなかったんじゃねぇか?』


「そもそもそっちの国に真面な戦力がいないのがいけないと思うんだけどねぇ。色物キャラしかいないじゃん……いくらボクが設定したといっても、いくらでも人員増やすことはできたでしょ?」


『どう考えてもオニキス達がうちのトップクラスの戦力だってことは揺るがないんだって……フレデリカとジャスティーナには伝えておく。それで、やっぱり俺を連れて行くことは――』


「却下」


 全く、なんでどこの国の君主も堪え性のない戦闘脳なんだろうねぇ。……一体どこのどいつの趣味なんだか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る