Act.7-3 悪役令嬢ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルトの新たな専属メイド scene.1 下

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>


「まず、ルヴェリオス帝国には大きく二つの勢力が存在している。一つは皇帝を頂点とするルヴェリオス帝国、そしてもう一つが悪政から民を解放するべく、帝国腐敗の根源の根源たる宰相ハーメルン=オーガスト暗殺を目指す革命軍の二つだねぇ。ちなみに、帝国の腐敗の黒幕が皇帝本人で、更に皇帝が前皇帝を殺害して政権を強奪した裏切り者だってことは知られていないから注意してねぇ。さっきも言ったけど、世界の改変と共にこの世界の人間の常識もアップデートされていくみたいだけど、事前に聞いた知識があった場合、それが結合されていくことは良くあることなんじゃないかな? それに、この一般常識の認識ってものは、外側から指摘されるまで気づかないことが多い。この世界の元々の住人ではない、ボクや後々のシャマシュ教国の召喚勇者、世界から超越した神々は違和感を抱くことができるだろうけどねぇ。……さて、まずはボク達と共同戦線を張ることになるだろう革命軍の方から見て行こうか。って言っても、『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』には革命軍の下部組織の暗殺集団シャドウウォーカーがメインで出てくるだけで、後は名前のないモブなんだけどねぇ。設定集では色々と書いておいたんだけど、ボク達は革命軍にコンタクトを取るのではなく、暗殺集団シャドウウォーカーとコンタクトを取り、彼女達の革命完遂に協力することになる」


「ローザ、一ついいだろうか? 何故、革命軍とコンタクトを取らないのだ?」


「プリムヴェールさん、いい質問だねぇ。相手はゲームの結末を知っている神そのもの――その皇帝が何も手を打たないとは思えないでしょう? でも、暗殺集団シャドウウォーカーは設定もしっかりされているし、仲間を大切にする者達ばかりだから付け入る隙はない。でも、革命軍という組織は大きいからねぇ……こっちは少数精鋭の暗殺集団シャドウウォーカーと違ってまだ付け入る隙がある。皇帝にとって恐怖なのは恐らく自分を殺しうる主人公だろうからねぇ。その主人公が所属する暗殺集団シャドウウォーカーの監視や革命軍の動向を知るためにスパイを送り込んでいる可能性は十分に考えられる。時間をかけてゆっくりと仕掛けをするチャンスもある訳だしねぇ。まあ、考え過ぎかもしれないけど、最悪の可能性も考えて暗殺集団シャドウウォーカーとの接触は最低限の人数で、できるだけ革命軍と関わらないように動こうと思っている」


「まぁ、確かに敵が誰かを知っている皇帝が何も手を打たないなんてことはねぇよな。……親友ローザは毎回石橋を叩き壊す勢いで叩いている気がするけど、まあ警戒しないよりはマシか」


「それでローザ。具体的に味方の戦力と敵の戦力はどんな感じなのかな?」


「まず、味方は暗殺集団シャドウウォーカーのメンバー。二代目皇帝に仕えていた伝説の騎士団「真紅騎士団グラナートロート」の騎士団長ヴェガス=ジーグルードの転生者で主人公……男版と女版があって、男の名前はデフォルトだとアレクシス=シャルラッハ、女の方はイリーナ=シャルラッハだけど、正直どっちか分からないねぇ。他はリーダーのピトフューイ=スクロペトゥム、最年少で帝国の将軍に上り詰めた女性で虹色拳銃レインボー・ハンドガンという七つの属性の弾丸を生成してランダムに放つことができる帝器を保有している。ちなみに、魔法がない代わりに帝国ではこの初代皇帝が作った兵器――帝器が最強の武装として使われているから覚えておいてねぇ。次に、帝国の暗殺部隊出身の少女プルウィア=ピオッジャ、抜けば刀のつけ根から露を発生させ、人を斬るときに勢いよく流れ刃の鮮血を洗い落とし、斬った場所から呪毒を流し込んでその毒で相手を即死させる妖刀叢雨を使う剣士。続いて、蒼焔と呼ばれる通常の炎よりも安定していて温度の高い炎を纏わせることができる蒼焔大鎌フレイム・サイズを扱う合法ロリ……に見せかけた男の娘のホーリィ=グリムリッパー。続いて、刀身の表面でサメの歯のような極小のトゲが刃を光り輝かせるほど高速で動き回る光刃細剣レイピアの使い手で、ピトフューイの元部下の熱いハートを持つ熱血漢で実直な性格の筋骨隆々な戦士リヴァス=ライトレッド。最後に他人や動物等、様々なモノに変身できる能力を持つ魔法の手鏡マジカル・コンパクトの保有者で、変装の名人でメイクで容貌を変えることができる特技を持つ潜入型暗殺者のクラリス=チェルシー。……この六人は確実に味方ということになるだろうねぇ。続いて敵……主要な敵に限定して説明させてもらうねぇ、多いし。まずは皇帝カエサルことトレディチ=イシュケリヨト、前皇帝である二代目皇帝を殺害して帝位についた三代目皇帝で「真紅騎士団グラナートロート」のメンバーの一人だったけど、騎士団を裏切って隊長以下仲間の騎士全員を殺害し、その後皇帝を暗殺して帝位についた。帝器は帝器を破壊することができる反帝器アンチ・エンペラーウェポンと最強の帝器とされる巨大ロボット型武装機始皇帝ザ・エンペラー……まあ、トレディチに関しては『唯一神』に至っているから、完全にゲームそのままってことはないだろうけどねぇ。次に、帝国の宰相ハーメルン=オーガスト、いつも何かを食べている巨漢で若い頃に壮絶な修行を行い、会得した自身の圧倒的な戦闘力と強靭なタフさを誇る武闘派宰相。帝器は自らの体を光に変えることができる宝石煌光宝石ホーリージュエル。そして、帝国の最高戦力、大将軍の称号を持つ三人――【熔将】アルバ=パテラ、【雷将】トネール=フードゥル、【凍将】グランディネ=サディスト、この三人が煌光宝石ホーリージュエルと同系統の溶岩宝石マグマジュエル霹靂宝石サンダージュエル凍結宝石アイスジュエルの力を使うことができる……まあ、トネールの霹靂宝石サンダージュエルは二つに割られ、籠手に改変した霹靂籠手サンダー・ガントレットに改良されているけどねぇ。他にも、三大将軍の部下を含め、帝国には多くの戦力がいて、その上位者達は帝器を保有している……まあ、こんなところかな?」


「随分と厄介そうな奴がいるなぁ。自分の身体を光に変える奴とかどうやって倒すんだ?」


「まあ、帝器を使っても敗北必至の能力だろうねぇ。ゲーム時代はコマンドカードを使ったターン制で無条件にダメージを与えられるルールが採用されていたからまだ勝ち目はあったけど、暗殺集団シャドウウォーカーの帝器では宰相相手に詰むだろうし、その以前に【熔将】アルバ=パテラに勝つことも難しいか。……魔法が使えないからって舐めて掛かるとこういう帝器に苦戦することになるからねぇ。革命の完成には暗殺集団シャドウウォーカーのフォローは必須だろうけど、ボク達も彼らにない力を使えるからと高を括っていくと散々な結果になることは目に見えているし。確かに、皇帝は『管理者権限』を持つ神では比較的弱い方だとは思うけど……ただ、今回は皇帝だけを警戒すれば済む話でもなさそうだしねぇ」


「お嬢様、皇帝だけでもなんだか大変そうなのに、この上何かあるのですか?」


「逆に聞くけど、アクアは不思議じゃなかった? フォルトナ王国の暗殺未遂事件、あれの前後に『怠惰』の行軍が行われている。帝国の凶人が派遣されたのは皇帝も把握しているだろうし、ボクがフォルトナ王国にいることも凶人は把握していた。それぞれの神は最終的に『真の唯一神』に至ることを目標にしているけど、当面はボクの討伐という目的で一致している。それに、今後の『真の唯一神』の座を狙うためにも相手よりも戦力が多い方が確実性が増す。神同士が協定を結び、グループを形成している可能性は高いんじゃないかなっと思ってねぇ。まあ、フォルトナ王国の一連の騒動でその疑惑が確信に変わった訳だけど。……恐らく、皇帝と魔界教には繋がりがある。もしかしたら、他の神とも情報の共有をしているのかもしれないけど。リアルタイムの連携……とはいかないだろうけど、帝国崩しへの対抗手段として魔界教を投入してくる可能性は十分に考えられる。まあ、割と大変な戦いになる予感がするよねぇ……」


「それを大変の一言で済ませてしまえる時点で、十分おかしいと思うのだが……ローザならば、どんな不可能も可能にしてしまえる気がするから不思議だな」


 プリムヴェール、その感覚おかしいと思うよ? ボクって万能じゃないからねぇ……沢山失敗しているし、なんなら一度死んでいるよ?


「さて、最後に具体的な話に入るけど、ボク達は先代ラピスラズリ公爵家とフォルトナ王国の潜入メンバーと合流の後、ナトゥーフさんの住処となっている神嶺オリンポスを経由して国内に潜入し、その後少数精鋭で暗殺集団シャドウウォーカーに接触し、そこで協力を取り付けつつ、タイミングを見計らって一気に帝国を叩く。できる限り奇襲を成功させて皇帝側に対策を打たれないことを目標にねぇ」


「おう! そういうの得意だぜ! 期待してくれよな、親友ローザ!」


「お嬢様、任せてください! そういう任務は漆黒騎士団時代からこなして来ましたから」


 ……うん、漆黒騎士団の団長、副団長、団長補佐、副団長補佐のチームがこなしてきた任務は成功率百パーセントだったけど、それ以上に毎回毎回騒ぎトラブルを起こしていたんだよねぇ。特に、ボクの知るフォルトナ王国の二年間でもアクアとディランドネーリーを含めた混成仲良し部隊が様々な場所で騒ぎを起こしていたみたいだし……。

 ……もしかして、人選ミスった?

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