百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.7-1 最愛の姉は死んだ、復讐は成し遂げられた、それでも生きて行かねばならない。 scene.1
Act.7-1 最愛の姉は死んだ、復讐は成し遂げられた、それでも生きて行かねばならない。 scene.1
<三人称全知視点>
もう二度と擽るはずのない鼻腔を、仄かな紅茶の香りが擽った。
ぼやけた視界に少しずつ鮮明になってくる。
目の前のどこかで見覚えのある高級感のある机には高級感そうなティーポットが置かれ、このティーポットとセットなのであろう銀のカップとソーサラーが二組置かれていた。
「やぁ、ようやく起きたみたいだねぇ。まあ、聞きたいことがあると思うけど、一服しながらゆっくり聞けばいいんじゃないかな? この茶葉、セイロンティーのハイグロウンティーの中でも代表的なウバでねぇ、こっちではまず入手できるものじゃないし、楽しむといいよ」
「楽しむ……って、そんな気分ではないのですが。――ッ!?」
自分の口から発せられた声に衝撃を受けた。耳朶を打ったのは全く聞き覚えのない、透き通った女の声、しかもどこか艶やかで甘美な響きを持っている。
ゆっくりと起き上がり、視線を落とすと双丘がその存在を主張していた。下を確認するとあるべきものが完全に消失している。
意味が分からなかった。そもそも、自分はカノープスとの戦いで死んだ……にも拘らず何故か真っ二つになって切り離された上半身と下半身には全く縫い目がなく、まるで斬られたという事実そのものが無かったことのように、そこには自分らしくない、すべすべの透き通るような白肌の折れそうに細い腰があるだけだ。ますます意味が分からない。
(……死んだ私が死者蘇生によって生き返ったなど、馬鹿馬鹿しい話だ。私は神の奇跡の御業などというものを信用していない。……しかし、仮にその事実を受け入れたとしよう。……何故、私は女になっているのだ!?)
「ボクは順序立ててものを考えたいタイプだからねぇ。まずは……そうだねぇ。君が行った一連の暗殺事件の顛末から話そうかなぁ? ラウルサルト公爵家は一族郎党が一夜にして全滅し、シャルロッテも殺害された。シャルロッテの近くに落ちていた仮面と君の指紋なり
「……ええ、あの復讐は私の死をもって完結した。本当は国家権力に逆らったとしても姉を行かせるべきじゃなかった……私が一番憎いのは無力な私自身ですよ。それに、私は正妃を殺し、公爵家を潰した重罪人です。……もういいでしょう!? 私を姉のところに連れて行ってください!! もうこれ以上、生きる意味なんてないだ! 私は……僕は、もう」
「ボクが君を生かした理由の一つは、それだよ。なんで死んで楽になろうとしているんだい? 君は死んで、その自分がしでかしたことから逃げようとしているだけじゃないか。最終的にシャルロッテを殺すことを選択したのは君じゃないか。ボクは止めたよねぇ? 君は生きなきゃいけない。殺した者達の十字架を背負って行き続けないといけない、その命が終わるその時まで。【ブライトネス王家の裏の剣】はそういう覚悟を持って、王族を守るためにその手を血で汚しているんだからねぇ。生きてきで得たもの、失ったもの、そういったものをひっくるめて、全部背負って生きていかなきゃいけない。ボク達みたいな自殺だけは絶対に許されないんだよ……って、これ実はブーメランなんだけどねぇ。前世のボクは結局、最後に運命に抗うことを諦めて、その命を散らせた訳だからねぇ。だからこそ、再会した時には誠心誠意謝るつもりでいるよ。ボクはそれだけのことを、ボクを慕う大切な人達にしてしまったんだから」
「まあ、ボクの昔語なんて興味ないだろうし、そろそろ本題に入るとしようか」と、ローザは言葉を切り、どこからともなくアンティークのどう考えても高そうな姿見を取り出した。
すらりと伸びる手足が艶かしく、左右対称で均整の取れた肢体は過不足ない完璧なプロポーションを誇っている。前世と変わらないのはその瞳と色と髪の色くらいだろうか。
薄い灰色の長い髪をハーフアップにした空色の瞳を持つ十六歳の少女が、白いワンピース姿で椅子に座っている姿が鏡に写っている。
「……まあ、私を殺さずに生かした理由は分かりました。……でも、何故女性なんですか?」
「あっ、勘違いしないでねぇ。カルロスは死んだから。カルロス=ジリルという人間はあの時確かにお父様に殺されて死んだ。即死だよ? その後、ボクがお守りに仕込んでいた小型化したラインヴェルド陛下の魂魄の霸気のナイフを使って《
「言っていることは分かりますが……それなら、普通に姿を変えた男に転生させれば――」
「あのねぇ、なんでボクがそんなことしなきゃならないの? 姿を変える必要がある、それも、できるだけ原型から離れた姿に……ってなれば趣味に極振りするに決まっているでしょ!? 正直、美少女か美女か迷ったんだけどねぇ……まあ、美少女と美女の間を取って、美少女らしさを持つ美女っていう着地点に落ち着いたんだけど」
「もうやだこの人……。ローザ様の欲望のために、これから面倒なことになるのですか? 無理ですよ、女の振りなんて」
「可愛い女の子や美しい女性の方が特権は多いと思うけどねぇ。まあ、そのうち慣れるから大丈夫だよ、大丈夫。男がどうだとか捨てて染まっちゃいなよ? そして、百合堕ちしなよ? ……って、まあボクの欲望はこれくらいにして。まあ、確かに今回はボクも可愛い女の子を手に入れられるっていう目論見があったから、今回の計画に乗ったんだけどねぇ。ただ、もっと多角的な視野で物事を見た方がいいよ? ボクは欲深いからねぇ、一石二鳥どころか、一石三鳥、場合によっては一石四鳥とか狙っていたりするからねぇ」
「……まだ何かあるんですか?」
「まぁ、追加で二つほど目論見がねぇ。一つはボクが君を生かさないといけなかったもう一つの理由。……まだ君は会うべき人間に会っていないそうだからねぇ。メリエーナ様が見届けられなかったものを君自身の目で見届けて欲しい、そういう気持ちがあった。まあ、この辺りは流石に自然な流れでやるのは難しいだろうし、悪役令嬢らしく我儘を通させてもらうけどねぇ」
「……姉さんが、見届けられなかったもの?」
「あれ、意外と鈍いタイプ? まあ、お楽しみは取っておこうか。……で、今の君の身体だけどよくよく考えてみるとおかしくないかな? 人間ってのは、左右対称に見えて実は非対称なんだよねぇ。まあ、これは肝臓を始めとする内臓の位置や、横隔膜が関係あるみたいなんだけど。……ただ、君に関してはその左右差が全くない。ところで、話は変わるんだけど、ボクの前世の大倭秋津洲帝国連邦には秘密裏に究極の人間を作ろうとしていた秘密機関があってねぇ。類稀な身体能力を持つ人物や、人間離れした人物の精子や卵子を体外で交配させたり、遺伝子操作をしたり、そうやって究極の人類を完成させようとしていたらしい。で、そこに前世の因縁の敵・瀬島奈留美一派や、当時、星の智慧派を名乗り、地下鉄で毒ガスが撒かれた事件を引き起こしたカルト教団や、テロリスト、マフィアや暴力団、まあこういった連中に技術提供を行っていた化野さんも関わっていたらしくてねぇ。まあ、うちのメンバーに関してはかなり特殊で、元大臣の高齢者ドライバーの事故で両親を失った化野さんが、政治権力と深く繋がりを持っている奈留美一派や場合によっては政治家も大きく支援している研究に協力していたり、奈留美一派の田村勲に妹を殺され、復讐を誓って暗殺者になる道を選んだ斎羽さんが奈留美一派から間接的に依頼を受けてボクを暗殺させるために差し向けられたり……大倭陸軍の方針に違和感を覚えて退役して、ボクのところに来た柳さんや元は三つ星レストランの副料理長で勤めていたレストランと方針が異なったことで関係が悪化してうちに来た高遠さん、電子化によって図書館が減らされた結果、職を失ってうちに流れてきた栞さん、みたいな平和的な就職している幹部って実はたいした数いないからねぇ。陽夏木さんも、先代の子爵が少しでも泣き寝入りをする被害者が減るようにと始めた活動の結果、辿り着いてはいけない真相を知ってしまって、その結果国の権力の力で家が没落、本人も暗殺されてしまって、執事さんから頼まれて匿うことになってそれからって感じだからねぇ……って、今は自分語りはいらないかぁ。で、話を戻すけど、その究極の人間を作る
「……つまり、私の死体を捏ねくり回して人体実験の材料にしたと?」
「まあ、成功したんだしいいんじゃない? 大丈夫だって、なんか色々と因子ぶち込んだけど、生物学上は女だから」
小悪魔みたいに笑うローザ。所詮は自分や大切な家族のことではないから、と随分適当な言い草である。
「いや、だから生物学上女なのは問題なんですって!」
「これ、堂々巡りするからやめない? 不毛な時間は過ごしたくないでしょう? 一つ言えるのは、例え男だろうと、女だろうと、大切な部分は変わっていない。姿形が違えども、魂の形が変わろうとも、その本質が同じならば、君は君なんだよ? ってことで、君には今後のこともあるし、ラピスラズリ公爵家の使用人になってもらう。そのためにやらなきゃならないことがいっぱいあるからねぇ。君には、今の君にふさわしい言葉遣い、立ち居振る舞い、そういったものを身につけてもらうよ?」
「……はぁ、結局、何を言っても無駄ってことですか。しかし、ラピスラズリ公爵家の使用人……敵の本陣ど真ん中ですが、大丈夫なのですか?」
「敵の本陣ど真ん中ってのはよく分からないけど、堂々としていれば大丈夫。努力は裏切らない、筋肉はつけ過ぎると気持ち悪い、これ世界の真理だから。そうだねぇ、まずは君に新しい名前をプレゼントするよ。シェルロッタ=エメリーナ――これが君の新しい名前だ。大切にしてねぇ」
全く不本意な状況にも拘らず、シェルロッタの頬を一筋の涙をつたったのは、その家名が大切な人を象徴しているものだったから、なのだろうか?
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