Act.6-27 フォルトナ王国王宮の謁見の間にて〜戦後処理と不本意な褒賞〜 scene.1 下

<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>


「後で正式に公表するが、フォルトナ王国は多種族同盟に所属することになる。多種族同盟のトップのお前との接点が失われる訳ではないが――」


「ボクって多種族同盟のトップじゃないからねぇ? そもそも、所詮は一国の公爵家の貴族令嬢で商会長の肩書くらいしかないボクが国王や族長達の集まりである多種族同盟のトップになれる訳がないじゃん。流石に身の程は弁えているつもりなんだけどねぇ?」


「あれれ? 私はずっとローザさんが多種族同盟のトップだと思っていたのですよぉ〜」


「えっ、違ったの? 俺はずっとローザがトップとばかり。だってそうだろ? お前が各種族に直接働きかけた訳だし、どの国のトップも納得できる組織の長って言ったらお前しかいないじゃねぇか? そもそも、天上の薔薇聖女神教団と兎人姫ネメシア教が二大宗教組織として多種族同盟に籍を置いているのも、お前がトップだからだろ? いい加減認めようぜ? お前が名実ともに多種族同盟のトップなんだ。寧ろ、お前以外だと納得しねぇ奴がかなりの数いるからな。っか、世界の創造主に、二大宗教の女神様だろ? 国王より権力あるんじゃねぇ?」


「なんか詐欺師に嵌められた気分だねぇ。しかし、どいつもこいつも頭大丈夫なの? ボクってただの公爵家出身の五歳の女の子なんだけど」


 ……おい、揃って「お前何言ってんの」ってジト目向けてくるなよ!!


「話し続けさせてもらうぜ? 個人的にはフォルトナ王国とお前の繋がりがそれだけになってしまうってのはあまりよろしくない訳だ。ルーネス、サレム、アインスの三人もこれだけ懐いちゃった訳だしさ。終わったからはいさよならってのは流石に冷たいだろ?」


「そもそも、家庭教師の仕事を割り当てたのはオルパタータダ陛下だよねぇ? まあ、たまには顔を見せようとは思うけど、ボクはやっぱりブライトネス王国の人間だからねぇ」


「そこで、だ。お前をフォルトナ王国の人間でもあるようにしちまえばいいんじゃないかって思ってな。ってことで、お前に爵位と領地を与えることにした。ほら、お前って破滅エンドだと国外追放されるんだろ? そうなったらうちの国に来ればいいんじゃねぇか?」


「おい、オルパタータダ。その前提は成立しねぇからな? 俺が親友を追放したりする訳ねぇだろ? そういう事態になったらマリエッタとマリエッタに加担した連中とその関係者を根こそぎ追放するつもり満々だからな? よって、お前の国にローザが亡命する可能性は満に一つもない! ローザは渡さねえぞ?」


「いや、そもそもボクはどっちの所有物でもないけど……ってか、万が一の場合はどっちの国からも去るよ? 大倭秋津洲に帰る……と、それはそれで面倒だし、最悪の場合はヴィーネットちゃんやホワリエルちゃんを頼って神界で慎ましく暮らそうかなとも思っているけど。まあ、本当にこの世界にボクの居場所が無くなったら、だけどさ」


「さらっととんでもないこと言うなぁ。……まあ、いずれにしてもそんな最悪の状況にはしねぇからな安心しろよ?」


「なんか、最後までクソ陛下にいいようにされて終わる人生になりそうだねぇ……悪友に魅入られるとこうなるってことか」


「……そういいながら、お前だって楽しんでいるし、俺達を掌で踊らせているだろ? お互い様じゃね?」


 こういう論争は結局何も産まないまま平行線を辿って続いていくことになるだけだし、まあお互い様ということで今回も割り切ることにするけど……なんか、腑に落ちないなぁ。


「ってことで、お前には領主がいなくて困っているドゥンケルヴァルトっていう地域を任せたいと思っている。ドゥンケルヴァルト公爵ってことになるな。ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルトってのがお前の正式名称になるのか……別に違和感ねぇし、いいんじゃねぇの?」


「……そのドゥンケルヴァルトって、魔女の森ウェネーフィカ・ネムスを含む一帯だよねぇ?」


「あっ、やっぱりバレたか?」


「伊達に二年も家庭教師やっていないよ。担当していた座学に地理は含まれていたからねぇ。……もしかして、何も考えずに家庭教師させていたの? 三人とも未来を担う王族だよ!? それを無学な公爵家の令嬢、しかもアインス殿下と同い年にやらせるなんて侍女さん達も噂していた通り、意味不明だからねぇ。家庭教師役はもっと適任は居ただろうし、それこそ王宮の侍女として期間限定で仕えさせれば良かったんじゃないの? 本当に今更だけど」


「いや、ブライトネス王国からわざわざ来てもらったのに普通の貴族の侍女と同列に扱うとかできる訳ねぇだろ? まあ、家庭教師に適任かどうかは分からねぇけど、前世では百合薗グループの総帥として経済や芸能、芸術や文芸の分野で大きな影響力を持っていたみたいだし、こっちではビオラ商会の会長としての実績に冒険者活動やブライトネス王国に大きな影響を及ぼした経歴もあるから何かしらの刺激になればいいなぁ、程度にしか思っていなかったからまさかここまで本格的にやってくれるなんて嬉しい誤算だったんだぜ?」


「本当に選んだ相手が良かったとしか言いようがないねぇ。全く、ボクが前世で教員免許と博士号を取得していたから多少は教育者として箔がついていたものの、本当に素人だったらどうするつもりだったんだろうねぇ?」


 統合アイテムストレージから高校の教員免許と文学博士の証明書を取り出して見せると、流石のラインヴェルドやオルパタータダも驚いていた。まあ、教員免許に関しては実習に行ったっきりで本格的に教鞭を取った経験はないほぼほぼペーパー免許だけど。


「へぇ……なるほどなぁ。ローザって教員の資格持っていたんだなぁ」


「ラインヴェルド陛下、これは百合薗圓名義であって、ローザ=ラピスラズリ名義じゃないからねぇ?」


「ローザ=ラピスラズリじゃなくて、ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルトだぜ?」


「オルパタータダ陛下、そういうことじゃなくてですね。……やめろよ、クソ陛下。絶対にクソなこと考えているだろッ! プリムラ様が魔法学園に入学するタイミングでボクに魔法学園の教員にさせて、ついでに学園そのものにも改革をさせようって絶対に考えているよねぇ!?」


「おっ、察しがいいじゃねぇか? しかも随分とノリ気だな? どうせ、貴族で魔力持ちである以上魔法学園には通わないと行けねぇんだ。でも、お前には初歩的な魔法学なんていらねぇだろ? それくらいならお前が教える立場に回ればいいんじゃないか? 同学年の連中にとっても貴重な体験になると思うぜ?」


「……なんとなく予想はしていたけど、家庭教師役を薦めたのってラインヴェルド陛下? もしかして王女宮の侍女にしてプリムラ様の側に仕えさせ、魔法学園では教師もやらせようと企んでいた……いや、いくらなんでもキャパオーバーで死ぬよ!? どれだけ親バカなの!? ただでさえビオラ商会の方もやらないといけない仕事が山積みだし、連載もあるし……まあ、フォルトナ王国から戻れば問題……って、領地経営もあるのか。……陛下、前にも言いましたが、あくまで私事優先でやらせてもらいますよ。ボクは自分のやりたい仕事を選んでやる人間であって、人に押し付けられた仕事をやるのは死ぬほど嫌いですからねぇ!!」


「ああ、勿論分かっているぜ? 商会や趣味優先で構わねぇよ。そういう約束だからなぁ」


「……分かっていない気がするけど、これ以上クソ野郎に言っても仕方ないからねぇ。……なんとなく嫌な予感がしているんだよねぇ。溜まりに溜まった仕事が世界を飛び越えてこの世界に来る予感が……悪役令嬢の死因が過労死かぁ、あり得そう」


 こいつらラインヴェルドやオルパタータダ以上に仕事増やす奴が地球にいるんだよなぁ……ノーブル・フェニックスの高槻斉人とか、映報アニメーション株式会社の「チョビ髭監督」こと月見里やまなし男爵だんしゃくとか、KARAMARU書房の担当編集編沢あみさわ結友奈ゆうなとか……特に『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』を気に入って何期も続ける要因になっている月見里や、『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』の第一回人気投票で主人公のマルセリーナにたった一人で2000票を入れ、それ以降も四桁の手書きの投票葉書やファンレターを出しまくっている、ファンの間では有名な上総国出身のS氏輪島晋太郎辺りは今回の異世界召喚で『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』の新期のアニメ放送が立ち消えになってブチギレてそうだし……どうするんだろうねぇ、シャマシュ教国? 万が一地球勢が乗り込んできたら損害賠償額がえげつない額になるよ? ……ボクはとりあえず『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』の漫画を納めて許してもらおう。


「仕方ないねぇ……その土地の領地経営は引き受けるよ。要するにオルパタータダ陛下はその微妙な勢力圏になっている森周囲の土地をきっちり有効活用できる人に任せたい、あわよくば税も取りたいと。お父様はエリオールさんをレジーナさんと引き合わせたい、ラインヴェルド陛下はお師匠様に頼んでメリダの説得に力を貸してもらえるようにお願いして欲しいと……」


「いや、税は納めなくていいんじゃねぇか? それじゃあ、使えない土地を押し付けて税だけ搾り取ろうとするタチの悪い国王みてぇじゃねぇか?」


「特別扱いはダメだよ、他に示しがつかなくなるから。まあ、ちゃんと有効活用するつもりでいるし、領地に関しては好き勝手改革をさせてもらう。実は試してみたいこともあったんだよねぇ。その実験場に丁度良さそうだし。……領主をする以上、顔見せはしないといけないし、近々ドゥンケルヴァルトに足を運ばせてもらうよ。まあ、直接領地経営はするつもりないし、領地はビオラ商会預かりにしてその収益から税をフォルトナ王国に納めるってパターンになりそうだけど。……また仕事増えるけど、モレッティさん大丈夫かな? それと、エイミーンさん、それに伴って視察の間ミスルトウさん借りてもいいかな?」


「……珍しい組み合わせなのですよぉ〜。いいですが……領地経営に協力させるつもりなのですかぁ?」


「いや、戦闘中にミスルトウさんが面白そうな考察をしていてねぇ。そこから着想を得たし、ミスルトウさんに知らせず勝手に検証を進める訳には行かないからねぇ。……まあ、仕事には差し支えないように短時間で終わらせるし、アーネスト様達にも断りを入れておくけど、エイミーンさんにも念のためにねぇ。ほら、ミスルトウさんはエイミーンさんの保護者みたいなものだから」


「私はちゃんと立派な大人、なのですよぉ〜!!」


 しかし、エイミーンの心の叫びは誰の耳にも届かなかった。あの戦いに参加していた者達全員の心が、「よくあの戦場でたった一人の声を聞き取れたな!?」っていう一点に集約されていたからねぇ。……見気鍛えていたら、自分の戦いしながら戦場で戦っている仲間の心の声を拾うくらい、誰にだってできるよねぇ?

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