Act.6-26 フォルトナ王国王宮の謁見の間にて〜戦後処理と不本意な褒賞〜 scene.1 上

<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>


 翌日、ボク、アクア、ディランの三人はフォルトナ王国の謁見の間に集められていた。


 謁見の間にはボクの正体を知るルーネス、サレム、アインスの三王子やイリス、シヘラザードの妃二人、宰相アルマン、漆黒騎士団、白氷騎士団、蒼月騎士団の三騎士団、サンティエ公爵家の三つ子の司書の姿もある。


 今回の謁見の目的は『怠惰』率いる魔界教との戦いで活躍した者達に褒賞を与えるものではない。

 参加したフォルトナ王国の騎士団への褒賞に関しては後ほど国王の名の下に支払いがされ、多種族同盟軍として参加した者達には多種族同盟軍から討伐の功績に合わせて褒賞を出すことが決まっている。


 今回の謁見の主役はどうやらボク達らしいんだよねぇ……この謁見の間にラインヴェルド、エイミーンの二人が参加しているのも、間違いなく今回の謁見の成り行きを楽しむためだからねぇ。……もう、本当にいい性格しているよ、ラインヴェルドとエイミーン。二人の他にこの場にいるカノープスはラインヴェルドの護衛と娘の晴れ舞台を見るためだろうし、バルトロメオは単にサボりに来ただけだと思うからまだマシ……いや、バルトロメオは仕事に戻れよ、アーネストがまたブチ切れるよ?

 謁見の間に集められたフォルトナ王国関係者達もオルパタータダがボクとアクア、ディランと関係の深いメンバーを集めてくれたんだよねぇ。まあ、その気遣いは素直に嬉しいんだけどさぁ。


「そう堅苦しくしなくていいぞ? ここにはお前の正体を知っている奴しかいねぇんだからな?」


「それじゃあ、遠慮なく。……オルパタータダ様、嫌な予感がするので回れ右して帰ってもいいですか?」


「残念だったな? これは国王命令の謁見だからな? 逃げられると思うなよ?」


「……なんか矛盾している気がするけど、これって気のせいじゃないよねぇ? アクア、ディランさん?」


「お嬢様、そもそも何故謁見から逃げようとするのですか? 帝国の凶手によって引き起こされようとしていた国崩しを未然に防ぎ、フォルトナ王国単体では討伐がほぼ不可能だった『怠惰』を斥けた……その恩人に流石のオルパタータダ陛下もクソなことはしないと思うが」


「そうだぜ? 親友ローザ、考え過ぎじゃねぇ」


「寧ろ、君達二人がそこのクソ国王を信用できることが甚だ疑問なんだけど? この国王の性格を二人はボクよりも知っているんじゃないの? ラインヴェルド陛下と同じで人が振り回されているのを高みの見物して笑うクソ野郎だよ? 全く、誰が好き好んでこんな奴の側室になるとかな? そもそも、ボクは前世男だし恋愛対象が男にはなり得ないって何度言ったら……」


 ルーネス、サレム、アインスの三人が致命傷を負ったような顔をしていた気がするけど、まあ気のせいだよねぇ?


「全く、この二人のクソ野郎と冒険者パーティを組んでいたニウェウス王国の元第一王女様はよくこんな暴走列車二人とパーティを組めていたよねぇ」


「おっ? レジーナのことも知っているのか? ローザ、言っとくがあいつはとにかく人使いが荒い女で、俺達二人に振り回されるような柔な奴じゃなかったからな? 何というか、イメージは人使いの悪い意地悪な魔女の婆さん――」


「それ以上はやめておいた方がいいよ、ラインヴェルド陛下。……レジーナさんに関してはボクもよく知っているから。ブライトネス王国宮廷魔法師団団長のメリダ=キラウェアの師匠にあたる人物。ジェーン=ドウの名で知られる暗殺者がユリア=ウィリディスとして宮廷魔法師の肩書でニウェウス王国に仕えていた頃に親密な関係にあった。今は不可侵領域に分類される魔女の森ウェネーフィカ・ネムスで隠遁生活を送っている、であっているよねぇ?」


「なんか初耳なことがあった気がするけど、ジェーン=ドウって誰だ? ってか、俺達よりお前の方が知っているんだなぁ、レジーナのことを。やっぱり、この世界の創造主だからか?」


「メリダのことは、後から調べて知ったことだけどねぇ。ジェーンさんに関してはボツ設定に組み込まれていたから知っていて当然かな? まあ、この世界が異世界にならなければボツのまま日の目を見ない話だっただろうけど……」


「へぇ、そうか。やっぱりお前はレジーナのことをよく知っているんだなぁ。……実は俺の計画をラインヴェルドに話した時に護衛についてきたカノープスからも是非にって言われたんだが、うん、これなら大丈夫そうだな」


「…………本当に嫌な予感が……謁見の間からの退出を希望させてもらうよ!」


「残念だったな? フォルトナ王国の国王として国を救ってくれた英雄達に何も褒賞を出さないって訳にはいかねぇんだ? 俺の立場、お前ならよく分かってくれるよなぁ?」


 もうやだ、この謁見。確実にラインヴェルドとオルパタータダのいいように掌の上で転がされて終わるじゃん。


「それじゃあ、早速始めさせてもらうぜ? まずはアクアとディランからだ。お前達二人がいなければローザはフォルトナ王国の崩壊を防ぐために動かなかっただろう。それに、この二年間漆黒騎士団の外部協力者として多くの功績を挙げたことや、魔モノ討伐での活躍の功績もある。それに見合う褒美を国王として与えなきゃならないが、どうする? 爵位か? 領地か? 褒賞金か? なんでも好きなものを言ってもいいぞ?」


「って言われてもなぁ。今の俺はラピスラズリ公爵家の一使用人だし、爵位も領地も邪魔にしかならないしなぁ。お金もラピスラズリ公爵家から必要な分は支給されているし、遠征中の食費もお嬢様が出してくれるからなぁ。……どうする、ディラン?」


「俺もいらねぇなぁ……爵位も領地も面倒じゃん。俺、大臣の仕事も面倒なんだぜ? ってか、相棒と一緒に冒険とか行きてぇなぁ、二人分の長期休暇とか貰えない?」


「それはブライトネス王国国王権限で却下だ! お前だけ仕事から逃げるとか、そんなこと許すと思ったか?」


「……じゃあ、なんでも好きなものを言っていいってことにならないんじゃないか?」


「いや、なんでも言っていいとは言ったが、それを許可するとは誰も言ってねぇぞ?」


「「この国王達、マジでクソ過ぎる!!」」


 アクアとディランの声が完璧に重なっていた。本当にいいコンビだなぁ。


「まあ、こうなることは想定済み。お前らならどっかの誰かさん達みたいに富や名声や権力を求めねぇことは重々承知しているからなぁ? 何年の付き合いだと思っているんだ?」


「ついでみたいな感じで傷口に塩を塗り込みに行くのやめぃ!」


 自業自得とはいえ、シヘラザードとアルマンが追加ダメージ負っているよ。


「あっ、そういやシヘラザードとアルマンの件だが、被疑者死亡で証拠も残ってねぇから処分しようにも処分できなくなっちまった。まあ、何もなかった訳だし、これから忙しくなるからアルマンには是非とも頑張ってもらいたいな」


「こ、国王陛下……どうか、宰相を辞職させてください」


「んなことさせるかよ? 引き続き宰相として頑張れ! 死ぬほど頑張れ。俺はそれを高みから眺めてクソ笑ってやるから」


「ルーネス様、サレム様、アインス様、この二人の国王とエルフ族長のエイミーンさんを反面教師にして真っ直ぐに育って下さいね。それが家庭教師を務めていたボクのたっての望みです」


「ローザさん、心外なのですよぉ〜。私をこのクソ国王二人と一緒にしないでもらいたいのですよぉ〜!」


「いや、エイミーンさんもいい性格しているからな? あんまり人のこととやかく言えねぇぞ? ってか、それを言うならローザだって俺達のことをとやかく言えるような性格してねぇじゃねぇか?」


「ボクって君達三人よりも少なくともまともな性格していると思うけどねぇ? ただ、ちょっぴり自分にストイックなだけで、他人に実力以上のことを求めることも、貶めることも、自分の欲望のために権力を振るうこともしないしさ。まあ、割と過激なところはあると思うけど。……ってか、話が進まないし、この話題はここで切り上げてくれない?」


「……その過激さが恐ろしいと思うんだけどなぁ。ローザにとって大切なものを傷つけようとした者の末路が、あの『怠惰』だろ? 亡骸も全く残っていなかったじゃねぇか? ……まあ、それはいいとして、褒賞の話に戻るか。お前らがそう言うことは最初から分かっていた。で、ラインヴェルドと相談して、オニキスに贈ったものと同じものを贈るのが最良なんじゃねぇかって思ったんだ。……アクア、お前ってオニキスと一緒で家名ないんだろ? ディラン、お前は親友と同じ家名を持てたら嬉しいよな? これは俺の自己満足かもしれねぇが、お前達の偽名の家名、テネーブルを国王の名に置いて正式な二人の苗字として認めようと思うんだ。血は繋がっていないが、血よりも強い絆で繋がっているお前達に、それを正式に認める形あるものを与えたいってそう思ったんだが、どうだ?」


「……ありがとう、ございます」


「やったな、親友! 俺達今日から家族だぜ。……って、これまでの関係から変わる訳ではないけどな。でも、それが正式に認めてもらえたってのは素直に嬉しいぜ」


 アクアとディランが喜んでいる姿を、オニキス達が嬉しそうに見ている。……オニキスとファントにとっては複雑な心境になる状況だとは思うけど、多分二人にとってはもう二人がもう一人の自分という以上に、掛け替えの無い二人の仲間になっているんじゃないかな? その二人が幸せそうにしているのを同じ仲間として喜んでいる……この過去に転生して、二人はいい仲間達に再び巡り合えたみたいだねぇ。


「落とし所はなんとなく分かっていたけど、粋なことするねぇ。見直したよ」


「そう言ってくれると思ったぜ。まあ、お前ならとうの昔に考えついていたと思うけどさ……俺は、ベタベタでもやっぱりこれが一番だって思ったんだ。しかし、二人が嬉しがってくれると、こっちまで嬉しくなるもんだな」


「じゃあ、その嬉しい気持ちのまま謁見を閉幕させてもらえるとお互い不快な気持ちにならずに済むと思うんだけど? その方がWin-Winじゃないかな?」


「悪いが、それはできねぇ相談だな。お前は国王直々に褒賞を与えなければならないほどの活躍をした。それを何も与えずにハイサヨナラってのは、国王の威信に関わるだろ? っつう訳でもう少し付き合え、国王命令だ!」


 どうやら面倒ごとは回避できないらしい。……あれれ、おかしいなぁ? なんで国の危機救って面倒ごとを押し付けられそうになっているんだろう? ……この状況を端的に表せる先人の言葉って何か無かったっけ? あっ、あったねぇ。

 ……恩を仇で返すっていう慣用句が。

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