百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.6-4 懐かしの騒がしきトラブルメーカー達の巣窟にて scene.2 下
Act.6-4 懐かしの騒がしきトラブルメーカー達の巣窟にて scene.2 下
<一人称視点・アネモネ>
「それじゃあ、誰が勝っても怨みっこなしで! ジャン・ケン「「ポン」」」
「貴様らは一体何をやっているんだ?」
「何って……大将を決めているのですわ」
「全く意味が分からん! 大将はオニキスではないのか!?」
まあ、狙うは一点やりたい人が三人居て、狙われるヅラは一つしかないんだから、もうこうやって決めるしかないよね?
ちなみに、ジャンケンは石と鋏と紙の最もオーソドックスなジャンケン。虫拳とか狐拳とかじゃないよ? しかし、ゲームにジャンケンの概念導入しといて良かったねぇ、まさかこんなところで役立つとは思っていなかったけど。
見気無しの真剣勝負、勝ったのはアクア……ってことはアクアが大将か。
「で、フォーメーションはどうするんだ?」
「ウォスカーさんが突破口を作った後、私とオニキスさんで適宜フォローしつつ、アクアに大将ヅラを掻っ攫ってもらうっていう感じでいいんじゃないですか?」
「それが一番ですね。ジャンケンの結果は見せていませんし、まさか私が大将役だとは思わないでしょう?」
「……立候補している時点で三分の一の確率でアクアが大将になる訳だから、予想はしていると思うけど。オニキスさんとウォスカーさんはそれで大丈夫ですか?」
「問題ないな。いつもはファントが今回の俺の位置にいるんだが、偶にはサポート役に回るというのもそれはそれで楽しそうだ。それに、何故か分からないがアクアさんにもアネモネさんにも、なんとなくだが大将を任せても問題ないような気がするんだ。今日初対面の筈だが、二人になら背中を任せてもいいような気がしている」
「……なんだか、オニキスさんが三人いるみたいですね」
「……心外ですわ」
「「――おい、それはどういうことだ!!」」
二人ともシンクロしているねぇ……ってか、アクア。毎回「オニキス」に対する言葉に反応しまくりだけど、正体がオニキスだってバレない?
「作戦会議は終わったか?」
「ああ、終わったぞ。それじゃあ始めるか?」
「ふん、今回の一騎打ち――勝つのは私だからな!」
「悪いな、今回お前と一騎打ちするのは俺じゃないんだ」と、オニキスが心の中で呟いた。
◆
<三人称全知視点>
「……あの、素晴らしい一撃を入れてくれた方々は?」
あれほどのダメージを負ったにも拘らず、ぴっちりと固められた横髪を僅かにほつれさせ、眼鏡に僅かにヒビを入れただけで済むという人間離れした頑丈さを持つモネは目を覚ますとズレた眼鏡を直した。寧ろこの超人の頑丈さについていける眼鏡の方が素晴らしいものなのかもしれない。
「モネ、珍しく起きるのが遅かったな。お前への説教は残念ながら後だ。あの忌々しい蒼月騎士団騎士団長がオニキス達とあの商人女とメイドを特別地下訓練場に連れて行った。俺達も奴らを追う。邪魔が入ったが奴らの罪が消えた訳ではないからな」
「その前に、王宮の一部を破壊したことをあの忌々しい宰相に報告…………しなくてもよろしいようですね」
真後ろのヒビひとつ入っていない壁に目を向け、続いて磨かれた大理石そのままの床を見て、モネの瞳が僅かに驚愕の色を宿した。
「俺も連中が行った後に気づいた。考えられるとすれば、あのメイドか商人女……だろうが、あのメイドは恐らく白だろう。そのような器用な真似ができるとは思えん。恐らく、なんらかの魔法を使ったのだろう。……余程優秀な土の属性の使い手か、将又」
「近年、ブライトネス王国は同盟国である我々フォルトナ王国にも内密に大規模な行動を起こしているようです。入ってくる情報も国を股にかける冒険者の一部から入ってくる僅かな、不確かなもののみ。……しかし、その中には興味深いものが多数ありますね。例えば、ブライトネス国王が吸血鬼の女性と手を組んだというものや、その吸血鬼を魔族排斥過激派の天上光聖女教が信仰するようになり、亜人差別が少しずつ薄まってきているというもの、彗星の如く現れて冒険者の頂点に立ったアネモネという出自不明の冒険者がビオラ商会商会長として頭角を現したのも吸血鬼が出現した時期とかなり近いですね。これほどまでに様々な変化が重なっているということはその全てが無関係という訳ではないでしょう。……しかし、素晴らしい踵落としでした」
「お前の性癖は相変わらず良く分からんが……しかし、あの女の剣技は尋常じゃなかったな。打ち合った時に分かったが、あの馬鹿力はオニキス、ウォスカー、ファント、ファンマン――あの四人と張り合えるかそれ以上のものだった。それに、無駄に頑丈なお前にそれほどの傷を負わせたことを考えると本当に只者でない……もしかしたら、人間ではないのかもしれないな」
◆
<一人称視点・アネモネ>
「――始め!」
堅く閉ざされたポラリスの唇が開き、試合の開始が告げられた瞬間――アクア達は爆発的な瞬発力で踏み込み、弾丸のように飛び出していき、ボクは「圓流耀刄」の完全身体能力操作を駆使して無音の踏み込みを行った。
ポラリスの部下達が「速いッ!」と思わず声を溢し、目を見開いた。オニキスとウォスカーの戦いっぷりを見ている筈だから、驚いたのはこの二人についていけているアクアに対してか、それともそんな三人と同速で、しかも全くの無音で走っているボクに対してか。
上司を守るべく、慌てて態勢を整えたポラリスの部下達が木刀を構えたが、漆黒騎士団三馬鹿力の一人に数えられるウォスカーが砲撃のような威力で木刀を打ち据えて三人の騎士を吹き飛ばした。
更に、追い討ちを掛けるようにボク、オニキス、ウォスカーで追撃を掛ける。
そしてガラ空きになったポラリスに向かってスカートが広がることも気に留めず、逆手で木刀を構え直したアクアが突撃していく。
木刀を思いっきり振り下ろしたアクアの攻撃を、すぐさまポラリスが防いできた。自由落下の威力に加え、少女の域では馬鹿力も加わった斬撃に流石のポラリスも僅かに顔を顰めたみたいだねぇ。
「やはり、只者ではないようだな。……しかし奇妙な感覚だ。まるでオニキスと戦っているようだ……剣の扱い方から笑うタイミングまでそっくり。オニキスはすぐそこで戦っているのにな。やれやれ、ライバルである私が本物のオニキス以外に奴の存在を感じるようになるとは……ライバルとして、もっと精進せねばならんな」
(……ポラリス、お前の感覚は正しい。しかし、なんでバレたんだ? 俺は今やリボンの似合うメイドの女の子で、この場にはオニキスも居る訳だろ? どう考えても俺がオニキスだという結論に至る訳がないよな!?)
アクア……実は自分が思っているほど隠せてないからねぇ? 寧ろ隠してすらないからねぇ。
たまたま転生したタイミングがオニキスと重なっているからバレにくいだけで、「まんまオニキス」だから。
一合、二合、三合、四合――息吐く間もなく、至近距離で木刀が交えられる。突きに特化した槍のような斬撃を、変幻自在の斬撃を得意とするアクアが器用に軌道を逸させ、対するポラリスも同じように器用に軌道を修正させて最大の威力で打ち返す。
荒々しくも美しいその剣技は思わず魅入ってしまうほど。
「あの……アネモネ様でしたね? 私の方に最初の一回以降一度も顔を向けずに淡々と全ての剣を捌かれているというのは騎士のプライドをへし折るといいますか、もう少し真面目に試合をして頂いてもよろしいでしょうか?」
……そういえば、オニキスとウォスカーはもうポラリスの部下を倒し終えていたんだねぇ。すっかりアクアとポラリスの戦いに見入っていたボクは完全に斬撃の軌道を読んでオートで戦っていたけど、この騎士のプライドのためにもそろそろ決着をつけた方が良さそうだねぇ。
「申し訳ございませんわ。そろそろ幕引きに致しましょう」
一気に通常の斬撃から「圓流耀刄」に切り替え、木刀を振りかざす。
規格外の速度で刀身が擦過した事により白熱する大気の輝きだけが残り、木刀を下ろしたことに疑問を持ちつつポラリスの部下がボクに向かって斬撃を放ち――。
――そのまま、木刀が粉々に砕け散った。
「何が起きたんだ?」
「簡単なことですわ。速度も鋭さも規格外な圓式基礎剣術で斬られた大気は切り裂かれたことに気づけない。私の本気の剣が通り過ぎた場所には、真空の断層がいつまでも残るのですわ」
「つまり、その真空の断層に木刀を突っ込んだから粉々に砕け散ったということか。もし、そのまま突撃していたら今頃切り刻まれていたぞ?」
ポラリスの部下が青い顔になっていたけど、別にその程度の傷ならさっき時間を巻き戻して時空魔法で壁や床を修復したように、傷を受ける前の状態に戻せるからねぇ。
「そんなことより、今はアクアとポラリスの一騎討ちを楽しみませんか? そのために、とっとと決着をつけたのですよ?」
「とっとと決着って酷くないですか!? まるでいつでも決着をつけられたみたいじゃないですか!?」
「……実際、一瞬で決着をつけられてしまったんだから反論の余地は無いんじゃないか? しかし、アクアさん。ポラリス騎士団長相手に互角とは凄いなぁ。あの人は【刺突の蒼騎士】の異名を持つ剣豪だ……あの人の槍で突くような鋭い刺突斬撃を攻略するのは初見では厳しいと思うのだが」
それが初見じゃないんだよな……ずっと剣を交えてきたんだよ、自称オニキスのライバルと、と心の中で呟きながら、ボクはアクアとポラリスの試合へと視線を戻した。
体格で劣り、身体能力も大きな差が生じている、圧倒的に不利なアクアだけどそれでも差を埋めて余りある魂魄の霸気を使おうとはしなかった。木刀の衝撃を殺し切れずに腕が痺れても、躊躇わず剣を交えていく。
アクアの瞳からは光が消えていなかった。寧ろ、
隊長として漆黒騎士団を率いて戦ってきた。必ず、生きて全員を戦地から連れ帰るのが隊長であるオニキスの役目だった。その
決して最後まで木刀を絡めとるには至らなかった――が、遂にポラリスの防御を崩すことには成功した。
そして、茶色の短髪のヅラがノーガードになる。
「折角手に入れたチャンスだ、遠慮なく使わせてもらうぞ!」
至って真面目な顔でイケメンみたく笑ったアクアが、木刀を構えた。その顔が終生のライバルの顔と重なり――。
その少女の容貌を見たポラリスの金色の双眸が僅かに見開かれ、ほんの一瞬固まった。その一瞬の隙をアクアは見逃さない。
ポラリスは遅れて、アクアがロックオンした視線の先に気付いた。その瞬間、オニキスとアクアとアネモネが三人とも、このヅラを狙っていたことを思い出し――。
「ま、待てッ! お前まさか本気で私の髪を!!」
「大丈夫大丈夫、それが地毛なら吹き飛ばない。吹き飛ぶのはヅラだけだから」
「問答無用」と少年のような笑みを湛えて躊躇なく、勢いよく力加減と軌道が完璧な突きを放った。
その職人芸のような突きが木刀とは思えない暴風を巻き起こし、ポラリスのヅラが吹き飛ぶと同時にその意識を刈り取った。
――ポラリスの
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