Act.5-75 獣王決定戦開戦〜模擬戦を含めて全試合、実況の琉璃と解説の真月でお送りします〜(4) scene.1 下

<一人称視点・ネメシア>


 青龍偃月刀にも匹敵する巨大な太刀で薙ぎ払い攻撃のための予備動作を行うヘルムート、蛇腹剣を勢いよく伸ばして鞭で打つかのように攻撃を仕掛けてくるラミリア、ククリナイフの二刀流で攻撃を仕掛ける……と見せかけて投げナイフの要領で左手で持っていたククリナイフを放ってくるフォッサス、細剣を構えつつ距離を詰め、勢いよく突き攻撃を仕掛けてくるイフィス……さて、誰から攻撃しようかな?


「闘気昇纏・武装闘気。キャッチ・スティール」


 武装闘気を纏わせた右手でククリナイフを殴って吹き飛ばし、持ち主フォッサスに帰っていき、脇腹に命中したのを片目で確認しながら武装闘気を纏わせた左手で蛇腹剣の剣先をC型に揃えた手で掴むとそのまま剣を持つラミリア諸共ハンマー投げ要領で回転させ、フォッサス目掛けて吹っ飛ばした。

 体術系ウェポンスキルの奥義とも呼べる技――キャッチ・スティール。白刃取りを指先一つでやってしまうというとんでもない技で、更にそのまま武器を奪い取ってしまうこともできるんだけど、今回はその動作をあえてキャンセルして攻撃手段として利用させてもらった。

 フォッサスとラミリアは仲良く壁まで飛んでいき、壁にぶつかってポリゴン化して消失。だけど、その光景を悠長に眺めている暇はないようで。


 ヘルムートの薙ぎ払い攻撃をバク転しながら後方に飛んで回避――そのまま「静寂流十九芸 体術二ノ型 爆踏」や「五十嵐流体術三ノ型 嵐走」と呼ばれる丹田に溜めた気を蹴り足から爆発させることによって爆発的な突進力を得る体術で肉薄して、掌底から相手を吹き飛ばすような一撃を繰り出す「静寂流十九芸 体術三ノ型 外衝勁」を放った。


「本当に強いわね。一度でも攻撃を受ければ多分私も耐えられないわ。でも、これならどうかしら?」


 なるほど三突きか……三角形の頂点を突くような突きを連続で放つって技みたいだけど、そこまで速くはないねぇ。とりあえず、「キャッチ・スティール」の要領で剣先を摘んでそのままイフィスの細剣を奪い取る――ウェポンスキルのスキルアシストなしでもやろうと思えばできるんだねぇ。


「悪くはないけど、突く場所はもうちょっと狙った方がいいかもねぇ。目、首、心臓、肝臓、腎臓、鳩尾……急所って呼ばれる場所は色々とあるから」


「へぇ? ……………………えっ、は、はい」


「それじゃあ、痛みを覚える間も無く一瞬で吹っ飛ばしてあげるからねぇ」


 剣を奪われて茫然自失となっているイフィスにジャブを打ち込んで撃破。イフィスと一緒に彼女の手から離れた細剣もポリゴンと化して消滅する。


「随分と早かったな。やはり、お主相手では手も足も出ぬか」


「まあ、相手が悪かったってことじゃないかな? さて、待たせたねぇ。――決勝戦と参りますかッ!」


 ボクが武装闘気を纏わせるのと同時に、ヴェルディエに全身に武装闘気を象徴する黒が宿る。

 覇王の霸気同士が激突して戦場の至る所で黒い稲妻が迸る中、ボクとヴェルディエは同時に地を蹴って加速した。


「震雷八卦掌」


 へぇ、掌に覇王の霸気の黒稲妻を纏わせて掌底を放ってきたか。覇王の霸気の黒稲妻を単体で出そうとすると合計値が十になる必要があるからかなりの練度の覇王の霸気ということだけど……本当にそれだけなのかな? 『王の資質』もそこまでレベルが高いものじゃないと予想していたんだけど。


雷光拳ライトニング・ストレート!」


 漆黒の稲妻が宿った掌に向かって武闘家系二次元職の格闘家が習得する青白く輝く雷を纏った拳で敵を打ち抜く特技を放つ。

 掌と拳がぶつかり、発生した衝撃波がボク達を壁に向かって吹き飛ばした。


 そのまま勢いに任せて飛ばされていき、壁に激突する寸前に「兎足の跳躍加護ラビット・ジャンプ」を発動させつつ、壁を蹴ってヴェルディエに向かって飛ぶ。


「巽風八卦掌」


 黒い稲妻が一瞬にして黒い風へと姿を変え、飛ばされながらヴェルディエが地面に思いっきり掌を突き出した瞬間、黒い暴風がヴェルディエを突き上げる。

 生まれた黒い暴風からヴェルディエが飛び出し、掌を突き出した瞬間――勢いを増した竜巻がボクに向かって放たれた。


「それがヴェルディエさんの魂魄の霸気なんだねぇ。差し詰め、覇王の霸気のレベルを強制的に十に引き上げた上でその性質を天、沢、火、雷、風、水、山、地の属性に変化させるってところかな?」


「やはりバレてしもうたか。……じゃが、分かったところでこの竜巻を止めるのは並大抵のことではないぞ!!」


「えっ? 止める気はないけどねぇ」


 ヴェルディエの卦掌はコピーした。このまま「巽風八卦掌」で打ち返すということもできるけど、それじゃあ芸がない。


「――《八咫鏡・鏡像顕現》」


 巨大な鏡が戦場に現れ、鏡の中から逆回転の黒い竜巻が姿を表す。

 ボクの《八咫鏡》の奥の手の技――《鏡像顕現》は鏡に写したものの鏡像を実体化させるというとんでもない技だけど、それほど大きな力にデメリットがない訳がない。この技にも《八咫鏡》系統――つまり鏡を生み出す力が鏡像を作り出している間は使えないという欠点がある……えっ、全然デメリットとメリットが釣り合っていないって? まあ、世の中大体そんな感じじゃない?


 逆回転の黒い竜巻と黒い竜巻が戦場の中心でぶつかり合って対消滅した瞬間、迅速闘気を纏ったヴェルディエが猛スピードで突っ込んできた。


「離火八卦掌」


 風から今度は炎に――黒い炎が掌に宿り、そこから無数の炎の竜が生み出される。


飛竜の歩技ワイヴァーン・ステップ――飛竜脚蹴ワイヴァーン・キック


 飛龍の如く舞い上がり、黒い炎の竜の間をすり抜けてヴェルディエに向かって飛び蹴りを放つ。


「艮山八卦掌」


 どっしりと構えたヴェルディエの全身を包み込むように漆黒のオーラのようなものが現れ、ボクの攻撃が受け止められた。八卦掌とは言っているけど、どう見ても防御技だねぇ……硬ッ!

 と思ったら、突き出された掌から猛烈な衝撃が放たれて後ろに吹き飛ばされた。……もしかして、黒い山の霸気の正体は硬さと重さなのかな?


 今のは確実に勁だった。でも、威力が尋常じゃないくらい上がっている。黒い山の霸気を自分の体内に纏わせてインパクトの瞬間に放つ重い一撃に重さをプラスしているならこの威力も分かる。……本当に巧みだねぇ、力の使い方が。


 流石に追尾効果がないようで、黒い炎の竜は闘技場の壁に激突して爆発し、そのまま消滅した。


「艮山八卦掌、坤地八卦掌」


 漆黒のオーラのような覇王の霸気が今度は無数の岩のような塊に変化し、空中に浮かんだ無数の黒い岩にヴェルディエが掌を当てると同時に猛烈な勢いで放たれる……なるほど、黒い山の覇王の霸気で強化した勁を利用して放っているってことか。同じ飛び道具でも「離火八卦掌」よりも速い攻撃だねぇ。


「阿修羅鵬凰脚」


 武装闘気と覇王の霸気を纏わせた脚で武闘家系二次元職の格闘家の奥義でフィニッシュ技を放つ。「阿修羅鵬凰脚」という技名のエフェクトがデカデカと出現し、猛烈な蹴りが「坤地八卦掌」で放たれた黒い岩に炸裂、岩が次々と吹っ飛ばされていき、その一つがヴェルディエに向かって飛んでいく。……さっきから漫画みたいな戦いになっているねぇ。


「坎水八卦掌」


 今度は岩から水のように変化して、掌から奔流の如く放たれた。黒い水の覇王の霸気は黒い岩を吹き飛ばしてそのままボクに迫る。


兎足の神速加護ラビット・ラピッド! 千羽鬼殺流・貪狼」


 兎人族の固有技能で兎の加護により敏捷を大幅に上昇させると、黒の奔流を回避しつつ爆発的な踏み込みにより一瞬でトップスピードに達し、相手の間合いに入るおおぐま座α星の名を冠する鬼斬の技でヴェルディエとの距離を詰める。


「やはり、そう簡単にやられてくれぬか。寧ろここまで倒されずに済んでいるのは奇跡か? じゃが、そろそろ幕引きとしよう。儂の奥の手がどこまで通用するか、行くぞッ! 乾天八卦掌」


 ヴェルディエの両掌に宿ったのは黒いオーラのようなもの――「艮山八卦掌」のオーラに似ているけど、効果は違うんだろうねぇ。不自然にオーラの周囲の空間が歪んでいるように見えるし。

 

 ヴェルディエの思考を見気で盗み見て「乾天八卦掌」の正体を知ったボクは即座に「螺旋捻猛コークスクリュー・フィスト烈拳撃・ジ・テンペスト」を放つ心算をした。

 初見では本来成す術なくゼロ距離に肉薄される技だけど、見気で事前に知っておけば対策はできる。ちなみに、最後の「兌沢八卦掌」は治癒の属性で掌を打ち込んだ相手を回復させるというものだったみたい……味方がいる状況ならともかく一対一なら使う必要ない技だねぇ。


 ヴェルディエが両掌を突き出すと同時に、ボクの目の前にヴェルディエが現れた。天属性の「乾天八卦掌」の効果は空間を削り取るというもの……削れるものは空間だけだけど、空間を削り取ることでショートカット移動をすることができる。ある意味縮地の極意だねぇ。

 対象は空間だけど、その空間内に存在するものも例外なく消し飛ばせるみたい。闇属性の「ブラックホール」に近いねぇ……って、それを範囲指定で発動できる時点でとんでもないんだけど。


 勿論、弱点もあってこの「乾天八卦掌」を使うとしばらくの間闘気全般が使えなくなるみたい……まあ、それくらいリスクないとねぇ。

 まあ、それだけ高威力で初見殺しの技だけどヴェルディエが、その技に頼って勝ちに行く可能性は低いからねぇ。結局、最後は自分の勁で倒しにくると思ったけど、期待は裏切らなかった。


 ……そんな真っ向勝負を挑んでくるヴェルディエに大技叩き込むのは鬼の所業だと思うけど、まあ、本気を出すって言ったし、別に負けても死なないから許してくれるよねぇ?


「これでトドメじゃッ! ――破ッ!」


螺旋捻猛コークスクリュー・フィスト烈拳撃・ジ・テンペスト!」


 勁を叩き込んでくるヴェルディエに向かって容赦なく武闘家系三次元職の格闘王の習得する螺旋状の竜巻のような暴風を纏って渾身の一撃を放つフィニッシュの奥義を叩き込む。

 闘気を使えないヴェルディエに身を守る術はない。なんとか衝撃を逃がそうと受け身を取るも意味を成さずに壁に減り込んでポリゴンと化した。


『遂に決着だ! 長き戦いを制したのはご主人様でしたが、ヴェルディエ選手も大健闘! 僕もヴェルディエ選手がここまで戦えるとは正直思っていませんでした!』


『ワォン、真月もだよぉ。闘気を知ったのも数日前なのによくここまで闘気を使いこなせるよね。『王の資質』を持つ人ってやっぱり特別なのかな?』


『さて、試合も全て終わりましたので続いて新獣王即位式を行いたいと思います。ご主人様は獣王になることを辞退しておりますので、ヴェルディエ選手――闘技場中央にお……』


 獣王決定戦、どうやらこれで終わらないみたいだねぇ。

 闘技場の遥か上空に現れた濃厚な殺気を放つ巨大なドラゴンの影を一瞥したボクは戦いが終わったばかりの闘技場戦場に向かった。

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