Act.5-74 獣王決定戦開戦〜模擬戦を含めて全試合、実況の琉璃と解説の真月でお送りします〜(4) scene.1 上

<一人称視点・ネメシア>


『さて、次は第四試合ですが、これが最終決戦となります! 猩々人族の族長ゴリオーラ選手、梟人族の族長オルフェア選手、狼人族のウルフェス選手の提案を獣人族の全族長とヴェルディエ現族長が賛同し、第四試合はこれまでのトーナメント方式からバトルロイヤルルールとなります。明らかにご主人様とアクア選手の戦いを見て不利と感じた三人が数の力で必ず勝利をもぎ取ろうとしている図ですね』


『ワォン? でも、なんでヴェルディエさんはそれを許しちゃったんだろう? 自分が狙われている訳じゃないからかな?』


『これはヴェルディエさんの作戦ですね。ご主人様でも同じ選択をしたと思いますよ。多対一の戦いになりますが、その分一試合で決着をつけることができますし、この試合で勝利すれば反対派の獣人達を黙らせることができます。ご主人様は一騎当千、いえ、一騎当億、いや、それ以上といっても過言ではない超越者プレイヤー。技のない馬鹿力だけが取り柄の者達がいくら寄せ集まっても到底勝てません』


『ワォン? でも、強そうなお姉さんとかもいるよ? どう見てもパワーじゃなくて技倆タイプの猫の剣士さんとか』


『そういう相手こそ厄介ですね。ご主人様もヴェルディエ選手もそれは承知の上だと思います。――ただ、この試合は前座、本当の戦いはご主人様とヴェルディエ選手の一騎討ちですから、是非そこに注目していきたいですね! まあ、勝つのはご主人様ですが!!』


『――ワォォォォン!!』


 本当に公平さの欠片もない実況と解説だねぇ……まあ、その後ろに控えている欅達に任せたとして平等で公平な実況と解説ができるかと聞かれたら微妙だけど。

 しかし、随分と思い切った真似をするねぇ、連中。追い詰めたつもりでいるかもしれないけど、それって背水の陣だからねぇ。しかも、それ必死になってやるからこそ勝機が見えるのであって、結局下心満載で状況も正しく見極められず、相手を軽んじている心が残っている時点で負けだから。


「すまぬのぉ。お主に無断で勝手にこのルール変更を許可してしまった。間違いなく、奴らはお主を数の暴力で倒しに来るぞ」


 ボク達を除いた選手は十人。そのうち下心満載の鎖国急進派が梟人族の長オルフェア=思慮スー・リュ=フォール=ロフォストリクス、猩々人族の長ゴリオーラ=硬堅インジィェン=ヴォルドス=オランウータン、狼人族の長ウルフェス=餓狼ェ゛ァ・ラン=ヴォールグ=カニスルプスの三人、鎖国急進派に近いのが虎人族の長ヘルムート=迅虎シュン・フー=フーウィン=ティグリス、熊人族の長ヴォドール=鋭爪ルェイ・ヂャオ=ベイージェ=ウルスス、牛人族の長ギュトー=牛臣ニィゥ・チェン=タロウス=ボース、鎖国穏健派が蛇人族の長ラミリア=巻尾チュェン・ウェイ=セブレス=アングイス、馬人族の長バトーウ=馬秀マー・シゥ=シャルキー=エクウゥス、中立派が獅子人族の長フォッサス=百獣バイ・ショウ=ドイルツ=レーヴェ、猫人族の長イフィス=凛咲リン・シァォ=ケットセ=フェーレースという派閥になっている……見事に開国派がいないねぇ、まあ当然だけど。

 フォッサスとイフィスは「開国も視野に入れている」という立場で、獣王になった場合はその時に鎖国か開国かを検討するつもりみたい。二人はヴェルディエとも交流があって鎖国した時のメリットと開国した時のメリットをヴェルディエが伝えたらしい。ヴェルディエはそれも踏まえて開国すべきと考えたみたいだけど、二人がどんな選択をするかは未知数。


 この二人は完全にボク達の味方ではない。まあ、バトルロイヤルに味方も敵もないんだけど……「寄って集って攻撃するなど、そのような卑怯な真似を儂は絶対にしないからな」と序盤は静観して残り二人になったら戦いに参加すると宣言したヴェルディエと違って、他の獣人族が手を組んで仕掛けてくるならそれに便乗する可能性が高い。……まあ、ヴェルディエも仕掛けてくるなら仕掛けてくるでいいんだけどねぇ。大人数で攻めるのも一つの戦略だし。


「隠し事はしたくないからのぉ。始める前に一つ言っておこう。実は試合の合間に儂も修行していてのぉ。ついさっき、覇道の霸気と魂魄の霸気の解放に成功したのじゃ」


「別に切り札として隠し持っておけばいいと思うけどねぇ。本当に義理堅いねぇ……それじゃあ、ボクからも一つ。ヴェルディエさんとの戦いでは一切手を抜かないから本気で掛かってくるといいよ……ボクを殺すつもりでさ」


「おぉ、この老骨に本気を出してくれるとは嬉しい話じゃのぉ。それじゃあ、互いの健闘を祈って――行くとするかのぉ」


 ボク達も闘技場の中央部に移動する。そこから「Lリリー.ドメイン」に入る――さあ、準備は整った。


『それでは最終試合――開戦ですッ!』


 開始と同時に仕掛けてきたのは……鎖国急進派三人組じゃなくてまさかの牛頭馬頭ゴズメズ

 ギュトーは巨大な斧を、バトーウは巨大な剣二本をそれぞれ構えて右と左から同時攻撃してくる……今更だけど名前まんまだねぇ。


「おい、真似すんなッ! 俺が先に攻撃しようとしたんだッ!」


「お前こそ、邪魔すんな! 牛頭は引っ込んでろッ!!」


 どっかの牛頭馬頭みたいに仲悪いんだねぇ……。


「ボクのこと放置で喧嘩とは随分舐められたねぇ。……コンビネーション・フィストッ!」


 右と左を交互に打ち出す無手の体術系ウェポンスキルを発動して最初に牛頭を次に馬頭を殴り飛ばす……あっ、壁まで飛んだ。

 普通にコンビネーション打つよりもウェポンスキルを使った方が威力が上がるみたいだねぇ。ちなみにウェポンスキルの発動条件は予備動作と音声、そして明確にそのスキルをイメージすること――この三つが揃わないと発動しないから、ウェポンスキルの存在を知らない人が同じ動きをしても発動はできないんだよ。


 ギュトーとバトーウを撃破して残りは八人――さて、次はこっちから攻めようかな? まずは猩々人族の族長ゴリオーラから。


「千羽鬼殺流・貪狼」


「――ッ! 速いッ! だが、所詮はそれだけだッ! 猩々人族の俺に兎如きの攻撃が通用する訳ねぇだろッ!」


 近くボク目掛けて思いっきり右ストレートを放ってくるけど、まあ遅い遅い、欠伸が出そう。


「静寂流十九芸 体術三ノ型 外衝勁」


 素早く拳を躱して懐に潜り込み、掌底から相手を吹き飛ばすような一撃を繰り出す。五十嵐流で言えば「外爆」と言われる技だねぇ。

 ヴェルディエの勁とほとんど同じ技術だけど、どちらかといえば「静寂流十九芸 体術四ノ型 内衝勁」や「五十嵐流体術二ノ型 内爆」に近い。密着した状態から放つ寸勁だからねぇ、どっちも。


 ゴリオーラも壁まで飛んでいってポリゴンとなって消滅……これ、全員一撃で撃破できそうだねぇ。


「兎ッ! ゴリオーラを倒せたからっていい気になるなよッ! 次は俺だ――捕食者の力、見せつけてやるぜ! 狼突進ウルフ・ダッシュ!!」


 最高時速七十キロという狼の性質を狼人族も有しているんだねぇ、速い速い。

 ちなみに兎は時速四十キロから六十キロと言われていて、最高時速は八十キロと言われているけど、兎人族の本気の走りはそれを超える九十キロ……ただ、狼人族は狼と同じで七十キロで二十分は走り続けることができるから持久戦なら狼が勝つ。

 ……弱い兎人族が最初から最高時速を出して逃げているっていう状況ならスピードを上げて持久戦に持ち込むのも手だけど、本気出さずに時速百キロを超える速度で走ることもできて、更に体力がほぼ無尽蔵の超越者プレイヤー相手に使うのは明らかに悪手だねぇ。


「ホリゾンタル・ターンキック」


 ボクの足にギュトーとバトーウを撃破した時と同じ橙色の輝きが宿り、腰を回すようにして足を横から回して上足底で高速接近するウルフェスの腰を蹴り飛ばした。

 面白いくらいグルグル回りながら飛んでいったウルフェスは壁に激突してポリゴンと化す。はい、また一人終了。

 既にお分かりだと思うけど、これも体術系ウェポンスキル……ウェポン使っていないけどねぇ。


「なかなかやるようですね。ですが、私のいる上空には攻撃は届きませんよ?」


 上空から不敵に笑いながら見下ろすオルフェアだけど、過去の全大会で弓矢を武器に使って空中から狙撃する戦法を取って優位に立ち回るものの、ヴェルディエに毎回矢を躱されて結局地上戦で戦う展開になっているんだよねぇ? そして、毎回ヴェルディエに撃破されて終わっていると。参謀としては優秀で頭が回るけど、致命的なまでに弓矢の扱いが苦手なのに弓矢に拘り過ぎだってヴェルディエが溜息を吐いていたねぇ。

 魔法が使えない種族だから遠距離攻撃手段とはいえ、弓矢に拘らなくとも石落とすとかいくらでも手段はあると思うけど……まあ、狙撃が苦手な理由は近視もあるみたいだけどねぇ。眼鏡いる?


「その矢のストックが切れるまで待つのもいいけどそれだと面倒だからねぇ。悪いけど、仕留めさせてもらうよ――兎足の跳躍加護ラビット・ジャンプ


 兎人族の固有技能を発動し、兎の加護で跳躍能力を上昇させる。そして、地を蹴って跳躍――オルフェアの目の前に来たところでジャブを一発叩き込んだ。

 思いっきり斜めから落下して地面に背中を打ちつけて小さなクレーターを作ったオルフェアはポリゴンとなって消えていった。残りはヴェルディエを含めて六人。


「ヒール・ドロップ」


 そのまま空中で体術系ウェポンスキルを発動し、一回転してから踵落としをヴォドールに落とす。橙色の輝きを纏った踵がヴォドールの頭に炸裂し、そのまま地面に綺麗な人型を残してポリゴンと化して消失した。


「やっぱり、貴女を倒すなんて無理な話だったのね……でも、だからといって負けを認めるって選択肢はないわ。鎖国をするにしても、開国するにしても、私達が道を選ぶべきですもの」


「ボクもそう思うけどねぇ。……君達がそう思うのなら、ちゃんと獣王に決めさせるんじゃなくて自分達全員の総意で決めるべきだって言えば良かったのにねぇ。でも、こうなってしまった以上もう後戻りはできないよ? ボク達使節団メンバーを除いた大会上位者――つまり、二位になった者が新たな獣王としてこの国の未来を決めることができる。この展開だと、ヴェルディエさんが二位確定だからねぇ。まあ、ここでヴェルディエさんを先に倒そうと戦略を変えても、そう簡単に彼女は倒せないと思うけど」


 ヘルムート、ラミリア、フォッサス、イフィス――残る四人でボクやヴェルディエを倒すのは難しい。……いや、四人でボクからヴェルディエに攻撃対象を切り替えて総攻撃を仕掛ければ可能性はある……けど、それも雀の涙ほど。闘気を一通り使いこなせるようになったヴェルディエを圧倒するのは至難の技だからねぇ。

 それに、そもそもそれができるならこれまでの獣王決定戦で優勝できている筈だし。


「さて、ヴェルディエさんをこれ以上待たせる訳にもいかないからねぇ。全力で掛かって来なよ!」


 ボクが構えを取った瞬間――ヘルムート、ラミリア、フォッサス、イフィスの四人が四方から同時攻撃を仕掛けて来た。

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