Act.5-73 獣人族最弱の称号を返還した兎人族は最強の二刀流戦鎚装備を手に入れた! scene.1 下

<一人称視点・リーリエ>


静かなる暗殺者サイレント・アサシン! 不可視の暗殺者インビジブル・アサシン!」


 暗殺者系四次元職の暗殺帝が習得する二つの特技を同時に発動する。


 「静かなる暗殺者サイレント・アサシン」は無音で移動する無音移動系の特技で類似したものには暗殺者系一次元職の暗殺者が覚える「無音移動サイレントムーブ」がある。どちらも無音で移動する特技なんだけど、「静かなる暗殺者サイレント・アサシン」には「無音移動サイレントムーブ」にはない発動中のヘイト値低下と直後の攻撃の命中率・クリティカル率の上昇効果がある……ただ、「静かなる暗殺者サイレント・アサシン」が効果時間長めに設定されているとはいえ再使用規制時間がそこそこ長めだから再使用規制時間が短くて何度も使用可能な「無音移動サイレントムーブ」の方が重宝されているようだねぇ。


 「不可視の暗殺者インビジブル・アサシン」は隠業系特技の最高位で類似特技には暗殺者系一次元職の暗殺者が覚える「隠業術スニーキング」にはない発動中のヘイト値低下と一定時間の敏捷上昇の効果と透明化の効果がある……ただ、これも「静かなる暗殺者サイレント・アサシン」と同じく再使用規制時間がそこそこ長めだから再使用規制時間が短くて何度も使用可能な「隠業術スニーキング」の方が重宝されているようだねぇ。

 ちなみに、透明化は「隠業術スニーキング」のような特技で可能な気配と姿を消すのとは異なり、本当に透明化して敵の視界に入っても気づかれなくなるという効果で「幻影隠業ファントムミラージュ」が透明化付与特技の代表例になっている。「幻影隠業ファントムミラージュ」は効果時間が十五分と長めに設定されているけど、「静かなる暗殺者サイレント・アサシン」の透明化は三分前後……まあ、その分他の特典が豪華だけどねぇ。


 姿を透明化しても気配と音で気づかれることもある。気配を消しても音と姿で気づかれることがある。音を消しても気配と姿で気づかれる――『Eternal Fairytale On-line』では、この音、姿、気配の三つを消すことができて初めて真の暗殺者だっていう考え方が浸透しているそうだねぇ……まあ、こういったのが本当に得意なのは影澤ウンブラさんだけど。あの人はリアルでも人に見られる力をゼロにすることで姿を隠す技術を習得しているからねぇ。……ちなみに、ボクも真似しようと一時期頑張ったけど無理だった……今ならやろうと思えばできるかもしれないけど、ハーモナイア・クオリティのおかげで。


「ダブルソード! ――殺戮者の一太刀エクスターミネーション


 武器を大きく振り回して敵の首を刈るイメージの技で、暗殺者系の攻撃特技の中でも最強クラスのダメージ出力を誇り、特技の中では珍しく扉や壁などの障害物の一撃破壊効果と、高確率の即死効果が付与された、まさしく暗殺者に相応しい技――「殺戮者の一太刀エクスターミネーション」。

 それが二回――ボクの両刀から繰り出され、アルティナに殺到する。


 何故、一度しか使えない筈の暗殺者系四次元職の暗殺帝の奥義が二度放たれたのか……そのカラクリはボクが事前に使った「ダブルソード」にある。

 この「ダブルソード」という特技は剣士系職業の二次元職が必ず習得するもので、種類としては剣士系職業の初期に獲得できる「ダブルスラッシュ」という特技と同じグループに分類される。「ダブルスラッシュ」は一度の攻撃で二度相手を切り裂く特技なんだけど、「ダブルソード」はその応用で剣技系特技を使用する前に発動することで連続で同じ特技を発動することができる……つまり、やろうと思えば「虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ」をタイムラグなしに二発連続で、しかも二発目は「ダブルソード」発動分のMP消費で放つことができるということ……これはこれでかなりのぶっ壊れだよねぇ。

 大規模戦闘では比較的簡単に手に入る特技ながらかなり重宝するものの一つだよ。……まお、元々強い特技を持っていなかったら意味はないんだけど。


 アルティナに一言も喋らせずに一撃で仕留め、残るはメアレイズただ一人。


「こ、これは拙い状況にございます! む、むむむ、無理でございますッ!! 身体強化ボディー・ストレングスニング、にございますッ!!」


 魔力を使った身体強化――全ての魔法の基礎(という割には使う人が本当に少数だけど)だけど、魔力を持たない獣人族には使えない技。

 そこに、仙術と武装闘気を組み合わせて身体能力を底上げしてきたか……「無理無理」って言いながらちゃんと迎撃する気満々じゃないか。まあ、そうこなくっちゃつまらないんだけどねぇ!!


「これでも喰らえッ、にございます!!」


 そして、至近距離に近づいて『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』で殴る……と見せかけて二つの『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』を可変させて砲撃モードに移行した。

 分厚い弾幕が一斉にボクへと殺到する……これ、ボクじゃなかったら即死する奴だねぇ。


時空凍結クロック・ロック


 時空魔法神が習得する時間魔法の一つを発動して、時間の流れを凍結させることで全ての弾丸を停止させる。


「な、なな、何が起きたのでございます!?」


「何って時間を停止させただけだよ? まあ、弾が速くて密度があるだけで攻撃範囲が狭いから避けようと思えば避けられるんだけどねぇ。こっちの方が楽で確実だし」


「じ、時間を止める、でございますか!? そ、そんなの魔王にもできない所業でございます!?」


「……時空魔法の使い手って数百年か数千年に一度の逸材だけど、実際に希少なだけで存在しているからねぇ。魔王も時間停止使えるかもしれないよ? まあ、ボク達人間は魔族よりももっと強大な力を持つ存在と戦う可能性を考慮した上で動いているんだけどねぇ。例えば、時空を司る外なる神ヨグ=ソトホートとか?」


 正直、魔王よりもレイドランクの魔物の方がよっぽど恐ろしいと思う……まあ、ボクの従魔達がこの世界にもいるのなら心強い味方になってくれるとは思うけどねぇ。そういえば、ボク達のギルドホームってどこに行ったんだろう? あれだけ大規模なのに《浮遊城ホワイトリリー》の噂一切聞かないし……もしかして、まだ追加されていないとか? それならそれで安心だけど……あれが導入される前にヨグ=ソトホートとかのレイドが追加されたらパワーバランスが確実に崩壊するだろうねぇ。


「……一体、なんの話でございますか!? ネメシアさん達は一体何を知っているのでございますか!?」


「この世界の真実……ってところかな? ちなみにボク達が獣人族の代表だと判断したヴェルディエさんには事前に伝えてあるけどねぇ。割と暴動とか起きかねない情報だから」


 ……自分達がゲームの登場人物で、ボクがそのゲームの作者ってのはこの世界の住民にとっては自分の根底を揺るがしかねない事実だからねぇ。

 例え、この世界がボクの手からもハーモナイアの手からも離れて、完全に誰も制御できない状況になっているとしても、ボク達が不幸の原因を作ったと思う人はいるし、実際ボクに責任がない訳ではない……というか、制御できない状況になっているっての方が恐ろしい事実なのかな? 本来、世界ってものは人一人で制御できるものじゃないと思うけど。


 それに、ここは紛れもなく一つの世界なんだよねぇ。ユーニファイドってのは、ボク達の虚像の地球の下位世界じゃない……悩んだり苦しんだりしながら一人一人ちゃんと生きている。

 ……それに、今考えてみるとあの人ってどう考えてもあの人の転生者なんじゃないかっていう人が鳴沢高校で教師やっているしねぇ……他人の空似ならいいんだけど、なんでオニキスやファントみたいに同じ世界に転生せずにそっちに転生しているんだよ、ヅラ。


 そうそう、漆黒騎士団関連でもう一人いるよねぇ。転生者候補……まあ、シャマシュ教国の第二王子なんだけど。あの特徴的な思考回路はまず間違い無いだろうねぇ……アクアといいディランといい前世の特徴が色濃く反映されているみたいだし、可能性はかなり濃厚だと思う。


「まあ、気になるなら後でヴェルディエさんに聞いてみればいいんじゃない? 結局この世界に生きているなら無関係にはなれない訳だし。……ただ、君達はエルフと違って選択権を新獣王に一任しちゃったからどうなるかは新獣王次第だけどねぇ」


『ヴェルディエさんが勝てば獣人族は人間との同盟を選ぶだろうが、他の獣人族の参加者が勝てばどうなるか分からんな。ただ、アネモネが出場した時点で結果は明らかだろうが』


『ただ、アネモネさんは確実に選択権と獣王の立場を受け取りませんし、そういう約束ですからね。私達を除いた参加者の中での成績優秀者――恐らく、ヴェルディエさんが次の獣王になると思います。そうなれば、獣人族は人間と同盟を結ぶことになりますね』


 既に決定事項みたいになっているけど、優勝はヴェルディエと決まった訳じゃ……って、よっぽど相手方がズルをしなければ勝ち目はないか。


「それじゃあ、そろそろ幕引きにしようか? 虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ


 侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義を発動し、刃渡り百メートルを優に超える虚空属性の巨大な剣がメアレイズに殺到した。



「…………本当に容赦なさ過ぎでございます! 怖かったでございます!!」


「「「「「「「「「「ウン、ソウダネ」」」」」」」」」」


(……怖かったで済む話じゃねえよな!? ……というか、俺達あんな恐ろしいの相手に喧嘩売ろうとしていたの? ニンゲンコワイ)


「オホホホホ、勘違いも甚だしいですわ。恐ろしいのはお嬢様だけであって人間全般がここまで化け物な訳がありませんわよ?」


「アクア、君もこっち側だからねぇ? プリムヴェールさんとマグノーリエさんもこっち側に足を突っ込んでいるから自分達は関係ないみたいな顔しないでねぇ。ディランさんも……貴方もこっち側だよ? 勿論、ジーノさんもねぇ」


「ははは。お嬢様、冗談もお上手でございますね。私などお嬢様やアクア、ディラン閣下の足元にも及びませんよ」


 ……この人も化け物なんだけどねぇ。まあ、ボク達みたいな派手な戦い方とは対極に位置する、暗殺っていう地味でなければならない戦い方を得意としているんだから地味かもしれないけど、この人どんなものでも凶器に変えられる上に素手での暗殺も得意としている人間凶器だから素のスペック的にはボク達よりも遥かに恐ろしいと思うけど。


「さて、一通り教えることは終わったけど、次の試合まで時間があるねぇ。さっき終わったボクとアクアの試合も含めてここまでの試合を全部録画してあるけど、見たい?」


 満場一致で「視聴したい」ということになったので、まずはアクアとボクの試合からプレイバックしたんだけど……なんか、メアレイズ達がこの世の終わりを目の当たりにしているみたいな顔をしていたねぇ。……別にボク達は人々の絶望から生まれて世界を滅ぼす破壊神とかじゃないよ?

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