Act.5-68 残念美人の狐人族の族長が残念兎と愉快な仲間達の仲間に加わったっス! scene.1

<一人称視点・ネメシア>


「待たせたねぇ。ちょっとお仕事を中断してもらってついて来てもらったよ」


 ボクが連れてきた人物を見て、アクア、ディラン、プリムヴェール、マグノーリエの四人は「まあ、そういう人選になるよな」と頷き、メアレイズ達は見知らぬ人間が来たことに驚いて何かされるんじゃないかとビクビクし始め、アルティナは「これ、どうすればいいんスか!?」とあたふたしつつも、なんとかメアレイズ達を落ち着かせようと奮闘していた。


「お初にお目に掛かります、兎人族の皆様。私はラピスラズリ公爵家で執事長を務めているジーノ=ハーフィリアと申します。本日はローザお嬢様からご依頼がありまして皆様にラピスラズリ公爵家の使用人が習得する暗殺術を教えるべく参上致しました。ただし、条件がありますが」


「じょ、条件でございますか!? わ、私達別に美味しくもなんともないのでございます! 非力でもございますし、ど、奴隷にもされたくは……」


 あからさまに動揺するメアレイズとそれが伝播した兎人族、果てはアルティナまでが怯え始め「これ、来なかった方が良かったんじゃないっスか!?」と来たことを後悔し始めているようだ……ってか、仮に奴隷にするとしたら力を付けさせる意味なくない? まあ、そうやって怯えられるだけのことをしてきたんだけどさ、人間って。


「というか、ローザって一体誰っスか!?」


「……お嬢様、そのお話をなさらなかったのですか?」


「いや、必要ないかなって。アネモネ=ネメシアってことだけ周知しておけば、別にローザ=アネモネとか、それ以上の情報はわざわざ拡散しなくてもいいでしょう? 現在最も獣王に近いヴェルディエさんが知ってくれていればそれで後は回っていくと思っていたし」


「相変わらず、最低限のところで上手く話を回そうとするよな。……確かに、三歳のお嬢様が使節団のリーダーだなんて普通は信じないよな」


 結局、メアレイズ達とアルティナにボクの正体が三歳の公爵令嬢のローザであることと、使節団のメンバーのアネモネの正体がローザの別の姿であるということ、ボクとブライトネス王国の関係のことを教えることになった……うん、リーリエのこととか、この世界の真実とかは別に今話さなくてもいいしねぇ。


「き、聞かなくていいことを聞いてしまった気がするのでございます! もし広めたら打ち首とかにされる奴でございます!!」


「……いや、しないって。ついでにジーノさんも君達に無茶なお願いはしないって」


「左様にございます。対価というのは、メアレイズ殿を始めとする兎人族の皆様がお嬢様から教授された仙術という技術――その方法でございます。お嬢様は私達をなかなか信用なさらないためか、技術を教えるのも最低限に留められております。そのため、こういう機会でなければ新しい技術というものを学ぶことはできないのです」


「……なんで使用人に教えないっスか?」


「そりゃ、有事においては娘よりも国王を選び、国の敵となるなら実の娘すら殺す父親とそれに従う使用人にわざわざ全ての切り札を明かす訳がないよねぇ。まあ、ボクはあの国を気に入っているし、クソ陛下を筆頭にあの周りを掻き回すタチの悪い大人達が好き勝手やっているあの場所も暖かい、失いたくない場所だって思っているけどさ。でも、シナリオ補正によってはボクが断罪されて命を狙われるってのもゼロじゃない……まあ、お父様の気持ちも分かるけどねぇ。もし、ボクが君達全員と、月紫さん達家族の命を天秤にかけるとしたら、間違いなく月紫さんを選ぶから。それなのに、娘を一番大切にしろなんて不平等だよねぇ」


 アクア、ディラン、ラインヴェルド、カノープス、カトレヤ……ボクにはこの世界で沢山の大切な人ができた。

 でも、それでも、やっぱりボクにとって一番大切なのは月紫さん達、家族なんだよ――百合薗圓として死に、離れ離れになってから、そう感じることも多くなった。


 天秤に掛けて大切な家族を選ぶボクに、カノープス達に国ではなくボクを選ぶことを強要することはできない。勿論、どちらかを切り捨てなければ、諦めなければならない状態にさえならなければ、どちらの大切も手放さなくて済む……ボクも、ラインヴェルドも、きっとカノープスも、それを望んでいるんだけどねぇ。


「ローザは石橋を叩き過ぎるタイプだからな」


「プリムヴェールさんの言う通りです。色々なものが見えるからこそ、臆病になってしまうんですよね。……未来がどうなるかは分かりませんが、私はもっとローザさんに私達を信じてもらいたいです……もっと頼って欲しいです」


「一人で抱え込み過ぎるのはお前の悪い癖だよな。それで実際抱え込めちゃうんだから、ある意味不幸だと思うぜ? 確かに立場上仕方なくってのもある。それを踏まえて俺や相棒、プリムヴェールやマグノーリエを頼ったんだろ? だったら他の奴ももっと信じてやったらどうだ? お前に救われた奴は多いんだぜ? そいつらがシナリオの強制力如きでお前を見放す訳がねえだろ?」


「……これでも頼っているつもりなんだけどねぇ」


 本当にいい仲間に巡り合えたと思うし、みんなのことを決して疑っている訳じゃない。ただ、どうしてもあらゆる可能性を考えてしまうんだよ……良い方にも、悪い方にもねぇ。


「はい、辛気臭い話はこれで終わり! まず、メアレイズさん達には常夜流忍暗殺剣術と忍術を教えるよ!」


 闘気の使い方を教えた時と同じで常夜流忍暗殺剣術と常夜流忍術の基本を一つ一つ披露し、メアレイズ、ラーフェリア、メリェーナ、カムノッツ、ヤオゼルド、ガルッテ、アルティナの七人に実践してもらう。

 時間が余ったので、一緒に原初魔法、瀬島新代魔法と『SWORD & MAJIK ON-LINE』のマジックスキルをいくつか教えておいた。まあ、流石に魔法関係は広過ぎるから、マジックスキルは基本的に使い方を教えたらスペル全てを書き出したメモを渡して、原初魔法と瀬島新代魔法は基礎の基礎を教えるだけで終わったけど。


「凄いでございます! 私達獣人族もこれで魔法を使えるでございます!!」


「まあ、この世界の魔法とは違うけどねぇ。マジックスキルも魔力を消費して発動するものじゃないみたいだし、原初魔法に関しては使っているものが魔力じゃなくて霊輝マナを使っているから全く別系統の能力なんだよねぇ。まあ、そのおかげで魔力の操作権を独占できる『マナフィールド』下においても無条件で魔法を使えるんだけど」


「ウチとしては魔法を使えるだけで十分っス。正直どのエネルギーを利用しているとか、どういうメカニズムで引き起こしているのか、そういった難しい話は本当に苦手で頭が痛くなってくるっス」


「私にとってはとても興味を唆られる内容でございます。同じ火を起こすという事象でも魔法を使うか、原初魔法を使うか、というように様々な方法がある……となれば、どのような方法で目的を達成するのが一番効率的なのか、複数の力を混ぜて使用すればどうなるのか……例えば、アルティナさんを始めとする狐人族の妖術の狐火に原初魔法の火を混ぜたらどうなるか、試す価値があると思うでございます」


 ……完全に言語的に崩壊している気がするけど、これ突っ込んじゃダメな奴だねぇ。


「確かに、それは面白そうっス! 狐火、Ich werde den Flammenspeer freigeben.」


 ほほう、異世界もの読者にとってはテンプレだけどそれを先行テクストなしで思いつくってやっぱりメアレイズって発想力豊かだねぇ。それに地頭もいいし……唯一の不幸は兎人族に生まれたことかな? 実力主義の獣人族のコミュニティの中ではいくら賢くても強くなければ意見が通らない訳だし。

 まあ、その不幸を不幸じゃなくするために、ボク達は兎人族に力をつけさせているんだけどねぇ……このままいけば脳筋種族辺りには勝てるようになるんじゃない?


 炎の槍に狐火が混ざったことで炎の色が温度が高い方の蒼焔の青じゃなくて、狐火の青に変化した。


「で、これどうすればいいっス? 放ったら森が燃えちゃうッス! 森林火災っス!」


「……少し考えてから撃とうねぇ。江戸時代だと火付けは馬で市中引き回しの後、刑場で刑木に磔にされ火炙りで処刑されるっていう重罪だったくらい重い計だし、いくら住居の間隔が広いといっても辺りに燃えやすいもの樹木がいっぱいあるところで撃ったら大変なことになるからねぇ。まあ、今回は仕方ないしボクの方に撃ちなよ」


「すまないっス! 頼むっス!!」


 武装闘気を纏って、放たれた炎の槍に向かって思いっきり右ストレートを叩き込む。ふう、消火成功。


「……武装闘気を纏っていたら拳一つで消火できるもんなんスか?」


「お嬢様だからこそできることですね。これも、超越者プレイヤーの身体能力の為せる技です」


「……アクアでもできそうだけどねぇ。……ところで、みんな準備はいいかな? 特にメアレイズさん達、楽しい楽しいチュートリアルバトルの始まりみたいだよ?」


 ボクの他にもアクア、ディラン、プリムヴェール、マグノーリエ、ジーノは気づいていたようだけど、見気の域に達していないメアレイズ達とそもそも闘気の使い方を知らないアルティナは相手さんが出てきてようやく気づいたみたいだねぇ。


 狼人族と猩々人族、梟人族が多いけど、中には虎人族や熊人族、蛇人族の姿もある。メンバーは若者ばかり――まあ、なんとなく目的は察せられるけど。


「闇討ち、ねぇ。誇り高き獣人族が随分と卑怯な手を使うじゃないか。代表選手じゃない者達が暴れれば、最悪全滅しても彼らが独断でやったことにできるという魂胆か」


「貴様は人間のせいで我々獣人族はこのような狭い土地に追いやられた。それでも飽き足らず、我らの自由を奪おうとする貴様ら人間に好き勝手はさせん! 流石にこの人数を相手にしたら手も足も出ないだろう! そちら側にいるのも弱者の兎人族と、ちょっと妖術が使えるだけの狐人族だ! 力でねじ伏せてやれ!!」


「だって、さー。どうすんの? 思いっきり舐められているよ?」


「……ウチもちょっとイラッとしたっス。……ボコボコにして身の程を弁えさせてやればいいんスよね?」


「強気だねぇ……ボコボコとは言わず、殺すつもりでいって大丈夫だよ? 別に生き返らせようと思えば簡単に生き返らせることができるし。中途半端に殺さないようにって手を抜く方が自分の身を危険に晒すことになる訳だし」


「まあ、安心しろって。こっちには親友ネメシアに、相棒に、プリムヴェールとマグノーリエに、ジーノもいるんだぜ? ヤバくなったらフォローできるだろうし、大丈夫だろうぜ? お前らだけじゃないんだし、安心して全力で暴れればいいぜ! んじゃ、いくぜ相棒! 飛ばすぜ!!」


 アクアとディランが地面が抉れるほどの勢いで加速し、狼人族と猩々人族を一人ずつ撃破したのを合図にプリムヴェールとマグノーリエ、ジーノも戦闘を開始した。

 ……言い出しっぺはボクだけど本気で命を奪いにいっているねぇ、これ、何人蘇生することになるんだろうねぇ。……範囲蘇生魔法の準備しておかなくなちゃ。


「おらッ! そこの兎人族! ちょっと強いからって粋がるなよォ!!」


「闘気昇纏・剛力闘気!」


 剛力闘気を纏った上で、呼吸法や重心移動、星の重力、身体内部の操作、意識のコントロール、これらを複合的に絡めつつインパクトの瞬間ではなく、超密着した間合いから重い攻撃を打ち込む勁を放って襲ってきた熊人族の男を吹き飛ばす。


「それじゃあ、ちょっとだけボクも本気を出そうかな? 飛竜の歩技ワイヴァーン・ステップ――飛竜脚蹴ワイヴァーン・キック!!」


 仕掛けてきた獣人族の若者達が面白いように宙を舞う中、ボクも武闘家系三次元職の格闘王の習得する特技を発動し、跳躍から飛龍の如く舞い上がり、猩々人族に向かって飛び蹴りを放った。

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