Act.5-63 辛辣で隠れドSな性格って遺伝するものなんだねぇ……。

<一人称視点・ネメシア>


「お疲れ様です、ネメシアさん……ところで、それってどうするんですか?」


 縄で雁字搦めになった気絶したイーレクスをニコリともせず「それ」呼ばわりするマグノーリエ……よっぽど怒りを覚えたんだろうねぇ、そりゃ、頑張りを否定されて梯子を外されたようなことになったら誰だってキレるよ。菩薩みたいなマグノーリエだってねぇ。


「……とっとと八つ裂きにして仕舞えばいいのではないか?」


「プリムヴェールさんも辛辣だねぇ。とりあえず、これに関してはエイミーンさんとミスルトウさんに任せようと思ってねぇ。エルフである彼をボク達が裁いたらそれはそれで問題でしょう? 国際問題になりかねないし」


 ここでイーレクスをボク達人間が裁いてしまったら【新生・エルフ至上主義ネオ・グローリー・オブ・ザ・フォレスト】に「人間がエルフを支配している」ということを吹聴する口実を与えてしまうことになる。それこそ、連中の思う壺だからねぇ。


「それじゃあ、届けてくるよ。ヴェルディエさん、試合頑張ってねぇ」


「儂も現獣王として負ける訳にはいかないからのぉ。ここまでお膳立て・・・・・・・・してもらった・・・・・・のじゃ、決勝まではいくつもりじゃよ? そこからは知らんが」


 知らんでは済ませていい話じゃないとは思うけどねぇ……いや、勝たないといけないでしょう? 優勝する気概で来てもらわないと……それに、ボクだって決勝進出が決まった訳じゃないし。


 ボクはアクア達にこの場を任せて『管理者権限・全移動』を使って【生命の巨大樹ガオケレナの大集落】の族長の屋敷に転移する。


「お久しぶりです、キャプセラさん」


「だっ、誰〜〜〜ッ!? ……って、こんなにポンポン転移できるのはローザ様しかいらっしゃいませんね。すみません、取り乱しました……本日はどんなご用け…………承知致しました。エイミーン様を呼んで参ります」


 相変わらず聡い人だねぇ、メイド頭のキャプセラ。


「昨日ぶりなのですよぉ〜。それで、一体何があったのですかぁ〜」


 待つこと数分、キャプセラはエイミーンを連れてきた。

 ご丁寧に紅茶を出してくれたメイドにお礼を言うと、一口味わってから本題に入ることにした。


「これが、ついさっき行われた獣王決定戦第一回戦第三試合の映像です」


「……わぁ、ワンパンなのですよぉ〜」


「そこではないと思いますよ、エイミーン様。……問題は【新生・エルフ至上主義ネオ・グローリー・オブ・ザ・フォレスト】なる者達が各地のエルフを煽って人間と戦争を引き起こそうとしていることではないかと。もし、仮に連中が戦争を起こせば、私達人間と交流を持つことを決めたエルフへの風評被害も免れませんし、関係性に亀裂が入り、今度こそ狩る側と狩られる側に回るかもしれません」


「……そんなの嫌なのですよぉ〜。折角人間と交流を持って美味しいものが食べられるようになって、生活も豊かになったというのに……これで、エルフと人間の蟠りも少しずつ消えていって良い関係を構築できるようになると思ったのに……」


 物凄い悲しそうな顔をしているけど、重要なのは前者だよねぇ? 究極的にはエルフ全体なんてどうでもいいんじゃない? 自分が美味しいものを食べられて、娘と一緒に暮らせるならそれで十分ってタイプだよねぇ? この人、クソ陛下と同じで自分さえ良ければってところがある訳だし……国の未来を憂うのも、結局自分の周囲が不幸になるからってことだろうし。


「…………獣人族との関係は間違いなく悪くなるのですよぉ〜。……獣人族を虚仮にして、人間を敵に回して、それでも勝てるなんて随分と虫の良いことを考えているのですよぉ〜。……破滅ならてめえらだけで勝手にしてろ、私達を巻き込むんじゃねぇ、なのですよぉ〜」


 マグノーリエが怒った時に垣間見える辛辣さはどうやら母親譲りのものみたいだねぇ。


「とりあえず、こいつから情報は引き出そうと思っている。見気使えば一発だからねぇ……で、その後の処遇はエイミーンさんとミスルトウさんにお任せしようと思っていたのだけど」


「処遇、ですかぁ? そんなもの、身体をバラバラにして川に流す一択なのですよぉ〜。ほら、丁度そこにミスリルの剣があるじゃないですかぁ〜。それ、使えばいいんじゃないですかぁ〜」


 本当に目が笑っていない……完全にハイライトが消えた目でイーレクスを見下すエイミーン……流石天然ほんわかドS。

 まあ、怒るのも無理はないけどねぇ……あの緑霊の森の国民投票でイーレクス達はボク達に反論し、その主張をエルフ達にするべきだった。それを彼らはせず、緑霊の森の国民投票で決まった結果を全く無視して、エイミーン達から信頼を持って任された緑霊の森からの使者という立場を悪用してエルフ達を扇動しようとしている。


 希望を託した相手に梯子と外された挙句、折角エルフに対する差別が減ってきたのに、それまでの頑張りを踏みにじるような真似をされた訳だからねぇ。


「それとも、鉄の鎖で雁字搦めにして土に埋めますかぁ〜? 新たなエルフネオ・エルフなら鉄アレルギーも克服しているのですよぉねぇ?」


 よりにもよってエルフと最も相性の悪い鉄で作った鎖で拘束して土に埋めるというエゲツない提案をするエイミーン……これ、この人だけに決めさせると私刑になりそうだから、ミスルトウが帰ってくるまでコイツの処分は待ってもらわないとねぇ。


「――ッ! ここはどこだ……まさか、族、長……」


「お久しぶりなのですよぉ〜社会のゴミ。大躻けで耄碌している族長のエイミーン=メグメルさんなのですよぉ〜」


 ナチュラルに社会のゴミとか言っちゃっているし……これ、そのままブチ切れて殺しちゃったりしない?


「この……売国奴の女狐が……」


「何を言っているのか、全然聞こえないのですよぉ〜」


 頭を御御足で踏みつけながらゴミを見るような目でイーレクスを見下すエイミーン……このままドSの快感に目覚めちゃったら面倒だな。


「ローザさん、お願いするのですよぉ〜」


「はいはい……それじゃあ聞かせてもらうよ。新たなエルフネオ・エルフのメンバーと人数を教えてくれないかな?」


「……口を割る訳がないだろ……莫迦がァ!!」


「なるほど……二十七人ねぇ」


「覚えているうちに名前を全員書き出しておくのですよぉ〜。キャプセラ、ペンと紙をお願いするのですよぉ〜」


「……わざわざキャプセラさんに持って来させなくてもそれくらい自分でやればいいと思うけどねぇ。……今ので記憶したし、リストなら今から作っておくよ」


「何から何までありがとうなのですよぉ〜」


「それ、普段からキャプセラさん達に言ってあげてねぇ……使用人ってのは奴隷じゃない。確かに仕事をして賃金めいたものは発生しているだろうけど、やってくれていることに変わりはないんだから、ちゃんと感謝をもって生活しないといつの間にか当たり前になってしまうからねぇ」


 まあ、貴族の大半は使用人は仕事をやって当たり前――失敗してブチ切れることはあっても、感謝することなんてないだろうし、その仕事の辛さもさっぱり分からないんだろうけど。

 ……メイドに混じって炊事や洗濯、掃除している貴族令嬢って実は相当レアなんだよ? えっ、常識的に考えて色々とおかしいからレアどころの騒ぎじゃないって??


「な、なんで俺達のメンバーが、お、俺は何も喋っていないぞ!!」


「でも、社会のゴミさんは無意識に思い浮かべてしまったのですよぉ〜メンバーの人数とその名前を。心を読める見気って便利なのですよぉ〜」


「……なんか一番教えちゃいけない人に闘気の使い方を教えちゃったみたいだねぇ。相手の無意識・深層心理・反射レベルの弱点を読み取る魔法に進化しちゃった某白魔法少女の周囲で困っている人の思考を声という形で感知する魔法みたいに、質問を投げかけて思考を誘導して欲しい情報を引き出すみたいな使い方でいくらでも悪用できるし……この人、クソ陛下並みに悪知恵が回るからねぇ」


「風評被害も甚だしいのですよぉ〜!! あのクソ陛下と名高きラインヴェルドさんと一緒にしないでもらいたいのですよぉ〜」


 似た者同士だと思うけどねぇ……てゆーか、同族嫌悪?


「それじゃあ、ボクは獣王決定戦の会場に戻らせてもらうねぇ。……ちょっと時間が掛かるかと思ったけど案外トントン拍子に話が進んじゃったし。ヴェルディエさんの試合も見ておきたいからねぇ……それじゃあ、キャプセラさん。そこの社会のゴミがエイミーンさんにぶち殺されないように見張って、ミスルトウさんが帰ってきたらエルフの上層部でこれの処遇と【新生・エルフ至上主義ネオ・グローリー・オブ・ザ・フォレスト】にどう対処するかを決めるように伝えてねぇ。あくまでエルフ同士の問題だから基本的にボク達が【新生・エルフ至上主義ネオ・グローリー・オブ・ザ・フォレスト】に対処するつもりはないけど、潰すのに協力して欲しいなら協力するつもりだからねぇ」


「委細承知致しました。必ずミスルトウ様にお伝えします」


「なんで、キャプセラに頼むのですよぉ〜。私に頼んでいけばいいと思うのですよぉ〜」


「……いや、エイミーンさんよりもキャプセラさんの方が信頼度高いし」


「そう言って頂けて嬉しい限りです」


「ローザさんが辛辣すぎるのですよぉ〜、後キャプセラもそこは否定するところ――」


「失礼ながらエイミーン様、ローザ様の評価は正当なもので、どこにもケチの付け所もございませんし、フォローのしようにもできません」


 「――絶望なのですよぉ〜!!!!!! 誰か私を甘やかして、なのですよぉ〜!!!!!!!!!!!!!!」という感じで発狂しているエイミーンのことは無視して、ボクは獣王決定戦の会場に戻った。

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