百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.5-64 獣人族一の思慮深さを持つと現獣王が大絶賛の、相手をおちょくったような馬鹿丁寧な口調の残念兎が現れた! scene.1
Act.5-64 獣人族一の思慮深さを持つと現獣王が大絶賛の、相手をおちょくったような馬鹿丁寧な口調の残念兎が現れた! scene.1
<一人称視点・ネメシア>
獣王決定戦の会場に戻ってくると、一回戦第五試合が始まろうというところだった。
「戻ってきたようじゃのぉ。あまり時間が掛からなかったようじゃな」
「まあ、さっきの試合の映像を見せてエイミーンさんのところのメイドさんに預けるだけの簡単なお仕事だったからねぇ……ボクもちょっと時間が掛かるかと思ってさっきは健闘を祈るって言っちゃったけどすぐに戻ってくるって、一体どんな顔をすればいいんだって感じだよねぇ。……それで、アクアとディランさんとプリムヴェールさんとマグノーリエさんはどこに行ったの?」
「暇だからと四人で出店を見に行ったのじゃ……なんでも、どうせ試合することはないんだし、見ても仕方ないんじゃと……」
「…………アクアとプリムヴェールさんは、ボクに勝って四回戦目以降にぶつかる可能性があるから見てもいいと思うんだけどねぇ……。それに、他の人の試合から学ぶことだってあるだろうし」
「……第四試合を途中まで見て、四人とも『彼らから学ぶことはない』と言い切っておったぞ。まあ、確かにこのように同士討ちをさせて戦力を削いでからでなければ、お主らに怖くて勝負を挑めない臆病者の集まりが獣人族という種族じゃ。強き者が頂点に立つ……ということは、結果的にどんな卑怯な手を使っても勝利すればいい、勝てさえすればいいという勝利至上主義へと形を変えていってしまう……そんな小手先の強さは真の理不尽な強さの前ではなんの役にも立たないのにのぉ」
それ、ボクとか、欅達とか、エヴァンジェリンを見ながら言うのやめて欲しいよねぇ。別にボク達は厄災を振りまいていないじゃん。
「おっと、そういえばお主にお客さんが来ておるぞ」
「客……? いや、獣人族に知り合いっていないけど……獣人系の知り合いや家族はいるけどねぇ。うちのメンバーだと神祖の狼人族の『魔弾射手』西馬優斗さんとか、神祖の狐人族の『武闘学者』司書子さんとか、神祖の猫人族の『吟遊軍人』mezzo forte piano.さんとか、まあ、その他にも沢山いるけど」
「……
「それも、ランキング上位を総嘗めにするような、ねぇ。……で、そのお客さんって?」
「ほら、隠れてないで出てくるがよい。別に取って食う訳じゃないからのぉ」
おずおずと客席の影から姿を現したのは、青みがかった白髪のスラリとしたスタイルのいい女性。頭にはぴょこんと二つのウサミミが……あっ、噂の兎人族ねぇ、獣人族最弱の。
「……全く事情が読めないけど、同族だから親近感でも湧いたのかな? 見た目こそ兎人族だし、実際に兎人族ではあるんだけど、世界観が違うというか、全く別物の体系なんだよねぇ」
「『スターチス・レコード』の獣人族と『Eternal Fairytale On-line』の獣人系種族の違いじゃったか?」
「まあ、そういうことだねぇ。『Eternal Fairytale On-line』の獣人系種族の兎人族はプレイヤー種族の一つとして天使や魔人――この世界の魔族みたいなものだけど――彼らと張り合えるようデザインされているけど、君達のイメージは……って別にエルフやドワーフ、獣人族、海棲族は本編にそこまで絡まないし、ほとんど資料上はってことになるんだけど。まあ、獣人族に関しても設定には協力したし、兎人族の最弱設定に関しても珍しく両者合意だったからねぇ……恨まれても仕方ないとは思うのだけど」
「……ということは、獣人族の設定に関しては別の者が大きくが関わっているということかのぉ?」
「まぁねぇ。『ケモ耳のない者に可愛さなどはない! 中途半端な美少女を投入するくらいならケモ耳を投入しろ!』が合言葉のケモ耳愛好家で有名ゲームデザイナーの高槻斉人、通称『異世界に行ったら絶対ケモミミハーレム作っちゃうよ偏屈おじさん』が設定のほとんどを嬉々としてやっていたからねぇ。あの人とはほとんど意見が合致しなくてねぇ、大体あの人はケモミミさえあれば美少女も百合もいらん! って声高に宣言するタチの悪い男で、ボクが百合をプッシュする度に邪魔をして立ちはだかって……ああ、思い出すだけで苛々苛々、一発ぶん殴りたい」
「よっぽど腹に据えかねているのぉ……。とりあえず、過去話は一旦置いておいて、まずは彼女の話を聞いてみたらどうだ? 彼女は兎人族の族長メアレイズ=
「は、初めまして! メアレイズと申しましゅ!」
なんだろう……見た目と中身のギャップが。なんで見た目美女でハイスペックそうなのに、残念な雰囲気が漂っているんだろう。……残念兎なの?
「それで、ボクに何の用? 隠密特化で足の速さが売り、打たれ弱さに定評のある兎人族が強くなるなら……魔法は獣人族全般魔力と相性が悪くて使えないし、身体能力じゃ他の獣人には勝てないから、速さを生かした撹乱と手数で攻めるか、隠密を生かして暗殺特化に進むか、システム外の力を極めて強化して強さを手に入れるかの三択しかないけど……」
「な、何故、私の求めていることが分かったのでございますか!?」
「何故って……アネモネ殿……いや、ネメシア殿は見気と呼ばれる術を心得ておるからのぉ。ちなみに、儂にも聞こえていたぞ? お主の声は……」
「まあ、そういうことだねぇ。……で、強くなりたいか。筋肉質にはなれない種族だけど種族限界突破した筋トレか突然変異で筋骨隆々な某兎人族の女冒険者さんみたいになるか、或いは突然変異で魔力を持った個体が生まれるか……いずれにしても個の力が強くなることはあっても、普通の方法では無理だよねぇ……というか、どっちも先天的な話だから後天的に強くなるという今回の希望にはそぐわないし……となると、さっき言ったように暗殺に特化していくか、スピードファイターになって手数で圧倒するか、或いは闘気で身体能力を強化するか……まあ、この辺りだろうねぇ。どこぞの虫も殺せぬ兎達を厨二病ヒャッハーに魔改造した某軍曹のブートキャンプはボクの趣味じゃないし、うちの元軍人さんも趣味じゃないって言ってたから縁がないしねぇ。武装闘気さえ獲得できれば、君でも今回の獣王決定戦ならベスト10に入れそうだし、いっそ暗殺に特化して、手数で圧倒して、投機で弱点克服しちゃう? 長所を伸ばして短所を補う、これ、彼を知り己を知れば百戦殆からず並に当たり前だけど重要なことだし……」
ちなみにうちには元軍人もいるけど、所属が大体執事だからああいうノリとは縁遠いんだよねぇ……そもそも統括しているのが「お前、本当に元軍人なの?」ってくらい完璧な執事をしている柳さんだし、彼らは泥臭さと汚い言葉とは無縁なんだよ。スマートに確実に、敵対した者は殺す――ある意味そっちの方が怖いんだけどねぇ。
「そういえば、兎人族は獣王決定戦に出場していないんだよねぇ」
「当たり前なのでございます! 私達が参加したところで勝ち目はないのでございます」
……この相手をおちょくったような馬鹿丁寧な口調、某魔法少女もののおっちょこちょい幹部な双子の育ちの良さそうな姉の方にそっくりだねぇ。……まあ、見た目は奇術師じゃなくて兎なんだけど。この残念感は残念兎じゃなくてこっちの雰囲気に近いのかな?
「それじゃあ……今日会場に来ている兎人族は全部で何人?」
「……ご、五人でございます! その五人も私一人で行きたくないからと無理を言ってお願いした方だけなのでございます」
「……まあ、居たところで出場する訳じゃない。ただ他の獣人族には見下されるだけだろうし……でも、兎人族の代表として君はどうしても参加せざるを得ない。……決して立場が悪くても、弱いからこそ他の獣人族の庇護を受けないと生きていけないか。君もつくづく不運だねぇ、族長なんかになって。村八分にされないために、顔色を窺って……よろしい、ボクもできる限り手を尽くさせてもらうよ。でも、あくまでボクはサンプルを提示するだけ――実際に変われるかどうかは君達にボクのやり方が合っているかどうか、そして君達がどこまで頑張れるかに掛かっている。……それじゃあ、ヴェルディエさん。ボクはメアレイズさん達と行ってくるから、試合頑張ってねぇ」
「ああ……メアレイズ、健闘を祈るぞ」
ヴェルディエ、何の健闘を祈っているんだい? それじゃあ、まるでボクがこれからメアレイズ達に過酷な試練を与えるみたいじゃないか。そんな身の丈に合わないことはさせないって、鬼じゃないんだからねぇ。
そういえば、ヴェルディエって兎人族に対する差別意識って無いみたいだねぇ。ちゃんとメアレイズの賢さを買っているけど、それが活かせない現状を残念に感じているような……まあ、獣人族の実力主義が結局変わらないことを知っているから、反対を押し切ってまでメアレイズを重用しないんだろうけど……この娘、もしドジっ子属性ついていなかったらもらっていいかな? って、ボク(三歳)よりも絶対に年上だけど。
うちの国は(陛下に振り回されても対応できる)文官が常に足りない状態だからねぇ……抜群の処理能力と頭の回転があるなら差別の消えたブライトネス王国ではきっと重用されると思うよ?
こうして、ボクはメアレイズ達六人と共に闘技場から離れた樹海の外れで特訓することとなった…………とはいったものの、まず何から始めようねぇ。
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