Act.5-47 アラディール大迷宮〜ローザ一行の初めての大迷宮挑戦 ※ただし、八百層スタート〜 scene.1 下

<一人称視点・リーリエ>


 【アラディール大迷宮】地下八百層……まあ、ショートカットにショートカットを重ねて邪道を極めた訳だから、そりゃヘリでエベレストの八合目にいきなり降ろされて、高度順応せずに山登りをするのと同じようなもの。

 まあ、高山病には流石にならないけど(地下だし)、少しずつ下層の魔物を討伐して敵の強さに慣れておかなかったら、突然強い魔物を相手にすることになって苦戦を強いられるか、最悪の場合は命を落とすことになるよねぇ……そもそも、実力が伴っていなかったら下層に辿り着く前に死ぬし、判断を見誤ればどこでだって死ねるんだけど。


「瀬島新代魔法――重力操作! 武装風刃黒纏ウィンドカッター・セクステット! ……はぁはぁ」


「月の力よ、我が武器に宿れ! ムーンライト・スティング!! テンペスタース・ファンデ・ヴー! ……これでは、キリがないな」


「魂魄の霸気――影縫いシャドウ・ソーイング! 今だぜ、相棒親友!!」


「魂魄の霸気! 【透明化】、【超加速】!!」


 地下八百層――そこは、別世界だった。これまでの魔物がぬるま湯に思えるような強大な魔物、それがラッシュ・ラッシュ・ラッシュと次々と襲い掛かってきて、高難易度大迷宮レイドダンジョンへの挑戦者侵略者に一切の余裕を与えない。


「…………これは、なんという強さじゃ」


究極治癒術式セイクリッド・ヒーリング


 満身創痍でボロ雑巾のようになっているヴェルディエに神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの回復魔法を掛けると、ボクは改めて魔物の群れに視線を走らせた。


白い馬の黙示騎士ホワイトライダー赤い馬の黙示騎士クリムゾンライダー黒い馬の黙示騎士ブラックライダー青い馬の黙示騎士ペイルライダー……『Eternal Fairytale On-line』の『オーバーハンドレッドレイド:天軍降臨』に登場する雑魚モンスターに、ギンヌンガ・アウルゲルミル、ギンヌンガ・スルーズゲルミル、ギンヌンガ・ベルゲルミル……『Ancient Faerys On-line』のラストダンジョン、地下世界ネオ・ヨトゥンヘイムの通常敵に、《混沌の使徒-蛇-セルペンテ》、《混沌の使徒-虎-ティーグレ》、フェイタル・ポイズンスケイルモス……『スターチス・レコード外伝〜Côté obscur de Statice』に登場する魔󠄁モノ、《混沌の使徒》と終盤に登場する要注意の通常魔物に、S級危険種・焔の猫将とS級危険種・摩訶鉢特摩の大寒氷龍……『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』のボス級危険種か。流石は高難易度大迷宮レイドダンジョンの八百層となると程度に違いがあるとはいえ、意味不明なくらい強い奴が湧いてくるねぇ」


「おい、マジかよ……レイドってあれだろ? 俺達が最大警戒しているヨグ=ソトホートみたいな奴が出てくる奴だろ!? いくらレイドボスじゃなくて、レイドダンジョンの通常敵とはいえ、これってかなりヤバい状況なんじゃねえの!?」


「まあ……確かにかなり危険だよねぇ。でも、これくらい勝てないとヨグ=ソトホートに勝つなんて夢のまた夢だし、クソ陛下は実際にS級危険種・焔の猫将に無傷で勝利している訳だから、アクア達も十分戦えると思うよ。流石に危なくなったら手を貸すけど……琉璃、真月。素材を回収できる程度に暴れてきていいよ!」


『――ワォン! ご主人様に真月が凄いところ、いっぱい見せてあげる!! 琉璃、コンビネーション行くよ! グラビティ・プレッシャー!!』


『うん、僕と真月の本気! ご主人様に見てもらうよ! ハイドロ・アクシズバースト!』


 周囲の「阿」、「吽」、「空」という青い文字が浮かび上がっている焔の球諸共S級危険種・焔の猫将を真月が重力で足止めし、そこに向かって琉璃が大量の水を止め処なく発射して水圧でS級危険種・焔の猫将を撃破する。

 二人で協力することを覚えたみたいだねぇ。しかも、威力もバッチリ、素材も回収できそう。


「まあ、みんな好き勝手暴れればいいんじゃないかな? 回復役ならここに一人いるし、最悪死んでも生き返らせるからさ。勿論、死なないのが最善なんだけど……。それに、ボクも正直本気で暴れたい」


「お嬢様、本当に正直ですわね。流石はクソ陛下や、俺達・・の生みの親です。――よし、ディランファント! 暴れるぞ!」


「そうこなくっちゃ! 俺達漆黒騎士団組の強さを見せてやるぜ!!」


 嬉々として白い馬に乗り、手には弓を、頭に冠を被っている白い馬の黙示騎士ホワイトライダーに突撃していくアクアとディラン……一番強そうなグループに狙い撃ちで攻撃を仕掛けるんだから本当に流石だよ。


「辻斬り……常夜流忍暗殺剣術・朧月夜」


 『漆黒魔剣ブラッドリリー』に武装闘気を纏わせ、侍系一次元職の武士が習得可能な特技……を途中でキャンセルし素早く相手に接近する挙動だけを利用――赤い馬に乗り、手に大きな剣を握っている赤い馬の黙示騎士クリムゾンライダーの丁度真横で方向転換し、剣の動きに緩急をつけることで剣の残像を生み出して変幻自在の攻撃を放つ常夜流の暗殺剣を浴びせる……ここまで二秒。流石に赤い馬の黙示騎士クリムゾンライダーでも対応できなかったようで呆気なく撃沈。


「千羽鬼殺流・巨門。千羽鬼殺流・太白――常夜流忍暗殺剣術・朧月夜」


 特殊なステップで瞬時に残像を発生させ、残像を囮にして攻撃を仕掛ける奇襲の技で黒い馬に乗り、手に天秤を持っている黒い馬の黙示騎士ブラックライダーと蒼褪めた馬に乗り、手に大鎌を持っている青い馬の黙示騎士ペイルライダーの攻撃を誘い、残像に二体が攻撃を浴びせる一瞬の隙を突いて、武器に霊力を流し込むことで破壊力が増し、相手の体内に毒のような効果をもたらす鬼斬の技と剣の動きに緩急をつけることで剣の残像を生み出して変幻自在の攻撃を放つ常夜流の暗殺剣の組み合わせで一体ずつ撃破。


「静寂流十九芸 剣術七ノ型 瞬撃突。……からの、天降八枝刃!」


 そのまま神速の七段突きを繰り出す「五十嵐流刀術二ノ型 五光」と同種の技で背後からスルーズゲルミルの息子、始祖の巨人ベルゲルミルを象った生きた氷――ギンヌンガ・ベルゲルミルの心臓に位置する場所を貫いて破壊し、返す刀で……ではないけど、遠距離から氷の塊をボクに向かって放とうとしていた混沌の巨人アウルゲルミルから生まれた六つの頭を持つ巨人を象った生きた氷――ギンヌンガ・スルーズゲルミルの頭上に剣士系四次元職の剣帝が習得する、まやかしや残像ではない実体のある分裂した八つの剣先を降り注がせるスキルを発動し、頭部を吹き飛ばして絶命させる。……この技は上から下への攻撃って決まっているだけで実は敵の上から発動して直接放たなくても、遠距離から「虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ」の要領で放つこともできるからねぇ。

 まあ、遠距離から放つと、突然出現した刀身だけの剣が八つに分裂して敵を貫くっていうシュールな光景になるんだけど。刀身の先の部分はどうしたんだってねぇ。


「…………段違いの強さじゃな、お主ら」


 ヴェルディエの呆れ声が耳朶を打ってふと戦場を見渡すと、アクアとディランが白い馬の黙示騎士ホワイトライダー赤い馬の黙示騎士クリムゾンライダー黒い馬の黙示騎士ブラックライダー青い馬の黙示騎士ペイルライダーを一体ずつ討伐してムスペルヘイムの熱とニヴルヘイムの寒気がまじわったところで生まれた混沌の巨人を象った生きた氷――ギンヌンガ・アウルゲルミルの討伐に向かったところで、プリムヴェールとマグノーリエは猛毒の鱗粉をばら撒く巨大な蛾――フェイタル・ポイズンスケイルモス、魔󠄁モノ、《混沌の使徒》の一体で大蛇型の雑魚モンスター《混沌の使徒-蛇-セルペンテ》と同じく魔モノ、《混沌の使徒》の一体で虎型の雑魚モンスター《混沌の使徒-虎-ティーグレ》を各一体ずつ撃破したところだった。


 琉璃と真月が新たに討伐したのはS級危険種・摩訶鉢特摩の大寒氷龍だけだったようだけど、奴は北の極寒の地に棲むという魔物で無の状態から氷を生成し自在に操る能力を持ち、常に吹雪を纏っているため、吹雪を解除しない限り攻撃が当たらないという至極厄介な存在なので、コイツ一体討伐したというだけでも十分に凄い。ちなみに、真月が纏う吹雪に重力魔法を掛けて防御を無効化した上で琉璃が氷弾連発して押し切ったみたいだねぇ……氷だと相性が悪いなら物理と物量でってことか。うん、その潔さ、嫌いじゃない。


 そして、ヴェルディエは白い馬の黙示騎士ホワイトライダー相手に苦戦中……まあ、これが普通なんだよねぇ。超越者プレイヤーでもないアクア達が普通にレイドダンジョンのモンスター相手に普通に戦えている方がおかしい。


「うーん、アクアとディランさんは元々おかしかったとして、プリムヴェールさんとマグノーリエさんがこのレベルに対応できているのは間違いなくボクが教えた戦闘技術で手札が増えて、その上で自分なりに習ったことを復習・応用していったからだからねぇ。ヴェルディエさんに闘気の類を教えるってのは専門家に類似系統の技を教える、瞿曇悉達多ゴータマ・シッダールタに説法みたいな感じだし……まあ、急速に底上げするのならこれかな? 【万物創造】」


 幻想級アイテム『真龍の籠手アルティメットドラゴン・ガントレット真龍の脛当てアルティメットドラゴン・レガース』を【万物創造】で生み出し、「時空凍結クロック・ロック」で白い馬の黙示騎士ホワイトライダーの時間を停止させつつ、ヴェルディエに手渡した。


「時間を止めるじゃと……本当にお主はなんでもありじゃな」


 ……いや、この程度・・・・で驚いていたら、ヨグ=ソトホートとかと戦えないからねぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る