Act.5-46 アラディール大迷宮〜ローザ一行の初めての大迷宮挑戦 ※ただし、八百層スタート〜 scene.1 上

<一人称視点・アネモネ>


 リルディナ樹海の中心地にある煉瓦造りの建物――中心に獣王の座る椅子を据えた石の円卓と呼ばれる各族長と獣王が会議をする神聖な会議室が存在する獣人族の政の拠点――の応接室で、ボク達は豹人族と鳥人族の若い男達に殺意と警戒の籠もった視線を向けられる中、ワイルドポーカー勝負に興じていた……だって暇だったし。


「ショーダウンです!」


「8♠ 8♥ 8♦ 2♦ 2♣のフルハウスですわ!」


「A♣ K♣ Q♣ J♣ 4♣のフラッシュだ……後、一枚でロイヤルストレートフラッシュだったのに……ちくしょう!」


「6♣ 6♠ 6♦ 6♥ A♥のフォー・オブ・ア・カインドだな……」


「……2♥ 2♠ 4♦ joker 9♥のワンペアーです」


「7♣ 7♠︎ 7♦ 7♥ jokerのファイブカードですわ」


「…………いや、おかしくねぇか? 親友アネモネ? ファイブカードの確率って0.0000045%なんじゃねえの?」


「今回はたまたまだよ……まあ、超共感覚ミューテスタジアで勝てる未来が見えていたからポーカーの勝負を挑んだんだけどねぇ。……運の無駄遣いをした気分だよ」


 「それって一種のイカサマなのではないか?」と懐疑的な視線を向けてくるプリムヴェールだけど、ボクはセカンドディールもボトムディールもフォールスシャッフルもカードカウンティングも、とにかくイカサマの類はやっていないからねぇ。やったのは投資の裏技だけだよ。


「待たせてすまない…………あまり待ってはいなかったようじゃな」


「あっ、ごめんねぇ。暇だったから大人数でもできるポーカーに興じていただけだよ。それもついさっき終わったところだからねぇ。……それで、今の獣人族の各部族の意見は大きく三つに分かれていて、一つ目が人間などと手を組める訳が無かろう! というグループ、二つ目が獣人族と人間の怨恨に目を瞑った上で、手を組んだ時の利益とリスクを天秤に掛けた上でリスクの方が大きいから互いに不干渉で居たいと考えるグループ、そして三つ目がヴェルディエさんも含まれるグループか。ボク達は獣王決定戦に一応出場することはできるけど、そのためには資格が必要なんだねぇ。仮にボク達が勝利した暁には、ボク達の要求を飲み、同盟締結をしようと……獣王はボクらや外部参加者・・・・・抜きで獣人族内の一位の人物が任命されることに決まったんだねぇ」


「…………話す前に掻い摘んで会議の結果を語られてしまったようじゃな。その条件というのが……」


「おっ、マジで!? 迷宮探索!? それって、もしかして大迷宮!? やったぜ! 親友達と探索できるじゃねえか!! で、迷宮の中で手に入れた財宝ってどうなるんだ!? やっぱり、ユミル自由同盟に寄付か? まあ、それはそれでいいけどな。俺は親友達と探検できればそれで十分だし」


「待て待て待て……あっさり儂の心を読み過ぎではないか!? 一体ここに何人儂の心を読める奴がいるのじゃ!?」


 勿論、手をあげたのは五人。まあ、プリムヴェールとマグノーリエも読心の見気は獲得している訳だしねぇ。


「まあ、まどろっこしくなるから口は挟まないよ」


「本当に規格外な奴らじゃ……迷宮で仮に財宝が手に入った場合、それは探索した者のものになるのは当然じゃろ? 獣人族は自己責任と実力主義を掲げておる。自らで掴み取った富は自らのものじゃ。ただし、便宜上【アラディール大迷宮】と呼ぶことにするこの新しい迷宮の探索を成功させたことを証明するために、儂が同行することになった。主らの方が知っているじゃろうが、この迷宮が出現してから一ヶ月ほど経つが、探索から帰ってこない腕利きの者も何人かおる。完全にマップができているのも浅い層のみじゃ」


「まあ、そうですわよね。寧ろ、そうでなければ探索のし甲斐がありませんわ」


「アクア……流石に正攻法で約千層の探索なんてやっていたら時間が足りないし、探索するとしても八百層くらいからになるよ? 全部の探索は無理だから、そこでは注意してねぇ」


「もれなく、獣人族の皆様のマッピングも無意味になりますね。場合によっては迷宮の地形が変わってしまうかも……」


「マグノーリエさんの言う通り、迷宮の土手っ腹に風穴をあけるつもりだからねぇ。即席パイルバンカーでゴツんと砕いて最短距離を作ればいいんじゃないかな? そうそう地下直通の魔法陣とか、落とし穴とか、崖とか、壁の中に落とし穴とかないからねぇ。まあ、落下しても武装闘気を使いこなせば死にはしないだろうけど。メンバーの三人は飛べるんだし、二人は意味不明に頑丈だし」


「新たに何かを作らなくても『虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ』で十分なのではないか?」


「……まあ、いくら量産可能とはいえ、課金アイテムの時計を割りまくるのはちょっとねぇ……それに、即席パイルバンカー使った方が手間が掛からないだろうし」


「そういうもんなのか?」


「そういうものなんだよねぇ」


 ボク達の話についていけないヴェルディエが一人で困惑している……まあ、この世界の置かれている状況とかボクの前世関連とか、そっち方面は話だけど、技術面とか戦闘面の話はしていないからねぇ。何度かボクの戦闘を目にしているプリムヴェールやマグノーリエと比べたらそりゃ可哀想だよ。



<一人称視点・リーリエ>


 ゴルジュ大峡谷の地下に広がる巨大地下通路のユミル自由同盟側からの入り口は南東、南西、北に合計三つあるらしい。

 今回探索する【アラディール大迷宮】は、北の入り口から入った地下通路の中に偶然発見された横穴から続くもので、過去に二、三度ほど魔物が溢れたことがあるみたいだねぇ。……全ての地下通路は繋がっているから、万が一魔物が溢れるような事態になれば、獣人族の他種族との交易は困難になる。獣人族にとっては経済的に大きな痛手になるだけではなく、地下通路内で魔物を抑え込めなければそのままユミル自由同盟に一気に攻め込まれることになるからねぇ……まあ、面倒なところに迷宮ができたってことじゃないかな?


 過去のスタンピードに関しては流石は武闘派な獣人族――全て制圧されている。しかし、探索の方だと大きな成果はなく、先ほどヴェルディエから拾った情報通り、死者も何人か出てしまっている。まあ、人海戦術でどうとでもなる防衛戦と違って、迷宮探索に求められるのは個人の迷宮探索に関わる知識と技術、それに付随して個人の強さ……つまり、挑戦者個人の力量だからねぇ。


 獣人族は個人の戦闘力もかなり高いけど、それでも未開かつ強敵が多数待ち構えている迷宮を簡単に攻略できるとは言い難い。まだ、防衛戦で黒星を獲得していないだけマシなんじゃないかな? もし舞台を人間の国に置き換えて冒険者の少ない地域で迷宮が発生したとしたら、一度目のスタンピードで滅んでいてもおかしくないと思う。

 今回が大迷宮とのファーストコンタクトだったこともあって最初は死者が多数出たみたいだけど、現在はある程度の探索が進んで死者の数も減少している。情報収集能力と探索能力に関しては獣人族も人間も大差ないレベルみたいだねぇ。


 とはいえ、そのペースでは到底大迷宮の探索そのものは終わらない。別に探索完了を目指さないのであれば上層で魔物狩りをしてスタンピードを抑制することもできるんだけどねぇ。


 もし、千層くらいあると思われる迷宮を突破するとなれば、通常の探索よりもかなり強行軍にならざるを得ない。そうなると、食糧の問題が出てくるけど、ボクらに関しては統合アイテムストレージがあるから問題はない。

 ただ、雑魚な魔物を相手にして時間を取るのは面倒だからねぇ。それに、目的は魔物の討伐ではなく迷宮攻略だし……ということで、一層の魔物の討伐は真月に任せ、ボク達は予定通り地下八百層を目指すこととなった……即席パイルバンカーで。どう考えても正統な迷宮攻略ではないけど、その辺りは目を瞑ってもらいたい……千層の迷宮とか大真面目に探索できるかよ!? 一体何十日掛かる話だと思っているのかい?


 アクア達を下がらせて【万物創造】で即席のパイルバンカーを生成。アンカーを射出し、アームで固定すると、そのままアトランタイト製の杭が激しく回転し始め、一瞬にして大迷宮の床を砕いた。


「おう、凄えな……しかし、これ、どう降りるんだ?」


「……螺旋階段を作ればいいと思うけど、今作ると次のが面倒だし、全部掘ってから作ればいいかな? しかし、よく考えると一々これ持って降りるの面倒だねぇ。【練金成術】で丸くくり抜いた方が早いかな?」


 呆気なくパイルバンカーを仕舞い、【練金成術】系スキルで穴を開けては自由落下し、更に落下したまま【練金成術】を続け……。


「あっ……ボスの部屋だねぇ。ダークマター・フェイク!」


 時折フロアボスや雑魚魔物を発見すると指輪を経由した闇の魔力でローザ=ラピスラズリがレベル95で習得する暗黒物質を顕現して勢いよく地面から噴き上げる超高火力の闇魔法のフェイク版を発動し、あっという間に八百層に到達してしまった。


 ちなみに、生前の大迷宮最高到達記録は【ルイン大迷宮】で三百十一層――転生して得た特典で凄まじく強くなっているため比較にはならないが、この時点で迷宮到達の自己記録は更新している。


『おーい……下はどうなってんだ?』


「ちょっと待ってねぇ……すぐに螺旋階段作るから。【万物創造】!」


 【万物創造】でウルツァイト窒化ホウ素製の螺旋階段を作ってから四十分後、ディラン達が八百層に降りてきた……ちょっと疲労が溜まっているみたいだねぇ。まあ、確かに下りの階段の方が疲れるからねぇ。まだ上りがないだけマシだとは思うけど。


「おっ……こりゃ凄え」


 八百層――色とりどりの金属結晶に彩られた世界。まあ、確かに幻想的だよねぇ。

 ただ、あまり景色に感動してはいられないみたいだけど……。


 ほら、噂をすれば魔物の群れが……ねぇ。

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