Act.5-26 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.6 下

<三人称全知視点>


「こいつが、このエリアのボスキャラか? なかなか強そうじゃねえか!」


 溶岩島エリアのゴール――溶岩の海の洞窟の最奥部に辿り着いたラインヴェルドは、『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』に登場するS級危険種・焔の猫将を前にして愉しそうに顔を歪めた。


 『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』は、高槻斉人とフルール・ドリスがタッグを組んだ第三作目の作品だ。通称は『暗殺転生』。

 一人プレイのConsole Gameで、セーブデータは全部で三つある。


 物語の舞台はルヴェリオス帝国。その二代目皇帝に仕え、隣国との戦いで勝利を治めて一帯を統一した伝説の騎士ヴェガス=ジーグルードは、率いていた騎士団の何者かによって毒を盛られて殺される。

 その後、ルヴェリオス帝国の貧民街で新たな生を受けた主人公(性別変更化で名前も設定可能)は、かつてヴェガスが二代目皇帝と共に語り合った民達が幸せに暮らせる国とは対極の帝国の圧政に苦しめられるディストピアになっていることを、二代目皇帝が謎の死を遂げ、新たな皇帝が就任しているという事実を知る。


 ヴェガスの転生体である主人公は、ルヴェリオス帝国で暗躍し、帝国の重役達を殺している暗殺集団に接触、紆余曲折を経て仲間として加わることになる。

 主人公を殺したのは果たして誰なのか? 腐敗した帝国の闇をリアリティを追求して描き出した、過去と未来、ミステリーとラブストーリーが交錯するダークファンタジーという内容だ。


 ゲームのルールはコマンドカード制で、コマンドカードや装備は作中で暗殺集団の上位組織、革命軍から受注できるクエストなどによって資金を稼ぎ、購入することができる。

 それら装備とコマンドカードを駆使する方式で、レベル概念は存在しない。


 この作品の舞台――ルヴェリオス帝国は、現在のユーニファイド全体の世界観を考えても、既に存在してもおかしくない類の世界観だが、ローザが百合薗圓であった時代に確認した地図にも、ローザに転生してから確認した地図にもルヴェリオス帝国は載っていなかった。恐らく、今後の世界拡張で追加されるのであろうと、ローザは見解を示している。


 S級危険種・焔の猫将は燃える大型の三叉の猫の形をした魔物だ。周囲に「阿」、「吽」、「空」という青い文字が浮かび上がった焔の球を浮遊させており、それら三つの焔の球にもHPバーが存在している。


「ああいうのってボスを先に倒したら自爆とかすんのかな? それとも、スーって消えんのかな? 試してみたいし、あえてボスから潰していくか」


 本来ならば王道の取り巻き潰しをやった上でボスを狙いに行き、取り巻きが復活するならボス討伐に切り替えるのが無難だが、面白いこと好きのラインヴェルドはあえてボスエネミー、S級危険種・焔の猫将から討伐することにした。


「――魂魄の霸気!」


 白い羽の意匠が施された十枚のナイフを顕現すると戦場に均等にバラけるように四方八方に投げつける。

 あるナイフは壁に刺さり、またあるナイフは床に刺さり、最終的にラインヴェルドの望む通りの布陣が完成した。


 S級危険種・焔の猫将は纏う焔を荒々しく燃やし、猫まっしぐらと言わんばかりにラインヴェルドへと突撃してくる。

 ラインヴェルドは、《蒼穹の門ディヴァイン・ゲート》の効果でS級危険種・焔の猫将の攻撃範囲から逃れると、再び《蒼穹の門ディヴァイン・ゲート》を発動して、S級危険種・焔の猫将の丁度背後に移動し――。


 聖紋を開放して『ノートゥンク』と『真なる王の剣ソード・オブ・ジェニュインレガリア』に宿し、その上から光と焔の魔法と武装闘気と覇道の霸気を纏わせたラインヴェルドが王室剣技ダイナスティー・アーツで七撃の斬撃を浴びせた。


『――ニィャァァァァァォ!』


 振り返ったS級危険種・焔の猫将が口から衝撃波を放つ――が、ラインヴェルドは《蒼穹の門ディヴァイン・ゲート》の効果で範囲を逃れ、その後もヒットアンドアウェイを繰り返した。


 戦闘を続けるうちに、ラインヴェルドにそれぞれの魔物の行動パターンがおおよそ掴めてきた。


 S級危険種・焔の猫将は、衝撃波、火達磨突撃攻撃、肉球を押しつける振りかざし攻撃、噛み付き攻撃の四つ。

 「阿」の火の玉が、S級危険種・焔の猫将の周囲に赤いハニカム構造のバリアを三枚張る、炎の槍を作り出して放つ攻撃の二つ。

 「吽」の火の玉が、S級危険種・焔の猫将の体力を回復させる、焔弾を作り出して放つ攻撃の二つ。

 「空」の火の玉の行動は、自分とS級危険種・焔の猫将、「阿」、「吽」の体力をランダムに回復させる、自分とS級危険種・焔の猫将、「阿」、「吽」の体力をランダムに赤いハニカム構造のバリアを一枚張る、小さな火の車輪のような形となって突撃する攻撃の三つ。


 何かしらの条件で攻撃パターンが変わる可能性があるが、ラインヴェルドは「まあ、大体これくらいだろう」と結論付けた。


「にしても、なんか攻撃が単調なんだよな。こんなにバトルフィールドが広いのに部屋全体に届く攻撃はない。衝撃波攻撃も、火達磨突撃攻撃も、肉球を押しつける振りかざし攻撃も、噛み付き攻撃もみんな局所的な攻撃だし、炎の槍や焔弾、火車も躱そうと思えば簡単に躱せる。赤いハニカム構造のバリアも多くて三回殴れば壊れるしな……なんかチグハグしているんだよな。どっちの攻撃も躱せず、互いに攻撃が必中するようなのが前提で、その上でどう立ち回るかが重要になってくるようなゲームのキャラクターが、立体的なゲームの世界に迷い込んだというか、現実の世界に無理矢理引っ張られてきたみたいというか……」


 ラインヴェルドもローザから贈られた家庭用ゲームをプレイして、ターン制で左と右のキャラクターが交互に攻撃し合い、ダメージを受けることを前提にしているゲームシステムの存在自体は知っている。三次元的なゲームとは異なり、そのようなゲームでは攻撃を物理的に躱すことはできず、なんらかの魔法的力を用いて回避を行うか、システム的に一定確率で回避が成立することになっているか、攻撃をバリアのようなもので防ぐか、攻撃を受けないほど防御力を上げるか、そう言った方法でしかダメージを受けない状態にすることはできない。


 S級危険種・焔の猫将の攻撃が単調なのは、そう言った「二次元のシステムの世界から連れてこられたから」だとラインヴェルドは推察した。

 システム的に突撃攻撃であるといった攻撃手法が決められていて、それを三次元に落とし込んでいるから三次元でも一応戦闘という形にはなっている……のだろうが、攻撃の回数や判定パターン、攻撃の自由度などが基となったゲームと、異世界化した後では大きく違っているため、相対的に攻撃手段が不自由に見えてしまう。


 S級危険種・焔の猫将も方向転換ができないという訳ではない。モーションが大きく、直線的な攻撃を多用するため、しっかりと目視して回避行動を取っておけば対処は簡単なことと、バリアがほとんど意味をなさなくなったことを除けばS級危険種・焔の猫将は三次元でも十分に戦えるようになっており、ゲーム時代の「凶悪なボスキャラ」の座から転落して中ボスクラスの強さに落ち込んでいるものの、攻撃力自体はボスに恥じぬものである。


 ただ、ラインヴェルドの《蒼穹の門ディヴァイン・ゲート》――三次元的な空間を支配し、限定的でありながらも瞬間移動することができる力とS級危険種・焔の猫将の相性は最悪極まりなかった。ラインヴェルドにとって、S級危険種・焔の猫将はただひたすら死角から攻撃を重ねて、危険になったら別のナイフに転移する……その繰り返しの作業だけで勝てるクソつまらない相手だったのである。欲を言えば、もう少しラインヴェルドを楽しませるような「危険なギミック」が欲しかった。


 ラインヴェルドはその後も攻撃を続け、遂にS級危険種・焔の猫将を撃破。すると、「阿」、「吽」、「空」の火の玉が一斉に爆発した。

 一時避難していたラインヴェルドが「これで終わりか?」と思ったが、火の玉のHPが削られた形跡はなく、自爆攻撃ではなかったことをラインヴェルドは確信する。


「あ……あのデカい猫が死んだからギミックが変わったのか? しかし、今の爆発って自爆じゃなかったのか? ということは単なる強攻撃か? まあ、当たらないなら意味はないけどな」


 だが、その後何故かHPバーがガクッと減った。


「なるほど……訳が分からん」


 ラインヴェルドに分かったのは、大爆発とHPバーが減った理由が直接的には結びついていないことくらいだった。

 二つの効果の原因がそれぞれ個別の技なのだろうということは容易に想像がついた……が、それを確認する術はラインヴェルドにはない。


 その後も「阿」、「吽」、「空」の火の玉は一定時間が経過する度に大爆発をした。HPバーが自動で削られることは無かった。


「…………いつまで続けるつもりだ? つまらんからとっとと終わらせろ」


 敵を害することもできず、ただひたすら爆発し続ける火の玉に流石に飽きてきたラインヴェルドは適当に氷の槍を作って放った。

 貫かれた「阿」、「吽」、「空」の火の玉はそのままポリゴンとなって消え失せた。


 それと同時にS級危険種・焔の猫将が居たところに宝箱が出現した。


「猫が死んだ時には無かったよな? 取り巻きも全部倒したら、ボスの死んでた位置に宝箱が出現するってゲームだよな。現実じゃあり得ねえよ」


 という、元ゲームの攻略対象の父親という名の裏設定豊富な背景キャラ。自分がゲームの登場人物だったことはすっかり忘れているようだ。


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【ユニークシリーズ】(『World Sphere on-line』)

 単独でかつボスを初回戦闘で撃破し、ダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者の為だけの唯一無二の固有装備。

 一ダンジョンに一つしか存在しない。

 譲渡は可能だが、譲渡した場合は装備に施されたあらゆる強化が消去されて初期の状態に戻る。


『灼熱のローブ』

【HP+100】

【MP+50】

【STR+0】

【VIT+30】

【AGI+0】

【DEX+40】

【INT+260】

スキル:【火焔流】、【破壊成長】


『灼熱のスリーピース』

【HP+120】

【MP+0】

【STR+100】

【VIT+100】

【AGI+30】

【DEX+30】

【INT+5】

スキル:【燐火】、【破壊成長】


『灼熱のグローブ』

【HP+0】

【MP+250】

【STR+250】

【VIT+15】

【AGI+0】

【DEX+0】

【INT+120】

スキル:【炎帝】、【破壊成長】


『灼熱のシューズ』

【HP+0】

【MP+0】

【STR+0】

【VIT+0】

【AGI+450】

【DEX+0】

【INT+0】

スキル:【火柱】、【破壊成長】

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「なかなかいい防具だな。武器は……ないか。まあ、武器が増えてもまたローザに合成してもらわないといけないからな……俺が頼めばやってくれるだろうけど」


 幻想級武器に【ユニークシリーズ】を合成したらどうなるのか……興味はあるが、ラインヴェルドが頼めば一体どんな顔をするのだろうか? ただでさえ使節団としての派遣が迫っているのに、このバトルロイヤルの無茶振りも聞いてもらった上で更にそんなことまでお願いすれば、ローザも本気で呆れるだろう……嫌な顔を浮かべる姿がありありと想像できる。

 まあ、それでも仕事はきっちりこなして完璧なものを仕上げるだろうが。


「まあ、どっかでボソッと提案すればいいか。……さて、次はどこのエリアに……」


 ラインヴェルドが魔法陣に乗って次のエリアに移動しようとしたその時、閉じた筈のウィンドウが強制的に開かれた。


「……おっと、噂をすれば」


 そこには、溶岩島を背景にしたローザの姿が映し出されていた。



 〜バトルロイヤル 十七時間経過時点の成績〜


一位 アクア +14(エリア:白雲世界) 極乾砂漠のユニーク獲得

二位タイ ラインヴェルド +7(エリア:溶岩島) 溶岩島のユニーク獲得

二位タイ ディラン +7(エリア:白雲世界) 白雲世界のユニーク獲得

三位 ローザ +6(エリア:溶岩島) 図書館のユニーク獲得


四位 バルトロメオ +4(脱落) 海中洞窟のユニーク獲得

五位 ミーフィリア +1(脱落)

六位タイ メリダ ±0(脱落)

六位タイ ヴェモンハルト ±0(脱落)

六位タイ プリムヴェール ±0(脱落)

六位タイ スザンナ ±0(脱落)

七位タイ ジルイグス -1(脱落)

七位タイ ペルミタージュ -1(脱落)

七位タイ マグノーリエ -1(脱落)

七位タイ エイミーン -1(脱落)

七位タイ ミスルトウ -1(脱落)

七位タイ イスタルティ -1(脱落)

七位タイ ディーエル -1(脱落)

七位タイ モーランジュ -1(脱落)

七位タイ シモン -1(脱落)

七位タイ ホネスト -1(脱落)

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