百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.5-25 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.6 上
Act.5-25 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.6 上
<三人称全知視点>
「こうなったら、全体にクリムゾン・エクスパンションを使うしかありませんねッ!!」
『『おいおい、マジかよッ!!』』
ヴェモンハルトの周囲の魔力が赤い螺旋を描き、二人を包み込み、液体分子の振動によって対象の水分を加熱する領域魔法が白雲世界の一区画に連続して放たれる。
『……これじゃあ、こっちから攻撃できねぇな』
『でも、これじゃあ殿下も攻撃できないよな』
影の中でアクアとディランが、影の外側ではヴェモンハルトがニヤリと笑った。
アクアとディランの狙いはヴェモンハルトに魔力を大量消費させることだった。そして、アクア達の目論見は成功し、ヴェモンハルトの総魔力は「クリムゾン・エクスパンション」の乱発によって十分の一以下まで低下している。
だが、ヴェモンハルトは聡明な人物だ。そんな彼が何故魔法を乱発して魔力を無駄に消費したのか――それは、いつ「クリムゾン・エクスパンション」を放ってくるか分からないという状況を生み出すためだった。
ヴェモンハルトは最初こそ連続で「クリムゾン・エクスパンション」を発動していたが、途中からは不規則に発動するようにパターンを切り替えた。
その結果、アクアとディランはヴェモンハルトの攻撃パターンを読めなくなっている。
互いに策謀を巡らせ、片や相手を消耗させ、片や相手の手に乗った振りをして疑心暗鬼を起こさせた。果たして、どちらの目論見が身を結ぶのか――。
『――魂魄の霸気!』
『よし、準備が整ったな。行ってこい、親友ッ!』
一方、影の中――地上と反転した虚像のような形をしている影の世界でアクアは《昇華》の魂魄の霸気を自らに使用し、身体能力を六倍にまで強化させていた。
「――来るかッ! クリムゾン・エクスパンション」
勿論、これがブラフである可能性は十分に考えられた。ヴェモンハルトの耳にも聞こえたのでは奇襲の意味がない。
だが、そこまで読んだ上であえてヴェモンハルトが油断したところを一撃……という可能性もある。結果としてヴェモンハルトには迎え撃つ以外の選択肢が残されていなかった。
影の中から黒い人影が現れる。ヴェモンハルトはリボンの似合うメイドに似たその影が現れた瞬間、「クリムゾン・エクスパンション」を発動した。
液体分子の振動によって対象の水分を加熱する領域魔法が影に殺到する……が、それはディランが用意したアクア型の
その瞬間、背中に焼けるような熱さを感じた。痛みを通り越した熱さ――ヴェモンハルト一瞬でそれが背後から一太刀浴びせられた痛みだということを悟った。
期せずして、ヴェモンハルトは
「あ……ここまで綺麗に二度も決まるとはなぁ。これなら、三回目も行けるか?」
「……ディラン、これはあくまで奥の手だからな? 俺は正々堂々戦う方が好きだ」
「言うと思ったぜ。まあ、こんなのは小手先の初見殺しの技だから、ローザ辺りには通用しないと思うけどな。――それじゃあ、とっととボスを探しに行こうぜ? ……道中で他のターゲットが見つかるといいけどな」
「残っているのは……ラインヴェルドとローザか。どっちも強敵だな……流石にそんなポンポン見つかるとは思えないけど……とりあえず、遭遇できたら儲け物のつもりで行けばいいんじゃないかな? とりあえず、近くには二人ともいないみたいだし」
「……
「流石にそれはないと思う。お嬢様もクソ陛下も互いに手を取り合うメリットがないから……寧ろ、最悪の場合に備えて私達が陛下と手を組んでおいた方がいいと思うわ。ディランもそう思わないか?」
「……おーい、親友。色々と混ざっているぞ……まあ、確かに俺達三人で戦って勝てるかどうかの相手だからなぁ」
ローザの強さの片鱗を思い出して、楽しみ半分、不安半分のアクアとディランはその後、白雲世界の中心部にある巨大な入道雲に突入し、入道雲型の山を登頂し、綺麗な円形状で中心に魔法陣が配置された
二人は中心の魔法陣に乗り、ボスの間へと転移する。
その転移先で二人を待ち受けていたのは、互いの姿が見えなくなるほどの濃霧だった。
◆
だんだんと視線が慣れたのか、それとも部屋の霧が薄わったのか、近くの者であれば認識できるまで霧が意味をなさなくなった。
「…………ディラン、じゃないよな?」
普段のディランとはどことなく雰囲気と違うディランの姿に、アクアが警戒を強めた。
いつも通りのディランであれば、このような状況に置かれれば高確率で「親友!」と叫びながら走ってくるだろう。なんたって、ディラン
親友――アクアに会いたいからと公務を放り出して逃亡癖を発動する男だ。そんなディランが、霧の濃い空間に転送されたのにも関わらず、アクアに真っ先に駆け寄ってこないというのはあり得ない。
それに漆黒騎士団時代から、ファントは常に以心伝心とばかりにオニキスの思考を読んで痒いところに手が届く動きをしてくれていた。「それが副隊長としての俺の仕事だ!」と言わんばかりに。
ディランが「親友の魂を見間違う訳がない!」と言っているのも、そうして共に過ごしてきた時間が濃密だった故のものだとアクアは考えていた。……まあ、実際のディランは出会い頭にオニキスを一番の親友認定し、とっととオニキスに体調の椅子を譲って空白のままだった副隊長に喜々として就いたという明らかに初対面の時点で何かしらの超自然的なある種の第六感のようなものが働いている兆候が見られるため、アクアの後天的親友説は全くの見当違いなのだが……。
そのアクアの問い掛けに答えるように、ディランが黒い影の触手をアクアに向けて放った。触手は黒い手のように変化し、アクアに殺到する。
「――魂魄の霸気!」
《昇華》の魂魄の霸気で自らを強化し、武装闘気を纏わせた『カレトヴルッフ』で影の手を切り裂く。
「AHa! AHaa! Ahɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑɑ!!
「ディランはそんな笑い方しねぇよ!」
無数の影の獣の攻撃を躱しながらアクアは攻撃を掻い潜り、ディランの偽者に迫る。
ディランの偽者が斬撃を振るう……が、攻撃そのものの重さは本物のディランとさほど変わらないものの、ただ攻撃力が高いだけの中身がない攻撃だった。
攻撃の衝撃を地面に流し、そのままディランの偽者を斬り裂いて終了――以前戦ったヌル・鋼鉄の銃巨人のような凶悪な攻撃もなく、HPが高く設定されている訳でもなく、アクアは「本物のディランに比べたら月と鼈だった」と思いながら部屋半分の霧が晴れた小部屋に視線を向けた。
「おおっと……」
もう半分の部屋の霧が晴れ、中からディランが姿を現す。
「親友ッ! 会いたかったぜ!!」
「おい、ディラン、突撃してくるな!!」
霧の中から飛び出したディランはそのまま勢いよくアクアに抱き着こうとして……そのまま押し倒してしまった。
「あ〜、親友。小さくなっちまったもんな」と今更ながら親友が見た目美少女のリボンの似合うメイドになっていることに気づき、「あっ、これって傍からみたら事案じゃね?」と思ったディラン。しかし、アクアも特に気づいた様子は無かったので、そのまま華麗にスルーした。
「ディラン……重い」
「おう、悪かったな。……で、どうだった? 俺の偽者は」
「……こういう時って普通本物かどうかを確認するところだろ?」
「俺が親友を見間違える訳がねえだろ? 見た瞬間に速攻でアイツが偽者のお前だってことが分かったぜ。……まあ、その後が問題でよ。親友並のパワーとスピードで仕掛けてきたから対処に困って、結局魂魄の霸気で仕留めるしか無かった。幸い、《昇華》は使ってこなかったし、影の中に隠れて闇討ちして勝ったけどよ」
「……卑怯過ぎるな。……こっちのディランは影の触手を変形させて無数の影の手で攻撃してきたのと、影の獣を作り出して攻撃してきたのと、剣による物理攻撃だけだったぞ」
「えっ……本当にそれだけ?」
「まあ、相手がディランの偽者だってことはすぐに分かったし、長引かせる訳にもいかなかったから速攻で殺ったよ。……影の世界に入られたら正直面倒だった」
「流石は親友だぜ! 俺程度じゃ到底勝てる訳がねえよな。……しかし、影の獣か。変形させることは容易だし、バリエーションに増やしてみるか」
特に本物がどうかを確認せず、軽く情報交換を終えた二人はウィンドウを開いた。
そもそも、白雲世界のボスエネミー、オリジナルボスのミスティ・ドッペルゲンガーは、侵入した相手のデータをコピーして、強化と弱体化を行い、偽者を作り出すというものだった。
一人の場合は自分との戦い、二人以上の場合は仲間との戦いをコンセプトとしており、突然仲間が襲ってくることで疑心暗鬼になって混乱する状況になることを想定した奇襲型の設定がされていた。そのため、他のボスよりもHPが低めに設定されており、討伐自体は簡単にできるようになっている。
そのため、作成者=ローザの目論見では、もう暫く混乱して、ようやく落ち着いた頃に仲間の偽者と戦ってもらう筈だった。アクアとディランが呆気なく敵が偽者だということに気づいてしまったことで、その目論見は破綻する羽目になったが、ローザがこの結果を見れば「まあ、アクアとディランなら偽物が現れても余裕で見分けられるよねぇ」という結論に達して納得するだろう。
とにかく、ミスティ・ドッペルゲンガーにとってアクアとディランはまさに天敵と呼ぶに相応しい存在だったということである。
ちなみに、ミスティ・ドッペルゲンガーには読心系の見気が通用しないため、見気使いには簡単に見分けられるというギミックも用意されていた。……とはいえ、そのギミックが生かされることはなかったが。
「おっ、俺達のポイントに五ポイントずつ加算されているぜ!」
「まあ、二人で倒したことに間違いはないからな。……残り四人で十四ポイント……とりあえず、どう転んでも三位入賞は果たせそうだな」
「おめでとう、親友! ……さて、宝箱があるな。どうする? 親友?」
「ディランが持っていくといいよ。俺はもう一つ開けたからな」
「おう、そうか? じゃあ遠慮なくもらっていくぜ?」
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【ユニークシリーズ】(『World Sphere on-line』)
単独でかつボスを初回戦闘で撃破し、ダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者の為だけの唯一無二の固有装備。
一ダンジョンに一つしか存在しない。
譲渡は可能だが、譲渡した場合は装備に施されたあらゆる強化が消去されて初期の状態に戻る。
『群雲のコート』
【HP+60】
【MP+0】
【STR+5】
【VIT+80】
【AGI+70】
【DEX+30】
【INT+90】
スキル:【幻影・霧雲影】、【破壊成長】
『群雲のスリーピース』
【HP+90】
【MP+5】
【STR+5】
【VIT+190】
【AGI+180】
【DEX+10】
【INT+90】
スキル:【積嵐雲】、【破壊成長】
『群雲のシューズ』
【HP+0】
【MP+0】
【STR+0】
【VIT+0】
【AGI+490】
【DEX+0】
【INT+390】
スキル:【空中歩行】、【破壊成長】
『群雲の打刀』
【HP+5】
【MP+0】
【STR+490】
【VIT+0】
【AGI+60】
【DEX+0】
【INT+200】
スキル:【虹柱】、【破壊成長】
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「おう、やったぜ! 親友。いいの出たぜ!」
「良かったな……俺のは相性が悪くて外に転送しちまったからな」
「あ……後で
「勿論、そうするつもりだよ。もらえるものはもらっておきたいしなぁ……さて、行こうか。どこにいく?」
「親友が行ったところを外すと海中洞窟か、溶岩島か……の二択だな? 二人がどこにいるか分からねえし、そのまま海中洞窟でまちかまえていればいいんじまないか?」
「まあ、それが順当か。……それじゃあ、行くか」
「と、その前に着替えだけさせてくれ。行って早々バトルになったら使えないからな、これ」
「ついでにここで一通り使い方を確認してもいいんじゃないか?」
「そうするか。……それじゃあ、暫く待っていてくれよ、親友」
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