Act.5-27 第一回異界のバトルロイヤル 最終決戦 scene.1 甲

<三人称全知視点>


『まあ、本当に予定外も予定外……まさか、一日で片付きそうだなんてねぇ。でも、人数四人、三チームで五エリアだとなかなか出会えないと思うし、ちょっと卑怯だけど、全員に連絡させてもらうことにしたよ。おかげでみんな位置が筒抜けだねぇ。ラインヴェルド陛下が……おっ、ボクと同じ溶岩島のボスの間で、アクアとディランさんが白雲世界のボスの間か……良かったねぇ、連絡間に合って。さて、決着をつけよう。ボクは溶岩島に最西端で待っている。アクアとディランさんはチームを組んでいるみたいだし、折角だから陛下も組んだら? 三対一でも余裕で勝てる自信があるよ?』


 画面に映ったローザは幼女の見た目で一端の悪役令嬢の微笑み(悪役令嬢がヒロインをいじめている時のような笑み)を浮かべると、そう自信満々に宣戦布告し、映像を切った。


「…………アハハハ、そう来たか! ウケる、まじウケる! 究極の二択じゃねえかッ!」


 ラインヴェルドは抱腹絶倒していた。別に三歳の公爵令嬢が一端の悪役令嬢をしているのがおかしかった訳でも、国王と大臣、それに漆黒騎士団の団長の転生体を相手に不敬な態度を取っているのが面白おかしかった訳ではない。


「そんなの、初めから一つに決まってるじゃねえかッ!」


 ラインヴェルドは歓喜に震えていた。玉座に座り、人があたふたするのを愉しむ側のラインヴェルドが、掌で踊らされるという場面はそうそうない。更に言えば、そのような不敬極まる行為をするような鉄の心臓を持つ者はそういない。

 ラインヴェルドが本当に信頼を置いている者達は、ラインヴェルドを国王だからと崇めることなく、常に対等に接する者達だ。だが、そんな彼らの中にもラインヴェルドを掌で転がそうとする存在はローザ以外にはいない。軽いジャブを放ってくる者は何人もいるが、ここまで大掛かりに仕掛けてくるのはローザくらいだ。

 ラインヴェルドにとっては、そうして対等に策を巡らしあえる相手が現れてくれたことはかつてないほどの幸運だったのである。


「自害すればマイナス一ポイント……まあ、それは端から選択肢外だ。アクアとディランは間違いなくチームを組んでいるし、奴らと殺し合うのもまた一興だ……確かにな。ローザの狙いは俺達を挑発して徒党を組ませ、その上で全員を殺して二位に……いや、一位に躍り出るのが狙いだろ? 俺達全員を殺れば、アクアは十三ポイント、ローザは九ポイント、そこに三日生き残りの五ポイントが入るから十四ポイントで逆転する……。けどな、折角のチャンスじゃねえか? 俺達三人でローザと戦えるんだぜ? しかも、文字通り死力を尽くして――アハハハ、これを楽しまずして、何を愉しむっていうんだ! そうと決まればとっととアクアとディランと合流だ! 来た道を戻るぜ!!」



 一方、白雲世界では――。


「……って感じのことを考えてそうだよな、ラインヴェルドって」


「まあ、間違い無いだろうな。俺達……じゃなかった、私達と組んでローザお嬢様を倒すのが一番胸熱だと思っていそうですわ」


「俺達も別に異論があるって訳でもないし、それが一番楽しいだろ? 負けても三位以内には入れるしな。……よし、作戦変更だ! 目的地は海中洞窟から溶岩島に変更! 俺達三人で勝利をもぎ取ろうぜ!!」


 二人は溶岩島へと続く魔法陣に乗った。

 二人が到着したのは溶岩島の東側――「溶岩の海の洞窟」の程近くであった。転送先は完全にランダムなため、奇跡的にゴールの近くに転送されることもあるのである。


「よっ、探していたぜ? お前ら」


 丁度その時、「溶岩の海の洞窟」の出口からラインヴェルドが姿を現した。

 一応武器を構え、警戒の態勢を取るアクアとディラン。


「んじゃ、集まったし倒しに行こうぜ? ローザを」


「あ……やっぱり、俺達の予想通りだったか。……行く途中で騙し討ちとかやめてくれよ? お前ならクソ笑えるからとかでやりかねないからな」


「アハハハ、安心しろ。今回はもっと面白いことがあるからな! お前らはローザを倒すまで生かしておいてやる。お前らもそのつもりだろ? ローザを倒すまでは共同戦線だが、その後は互いのポイントを狙ってバトルが勃発する。笑っても泣いても、これで第一回バトルロイヤルは決着だ!」


 ラインヴェルド達は雑魚敵のヌルを倒しながら、溶岩島の最西端――バトルロイヤルの最後の舞台へと進んでいく。

 そして、バトルロイヤル開始から二十時間――三人は終わりの地へと辿り着いた。


「待っていたよ。きっと来てくれると思っていた……だって、どう考えてもこっちの方が楽しいからねぇ! 陛下なら、ディランさんなら、アクアなら、きっとボクを三人で倒しにくると思っていたよ! さあ、ボクも本気を――リーリエという名の全力を出す! 三人とも全力で掛かっておいで! そして、バトルロイヤルのトリに相応しい最高の戦いをしよう!!」


 リーリエの姿に変身し、百合薗圓ローザ=ラピスラズリは獰猛な笑みを浮かべた。


「「「――魂魄の霸気!」」」


 戦闘開始早々、ラインヴェルドは白い羽の意匠が施された十枚のナイフを顕現すると戦場に均等にバラけるように四方八方に投げつける。

 アクアは《昇華》で三人の身体能力を底上げし、ディランが影を展開する。


 ラインヴェルドは『ノートゥンク』と『真なる王の剣ソード・オブ・ジェニュインレガリア』を構え、聖紋を開放して二刀に宿し、その上から光と焔の魔法と武装闘気と覇道の霸気を纏わせた。


「なるほどねぇ……それがみんなの魂魄の霸気か。全く、願ったり叶ったり・・・・・・・・だよ。魂魄の霸気――《天照》!!」


 リーリエの双眸が一瞬だけ鏡のように虹色の輝きを放った。


「…………あっ、そういえばプリムヴェールとマグノーリエが何か言ってたなぁ。……ローザの魂の形は鏡写して自分が見た魂魄の霸気や自分が受けた魂魄の霸気を同レベルで自在に操ることができるっていう《鏡》だって……やっちゃったなぁ、もっと早く思い出せていたら対策の一つもできただろうによぉ」


「そういえば、そうでしたわね。……何気に私とディランと陛下の魂魄の霸気、全部コピーされちゃったんじゃないですか? ……もしかして、私達を一堂に集めて最終決戦をしようとしたのって……」


「というか、《鏡》じゃなくて、《天照》って言ったよな? 俺の魂魄の霸気は《転移》で、二通りの使い方があるから、《蒼穹の門ディヴァイン・ゲート》と《支配者の門域ディヴァイン・ゲート》って呼び分けをしているんだが、一つの能力なら別に《鏡》とか、鏡関連の名前でいいだろ? ってことは……もしかして新しい段階とかか? クソ燃えるじゃねえか!」


「ディランさんは惜しかったねぇ、もっと早く気づいていたら対策が…………どうだろうねぇ、どの道いつかは盗ませてもらうつもりだったし。アクアの予想は正しいよ? まあ、三日掛けてやるから一日目からこんなに混戦になるとは正直思っていなくって、結果的に出遅れた訳だし、ここで大逆転しないととは思っていたけどねぇ……でも、それよりも魂魄の霸気使いから魂魄の霸気を鏡写しておきたかったって気持ちの方が強かったかな? 使節団派遣前に戦力強化はしておきたかったし」


「……俺達の魂魄の霸気で強化できる戦力なんて微々たるものだと思うけどなぁ……ってか、バルトロメオ殺しておいてマジで正解だったわ。アイツの魂魄の霸気まで奪われたら物凄い面倒なことになってた」


「あっ、バルトロメオ殺したのラインヴェルドなの? 本当に死なないとはいえ、実の弟を殺すとか容赦ないわぁ」


「……ディランもアクアも他人のことは言えないと思うけどねぇ。……で、ラインヴェルド陛下からの質問に関する返答なんだけど、《天照》ってのはボクの前世の世界の神話の主神でねぇ。なんで変わらないけど、ボクの魂の形を【再解釈】したら《天照》って結果になったんだよ。魂魄の霸気には【解釈】という概念が存在するみたいでねぇ……まあ、この【解釈】ってのは今の魂魄の霸気よりも先の段階とかでもなんでもなく、「ローザ=ラピスラズリの魂魄の霸気は《鏡》で、鏡写して自分が見た魂魄の霸気や自分が受けた魂魄の霸気を同レベルで自在に操ることができる能力」っていうボクの魂魄の霸気が、ボクの魂の形を【解釈】したってことなんだけど。で、武装闘気や見気にも色々な段階があるのと同じように魂魄の霸気にと段階があってねぇ。それが、【再解釈】と【拡大解釈】っていうんだ。【再解釈】とは、魂の形を更に解釈し直すということ。《鏡》を【再解釈】した結果、《鏡》、《太陽》、《巫女》という三つの性質を有するということになって、その三要素を持つものが《天照》だから《天照》の魂魄の霸気を持つという判定になったんじゃないかな? もう一つ重要なのが【拡大解釈】……まあ、連想ゲームみたいなものだねぇ。例えば、【拡大解釈】によって《鏡》は鏡写して自分が見た魂魄の霸気や自分が受けた魂魄の霸気を同レベルで自在に操ることができる《鏡写》の他に、無数の鏡を生み出す《八咫鏡》を有することになって、《太陽》は太陽と光線を顕現する《金烏》と黄金の烏の像を顕現する《八咫烏》へと分化した。つまり、ボクは《天照》の魂魄の霸気の使い手なんだけど、より正確に言えば《鏡写》、《八咫鏡》、《金烏》、《八咫烏》、《巫女》の五つの魂魄の霸気の使い手ってことになるねぇ」


 「まあ、そこに《転移》と《昇華》と《影》が加わったから八つか。バルトロメオ殿下のを含めれば九つになったんだけどねぇ」と、続け残念そうな表情を浮かべるリーリエ。


「……お嬢様の魂魄の霸気、ジョーカー過ぎますよね!! なんですかッ! 八つの魂魄の霸気の使い手って!!」


「まあまあ、アクア。別に魂魄の霸気だけで戦うつもりじゃないから安心して? 全身全霊――リーリエとしての全力を尽くして三人をお持てなしするからねぇ」


「……どう考えてもそっちの方が難易度上がっているよなぁ」


 ディランがリーリエにジト目を向ける。とはいえ、嫌な気分ではない。

 ディラン達にとって絶対的強者であるリーリエ――彼女が全力を尽くして戦うという以上の名誉はなかなか思いつかない。それに値すると認められているのだから。

 それに、ディラン達は一度本気のリーリエの強さを味わってみたいと思っていた。だからこそ、ラインヴェルドはローザをバトルロイヤルに参加するように仕向け、アクアとディランも参加を決めたのだから。


「さあ、勝っても負けても恨みっこ無し――行くよ! ――虚空ヨリ降リ注グアメノム真ナル神意ノ劒ラクモ


 リーリエは挨拶代わりとして放つにはあまりにも埒外の威力を誇る侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義を発動し、刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣を三振り顕現して三人に向けて解き放った。

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