百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.4-33 血塗れ王子綺想曲 scene.1 上
Act.4-33 血塗れ王子綺想曲 scene.1 上
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
ボクが提供した「映像通信用魔道具」により、ラインヴェルドとエイミーンの交渉は続けられている。
また、同様に提供した『Ancient Faerys On-line』の希少アイテム『
エルフとの交渉が進む中、具体的な使節団のメンバーと巡る順番も決まっていった。
獣人族のユミル自由同盟、ドワーフのド=ワンド大洞窟王国、海上都市エナリオス、フォルトナ王国……まあ、順当な流れだよねぇ。
ちなみに、使節団のメンバーはアクアとディランの二人のみ。その都度交渉に必要な人を呼び出すパターンにはなったんだけど、一応護衛を連れていった方がいいんじゃないかってことで専属メイドになったアクアを連れていくことになったらディランが撃沈しちゃって大臣の仕事が滞ることになっちゃったからねぇ……いつものことだけど。
ということで今回はボクとアクア、ディランの三人で行動することになったんだよねぇ。……ちなみに、ヴァケラー達は五人パーティで修行をするみたい。「【メジュール大迷宮】に挑戦したらどうかな?」って冗談で言ったら真に受けていたから、もしかしたら近いうちに力試しをするかもねぇ。
欅達はラピスラズリ公爵家で使用人見習いとして暫く勉強することになった。もしかしなくても反乱を企てた貴族の処分にも駆り出されることになるだろうねぇ。
それから、ナトゥーフだけど『他の
出発は一週間後――それまでボク達はそれぞれ英気を養うことになった。……このところ激動だったからねぇ……溜まったビオラ商会の業務をしないと……えっ、全く休めてないって??
◆
<三人称全知視点>
意外な話ではあるが、ブライトネス王国の意向に逆らい、尚も奴隷を扱い続けようとする貴族は全部で四家存在した。意外というのはラインヴェルドの予想よりも少なかったという意味であり、また王家に逆らおうという強固な意思を持つ貴族が予想より少なかったということも意味している。
ディルオンズ侯爵家、ライクライト伯爵家、シュティルノッツ男爵家、ファットマイズ男爵家……この四家は結託してブライトネス王権を打倒し、四家を中心とした新しい国造りを行おうと企んでいた。
しかし、既に奴隷商人が一掃され、三大商会がマーケットの監視を徹底している今、武器の大量購入や食料の大量購入などの不審な動きをすれば、その情報が三大商会に入る。その情報をビオラ商会幹部のアンクワールがカノープスに報告――その後、情報はラインヴェルドにまで伝わり【ブライトネス王家の裏の杖】と【ブライトネス王家の裏の剣】による迅速な暗殺が執り行われることになった。
カノープスの奏上と譲歩の結果、【ブライトネス王家の裏の杖】はライクライト伯爵家を、【ブライトネス王家の裏の剣】はディルオンズ侯爵家、シュティルノッツ男爵家、ファットマイズ男爵家をそれぞれ潰すことになった。
◆
――時刻は午前二時頃。ライクライト伯爵家の屋敷前に紋章も描かれていない黒塗りの馬車が停まった。
「ありがとう、レイン。済まないね、こんな朝早く」
「それが私の仕事でございますから。ヴェモンハルト殿下、スザンナ様、いってらっしゃいませ」
馭者役を務めていた王子宮筆頭侍女のレイン=ローゼルハウトは馬車の扉を開けると恭しく一礼した。
侍女だけが着ることを許されるお仕着せの純白のエプロンを外した姿は夜闇によく溶ける。
レインはローゼルハウト子爵家の六女で、良い縁を結ぶことを目的に行儀見習いを終えた後に侍女として王宮で働くことになった。しかし、仕事の効率も良く教養もあったレインは恋愛をする暇もなく瞬く間に出世していった。
そして、遂には王子宮筆頭侍女に抜擢されることになる。
更なる不幸は、第一王子が【ブライトネス王家の裏の杖】の片翼を担う【
王子宮筆頭侍女に抜擢されたその日の夜、陛下の執務室に呼ばれたレインは、質の悪い笑みを浮かべた陛下からブライトネス王国の裏側を教えられた。
そして、『聞いた以上はこちら側の人間になってもらわないとな。ああ、今の話誰かにしたら秒で首が飛ぶからな、アハハハ、クソ笑える』という傍迷惑極まりない命令の結果、王子宮筆頭侍女を務めながら【ブライトネス王家の裏の杖】のサポート役を務めることになった。結果として仕事量が増え、今まで以上に仕事量が増えた。
心の中で「クソ陛下! 私の婚期がまた遠退いたじゃないか! 呪われてハゲろ!!」と叫んだが、当然心の中なのでラインヴェルドの耳には届かない。
その後、なんやかんやで様々な裏の仕事に巻き込まれ、レインも一流の暗殺者に匹敵する暗殺術を習得するに至った。全く面白い話ではない。レインが欲しかったのは良縁であって、血の匂いが香る戦場ではないのだ。
しかし、それでもレインは傲ることはない。そもそも暗殺者を目指してはいないこともあるが、【ブライトネス王家の裏の剣】と共闘した際にその実力を見せつけられ、彼女に「いつでも私程度なら殺せる戦力がいる」という事実を突き付けたことが大きかった。あのナンパ男ですら埒外の暗殺術を持っていたのだ。そんなナンパ男を一撃で沈めたリボンの似合うメイドや他の使用人達の強さを考えればとてもじゃないが太刀打ちできるとは思えない。
ちなみに、レインに対して好意を持つ者の数は意外に多かった。騎士や貴族の中にもクールビューティなレインに興味を持つ者もいる……が、あまりにも高嶺の花なイメージが強過ぎることと、普段から忙しくしているためなかなか騎士や貴族から声を掛けることができないという状態なのだ。レインが良縁を結べない元凶は、やはりクソ陛下であった。
「……少しは彼女のことも考えてやればいいのではないか? なかなか良縁を結べないのは間違いなく仕事が多いからだろ?」
「……まあ、そうなんだろうけどね。でも、一々新しい人に説明するのって面倒だし、実際にレインはきっちり仕事をしてくれるからね。それに、頼りになるから手放したくないし」
「……ならば、いっそ側室に迎えてやればどうだ? 半ばお手つきにしたようなものだろ? ……流石に私もこうやって振り回されて婚期を逃していくのは可哀想だと思うぞ」
「愛のない結婚って辛いとは思わないかい? まあ、尊い犠牲ということで」
「……やはり、クソ陛下の息子はクソ殿下か」
とはいえ、スザンナもレインを手放したいとは正直思わない。それほどまでにレインは優秀だ。
人のことをとやかく言えない、似た者同士のヴェモンハルトとスザンナである。
しかし、まだ少しだけ良心を持ち合わせていたスザンナはなんとかレインのために時間を作り、レインに好意のある貴族や騎士を集めたお見合いの場を用意しようと考えた。勿論、ヴェモンハルトに相談した上である。万が一、相談せずに話を進めれば、使える部下という意味でレインを手放したくないヴェモンハルトに間違いなく襲撃されることになる。
「さて……そろそろ行くとするか」
幻想級装備『スタッフ・オブ・アロン』を装備したスザンナと、幻想級二刀流装備『モラルタ・アンド・ベガルタ』を装備したヴェモンハルトが人の気配が絶えた通りの中を進み、三階建ての伯爵邸の呼び鈴を鳴らした。
伯爵家の者達が油断していたという訳ではない。今回の件でブライトネス王家を敵に回した以上、どこかのタイミングで襲撃……それも暗殺を仕掛けられる可能性は考えていた。
伯爵家が関係を持っている非合法組織の男達をも動員し、屋敷の通常戦力――衛兵と共に配置はしていた。
しかし、その場を取り仕切る長年ライクライト伯爵家とズブズブの関係にある執事長の男は呼び鈴を鳴らした者達が自分達の派閥の長――ヴェモンハルトと、その婚約者であるアンブローズ男爵家次女であるという事実に困惑した。
相手は自分達の派閥の長――となれば、執事長自ら応対しなければならない。
執事長グラムロウェルは、他の小間使いに伯爵に事情を伝えるように命令し、グラムロウェル自ら応対するべく屋敷の扉を開けた。
「これはこれはヴェモンハルト殿下。こんな夜更にいかがなされたのですか?」
しかし、その問いに対する答えは言葉ではなく二人から向けられた杖と切っ先だった。
「……これは、なんのご冗談で」
「私が問題のある貴族を自分の派閥へ入れて泳がせていたことには気づいていなかったようだね。私が可愛い弟達と王位争いを繰り広げる訳がないだろう? ルクシアやヘンリー、ヴァン辺りが継げばいいんじゃないかな?」
まあ、第二王子ルクシア=ブライトネスの方もヴェモンハルトと同じように第三王子ヘンリー=ブライトネスや第四王子ヴァン=ブライトネス辺りが継げばいいと考えているようで、学園を飛び級で卒業してから薬学研究棟に籠もって隠居したように見せかけてルクシアの派閥に野心のある貴族を取り込んで、その情報をヴェモンハルトに横流ししてくれてはいる。流石に研究職の自分では対処できないと考えているようで、処分の方は【ブライトネス王家の裏の杖】や【ブライトネス王家の裏の剣】に任せているが、ルクシアがヴェモンハルトと同様に弟想いであることには変わらない。
「……さて、お喋りはここまでにしよう。君達はやり過ぎた……身の程を弁えずブライトネス王家に喧嘩を売ろうとした報いを受けてもらうとしよう」
「お、横暴だ! こんなことが許されてなるものか! 王家に逆らえば殺されるなど、まるで独裁だ!!」
「奴隷というこの国で手を出してはならないものに手を染めていた貴方達がまるで正義の味方気取りか。腐り切った王国を倒す革命家気取りか? 残念だったな、この世界に正義はない、残っているのは邪悪だけのようだ。そちらも邪悪、こちらも邪悪、では邪悪同士の潰し合いをするとしようか」
スザンナが小さく「クリムゾン・プロージョン」と小さく唱えた瞬間、グラムロウェルの体内の血液の液体成分である血漿が気化し、その圧力で筋肉と皮膚が弾け飛んだ。
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