百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.4-34 血塗れ王子綺想曲 scene.1 下
Act.4-34 血塗れ王子綺想曲 scene.1 下
<三人称全知視点>
裏世界で轟く【
水魔法と火魔法の複合で体内の血液の液体成分である血漿が気化させ、その圧力で筋肉と皮膚が弾け飛ばす。
この魔法はスザンナが完成させた対人殺傷魔法であり、その術式を闇属性を除いたあらゆる属性を十全に扱えるヴェモンハルトに教えていた。
かく言うスザンナの方も彼が扱えない闇属性を含め全ての属性を使いこなすことができる(ただし、魔法の威力はどうしても劣ってしまうが)。当然、作成者のスザンナにも「クリムゾン・プロージョン」は使用可能で、戦いの火蓋を切ったのもスザンナの発動した「クリムゾン・プロージョン」であった。
敵もヴェモンハルトとスザンナが敵だとようやく理解し、武器を構えたまま殺到してくるが。
「大きな的だな。――クリムゾン・プロージョン。
「――クリムゾン・エクスパンション。
刹那――二人の周囲の魔力が赤い螺旋を描き、二人を包み込む。
「クリムゾン・エクスパンション」
ヴェモンハルトとスザンナは返り血を気にすることなく更に屋敷の中へと進んでいく。
ちなみに、「
同属性の魔力に対象となる魔法を転写し、対象と同じ状態から同レベルの魔法を発動するという埒外の技術で、今回はそれぞれの魔法をそれぞれが発動直前に転写させ、大規模な血の雨を降らせることになった。
この技術であれば長期の詠唱を簡略化して対象の呪文が組み上がると同時に転写――発動することができる。『スターチス・レコード』以外の魔法では試していないものの、条件――相手の魔法発動に必要な魔力と同程度の魔力――さえあれば、他のゲームの魔法も転写発動ができるのではないかとスザンナは考えている。……その実験の打診ができるのは果たしていつのことになるのやら、だが。スザンナだけではなく、ローザ の方も多忙なため、中々実験の機会は得られていない。
互いに互いの魔法を転写し、合計四つの魔法を瞬時に発動可能な化け物二人はその後も屋敷を血で染めていった。
勿論、攻撃を加えるのは武装をした男達のみであり、関係のない使用人達については見逃している。
実は屋敷の外に別働隊として魔法省特務研究室所属の魔法騎士――スザンナの私兵を配置しており、彼らに出てきた使用人達の保護を任せていた。その使用人達については魔法省の特殊な魔法使い達に事件に関わっていたかどうかを確認させた後、無罪の場合は生活資金と再就職先を斡旋した上で箝口令を敷き、市政に戻ってもらう手筈になっている。
「畜生この化け物が!」と武器を構えて突進してきた男達が一瞬にして真紅の泡と化して爆裂四散した。
「いい加減つまらなくなってきたね。もう少し歯応えがあると楽しめるんだけど」
遂には「思考詠唱」に切り替えて等閑に真紅の領域を広げていくヴェモンハルト。インクを撃ち合うアクションシューティングゲームであればぶっちぎりの一位を取れそうな一方的な蹂躙劇を繰り広げていながら、攻撃している本人は飽きてきているとなれば殺された連中が浮かばれないだろうな……と思いながら、ヴェモンハルトと同じく半自動で、もはや意識することすらなく「クリムゾン・プロージョン」を連発し始めたスザンナ……敵から見ればどっちもどっちである。
やっていることは明らかに高等テクニック――それこそ、宮廷魔法師の中でも上位の団長メリダ=キラウェアや副団長ホネスト=ブラックストーンを含めたごく一部の者達にしかできない芸当ではあるのだが、攻撃方法が高等テクニックになるのに比例して戦闘態度が等閑になっていくのは一体何故なのだろうか。勿論、敵対する男達は真剣そのもので、そのようなことを考える隙はコンマ一ミリもない。
「あっ……ついたみたいだね」
悲鳴と破壊と、絶望と恐怖の音をバックグラウンドミュージックに、血塗れた手で扉を開ける……と見せかけて思いっきり蹴破ったヴェモンハルト。普段の物語から飛び出してきた王子様像が嘘のように、暴力的な父親そっくりの凶暴な笑みを浮かべながら、呆れた表情を浮かべた同じく血糊に塗れたスザンナを伴ってヴェモンハルトが部屋の中へと入室する。
「…………ヴェモンハルト殿下……何故」
「何故……か。……私達王家の意向に君達が反したからかな。これまでは目を瞑ってきたけど、私達が警告してなお悪い因習を続けようとした。剰え国家転覆を目論んだんだ……そうなると当然、大切な弟達にも手を挙げることになるよね。……それは、見過ごせないかな?」
「ということだ……お前らが主君と仰ぐ者を間違えたのが最初のミス。ブライトネス王家に爵位を与えられながら、その意向に反して国を転覆させようとしたのが、二つの目のミス。相当ご立腹だからな……まあ、このブラコンとシスコンを拗らせた阿保に睨まれたんだ。命はないだろうな」
ヴェモンハルトが切っ先を向けた瞬間、シヴリス=ライクライト伯爵は覚悟を決めた。
「最早これまで! ヒドラ・ヘッズ」
「ほう……毒魔法か。珍しいな」
五本の首を持ち全身劇毒でできた毒竜にスザンナは一瞬驚いた……が、「アイシクル・コフィン」というオリジナル魔法で一瞬にして大気中の水分ごと凍らせてコーティングした。
「これは面白い。研究のサンプルとして使わせてもらおう」
「…………くそっ、化け物共め」
シヴリスの本気をも鼻で遇ったスザンナがヴェモンハルトと共に武器を向けた。
「「それじゃあ、他の連中と一緒に地獄に逝きな」」
そして、過剰なまでの「クリムゾン・プロージョン」が執務室を鮮血で濡らし、屋敷から二人以外の人影が消えた。
◆
ヴェモンハルトとスザンナを遥かに上回る速度でラピスラズリ公爵家の戦闘使用人もディルオンズ侯爵家、シュティルノッツ男爵家、ファットマイズ男爵家の三家を襲撃した。
翌朝、王国騎士団が辿り着いた際には凄惨な光景に耐性のない若い騎士の多くが吐き気を催したという。
結局下手人は不明のまま捜査は打ち切られた。正義感のある若い騎士の中には詳しく調べることなくあっさりと捜査を打ち切った上司に物申したが、結局捜査が再開されることはなかった。
それ以降に単独で事件を捜査しようとした若い騎士達が行方不明になり、その後事件に関する記憶を失った状態で発見されたということが多発したのだが、今日も王国騎士団は平常運転である。
非日常も多発すれば日常になるように、この国ではそれが普通だった。かくして、腐った蜜柑の大掃除を完了したブライトネス王国は歪な闇を抱えたまま、今日も革新に彩られた平和な一日を迎える。
◆
『やはり、所詮は特殊な役割を与えられていない
どこにでも繋がる、しかしどこでもない、隔絶された泉の湧く森で、青いタキシードを身に纏った水色掛かった銀髪の氷のような双眸を持つインテリ風眼鏡は眼鏡をクイッと押し上げて位置を直した。
『それを見込んだ上で、捨て駒として使ったのでしょう? ……全く、酷いことをするわね』
その青年を嗜めるように、紫色の髪と双眸を持つ見目麗しい紫のドレスの上から羽衣を身に纏った女性が非難の目を向ける。
『
『不思議のダンジョン;ゲートウェイフロンティア』のラスボスであり、赤の女神ルービィと青の女神サファイアの二つの顔を持ち合わせるが故に『管理者権限Level.Ⅱ』を保有し、同時に『不思議のダンジョン;ゲートウェイフロンティア』の『唯一神』の称号を手に入れている紫の女神アメジスタは、青年――ミーミル=ギャッラルホルンに睨まれ、蛇に睨まれた蛙のように固まった。
ミーミルは
『Ancient Faerys On-line』の最終イベントでプレイヤー達の前に巨神ミーミルとして姿を現し、ノルンの加護を受けたプレイヤー達と壮絶な戦いの末に消滅した……ということになっている、まさに『Ancient Faerys On-line』のラスボスと呼ぶべき存在である。
そんな彼は異世界化に伴い、他の神達と結託してハーモナイアから管理者権限を奪った。そこで女神ノルンの三神を闇討ちして彼女達の持つ『管理者権限』を獲得して、『管理者権限Level.Ⅳ』を完成させ、『Ancient Faerys On-line』における全てのシステムを使用可能な『唯一神』となった。
ハーモナイアが最後の力を振り絞って姿を隠したことで最後のピースを得られなくなった。そこで、抜け駆けしたシャマシュは異世界召喚を行って百合薗圓を呼び寄せ、彼を危険に晒すことでハーモナイアを呼び出し、膠着した現状を打破しようと目論んだ。それが百合薗圓を含む大倭秋津洲帝国連邦尾張国立鳴沢高校二年三組を召喚した勇者召喚の真実である。
一方で、神々もユーニファイドの支配権を獲得するために一時休戦を提案。全ての管理者権限を持つ神で
ハーモナイアが姿を消したことを確認し、時間的にも空間的にも隔てられた世界を経由して過去に移動した
共に行動している神も結局はライバルだ。
そして、リーリエのアカウントを使用したローザこそが百合薗圓の転生体であると確信した
人間と敵対するエルフ――ミスルトウに
『……暫くは様子見だ。他の神々のお手並拝見と行こう。――次はお前にも働いてもらうぞ、紫の女神アメジスタ』
アメジスタらミーミルにとっていつでも殺せるような存在なのだ。アメジスタとミーミルの関係は決して他の神々のように対等の関係ではない。
(…………ねぇ、神様。なんで貴方は私を弱く設定したの。……なんで、私だけが惨めな思いをしないといけないの……貴方に会えたらその理由を知れるのかしら?)
どちらにしろアメジスタに『真の唯一神』になることはできないだろう。それに、アメジスタにとっては世界の支配などどうでも良かった。
彼女はただ会って
何故、自分だけが辛い目に合わないといけないのかを。
自分に科せられた理不尽な運命の理由を知る――他の神々とは違う秘密の願いを心の裡に隠し、アメジスタはミーミルと共に森を後にする……。
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