Act.4-15 エルフの女剣士の族長の娘〜ゴスロリの男の娘〜

<一人称視点・リーリエ>


「よぉ……どうした、二人とも。昨日は寝れなかったのか?」


 早朝、朝食を食べに起きてきたバルトロメオが目の下に熊……じゃなくて隈を作っている二人に「人間と一緒じゃ警戒して寝られなかったから? ……そこまで考えが行き届かなくてすまなかったな」と謝罪を続けた。


「……いえ、違うんです。昨日、ローザさんにプリムヴェールさんと二人で戦い方を教えてもらって、その練習をしていたら気づいたら朝に……」


「……確かに、昨日よりも遥かに強くなれた気がする。……だが、眠い……少しは睡眠を取っておくべきだったな」


 慣れていない人に徹夜は厳しいよねぇ……うん、どんな種族でも睡眠が必要な種族である限り避けては通れない問題なんだよ。……まあ、ボクは八徹……いや、最近だと九徹くらいはできるようになったけど。


「……おう、親友ローザに修行をつけてもらったのか? で、何を教えてもらったんだ?」


「私は闘気と原初魔法、瀬島新代魔法、マジックスキルの四種類の説明を聞いて、三種類の闘気と見気、瀬島新代魔法の『四次元顕現』、マジックスキルと原初魔法のうちのいくつかを教えてもらいました……本当に、始めたばかりなのでできるとはお世辞にも言えませんが」


「私は、闘気、原初魔法、瀬島新代魔法、マジックスキルの四種類に加えて、千羽鬼殺流とウェポンスキルを教えてもらった」


「いいなぁ、手ずからローザ嬢に教えてもらえるなんて、そうそう無いって話だぞ? オニキスアクア、そっちだと基本どれくらい教えてもらえるんだ?」


「馬鹿ヒースがウェポンスキルを教えてもらっていましたが、それ以外だと全員共通で闘気の扱い方だけですわね。それも、基本の説明だけで後は自力で覚えろって感じでした。……ただ、直接模擬戦を行う機会があったので、そこで盗めば良かったとは思いますが……私の場合はお嬢様に『アクアの戦い方は既に完成しちゃっているから、そこに変な型とか加えて崩壊させない方がいいと思うんだよねぇ。まあ、興味があるなら圓式を教えてあげてもいいけど……本当に茨の道だよ』と他の型を覚えることをあまり推奨されなかったので、このままで行こうと思います。ごちゃごちゃ面倒な魔法を編むよりも殴った方が早いですし」


 「あー、やっぱりね」という表情で肯く全員。昨日会ったばかりの二人の中でも、既にアクアは暴力短気メイドのイメージが出来上がっているみたいだねぇ。


「俺達に至っては闘気の扱いすら教えてもらっていないんですが……」


 全員に羨望を向ける冒険者チームヴァケラー㌠……とミーフィリア、そしてジルイグスとイスタルティの騎士団コンビ……というか、元宮廷魔法師なミーフィリアはともかく、ジルイグスとイスタルティの二人はラインヴェルド辺りから闘気の使い方を教わってないの?


「まぁ、闘気の扱い方はディランさんとかアクアとかに教えてもらえばいいんじゃないかな? ……分かっているけど、ボクって専門家でもなんでもないから教えた以上のことは教えられないよ? まあ、唯一のオリジナルっていっても差し支えない「圓流耀刄」を教えるのも吝かじゃないけど……やるなら、エルフや人間をやめる覚悟をしてもらわないとねぇ。全ての筋肉を本来意識して操作できないものを含めて完璧に操作する、脳から送られる信号を短く情報密度の高い戦闘用の脳信号に変える……っていう、文字通りエルフや人間の限界を超えることが要求されるからねぇ」


 この剣技は本当に特殊で、ある意味才能が開花した面が大きいと思う。

 ボクはたまたま脳から送られる信号を短く情報密度の高い戦闘用の脳信号に変えることができたんだけど、全ての人間にそれができるとは思えない。

 苦痛を伴うことが何度もあったし、戦闘用の脳信号に変えるまでは戦いの最中に無防備を晒すこともあった。それでも、ボクは家族と一緒に戦いたかったから、守られるだけの存在でいたくなかったから……そのために、自分の身が壊れることも厭わずただひたすら力を求めたことだってあった……あの時、泣いていたな、月紫さん。柳さん達も悲しそうだった……もうあんな顔をさせちゃダメだって思っていたのにな……。


 もしかしたら、大切な誰かのためなら自分の命なんて安いって……そういうところがボクに似ていたからこそ、ボクはプリムヴェールにそうはなって欲しくないって……二人で強くなって欲しいと思ったのかもしれないねぇ。身勝手だけどさぁ……。

 ボクの前には変えられない運命があった……もしかしたら、あの時点であの結果を見て絶望して諦めていたからこその決して変えられない運命になったのかもしれないけど。


 それでも、ボクはあの選択が間違っていなかったって信じでいる。ハーモナイアとの接触が、この厄介極まる世界で立ち回るための唯一の選択肢だった。どの道、あのままだったらシャマシュに到達する前にドレッドナインボスクラスに殺されていただろうからねぇ。

 ……まあ、あれは一種の賭けだった。死ぬことで道を切り拓こうとした……って言い訳したところで、月紫さん達に辛い思いをさせたことは変わらないか。


 やっぱり……ボクは最低の人間身勝手な人間だよ。……みんなの言うような優しい人間なんかじゃ決してないんだよ。



 全員揃って朝食を……と思ったけど、プリムヴェールとマグノーリエが今にも撃沈しそうだからなんとかしないとねぇ。


「アカウントチェンジ・比咩小百合」


 アカウントをチェンジして、女性しか装備できない筈の『ゴスロリドレス』を身に纏っている長い黒髪の見た目美少女――前世のボク百合薗圓の面影を最も残す姿へと変身する。


「また新しいアカウントですか? いつものことながら圓さんのアカウントは女の子ばかりですね……今度はどんなゲームですか?」


「……こんな見た目でも男の子なんだけどねぇ。『Clans in the wilderness』ってゲームのアカウントなんだけど、このゲームって本人と違う性別のアカウントは作れないからねぇ」


「…………えっ!?」


 驚くヴァケラー達……全く、ボクが運営の権限でルールをねじ曲げてまで女の子のキャラを作るような権力の濫用を行う人間だとでも本気で思っていたのかねぇ?


 VRMMORPG『Clans in the wilderness』は高槻さんとタッグを組んだ二十八作目の作品で、ゲーム自体は「傭兵となってクランを結成し、未知なる荒野の如き世界で自らの生き方を見つけ、その足跡を刻みつけろ」という体感型の3Dオンラインゲーム。

 外見データをスキャンし、規格は現実のサイズと誤差五センチまで変更可能で同じ性別のキャラクターしか作成できない……ただし、容姿、その他の部位に関しては、いくらでも変更が可能……だから、ボクの場合は男の娘キャラしか作れないんだけど。

 戦闘職から生産職、双極職に至るまで多種多様な職業やアイテム、広大で未だ謎の多いフィールドやイベントなどが設定されている。……一応ボクはその全てを記憶しているけど、だからといってコンプリートすることができるかって聞かれたら無理としか答えられないんだよねぇ。もっと時間があれば少しはコンプリートに近づけたかもしれないけど、それほど時間がなかったし、他のゲームで忙しかったからねぇ。


 「未知との遭遇こそ、その開拓して楽しむ」を謳って、公式が管理してる掲示板・スレッド以外で公開するのは禁止し、攻略本の発売禁止の徹底、サースェスウェブからディープウェブに至るまで全ての攻略サイトの問答無用の初期化フォーマットを徹底して、掲示板・スレッドでもネタバレ情報が掲載された場合は即時消され、三回で同一IPアドレスのアカウントへの厳重注意、五回で同一IPアドレスの一時アカウントの凍結、六回でアカウント抹消が行われ、その同一IPアドレスでの再ログインが不可能にするって強引なことをしていたけど、賛否両論が凄かったねぇ……まあ、Torブラウザやネカフェみたいな逃げ道も残してはいたけど。


 どっちかっていうと、ゲームそのものよりもハードの方が特殊なものだったから、よく価値を分かっている人は、ゲームのハード以外の使い道で重宝している。


 元々、蒼岩市ってところの電脳機器メーカー「蒼岩電機製作所」が開発した眼鏡型のヘッドマウントディスプレイ一体型ウェアラブルコンピューター「電界接続用眼鏡型端末」ってものがあったんだけど、これは「微弱電波でも高速通信が可能な量子回路」の研究の際に発見された「電波だけでなく人間の脳波をも受信する」という現象を利用し、「脳に対してデータを送受信できるシステム」を搭載していたんだよねぇ。

 その結果、意識による「電界接続用眼鏡型端末」の操作や、その逆流によって意識を操作することさえできるようになるんだけど、それによって生み出された人間の集合的無意識が電脳空間化し、現実世界と重ね合わせで存在するようになった電脳世界に深刻なバグを生み出すようになった。

 深く侵食された空間において、肉体と意識が分離する現象が確認されるようになり、電脳空間に迷い込み意識不明になるという事件が試験運用されていた蒼岩市内で増大して、その責任を取った結果「蒼岩電機製作所」は倒産し、「電界接続用眼鏡型端末」の技術を「蒼岩電機製作所」から高値で購入した(元社員や経営者陣の生活費に充てさせるために)百合薗グループ――ボク達は、主に化野さんが中心になって「電界接続用眼鏡型端末」から「電波だけでなく人間の脳波をも受信する」回路を改変し、「E.DEVISE」として販売することとなったんだよねぇ……それが、半オリジナル端末である「E.DEVISE」ってことになる。


 「E.DEVISE」にはコンタクトレンズ型と眼鏡型の二種類が存在していて、イヤフォンとセットで使われるという点が従来の「電界接続用眼鏡型端末」と異なる。


 「E.DEVISE」そのものはVRMMORPG用の機械ではなく、あくまでヘッドマウントディスプレイ一体型ウェアラブルコンピューターであって、仮想モニターや仮想キーボードの表示、指電話機能など様々な機能を使用することができる。要は従来のスマートフォンと同じなんだよねぇ……それがヘッドマウントディスプレイ一体型ウェアラブルコンピューターの形になったと考えるのが正確なんじゃないかな?

 近年では警察機関、軍にも採用されており、かつてスマートフォンに採用されていたあらゆるアプリが使用可能なため、Torブラウザを利用したダークウェブなどへのアクセスなど、ネット犯罪の温床にもなっている。

 もっとも、スマートフォンで十分と考えている者も多く、「E.DEVISE」をVRMMORPG用の機械と認識している者が一般人であれば大半のようだからねぇ。何者かの印象操作……まあ、自分達だけで利益を独占したいし、ボクらに力をつけて欲しくない政治家だと思うけど……のおかげで、「E.DEVISE」が発売して以降もスマホ全盛の時代は続いている。


 「E.DEVISE」をVRMMORPG用の機械して使用する場合は極小のコンタクトや眼鏡を媒介に、人間の脳神経に間接的にリンクし、ゲーム内での感覚を体感させる。と同時に、現実世界でも別の動きを実現することが可能となり、熟練者であればゲームプレイ中にも現実の世界で普通に生活が可能になる。

 このシステムには「電波だけでなく人間の脳波をも受信する」システムの一部が応用されているけど、あくまでVRMMORPG用の機械として使用する範囲に留められており、ゲームを起動しない場合はこの機能を使用することはできなくなっているんだよねぇ。

 一番の改善点は意識体と肉体の乖離問題で、「E.DEVISE」を使用した場合はさっき説明通り肉体と意識体をバラバラに動かしながらもしっかりと繋ぎ止められているけど、「電界接続用眼鏡型端末」では意識体のみでログインすることになってしまい、肉体の方が動かせないままの状態でプレイすることになる。また、何らかの事故が起きた場合は肉体と意識体の接続が切れてしまうことも考えられる。


 この「E.DEVISE」のリンクシステムをゲーム以外でも使用可能にした正式改良版・改造版ではモーションではなく直接脳波で「E.DEVISE」を操作することが可能になる。ボクが化野さんに依頼して作ってもらった正式改良版の他に、ボクの「E.DEVISE」を手に入れて劣化コピー、改造した軍や警察、犯罪組織などの改造版がこのシステムを搭載しているねぇ。


 ……まあ、「E.DEVISE」は専ら電脳戦の武器になっているけど、こっちの世界で電脳戦が発生することは無さそうだし、頭の片隅にでも留めておけばいいんじゃないかな?


 さて……プリムヴェールとマグノーリエが撃沈しちゃう前に例のものを調合しないとねぇ。

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